最強になるため、低Lvで進行して魔石ボーナス大獲得を目論むロック。
 ガウに百万ボルトを会得させるため、獣ヶ原にてアスピランス探索を行うが、一か月経っても全然見つからなかった。

 スクエアエニックス制作、『ファイナルファンタジーⅥ』通称FF6の二次創作です。
 ピクセルリマスター版がたぶん好評発売中なんじゃないでしょうか。

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神秘! 獣ヶ原の奥地にてアスピランスの影を見た!!

 俺はロック。ガストラ帝国に恋人を奪われたトレジャーハンターだ。

 

 俺の恋人――レイチェルが住むコーリンゲンの村は、ある時帝国の襲撃に見舞われた。

 その時俺は街におらず、帝国襲撃の報を知り、帰郷した時には彼女はもう死んでしまっていたのだ。

 

 村に住む変なジジイが作った霊薬により、彼女の体を現世に留めることには成功したものの、魂が肉体に留まっていないため、いくら話しかけても返事をくれない状態となった。

 これじゃ壁に話してるのと同じだ。

 

 失意に暮れていた俺だったが『魂を現世に呼び戻すことが可能となる秘宝』の噂を耳にして、この村から旅立つ決意をした。

 俺はその秘宝を探し出し、いつの日かレイチェルと再会してみせる。

 そして、ガストラ帝国への復讐を果たす!

 

 そのために強くなってやる……そうとも! 誰にも悲しい思いをさせないため、俺は最強になってやるんだ!

 

――

 

 あの旅立ちの日から長い月日が流れた。

 現在、俺は獣ヶ原と呼ばれる広大な草原を仲間たちと共に進んでいた。

 

「ロック……ロック! 来てくれ!」

 

 声の方に顔を向けると、フィガロ王国の現国王が青い顔をしながら、手に持った機械を見つめていた。

 

「どうしたエドガー」

「サンビームの調子がおかしい。明らかにエネルギー放出量が落ちてきている」

「なんだって……!?」

 

 エドガーは俺の仲間だ。彼の操る機械――特にサンビームとドリルは俺たちの戦闘の要だった。

 そしてドリルは先日、ここ獣ヶ原の強敵ヘルズハーレーとのバトルの際にぶっ壊れてしまっていた。ぶんどったミスリルプレートは価値のあるものだが、ドリルを失う代償としてはあまりに重かった。

 

 俺たちは戦術の要を二つも失ってしまったのだ。

 

 その事実を鑑みると、冷や汗がしたたり落ちるのを止められない。

 もちろん、ここを出て機械を買いなおすことは出来る。しかしその為には、またしてもあの長い道のりを――。

 

「もう……限界なのよ、私たち。サンビームも毎回敵と出会う度にピカピカやってたからガタが来たのよ」

 

 元帝国軍女騎士、セリスは俺の隣に立つと、悲痛そうな面持ちでそう呟いた。彼女も俺の仲間だが、レオタードみたいな服を着て戦闘の場に出てくるので、実は内心思うところがある。

 ともあれ彼女の言いたいことが気になったので、俺は問いかけてみる。

 

「限界って……何のことだ? サンビームはフィガロに行ってエドガー先頭にして店員をペコペコさせたら安値で――」

 

 セリスはキッと顔を険しくして、オペラに出ても通用しそうな程の大音声で叫んだ。

 

「ここ獣ヶ原に、あなたが探しているアスピランスなんてモンスターは出ないのよ!」

 

 同行している最後の仲間、獣少年ガウがその声に驚いて体を震わせたが、腹が減って力が出ないのか、「ガウ……」と弱々しい声をあげるばかりだった。

 

――

 

 アスピランス。

 薄紫色をしたクラゲみたいなモンスターだ。

 

 このモンスターは蛇の道と呼ばれる海道に出現するが、ここ獣ヶ原にも出るらしい。モンスター図鑑にもそう書いてある。そして、「攻略Wiki」と呼ばれる魔導電光掲示板に書かれていた情報によると、獣少年ガウはこのモンスターの技を覚えると、百万ボルトを出せるようになるのだ。

 完全に人間業じゃないが、彼は獣少年ガウなのでそれくらいできるのだ。

 

 そして、『その技がなければ、俺たちは次の目的地、魔導研究所でナンバー128と呼ばれるモンスターにボコボコのけちょんけちょんに負けて、そこからトロッコで出られなくなって積む』という声が、別の異相次元(セーブデータ)から俺の夢の中に届けられ、俺はそれを信じて行動することにしたのだ。

 

 そう、俺は異相次元からの俺自身の悲痛な叫びを信じて、獣ヶ原くんだりまで来たのだった……それも徒歩で。

 

「あんな未来……俺は信じない。魔石ファントムを使って味方三人物理無効状態になったそばから魔法攻撃が飛びまくって全滅を繰り返すなんて……」

「しっかりしてロック!」

 

 セリスの声が聞こえたような気がしたが、俺の脳内は異相次元が見せた悪夢に支配されていた。

 

