破壊王の双子には兄が居るらしい。   作:なにぬねの

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最後は『大団円』らしい。

 

 第四回イベントを終えた次の日。魁は今日はなんだかログインする気分にはなれず、自室の寝台の上で一人天井を見上げるようにぼーっとしていた。

 彼の頭の中を占めるのは、イベント二日目の終わり頃に起きた戦中の出来事。洞窟内の人工的な明かりを頼りにしたあの局面でフレデリカに言われた言葉。

 

 「わっかんねぇよ......くそ、」

 

 珍しく治安の悪くなっているその口調も気にならないぐらいだった。彼はただひたすら思考に耽る。

 

 

 

 

 自分の何か特別なことをしてあげていたのか?

 

   ―――否。特段扱いを他と変えた覚えは無い。

 

 

 

 ならばそもそも自分は人誑しとか言うやつか?

 

   ―――否。顔が整っている自覚はあるが、別に性格が八方美人だとは思えないし、たかがゲームのフレンド程度の者にまで勘違いされる愛想を振り撒く事もない。

 

 

 

 

 なら彼女がそういう女だからか?

 

   ―――否。そんな軽い奴じゃないと、接している身としても彼女の周りの好感度からもわかることだ。

 

 

 

 本当に分からない。こういうときだけ理論的思考の男性脳が面倒になる。そう彼は酷く感じた。

 

 (大体なぜあの前に『サリー』という言葉が出た?別に俺は彼女となにか関係を持っている訳でもない。だがあの時の雰囲気から邪推しても―――ああ、本当に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体、どう行動を取るのが最適なんだ......」

 

 タワーディフェンスもの、パズルもの、謎解きもの、大規模レイドもの。彼はあらゆる戦略ゲーをクリアしてきた身であったが、「そこらのボス戦のほうがよっぽど楽だと」と残して、窓から見える沈みかけの夕日を凝視し続けた。つまるところ『現実逃避』というものであるが、それを言うのは無粋であるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日。カイはその前日もログインはなせていなかったが、サリーから第四回イベントの打ち上げパーティーをするとの連絡が入り、久々に電脳世界へと身を投じていた。

 数日ぶりに見る、現実と遜色のない世界観を持つそこは、彼を無意識に安心させるものでもある。そしてそれは、同じ時を過ごした彼の仲間たちも例外ではないのだ。

 

 「悪い、遅れたか?」

 

 ポリゴンと共に現れたカイを皆どうやら待ちわびていたようで、久々の彼にある者は安堵し、またある者は歓喜した。

 

 「いいや大丈夫だ。私もいま入ったばかりだからな」

 

 「メイプルも実はさっき買い物に出ていったばかりだから。それより久しぶり、カイ」

 

 「ああ、ていっても数日だけどな」

 

 やはり自分の性に合っている世界だと、彼は思った。

 参入したカイを囲んで数名のメンバーで話していると、奥のキッチンからリビングには居なかった【楓の木】お抱えの生産師の声が響く。

 

 「カイ!丁度いいところに来たわ。パーティーで出す料理を準備するのを手伝ってくれないかしら?」

 

 「今行くよ」

 

 端的に返事をした彼は、インベントリからイズ特製の軽装兼私服(お料理服)を装備の欄へ移動させ、キッチンへ向かう。

 彼の視界端では、兄の料理が食べられると喜んでいる双子の姿があった。勿論心の中は大騒乱である。

 

 「よーし、それじゃあ頑張りましょ。私はこっちの料理のラストに移り始めるから、デザートの方を任せたわ」

 

 「了解でーす」

 

 広めのキッチンに二人の影。双方が真剣さを醸し出しているせいもあって、この場に近づけるものは他には居なかった。

 皮を向く軽快な音。鍋底に火が当たる、少し重さを孕んだ音。

 

 数分経った位の時のことであろうか。声を除いた雑多音で溢れるこの空間で、イズが徐に口を開いた。

 

 「何かあったのかしら?」

 

 「!」

 

 彼は驚き、つい手元のペティナイフを落とす。「何が?」「なんの事?」そんな誤魔化しすら謳っている余裕は無かった。

 けれど、思えば目の前の彼女はいつもカイの良き相談相手であった事を彼は思う。だから、今回も悩みを垂れ流すのもそれに彼女が答えるのも時間の問題で―――

 

 

 

 彼はその脳内に立ち込める物事を粗方話す。その間イズは一切口は挟まず、相槌を打ちながらカイにどう返すのが最適解かをただひたすらに考えた。

 

 「そう、か......。ありがとなイズ」

 

