そんなお話し。
私、堂島菜々子13歳の中学二年生。
お母さんは4歳の時に亡くなり、警察官のお父さんと二人暮らし。
お母さんが居なくなったは寂しいけど、お父さんが居てくれる。
それに、遠く離れてしまったけど、私には大好きな悠お兄ちゃんがいるから。
「菜々子、帰ったぞ」
「お帰りなさい、お父さん」
夕飯の支度が丁度終わった頃にお父さんが仕事から帰って来た。
「こんばんはー、菜々子ちゃん」
このショートカットが似合うかっこいいお姉さんは里中千枝お姉ちゃん。
お兄ちゃんの友達で、小さいころからよく遊んでくれる優しいお姉ちゃん。
お姉ちゃんは警察官になって、去年からお父さんの部下になった。
なんでも、警察官になったお姉ちゃんは無茶ばかりするから、お父さんに押し付けられたとか。
お父さんは千枝お姉ちゃんのことを、危なっかしいとか突っ走るなとかよく愚痴を言うけど、千枝お姉ちゃんが部下になってから、なんだかうれしそう。
「ったく、こいつ、家が今日すき焼きだって言ったら、ついて来やがって、すまんな菜々子」
「大丈夫、たぶんお姉ちゃんも来るだろうなって思って、多めに作っておいたから」
「さすが菜々子ちゃん。わかってるー」
「里中、少しは遠慮しろ」
お姉ちゃんは肉が大好きで、家のご飯が肉料理だと必ず家に来てご飯を食べる。
千枝お姉ちゃんが来てくれると、にぎやかになるから私は嬉しい。
「うーんしあわせ!菜々子ちゃんの料理は相変わらずおいしい!」
肉料理を食べてる千枝お姉ちゃんは本当に幸せそう。
「ありがとう。千枝お姉ちゃん」
「菜々子ちゃんは、いいお嫁さんになりますな~」
「そうかな?」
だといいな、それにお嫁さんになるなら、やっぱり悠お兄ちゃんのお嫁さんになりたいな。
悠お兄ちゃんはお兄ちゃんと言っても、本当のお兄ちゃんじゃなくて従兄になるから、結婚はできるから。
「何言ってやがる!菜々子はまだ13歳だぞ!」
お父さんはちょっと酔っぱらってるみたい。
「ほう、後3年で法律上は結婚出来ちゃいますよ。3年なんてあっという間っすよ。それに菜々子ちゃんはかわいいから、モテるんじゃないかな」
「菜々子は嫁にやらん!……まあ、あいつ(悠)なら……いや、まだ早い!」
「いやだな~、何、本気にしてるんすか、堂島さん」
「それよりもお前はどうなんだ?いい奴いないのか?」
「え?わたしっすか?」
「花村とはどうなんだ?」
「花村?ないない。冗談きついな~」
「じゃあ、熊田の奴はどうだ?」
「クマくん?それこそ無いわ~」
花村陽介お兄ちゃんとクマさんも悠お兄ちゃんと千枝お姉ちゃんの友達で、今は二人ともお仕事で悠お兄ちゃんが居る東京に出張中。
「まさか、悠か?」
「鳴上君!?」
「なんだ?まんざらでもないってことか?」
「いやいやいや、違うから」
「ほーう?だが悠はやらんぞ」
「だから、違うっていってるじゃないですか!」
悠お兄ちゃんは世界で一番かっこいいから、皆が好きになっても仕方がないけど……。
「そ、それよりも、菜々子ちゃん。今年も神社の七夕祭りで神楽巫女をするの?」
「うん」
「そういえばそういう時期だったな。ったく、神主の爺さんが今年もどうしても菜々子にってな」
「菜々子ちゃんの巫女さん姿はかわいいし、それに神楽舞の踊りもうまいし綺麗だし。そういえば昔は雪子も菜々子ちゃんぐらいの時に2回ぐらい選ばれたかな。いいな~、私も一度ぐらいはやってみたかったな~」
「祭りの神楽巫女は町内の12から14歳の女子の中から一人しか選ばれないからな」
「はぁ、同期に雪子がいたんじゃ、私が選ばれるわけないか、雪子美人だし、日舞習ってるから神楽舞も上手いし……はぁ」