「大体何なんだよ、ゾゾから獣ヶ原まで徒歩で行かないと、魔導研究所までにアスピランス百万ボルト使えないって設定は。なんでこんなアホみたいに二回くらい滝から落ちて――」

「いい加減にしなさい!」

 

 派手な打音が獣ヶ原に木霊した。

 俺の目線はいつの間にか空を漂う雲々へと向いていた。ビンタされたのだと遅まきながら気づき、セリスの方へ顔を向けると、果たして彼女は泣いていた。

 

「もう……もう嫌。こんなアスピランスなんてワケのわからないモンスターを探して、獣ヶ原とモブリズの村を往復するだけの毎日は……もう嫌ぁ!!」

「セリス……」

 

 蹲るセリスを哀れに思ったのか、エドガーはポンコツになったサンビームを大地に投げ出し彼女の元へ寄り添った。

 

「ここ獣ヶ原でお前の言うアスピランス探索を始めて一か月になる……彼女は限界なんだ……もちろん俺も、ガウもだ」

「み、皆……でも――」

 

 反論しようとした俺だったが、不意にセリスが涙を拭って立ち上がった。

 

「アスピランスは諦めて別のところで戦闘しましょう! 何故かここで戦っても全然力がついていく実感がないのよ! そう、強くなった気がしないのよ!」

「君もそう感じていたのか」

 

 エドガーが渋い顔で同意した。

 くそ、さすがに気づいたか。

 

「やっぱりそうよね? 私たち強敵以外の戦闘はロックが嫌がるから全部逃げてきたけど、それってやっぱり戦術的レベルの向上には繋がらないわよね!? 急にここで戦うようになって、さぁ強くなるぞ、って気になってたけど……私たち全然強くなってないわよね!?」

「ガウ」

 

 獣少年ガウも頷いたが、こいつ本当にわかってんのかな。

 

「ねぇロック! 強くなれば先に進めるのよ! こんなアスピランス探索生活はもう終わりにしましょう」

「そ、それは……ダメだ」

「なんでよ!」

 

 もう限界かも知れない。

 しかし、俺は諦めるワケにはいかない。

 レイチェルのため、復讐のため、俺の夢のために!

 

「強くなるため……最強になるためだ!」

 

 セリスはしばらく口を開けて呆然としていたが、やがて気を取り直して、激おこになった。

 

「意味わかんない! ここ以外で戦ったら強くなるんでしょう!」

「それはそうだが――」

「サンダラするわよ!」

「待ってくれ! 獣ヶ原生活の賜物サンダラを行使するのは止めてくれ!」

 

 片方の手で彼女を制止しながら、もう片方の手でパンパンになった共有道具袋のハイポーションを探っていると、エドガーが間をとりなした。

 

「まぁ まぁ まぁ まぁ……仲間割れは止そう」

 

 確かこの「まぁまぁ」発言は彼の弟が言っていた様な気がしたが、俺の記憶違いかもしれない。何しろ獣ヶ原生活が長いから、これまでの旅のことはほぼ忘れている。

 本当にずっとアスピランス探し続けているのだ。

 

「だがロック、そろそろ理由を言ってくれないか」

 

 エドガーが現国王の威厳を漂わせる語調をもって、詰め寄ってきた。

 

「俺たちは帝国打倒という同じ目的の為に行動している。だからお前の提案を聞いてきた。実際これまで不気味なぐらい上手くいっていたからな。しかしここ最近はどうだ? この不毛なアスピランス探索生活の、一体何が帝国打倒に繋がるって言うのか、キチンと説明してもらおう!」

 

 目が本気で怒っていた。

 彼もアスピランス捜索マラソンに疲れ切っているのだろう。

 

 俺は時が来たと感じたので、全てを打ち明けることにした。

 

「分かった。セリス、エドガー、獣少年ガウも聞いてくれ」

「あなたなんでガウのこと獣少年ガウって言うの?」

「ガウ……腹減った」

 

 ほしにくをあげたのが大分前だったのか、獣少年ガウはダラリと地に付していたが、他二人は俺の近くに腰を落として聞く体制に入った。

 

 俺はカラ咳をひとつして、始めることにした。

 

「この世には『魔石ボーナス』と呼ばれる神秘の力が存在する」

「は?」

 

 二人の間の抜けた返事を無視して、俺は続ける。

 

「俺たちが戦闘を終えると、不意に自分の力量が強くなったと感じる瞬間があっただろう?」

「あ、ああ……ここ最近お前が逃げまくるせいで全然実感していないが」

「あの瞬間に魔石を持っていると、より強く成長するんだ……いや、正確に言えば魔石を持っていないと成長しない能力がある。俺はそれを狙うために、戦闘を避けて来たんだ」

 

 つまり、最強になるためには低いレベルのままで進み、強いボーナスが得られる魔石を取得してから一気にレベルアップすべきなのだ。

 

「……は?」

「本当のことだ。なんなら、ナルシェの初心者の館の奥にある、『攻略WIKI』って書かれた魔導電光掲示板を見てくると良い。この世に魔石ボーナスが存在することは、事実なんだ」

「え、ええと……」

 