 「いいえ。それでも結局はカイの問題なのだから、あなた次第よ」

 

 話しながらも料理を進め続けた数分間は、カイにやはり良い効果を与えた。

 もう、先程までの曇った顔は彼に映らない。

 

 「よし、じゃあこれ向こうに運ぶな」

 

 気持ちの晴れとともに手際の良さを取り戻したカイは出来上がった料理を運ぶため、リビングへ一度戻る。

 一人取り残されたイズは、微笑みとともに「まだまだ青春ね〜」などと溢したが、それを聞くものは居なかった。

 

 

 

 

 して数十分。帰宅を待たれていた他ならないこのギルドの長が、玄関の戸を開ける音がホーム内に響く。しかも数人の話し声とともに。

 

 「ただいまー!」

 

 「うん、おかえりメイプル。で、後ろの皆は?」

 

 笑顔のメイプルに、サリーはいつも通りため息と呆れを込めたなんとも言えぬ表情を返すが、慌てや焦りは一切見られない。それはどこからどう見ても、『慣れ』によって成されたものであった。

 要約すると、偶々会ってフレンド登録したから招待したのらしい。

 サリーから伝えられたカイも半分呆れ、半分ある意味尊敬のような気持ちに陥っていた。

 

 「料理って足りるかな?」

 

 「ええ。少し作りすぎちゃったかと考えてたところだったから全然大丈夫よ」

 

 「作り始めたら止まらなくなったんだよな」

 

 ゲストも優に座れるであろうダイニングテーブルを皆で立って囲い、いよいよ打ち上げは始まった。キンッという小気味よい乾杯の音が部屋に鳴り響く。

 

 「ここの飯は豪華だな」

 

 「ギルドお抱えのシェフが居るからね」

 

 「「お兄ちゃんたちが作った料理、今日のも美味しい!」」

 

 「そうか。嬉しい、良かったよ」

 

 「頑張った甲斐があるわ」

 

 各々が目の前ある絶品の数々に舌鼓を打つ。生産系のギルドなどでもない限り、やはり料理関係に労力を掛けている者も中々居ないため、大規模ギルドとは言えど皆美食に飢えているようであった。

 

 カイも自分の皿に料理をよそうとした時、不意に右斜前に居た人物と目があった。昨日のままの彼ならばここで逸していただろう。が、先程の頼れるカウンセラーの助言もあって、逸らさず、人目になるべく付かないように彼女に近寄った。

 

 「終わったら、ちょっと話せる?」

 

 少し肩をくすめながら彼はそう言う。

 目の前の人物のそのルビー染みた瞳が揺れ、表情が一時崩れた。だがその言葉を反芻したように落ち着いた彼女は、首を縦に振る。

 その動作を見届けたカイは、再び自分の元居た場所へ踵を返した。

 

 

 暫くの間、家族水入らずならぬ"戦友水入らず”な雰囲気でパーティーを楽しんでいると、運営から動画の添付された一通のメールが届く。

 それは先の第四回イベントの見所をかき集め、編集したものであった。

 

 「ギルドのモニターで映してみようか。皆同じ動画みたいだし」

 

 そう言ってメイプルが流し始めた動画には、この場に集っている者全員が何かしらの形で映っていた。理由は簡単。ここに居るものが皆全員『強者』であるから。この者たち抜きにしては第四回イベントは語れないのだ。

 

 「うわっ、これ何分潜ってるわけ?」

 

 「最大一時間」

 

 「えぐいな」

 

 「あー.....これあの夜の......私の失態がー!」

 

 「今度こそ横槍無しでもう一戦どう?」

 

 「いいよー!絶対当てるから!」

 

 「まだ人型なんだな」

 

 「七匹になるんだろ、知ってるぜ」

 

 「思い出すだけでつらい」

 

 水陸両用と化したカイのシーンや、フレデリカとサリーの決戦、更にイベント後半で起こる未曾有のボスモンスター(メイプル)放流など、話題のつきないものばかりであった。

 動画も終わりに近づいたあたり、ペインはメイプルに出直すと宣戦布告のようなものをした。そしてそのままカイの方にも彼は向く。

 

 「カイもだ。いつか君にも勝てるよう、鍛錬し直すよ」

 

 「え、俺も?まぁしょうがないか......」

 

 少々面倒くさいと思ってしまったが、彼にもまたゲーマーの血は流れているわけで、渋りながらも負けん気の方が勝ったというような返答である。 

 その後も会は続く。明日の敵は今日の友、と言わんばかりの盛り上がり用のまま彼らは時を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あのさ、あの時のことなんだけど......」

