破壊王の双子には兄が居るらしい。 作:なにぬねの
これは、近々理沙がログインし始めるであろう頃の話。
リアルでの自宅にて、魁は包丁片手に料理を夕飯の支度をしていた。
トントンとリズミカルな音が響くキッチンに彼の妹の片割れであるマイが入ってくる。
「お兄ちゃん、もしかして今日シチュー?」
鼻をヒクヒクとさせ今晩の夕飯のメニューを推理した彼女は、兄の肯定の返事を聞き「やったぁ」と年相応な笑みを浮かべた。
「ユイも呼んでくるね!せっかくお兄ちゃんのシチューなんだもん」
マイは自室に居るであろう片割れの妹に先の事を伝えるため「走るなよー」と言う魁の言葉を横目に足早にキッチンを去っていく。もちろんその様子を見て終始顔がにやけていた兄だが、最早通常運転なので触れないでおこう。
話は戻るが魁は両親の仕事が極端に忙しかった一時期、一家の竈を牛耳っていただけあって料理が上手い。しかも女性のほうが多い家庭もあってか、その腕は料理だけには留まらずスイーツも絶品である。最初は甘いものを前に喜ぶ妹たちの姿を思って作っていたが、途中からそれはゲームに次いで魁の二番目の趣味となっていた。
その手腕を学校の調理実習にて発揮した時は女子の黄色い声とともに男子の血涙が観測された。「これだから顔がいいやつは......!!」と。
手際もよく、あっという間に完成してしまったそれは、見栄えも栄養も熟考して作られたものであった。
ダイニングに彼が溺愛する妹たちが入ってくる音が聞こえる。
「今日お母さんたちは仕事遅いの?」
「ああ、先食べてだって」
食卓についた彼らは「いただきます」とともに食べ始める。3人の食事姿は両親の質のいい躾が行き届いているように感じられるものであった。
「今日はデザート作ったけどいる?」
「えっ、なになにー?」
兄のスイーツの味を十二分に知っているマイとユイはその言葉にしっかり食いついていた。
「アップルパイ」
先に食事を終わらせた魁が食器を片付けながらそう答える。しかもその傍らには既に菓子皿が用意されていた。有無を聞かずとも二人は食べるだろうと踏んだ行動は的を得ているものだった。
「「食べるー!」」
魁は「やっぱりか、」と言う苦笑にも自慢げにもとれる顔つきのまま二人分のパイを切り分けていく。
食後、夕飯のメニューのどれもに舌鼓をうっていたマイが不意にこんな言葉を漏らした。
「お兄ちゃんって、ゲームでもお料理とかしてるの?」
「え?してないけど......」
魁の頭にはまったくなかった発想らしく、「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」の代表例としてあげてもいいぐらい唖然とした表情である。
姉の言葉に賛同するようにユイも続けて話した。
「NWOは自由なアクションを売りにしてるし......あ!ゲームの中だったら普段作れないようなものとかも作れるんじゃない?!」
「確かに......」と魁は感嘆の意を溢す。原材料が高価なものだったり希少なもの、作る手順が困難を極めるもの、そもそも家庭にはなかなか無いような調理器具を使用するもの。現に魁にもリアルではそう作れそうにないものはある。もちろんそれらは毎回しぶしぶ諦めていた。ゲーム内とはいえ、それらを作れるのは彼にとっても朗報だろう。
「でも今更【料理】取得するのもなぁ。ステータスも大分決まってきたし......」
「そっかぁ。ゲームの中でもお兄ちゃんの料理が食べられたら良いなって思ったんだけど......」
可愛い妹の頼み×上目遣い(二人分)=魁に10000のダメージ!!