 俺の言葉を上手く頭で咀嚼できないのか、セリスは困惑している。

 

「ま、待てロック! 魔石ならもう4つ手元にある。お前の話が確かなら、その魔石ボーナスとやらを俺たちは受けられるはずだぞ」

 

 エドガーの言わんとすることが理解できたのか、セリスも乗ってきた。

 

「そ、そうよね! 強くなれるのならサッサとそうしましょう! アスピランスを探す地獄みたいな日々なんか送らなくて良かったのよ! もう次に進みましょう!」

 

 しかしそうは道具屋が卸さないのだ。

 

「ダメだ!! それでは最強になれない! もっと良い魔石はこの世にある。そして、まだ見ぬ他の仲間たちにもボーナスを与えなくてはならない! この先の難敵と成長しないまま戦い抜くために、俺たちは幻のクラゲ、アスピランスを見つけなくてはならないんだ!」

「ええ……」

 

 そう。仮に今のタイミングで俺たちが魔石ボーナスを得て成長したとしても、今後仲間になる奴らは俺たちの成長に合わせたレベルで加入することになる。WIKIにそう書いていた。

 俺たちの成長は、パーティ未加入メンバーの魔石ボーナス獲得機会を奪うことになるのだ。

 

 つまり、最強になれなくなってしまうのだ。

 

「全ては魔石ボーナスのため……強くなるため……ガストラ帝国の野望を打ち砕くためなんだー!」

 

 ためなんだー、ためなんだー……と、俺の演説は獣ヶ原の大地に木霊した。

 恐る恐る二人の顔色を窺うと、エドガーは腕を組んで俯き、セリスはガックリと肩を落としていた。獣少年ガウはいつの間にか鼾をかいて寝ていた。

 

「あ、あのぉ……皆?」

 

 長い沈黙の後、エドガーは顔を上げた。獣少年ガウの鼻提灯が膨らんだ。

 

「うん……まぁ……同じく帝国打倒を旗に掲げる者として、お前の言い分は……一応……分かる」

「おお!」

「だが――」

 

 何か言わんとするエドガーを、絹の裂くような悲鳴が遮った

 

「えええええー-----! やだああああああー-!」

 

 声の主はセリスだった。獣少年ガウの鼻提灯が弾けた。

 

「なんで納得してるのよエドガー! そんなの気にせずに進んでも多分帝国は倒せるでしょ!!」

「そ、そうかも知らんが……これは万一にも負けるわけにはいかない戦いだろう? 慎重に慎重を期して、万全の状態で決戦を迎えるというロックの考え方も――」

「慎重を期すなら、ここ以外で戦闘させてよー!! もうベールダンスのブリザラで全滅する夢を見るのは嫌なのよ!」

 

 べールダンスとは獣ヶ原に出現する一番やばい女のことだ。彼女にブリザラを使われると世界が終わる。

 レベルを上げれば受けられるが、それは魔石ボーナスの事情によって出来ない。

 最強への道は、険しく厳しいのだ。

 

 セリスは完全に激おこぷんぷん丸状態になった。

 

「もう嫌! 全部嫌!! 敵に出会うや否や、背中ズタズタに切られながら逃げ回る毎日も嫌だけど、獣ヶ原の生活はもっと嫌! アスピランス本当に出るの!? ナルシェの雑魚しか見ないんだけど!! あとベールダンス! もー--嫌ー-!! 一番嫌なこと言うね! モブリズ村の住民に白い目で見られながら毎日アクセサリ屋のベッドでタダ寝するロックの神経がいっちばん嫌!! そして、100ギルもったいないからって結局そこで寝るようになったエドガーも!!! ああもう最悪! デス!!

 

 言いたいことを言い切ると、拗ねた子供のようにふて寝を始めたセリスに、俺たちはかける言葉もなかった。

 しかし俺はパーティの先導者として何か言わなくてはならなかったので、数秒考えた後やってみることにした。

 

「気にするなセリス! 君は元帝国軍人だろ!」

「サンダラ!」

 

 ブリブリョーシ!!

 

「サンダラの効果音!? ロック―!!」

 

 エドガーの叫びを薄れゆく意識の中で聞きながら、俺はセリスにとっておきの言葉を投げかけた。

 

「そ、その魔法……シビれるね」

「それ俺のセリフだろ!」

 

――

 

 その後、半年ほどかけてロックは獣ヶ原の敵出現テーブルパターンの状況再現法をWIKIによって知り、幻のモンスター、アスピランスに出会う事が出来た。

 こうして彼ら一行の、賽の河原のような獣ヶ原生活は終わったのだった。

 

 しかし、ロックはまだ知らない。

 彼のモンスター図鑑には、登録し忘れた出現時期限定モンスターが存在する事を。

 そして、そのモンスターと出会わない限り、獣少年ガウの技をコンプリートする事が、その冒険では絶対に不可能になってしまう事も――。

 

 

 ある日、その事実に気づいた彼はこう言うのだ。

 

「これでは最強になれない!!」

 

 THE END




 出ない時はマジで出ない。

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