破壊王の双子には兄が居るらしい。 作:なにぬねの
ごめんなさい、作者だってちょっぱやで第4回前まで行きたいです......。
対【黒鯱】戦の後、カイは転移陣によって地上に無事帰還し大地を求めて歩いた。その時の時間は1日目が終わり2日目を軽く過ぎたぐらい。彼とて人間なのでそろそろ休める安寧の地を見つけるためであった。
しかしそうは簡単に行かないのがこのNWO。
時にPK目的のプレイヤー数名に囲まれ襲われる。が、もちろんオーバーキル気味にカウンターで全滅させた。
時にペンギンの大規模な群れにも遭遇した。しかし一対多は寧ろ彼の得意分野なため無傷でしっかりメダルも回収している。
「その後もう一回PK来たんだよなぁ。いい思い出」と言えてしまうぐらいカイの疲労はピークに来ていた。
そんな容赦のない
「もう無理だ。休もう」
カイは氷河の近くでついに休憩を取ることを決めた。本来は拠点を作る際、洞窟などの方が良いのだがそんな余裕は今の彼にはない。
「とはいえ無防備にまんま寝るなんて出来ねぇし、やっぱあれだけ作るか」
そうつぶやくと彼は氷河のほとりへ向かい、ある程度厚さのある直方体の氷をいくつも切り出す。それも常軌を逸するスピードで。
一定量の氷材を手にした彼はそれを積み上げ、組み立て......。5分後にできたそれは一人用のアイスドームのようなものであった。
「んじゃ、【神託の代行者】。頼んだよ」
スキルで分身体を作り出した彼は、未だ謎のアイテムである卵を抱えたまま基地の中へ入り横になった。少々硬いのは難点だが、ゲーム故冷たく凍ることはない。寧ろカイの火照りを含めた疲労感を涼しく包み込んでいくようなものである。
カイは意識が暗がりの中へ引っ張られていくように、スムーズな入眠を果たしたのであった。
カイはつん、と顎を突かれるような感覚に気づき、目が覚める。普段は敵に対する察知能力の高い彼がその行動に事後になるまで気づかなかった理由。それはその者に一ミリも敵意がなかったことである。
驚いて飛び起きた彼が見たものは自身の腕の中に収まる角を生やした魚。その位置が卵と代わって居るものだと気づいたのは数十秒後である。必死に寝ぼけ眼をこすりながら状況を確認しようとしていた。
「お前、一角のモンスターだったのか!」
体の横にあるヒレを腕に見立てながら高い高いをするカイはそう言った。
しかしその体は、本物ほど覇気を感じるかと言われれば十割十分いいえと言えるし、本物ほどその角は鋭利かと言われてもいいえと答える。
もっちりとした体に先がある程度丸みを帯びた角、そして何よりそのくりっとした可愛げのある目を見れば、カイの母性本能だの加護欲だのは一発KOである。意外と可愛いものに弱いのである。頭の容量に余裕のある人は覚えておくとよいだろう。なにせ弱点になりかねない。
まあそんな話は置いておくとして、さっそく可愛がっているカイはその一角に名前をつけられることに気づいた。ついでに指に嵌る新たなリングにも。
「名前か、どうしよう......。んー、シンプルに【クロ】でいいか。よし決定!」
体皮が闇に溶け込むような黒色をしているためか命名されたそれは、彼自身のプレイヤーネームを決めるときと思考はほぼ成長していない。この男にはネーミングセンス云々の前に名前を凝るという考えを持っていないのであろうか。
しかし当人であるクロはその名前を気に入ったのかカイにするりとすり寄る。
名付けられたことによりステータスの閲覧が可能になったため、カイはその手に抱く生き物の詳細を見る。
クロ Lv1
HP 80/80
MP 110/110
STR 80
VIT 10
AGI 65
DEX 40
INT 35
スキル
【角突き】
「これ、名付け親のステータスに粗方似るのか?俺とお揃いで紙防御なんだな、クロは」