「そうなんだ。私も雪子お姉ちゃんが踊ってる姿見たかったな~」
「そう落ち込むな里中、お前もそう捨てたもんじゃないぞ」
「本当?どんなところっすか?堂島さん」
「元気がいいところだ。元気だったらお前が一番だろう」
「……堂島さん、そういうのいいんで」
私は去年も神楽巫女に選ばれて、神社のお祭りで奉納舞という神楽舞を神社の舞台の上で一人で踊った。
マリーお姉ちゃんが教えてくれた神楽舞を踊ったら、神主さんが泣きながら喜んでくれて、町内の人たちも喜んでくれた。
もちろん、お父さんも。
でも、一つ気になる事があった。
奉納舞を踊ってる最中に、頭の中に誰かの声が響いて……、気のせいかもしれないし。
「菜々子、来週の修学旅行の準備は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「菜々子ちゃんも中学の修学旅行か。どこ行くの?」
「京都と琵琶湖だよ」
「へ~、私の中学の時は……どこだっけ?なんか覚えてないんだよね。雪子と枕投げした覚えはあるんだけど……うーん」
「たぶん、一緒だよ。毎年恒例で20年は変わってないって先生が言ってたから」
「そ、そなんだ」
「里中、10年前の事も覚えてないのか?」
「あはははっ、って、そういう堂島さんは中学の修学旅行どこ行ったか覚えてるんすか?」
「俺はもう30年も前の事だぞ?覚えてるわけがないだろ?」
「10年も30年もいっしょっすよ!」
「こいつは!」
「あはははははっ」
「千枝お姉ちゃんにもお土産買ってくるね」
「ありがとう~、菜々子ちゃん」
やっぱり千枝お姉ちゃんが居ると家が明るくなる。
そして6月中旬、修学旅行初日。
観光バスで滋賀県彦根市に到着した。
彦根城を見学して、次に長浜港から琵琶湖に浮かぶ竹生島までクルーズ船で移動。
クルーズ船から友達と琵琶湖の風景を眺めていたら、急に去年奉納舞で踊っていた時に聞こえた女の人の声が『あなたなら大丈夫』。
あの時は聞き取れなかったけど、今度はしっかりと聞こえた。
誰?何が大丈夫なの?
「菜々子ちゃん、菜々子ちゃん、大丈夫?」
ふと気が付くと、友達のさっちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「えーっと、女の人に声をかけられなかった?」
「え?女の人?……菜々子ちゃん、急にぼーっとしちゃって」
隣のさっちゃんには聞こえてなかった。
もしかして、夢?なのかな……。
「ごめんね、さっちゃん。もう大丈夫」
さっちゃんを安心させるために、笑顔を向ける。
「船酔いかもしれないね」
さっちゃんはほっとした顔に。
竹生島に到着して、クラスごとで神社とお寺を回る。
「ねえねえ、菜々子ちゃん。あの人かっこよくない?」
クラスメイトの一人が鳥居の前で佇む若い男の人を指さす。
長身できれいな顔立ちの男の人、確かにかっこいいかもしれないけど……。
「さっきも船で一緒だったから、話しかけてみたんだ。そしたら、東京の大学生の一人旅だって」
「イケメンだよね。アマダさんって言うんだって、ちょっとそっけないかったけど、それがまたいいの~」
どうやらクラスメイトの子達は、船であの男の人に声をかけていたよう。
でも、なんだろう?あの人を見ていると落ち着かなくなる。
「菜々子ちゃんどうしたの?ぼーっとして?また気分が悪いの?」
「もしかして、菜々子もあのアマダさんに見惚れちゃった?」
私はさっちゃんと響子ちゃんの声でハッと意識を取り戻す。
「だ、大丈夫だよ」
声をかけてくれた友達にそう言ったのだけど……。
私、どうしたんだろう?