(え?つまりは俺がゲーム内でも色々作ったら二人は前の「俺のこと避ける」とか言うの無しにしてくれるんかな?いや多分そうだよねこれうん)
ほんの数秒の間に魁は今得た情報を整理し、少々都合のいい解釈をする。まあ彼の料理を食すと言う時点で必然的に会わなければならないため、あながち間違ったことでもないはずなのだが、いかんせん変態臭がにじみ出すぎていた。
「やっぱやるわ」
とんでもない掌返し。流石シスコンを地で行く男であった。
そうと決まったら即行動。喜ぶ妹たちを横目に自室へ直行した彼は、ベッドに寝転び慣れた手付きでゴーグルを装着する。
暫くの間の彼の目標が決まった瞬間であった。
「確かスキルで【料理】ってのがあるってイズが言ってた気が......。でも明らかにDEX使うしな。あ、なら専用装備作ってもらうか」
ということでカイが手を付け始めたのは装備代を稼ぐこと。既に生産界の中でも頭一つ飛び抜けているイズの作る装備は、そのあたりのショップで購入できるものとは天と地の差がある。彼女なら自身の願望を叶える作品を作ることが可能だとカイは踏んでいた。
ゲーム内外の掲示板で情報収集。割の良いクエストを片っ端から進めていく。時に完徹で進めた金策は、たった数日で150万ゴールドのラインまで行っていた。因みに「王子兼姫がめっちゃ金集めてんだけど誰か理由知ってる猛者おる?」と言う急遽立てられたスレはここ最近で最も人が集まったとか。
「絶対こんなゴールド要らなかった気がするわ。まあいいや、スキルのことも兼ねてイズに話してみよう」
カイのインベントリにはその大金と、優先的に作ってもらえないかという意を込めた
一層の街を足早に進み、目的地へ着く。柔和な笑みの彼女はいつも通りそこに居た。
「カイじゃない。もう整備だったかしら?」
「いや、ちょっと頼みがあってな」
そう言ってカウンターに近づきながらカイは麻の大袋を2つ取り出す。
ダン、と天板にそれは置かれ、それを置いた当人は乾いた音を弾き出しながら両の手を眼前で合わせた。
「装備作るのと、【料理】について教えて下さい!!」
その光景を受けたイズは最初こそポカンとしていたが、段々と意図が飲み込めてきたらしい。彼女も聡い者ではあるのだ。
「わかったわ、両方とも任せてちょうだい。これって代金よね?それにしてはちょっと多いような......」
待ってましたと言わんばかりにカイの目が開く。手早く彼が開けた方は、金策と並行して集めた素材が入っていた。
「これって......!!」
「足りない、とか欲しいとか言ってたっしょ?俺の誠意的なやつです」
採取量が極端に少ない鉱石に、ドロップには相当な運が絡むレアモンスターの爪や牙。それに未だ採取条件が謎の植物などなど。イズはまるでプレゼントを貰った子供のように目を輝かせていた。
「良いの!?本当に!?」
「ああ、その代わりといってはなんだが頑張ってほしいなと......」
「もちろんよ!過去最高の強化数値を更新してみせるわ!!」
「おお......」
思った数倍の着火燃料になったらしく、頼んだ側であるはずのカイは少し気圧されていた。
貰った素材をしっかりと倉庫に収納したイズは、「こほん」と咳払いをして話を切り替える。
「装備については分かるのだけど、【料理】は習得したいってことかしら?」
「ああ、実はだな......」
カイは家であった妹たちとの内容を伝えた。もちろんカイが話したのは事実を少し脚色したものだったので、イズはまだ彼がシスコンなことは知らない。せいぜい「妹ちゃん思いのお兄ちゃんね〜」くらいであった。
「よく分かったわ。じゃあ装備はDEX重視のものとして......。提案なんだけれど、見た目は私服に近い軽装系でどうかしら?」
「ああ、デザインは正直イズに任せるつもりで居たから大丈夫。因みになんで?」
「シンプルに今回は目的が目的だから重装は論外でしょう。もしカイが今後街歩きとかしたくなった時用にってことで。それ、かっこいいけど目立つものね」
イズが指差すのはカイの通常装備である軍服。デザインも見た目から出るオーラもイズがこだわって考え抜いただけあってとても目を引くのだ。
「それめっちゃありがたい。視線浴びるのは慣れてても好きじゃないんだ」
カイは生まれつきのその顔面故、元から注目を浴びやすい。それが「軍服」と言うリアルならレイヤーじゃない限りだいぶ痛い服装がベストマッチしてしまっているため、まあ後は言わずもがなだろう。
「じゃあ装備はこんなものかしら。スキルなんだけど、別に【料理】を持ってなくとも食べ物を作れはするわ。ただ回数を重ねることによってスキル取得や熟練度の向上につながるの」
ふむ、とカイは内容を理解する。「難易度が高ければ高いほどある程度のDEXは必須になるけどね」と言うイズの付け足しも加えて、やはり装備の生産を頼んで正解だったと彼は思う。