カイはまるでクロに確認を取るように呼びかけると、クロも彼の方向を向いてその角を揺らす。
その仕草にまた盛り上がるを見せるカイであったが、唐突に決断をしたような表情になった。
「よし、クロの育成をしよう!どうせ後半分以上も日数あるわけだしな!」
そう、カイは1、2日目の連日をとてもハードに過ごしたためか、メダルは既に目標の十枚中八枚は集まっているのだ。これからジェットコースター並に運が撃落しない限りは充分余裕のある状況と言える。
行動指針をたてたカイはテキパキと行動に移していく。
その際、彼は先のボス戦でスキルの巻物を手に入れていたことを思い出した。インベントリからそれを取り出すと、カイはその封を解く。幻想的な光が彼を包んだ。
一時的な霊光を浴びたカイはステータスの画面を開き、その見覚えのないスキルの詳細欄を読む。
【海の覇者】
水中の潜水可能時間:1時間。水中での攻撃速度UP、HP自動回復、MP回復速度UP。
取得条件・・・【水泳】【潜水】共にスキルレベルⅩ到達。
「また強化系か!弱くはないしありがたいけども!!」
大規模なスキルを望んでいるカイにとっては希望が打ち砕かれたようなものである。最も、一般プレイヤーからしたら喉から手が出るほど欲しい代物だが。
落ち込んでいた彼も気持ちを切り替え立ち上がる。
アイスドームは誰かがもし自分と同じ状況に陥ったときのために残しておくことにしたようだ。単に片付けるなんて面倒くさい行動をしたくなかっただけにもとれるが。
分身体をスキルの解除によって一度消失させ、一度伸びをする。凍てつく氷河の空気はカイの肺に入り込み、彼に清涼感のような物を与える。
一度クロの方を見やると、それは空中をすい、と遊泳していた。
「え、お前飛べるのか。あー......でも確かに足は無いしな」
カイは目の前の新事実に目を丸くさせたが、「それもそうか」と言うように一人納得した。
しかしだからといってこれからの移動方法が決まったわけではない。このままクロと一緒に歩んだとてカイのほうが圧倒的にAGIは上である。普通に考えてペースが格段に落ちるし、緊急事態に陥ったときも危険である。
「どうするのが一番効率的だ......?」
ふむ、とカイは考え込む。自身のペースにあわせられて、かつクロの姿が他のプレイヤーに直視されない方法。
しばし唸った後、カイの脳内に昔日の絵が浮かび上がった。
「そうか、これだ......!」
NPCのショップで勝った特段変わった性質のないただの布。本当はこれを纏ってPKに望むつもりでカイはいたが、それを背中側に袋を作るように肩と腰にまわす。
クロをその出来た袋に入れた。どこからどう見てもおんぶ紐の完成である。
「懐かしいな、二人もこうしてたわ。あれは可愛すぎた」
少々年の離れた二人の妹も昔はこうして
「わかったわかった」と許しを請えたカイはゲームにしては異質なその姿のまま走り出す。
「んー、小・中型のモンスターとか勝てそうなプレイヤーが居次第仕掛けるかな。流石にこれのままボス戦とかはきちい」
そうしてカイはクロの育成を促すための行動に出た。ただ、彼にとっての「勝てそうなプレイヤー」とは大体九割の者たちを指すため、PKにおいては無差別強襲と言っても過言ではなかった。
標的を見つけ、気づかれないよう忍び寄りその刃を光らせる。HPをほんの数ミリ残してダメージを与えるその手腕は、回数を重ねるごとに正確さが増していく。それをクロが自身のスキルを使って倒し、経験値を稼ぐ。
数時間狩っては休憩のルーティーンで効率的に進めていったため、現在クロのレベルは既に既9である。最初こそ伸びが悪いと頭をかしげたものでもあったが、その分にしては重畳だろう。