その後、比叡山と日吉大社を巡り、琵琶湖近くの旅館に泊まる。
夕飯を食べてお風呂に入って、部屋で班の子達6人と布団の上で楽しくお話をする。
「菜々子はかわいいからいいよね~」
「菜々子ちゃんって、サッカー部の半田君からラブレターもらってたけど、どうしたの?」
恋バナになって、私が皆に質問攻めに。
「半田君とはあまり話したことが無いから、お付き合いできないって断ったけど」
うーん、よく知らないし、急に言われても困る。
「まじか~。私だったら二つ返事でOK出すのに」
「もしかして、菜々ちゃんって好きな人がいるの?」
「うん、いるよ」
「えええ!?」
「まじまじ!?」
「だれだれ!?」
みんな私に迫って来る。
「うん、悠お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?」
「でた~、菜々子のブラコン発言」
「なにそれ~、お兄ちゃんって」
何故か、私の事を呆れた目でみんなが見る。
「え?ダメなの?」
「だめって、兄妹は付き合えないでしょ?今は恋バナよ。コ・イ・バ・ナ!」
「でも、菜々子ちゃんって一人っ子だよね」
「お兄ちゃんだけど、従兄なの」
「従兄だったら、恋バナとしてはギリOKかな」
「年上なの?」
皆は納得してくれたみたい。
「うん、10歳上のお兄ちゃん」
「10歳って、あんた。モロ大人じゃない」
「菜々子ちゃんって、年上好きなんだ」
「あっ!知ってる!見たことある」
「え~、どんな人なのよ」
「背が高くて、やさしそうなめちゃくちゃかっこいい人!」
「その人だったら、ジュネスプリンス熊田さんと残念王子花村さんとも一緒に居たの見たことある!」
しばらく、悠お兄ちゃんの話題で盛り上がる。
「菜々子、その悠お兄ちゃんの写真ってスマホにある?」
「え?お兄ちゃんの?あるよ」
「見せて見せて!」
「え?でも……」
皆に悠お兄ちゃんの写真を見せてほしいと迫られたのだけど……。
そんな時、突然、皆の動きが止まり、声もしなくなった。
「え?……みんなどうしたの?」
私は皆の顔色を覗うけど、動かないというよりも固まったまま、まるでビデオの停止ボタンを押したかのように。
それどころか色が無い。みんなの肌の色も、パジャマの色も、さっきまであんなに鮮やかだったのに、白黒の濃淡だけに。
「さっちゃん!?響子ちゃん!?」
目の前のさっちゃんの肩を揺すろうとしても、隣の響子ちゃんの腕を引っ張っても反応が無い、それどころかびくともしない。
さっきの楽し気に話していた時の恰好のまま固まってる。
「……どうなってるの?」
普通じゃない。
私は立ち上がり、周囲を見渡す。
周りの音がしない、でも自分の心臓の音だけが大きく聞こえてくる。
匂いすらも……。
どういうこと?
何が起こってるの?
みんなは大丈夫なの?
先生に知らせないと……
何故か物凄く重くなっていた部屋の引き戸を強引に開き、廊下に出ると、歩いてただろう生徒たちも止まったまま。
なんで?どうして?
私は階段で1階まで降り、旅館のエントランスに。
でも、そこで見たものは……。
お風呂上がりの生徒たちや、旅館の人たち、先生たちも、みんな止まったまま。
そんな……
私は呆然と立ち尽くす。
何が起きたの?どうしてこんなことに?
なんでみんなが止まって、私だけ動けるの?
よく見ると、あちこちの床から黒いドロドロとしたものが、次々と湧き上がるように現れる。
「なに…あれ?」
その異様な光景と、気持ち悪さに後退りを……。
黒いドロドロとしたものは、それぞれ1mぐらいの蛇の形になり、止まったままの人たちに絡み付きだす。
「ダメ!!やめて!!」
私はその光景を見て、思わず叫ぶ。
あの蛇達は絶対ダメ。
きっと、みんな大変なことになっちゃう。
黒いドロドロとした蛇達には私の叫びなど届いてない。
蛇に絡みつかれた人たちは、徐々に薄く透き通っていき、蛇はそれに反して徐々に体が大きくなっていく。
「ダメ!!」
絶対ダメ!!
何とかしないと、何とかしないと!
私は目の前の先生に絡み付く蛇を取り払おうと掴もうとしたけど、手が蛇をすり抜けて触れない。
蛇に絡まれた先生がどんどん薄く。
先生が、先生が消えちゃう!
「やめて!!もうやめてー――――!!」
私のどうしようもない無力さを感じながら叫びをあげていた。
突然、あの女の人の声が頭に響く。
『待っていましたよ。あなたの人を助けたいという優しい思い。今、受け取りましょう』
「え?」
『さあ、唱えなさい。あなたは知っている筈です』
「……ペ・ル・ソ・ナ」
私は何故か知らないはずのその言葉を口にする。
その瞬間、私の頭上から眩いばかりの光が溢れ出し、目の前の先生に絡んでいた黒い蛇は光に触れ塵となって消えていく、光がエントランスを満たすと周りの蛇も次々と消えていった。
「え?助かったの?」
『あなたの優しき心は、悪しき者から人々を守ることが出来るでしょう』
私はその優し気な声に頭上を見上げると、巫女服姿の女神様が宙に浮いていた。
「あなたは?」
『私はあなたの心、私の名は……』
「クシナダヒメ」
女神様の名が自然と口に。
設定背景は『新島真は鳴上悠と出会う』と全く一緒。
というか、菜々子の裏話というか番外編みたいな感じです。
元々、そっちに入れ込もうと思ったんですけど、真ちゃんが出ないからこんな感じにと、気楽に書ければというわけで、別枠に。