「で、私はさっき充分なほどの報酬をもらった訳なのでもう少しカイのお手伝いをしようかと思います」
「はぁ、と言うと?」
カイがそう聞き返すと、イズは腰に手を当てドヤ顔で言い放つ。
「私の工房のキッチンを常時開放するわ!」
「なるほど、崇めろと」
イズのポーズにノッてカイは真顔のまま頭を下げる。こう言う時なんやかんやふたりともノリが良いため、お互い良好な関係なのだと読み取れる。
まあそんなこともあり、カイは早速カウンターの奥の制作室のようなところへ入ることが可能となった。
「キッチンは奥の方よ。流石に私が料理系にそこまで力を入れてないのもあってあんまり道具とかは無いけれど、それでも最初のうちは大丈夫なはずだわ」
「ああ、ほんとに何から何までありがとうな」
そうして詳細を伝えたイズはカイの装備品を作るために、工房中央に腰を据える鍛冶、被服関係の作業部屋へ向かった。
キッチンに着いたカイは、道具の方の確認と事前に用意していた材料とを照らし合わせてメニューを決めていく。とはいえまだ凝ったものは全く作れないと考えても良いものなので始めはシンプルなものから。
「どれくらいのなら作れんかな?とりあえずじゃあ目玉焼きとかから......」
インベントリから生卵1つと油を出し、壁にかかっていた小さめのフライパンを手に取る。
「もうこれテフロン加工とかそう言うレベルじゃないだろ」
種類は少ないとはいえ、彼女のキッチンに備え付けられているものはほとんど心血を注いで作られたのであろう業物ばかりであった。
「よし、じゃあ始めるか」
愛する妹たちのため、カイの料理修行が始まったのであった。
数日後。時期的に言えば理沙もといサリーが昨晩からログインし始めた日であった。
「私の今生の運を使い果たしたかもしれないわ......」
そうつぶやくイズの前には、彼女が作ったのであろう服を纏ったカイが居た。
淡い茶色のゆったりとしたカットソーにアイボリーカラーなアランニットのカーディガン。下は暗めの色のフレアパンツと、全体的にゆったりとしているが圧倒的に軍服よりは料理がしやすそうであった。
「なんかちょっと女々しくない?気の所為?」
「大丈夫、似合ってるわ」
実は少々故意的に仕組まれた気の所為ではないものだったのだが、イズに軽く流された結果カイは「まあいっか」となる。同じく渡されたくすんだような赤のスニーカーが白のニットに良く映えていた。
「それと、装飾品枠に入るエプロンも作っておいたわ」
「いたれりつくせりじゃん。また素材持ってくるわ」
「それじゃあ遠慮なく。カイが持ってくるもの全体的に質がいいから助かるのよね」
会話を交わしながらカイは自身が今装備しているものの数値を見る。なんとそれは中々お目にかかれないようなものであった。
「強化数値全部【Ⅹ】!?なにやったの!?」
「見合う働きをしただけよ。もちろん頑張ったことに変わりはないけどね」
強化されたDEXの数値を合計すると125。現在のカイの地のステータスも足せば充分【料理】には支障のないはレベルである。因みに彼の今のスキル熟練度は【料理ⅴ】にまで上がっていた。
カイがイズにお礼を言う。その直後、店内に誰かが入ってきた音がした。
「イズー。頼んでたのできたー??ってあれ、先客が」
どうやらその人は最近街でスイーツメインのカフェを開いた人だそうで、イズには新作に使う調理器具の作成を頼んで居たらしい。
「順調らしいじゃない、お店の方」
「見た目だけね。NPC居るとはいえ一人でまわすには不可能に近いよ。誰か【料理】の熟練度上げてる子が入れば良いんだけど......」
「あら、」とイズが声を溢してカイの方を向く。「え、」とその人も反応してしまい、カイの事情はあっけなくバラされてしまった。
「うちで働かない?バイト代出すし空いてる日でいいし勤務時間外うちの本格キッチン使い放題よ!!」
「ぜひとも」
やはり現金なやつであった。
それから更に数日後、カイも持ち前の能力によって仕事が板についてきた頃である。
彼のおかげかは真偽の詰まるところだが、連日客入りは大きかった。
キッチンでものを用意しつつホールも滞り無く回るよう接客も完璧。まさに例の店長にとっては天使のような存在であった。
カラン、と客の入店を告げるベルが又鳴り響く。
「いらっしゃいま、せ......」
不意に彼の動きが止まった。
「「カイ!?」」
目の前には彼の友人兼パーティーメンバー。二人との邂逅である。いつかはバレるだろうと思ってはいたがこんなにも早くとは思ってもいなかったようだ。
結局この日、仕事終わりに二人に質問攻めにあってそのままケーキをご馳走する流れにまでなったのは言うまでもなかった。
次こそは第三回入ります......。
あと、近々落ち決めアンケを取りたいと思います。第四回ってやっぱりヒロイン決まってないと動きづらいと思ったので。
スキルの【料理】は各時間軸に入れておいたのでご承知おきください。