「よし、残りHP3!もーちょいいけないかな......。クロ、【閃光】!」
カイが最後の一撃をクロに指示する。新しく覚えたそれは、ほんの一瞬自身のAGIを二倍に上げ相手に貫通攻撃をするものである。
「よーし。クロ、背中に戻ってくれ」
柔らかにそう話すが、彼は周囲にプレイヤーが数名居ることに気づいていた。幸い向こうはまだ彼のことに気づいていない。ましてやその小さな相棒にも。
が、クロを隠しても彼は自分も隠れはしなかった。理由は簡単、余裕の相手だと判断したためである。
ザッザッ、と聞こえていた足音が止んだのを皮切りにガタイの良い男三人衆が姿を現す。
「ごめんなぁ、坊主。メダル持ってんなら寄越して、って...........【姫】!?」
そいつらはカイのことを知っていたようで、その二つ名を口走ってしまっていた。当然全くその事を知らない彼は「は?姫?誰それ?」と訝しげに睨む。
「す、すまん。お前だと知らなかったんだ!!見逃してくれないか........」
3人揃って平身低頭の勢いで許しを請う。自分より明らかに格上だと判断したためであろう。
しかしカイはそれに応じない。
「お前らメダル何枚持ってるー?」
予想できなかった快活な声でそう聞かれたため、呆けながらも彼らは2枚だと告げる。答えてしまったのだ、彼の今欲しいメダルの枚数を。
「【超加速】【鎧砕き】」
一瞬で男たちの真ん中まで移動し、重装備の一人を貫通攻撃によって一振りで倒す。ほか二人が「え、」と情けない声を漏らすがそれはカイの声によって打ち消された。
「あ、やっぱこいつが持ってたんだ。まあ一番死ににくいしね」
彼の手にあるのは銀のコインが二枚。キン、と指でコイントスなどをして弄ぶ。
「許してね、俺あと丁度二枚だったんだ」
その言葉をすべて聞き終える前に残っていた二人も倒される。この一件によりなんとカイの二つ名が今後【暴君】に統一されるのだが、その話はまた今度にしよう。
「よーし十枚ゲットー!あとはクロの育成しながらのんびり過ごすか」
張り詰めていた緊張が解けたのが原因か、カイはくあ、とあくびを漏らす。
時間はそろそろ四日目が夜に染まる頃。今夜の拠点を探し始めねばならない。
「ま、最悪森には入ったんだしそこらの木の上で寝るか。ハンモックとか買ってればよかったな」
背中に居る相棒を同意を求めるように見る。【休眠】と【覚醒】は覚えたのだが、いちいち最後を任せるためだけに出して休ませてを繰り返すのも面倒なため、おんぶ紐継続中である。
結局木の上で寝ることになった彼は、警戒を分身体に任せ、クロを腕に抱いて眠った。曰く、「もちひんやり最高!」らしい。
そして五日目。急ぐ必要もないため充分な休息を取ったカイは太陽がしっかりのぼり始めている時間帯に起きた。大方9時ぐらいであろう。
「今日も雑魚狩りとPKやってくか」
事前に買ってあった林檎をかじり、寝ぼけた身体を強制的に起こす。別に食事を摂る必要はないのだが、何かを口にしたほうが調子がいいらしい。
食べ終わると彼は慣れたように木を降り、動きだす。
今日は何人の、何匹の断末魔が上がるのか。それを知るものはまだここには居なかった。
数時間後、先程までずっとクロの育成を続けていたカイは木の上からある人物を観察していた。
真紅に染まった髪と双眸。さらに赤系統の装備と、周囲が森の緑で埋まる中とても目立っている。カイはその人物の噂をよく耳にしていた。
「【炎帝】のミィ、か」
先程まで4人のパーティで行動していたのだが、効率さを求めてかそれぞれ単独行動を始めていた。カイはそのうち一番の実力者であろう彼女の後を追った、と言う流れであった。
彼女はプレイヤーを見つけては焼き、見つけては焼き、時に炎の槍で消し去っていく。しかしそのどれもが外れというべきか全くもってメダルがドロップする気配がなかった。