 

 喧騒に満ちたパーティーも終わり、カイと呼び出された彼女――――――

 フレデリカは人気のない喫茶店で机を挟んでいた。

 

 

 

 「フレデリカの思いには―「いいんだ」    え?」

 

 「いいの。分かってたから。それより、困らせちゃったみたいだね。ごめん、あんなこと言って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『私はね、カイ。キミが好きだよ』

 

 それは、あの戦渦の中で一人の乙女が勇気を糧に伝えた言葉。そして、カイが数日頭を悩ませたものでもあり、彼が応えられないものでもあった。

 カイの言葉を遮って止めた彼女は、どこか遠くを見つめるように、付き物の落ちた顔つきのまま口を開く。

 

 「最初はね、ペインが興味を持った子はどんな子なのかなって感じだったの。別にゲームに出会いを求めてる訳じゃないから何も考えてなかったし。会ってみたら思ったよりも案外普通の子人で、でもその分綺麗に戦うんだなって思った。剣の振り方とか、身のこなし方とか。思わず見惚れて、それで見てるうちにもっと見惚れて。しかも話すたび知らない一面を見せてくるもんだからさ、後衛気遣って戦ったり、仲間思いだったり、隠れ負けず嫌いだったり、シスコンだったり、全部ね。全部素敵に見えちゃうんだ。もっと一緒に居たかったし、何回もこっちのギルドに誘おうとしたの。でもさ、違う。だからこそ、嫌でも分かっちゃうんだよ。君が誰を見ているかくらい」

 

 カイは不思議でならなかった。なぜ彼女が自分を好いてくれるのか。純髄に不思議がっていた。しかし、この言葉で酷く身に沁みさせられたのだ。だからこそ、その言葉の続きを気になった。だってその先の予想が全く立たないから。

 

 

 

 「カイは気づいてないと思うけど、君はぼーっとしてる時大抵サリーを見つめてるんだよ。知らなかったでしょ?まぁ多分向こうも気づいてないと思うけど......」

 

 

 

 「は、嘘だ......」

 

 なぜフレデリカがあの時サリーという単語を出したか、なぜこれほどまでに彼女に固執していたのか、ようやく全てのピースが揃う。でも同時に、カイの中に新たな無視できぬ問題も生まれた。

 俺、サリーが好きなのか?いやでもあいつはただのネッ友だし、そんな自問自答を彼は繰り返す。

 

 「まぁ、カイが誰を好きになるかなんて自由だからどうでもいいんだけどねー。だから、この事は私も忘れるし、カイも忘れていいよ〜」

 

 急に、フレデリカは口調をいつもの軽快な雰囲気に戻した。そして席を立ち、考え込んでいた彼より先に店を出ようと動く。だが、見逃されなかった。否、見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 「どうでも良くはないんだろ?」

 

 「っ、え......」

 

 「どうでもいいなら、泣かねーんだわ」

 

 「あ、え?私泣いて......」

 

 彼女は指摘されてやっとその頬に流れる一筋の雫に気づいた。大方、気づく余裕もなかったのだろう。

 席に戻されたフレデリカは、感情とともに涙の防波堤が決壊し、その両目から大きな雫をぼろぼろと溢し始める。だがいまだに彼女はその涙をせき止めようと力を両手に込めていた。

 

 「ごめん。こんなの本当は俺の立場じゃやっちゃいけないことなんだけど、」

 

 彼の手が目の前に伸びる。彼女が気づいたときには、その頭の上には自分より大きく、かつ優しい手のひらが覆い被さっていた。

 

 「大丈夫、他に客居ないし。ここNPCの店だから」

 

 だから、泣いていいと。優しい声色のままそう告げた。

 フレデリカは泣いた。普段の彼女からは想像もつかないような涙で、それはカイのことも深くえぐった。もっとも、これは受け入れねばならない贖罪だと彼は割り切ったが。

 

 

 数分泣いた彼女は、カイから借りたハンカチで涙を拭き、ようやく落ち着いた。

 

 「ごめん、取り乱した」

 

 申し訳無さそうにそう彼女は言う。

 

 「気にすんな。俺にも分がある」

 

 彼は精一杯の慰めの言葉を探した。

 

 「酷いことを言うが、ちゃんと聞いてほしい。俺は、多分フレデリカの思いに応えられない。サリー云々を抜きにしてもだ。でも、忘れる忘れないは、フレデリカの勝手だろ」

 

 「え?」

 

 彼女の瞳に光と疑問が映った。

 