カイは自分が運が良かっただけだったんだな、と強く思った。
すると突然、彼女は地面にへたり込む。どうしたものかとカイは目を凝らし耳をすませた。聞こえてきたのはなんと泣きじゃくるような声。
「ううう......なんでメダル誰も持ってないわけぇ?!このままだと4人分の枚数稼げない、もうやだぁ!!」
突然の変貌にカイはぎょっとする。人間誰しも色んな面を持つ。カイだって素と学校では言葉遣いを筆頭に雰囲気も何もかも違う。その自覚は優にあったのだが、それでもここまでの豹変っぷりを見せるような人は中々見ない。しかも泣き出してしまっている所を見る限り普段随分無理しているのだろう。
同族と分かってか、カイはよしみも兼ねて静かにその場を去る。
その後盛大な爆炎が空に伸びたのを見る限り、誰かがストレス発散の犠牲になったのだろうとカイは考えた。
その後も探索を続け、夜になれば休憩取る。特段カイも冒険を冒すことはしなかったため、初日に比べてゆるりとした時間が過ぎていく。
そして6日目の午前に見つけたそれは、通路が毒で埋められた一つの洞窟であった。
「クロ、【休眠】。えぐいなーこれ。まあ一応入るか」
ざぶざぶと猛毒の中をかき分けて進んでいくと、思いの外早く出ることが出来た。どうやら球体になっていたらしい。
周りを見渡しても宝箱は無い。カイは歩みを進めた。
数秒後、奥の部屋からガチャリと金属の擦れる音がした。敵がいる可能性が高まり、カイは腰の剣を抜いて構える。
じりじりと、両者の距離が近づいているのであろうが壁によりまだお互いの姿は見えない。
(知能が高かったら面倒だな。【超加速】か【幻魚の尾鰭】使って速攻かけるか)
一歩ずつ、警戒を強め近づいていく。そして壁からちらりとその物体が見えた瞬間、カイは駆け出す。
「【超加速】【獅子の矜持】!」
相手の装甲のない部分を狙おうと目を凝らしていたカイは、その見覚えのある黒い盾を前に急ブレーキを掛けた。
「メイプル!?」
「その声は、カイ!?!?」
ちらりと大盾から覗かせるその顔はカイの友人で間違いなかった。
「ここを拠点にしてたのか」
「うん!サリーが今外でメダル探してきてくれてるんだー。......はっ!もしかして偽物じゃないよね?!」
「え、どゆこと?」
メイプルはこの六日間のうちにあった冒険譚をカイに話し出す。ここに居続ける許可を得たカイは、ちゃんとした拠点ができたことにまず安堵を覚えた。
「それでカイも居るってわけね」
「お世話になってまーす」
PKから帰ってきたサリーが目にしたのは親友の他にもうひとりの友人であった。
現在はそのサリーに説明を終わらせたばかりである。
「そうだサリー!カイも私達みたいなモンスター手に入れてたんだよ!ほら!」
そう言ってメイプルが掲げるのはカイの相棒であるクロ。胸鰭を手をふるように動かす姿はしっかり二人のハートを射止めた。
「じゃあ私は見張りも兼ねてこっちに居るよ。引き続き朧とシロップは頼んでた良い?」
「あ、じゃあ俺も行くわ」
立ち上がったサリーに彼は自分もと声をかける。
「え、休んでていいよ」
「んー、家賃代的な意味も含めて......な」
「そっか」と了承の返事を返したサリーにカイは着いていく。もちろんクロはメイプルに預けてある。
侵入者が来たら問答無用で潰し、それ以外の時間は互いがこのイベント中にあったことを話していく。【黒鯱】や【銀翼】のこと、ドッペルゲンガーにペンギンの群れに......。意外と話すネタは突きず、まさに話に花が咲く状態であった。
その後、メイプルとサリーの知り合いである剣士が一人やってきたが、それ以外は特筆することはない。
カイは序盤に比べ平和なままイベントの終わりを仲間たちと迎えた。