 「こんなの、俺が言うことじゃない。でも、俺はもう返事はした。だからフレデリカの感情をどうするかなんて、フレデリカで決めていいだろ」

 

 「なんで」と、目の前の彼女は顔に出した。傷ついたのか、呆然としてるのか、驚いているのか、なんとも言えない表情とともに。

 そして彼女は口を開く。

 

 「応えられないのに好きって、迷惑じゃないの......?」

 

 「お前に、次の恋が見つかるまでくらいなら、それくらい受け止めれるわ。まぁ、だから......好きにしていいよ」

 

 少し照れくさくなった彼は俯く。だから見なかった。彼女が目を見開き、驚愕とともにその優しさを噛み締めた。

 

 「私、カイを好きになってよかったのかもな」

 

 それはボソリと呟かれた言葉で、カイの耳には入っていない。

 

 「なんか言ったか?」

 

 「ううん。じゃあ私は、迷えるカイに恋バナもとい恋のアドバイスでもしてあげようかな〜」

 

 「え、でもそれは―――」

 

 酷なんじゃないか。そう言おうとしてカイはフレデリカに止められた。

 

 「好きにしていい、でしょ?好きにやってるだけだから大丈夫」

 

 精一杯、彼女ははにかむ。でもそれは目の前の彼を安心させるためのハリボテではなく、本当に心のうちから漏れ出したものであった。

 だから彼は口をつぐむ。

 

 「さてさて、先程私のおかげで恋心に気づけたカイくんは、何かやることがあるんじゃないかな?」

 

 伝票を持ったフレデリカはわざとらしくそういう。

 

 「ここの代金は全部俺が持ちます。いや持たせてください」

 

 「よーし、すいませーん!スペシャルパフェ3つ追加でー!」

 

 近くの店員を呼びつけた彼女は、この店で最も値の張るスイーツを所望した。だが、カイはさっきよりマシか、と割り切りインベントリの欄からゴールドの数を確認した。

 注文が通ったことを確認した彼女は、少し落ち着いた様子でもともとあった飲み物に口をつける。

 

 「因みに、今サリーはホームに居るらしいよ」

 

 「それは......」

 

 「何か、単独不可のクエスト請け負ったのにメイプルがログアウトしちゃって困ってるって」

 

 「!」

 

 「行ってきたら?一緒に居たいぐらいは思えるようになったんでしょ」

 

 すまし顔でフレデリカはそう告げる。

 彼女の意図を汲み取ったカイは、ここで断るのも得策ではないと判断したようだ。

 

 「ごめんフレデリカ、俺ちょっと用事できた。代金はここに置いとく」

 

 「はいはい。お釣りはネコババしちゃうからね」

 

 「余裕でくれてやるよ」

 

 軽口を交わしながらカイは店を出る。

 店内には、流れるBGMとフレデリカのため息だけが残った。

 

 「いい女ムーブもきついもんだなぁ」

 

 自嘲するような声色でそう呟いた彼女は、やがて運ばれてきた甘味を自棄食いするかのごとく口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、送り出された側の彼はその身に宿すステータスのAGIをフル稼働し、【楓の木】ギルドホームに着く。

 

 「サリー、居るか?」

 

 扉を開け、彼女がまだここにいるか確認する。

 

 「どうしたのカイ?そんな急いで」

 

 目当ての人物は居た。どうやら、今日は他のメンバーは出払っているようであった。

 

 「あ、いや......暇だから、手伝うことあるかなと......」

 

 全速力がバレた彼は必死に取り繕おうとして、失敗した。

 そしてサリーは少し吹き出す。

 

 「じゃあ、これから私のクエストに付き合ってくれない?」

 

 

 

 

 「ああ、そのつもりだよ」

 

 電脳世界の日に照らされ、二人はフィールドへ駆ける。

 情景はいつもどおり。だけど心持ちは、片方だけ変化していた。

 

 彼は思う。良いやつばかりに出会えたなと。そして今日もその手に握る細剣へ、込める力を強めたのであった。 

 





 これにて第一章?みたいな部分は完結です。
 そしてお知らせになります。この度私は一身上の都合でこの作品を連載し続けることが困難になりました。出せても短編程度だと考えています。 
 そのため、誠勝手ではありますが、一度執筆を止めることにさせていただきます。
 いままで読んできてくださった方々、本当にありがとうございました。
 もし今後長期連載ができる目処が立ったら、また第二章からという形で投稿させていただきます。もしかしたら時間を見つけて時偶短編を投下するかもですが、そのときはまたよろしくおねがいします。 
 ここまで共に読走してくださり、本当にありがとうございました。またいつか、お会いできることを願います。
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