[完結]わすれじの 1206年   作:高鹿

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21 - 08/14 脱出劇

1206/08/14(月)

 

「精が出ますわね」

 

武器の試運転のために作られたとされる広間で訓練用の人形兵器に対峙し武器を振るっていると、入口付近への転位と共に鉄機隊筆頭たる神速が私に声をかけてきた。ちらりと時間を確認し、ちょうどいいかと両手の剣を収める。

私の剣は愛用していたものを銅のゲオルグに取りあげられはしたものの、それよりも随分と馴染みと切れ味のいいものを渡された。ついでに小銃も最新版に代えられて、投げナイフだけは固辞したら恐ろしいほど丁寧なメンテナンスが施されて返ってきたのにはかつての感情がこぼれてしまいそうになったぐらいだ。

 

「無才は訓練をしない言い訳にはなりません」

 

霊絡干渉。霊脈侵入。記憶解析。

おおよそ並みの人間から外れた技術を会得した自覚はある。けれどここから先は神代────とまでは言うまいが、それと近しいモノにまつわる領域だ。七の至宝。空の女神からゼムリア大陸の人間種が賜った古代遺物であり、本当の意味での女神からの贈り物。

そこに居ようというのであれば、たとえ黒のアルベリヒ様から才があると教えられたのだとしても研鑽を積まない理由にはなるまい。私に力があればノルドでの任務も横槍をその場で斬り捨てて完遂出来たろうに。

 

しかし私には剣才がない。無論人並み以上に戦えはするが、海上要塞の天守で見せられた黄金の羅刹と槍の聖女の戦いは自分にその領域へ踏み込む才がないことを如実に知らしめてくれた。であってもそれを剣の腕を磨かない理由にはしたくないと魂が叫んでいる。

 

「……ええ、その通りです」

 

私の言葉にか、それとも自身の中で何か思い当たることがあるのか、妙に表情を翳らせた神速はそれでもしっかと顔を上げ私と視線を合わせた。そうしてゆっくり右に剣、左に盾を構え明らかな臨戦体勢へと移行する。

 

「翠のアダルウォルファ。手合わせをしていただけませんか?」

「……ルールは?」

「貴方の馴染みのある物で構いません」

 

随分と自信のある話だ。神速の返答に対し私も双剣を再度抜きながら笑い、

 

「では、降参アリ殺害ナシの────無制限で」

 

床を蹴った。

 

 

 

 

ギィン、と盾に剣がぶつかり音が響く。双剣はスタイルの都合上力技で全てを圧し潰すことはしづらく、尚且つ神速はその名の通り迅さに特化している騎士であり私とは大変相性が悪い。

それでも左腕の盾に左を受けさせたならその左腰に対して、こちらの右の剣は受け流せまい!

 

「……っ」

 

直前に霊絡干渉し、動作を遅延させ確実に当てに行────けるかと思えたがそれに対し盾を隠れ蓑にした鎧足がこちらを強襲し寸でのところで回避し後退した。

なるほど。あの盾は近寄りすぎると足捌きの目隠しにもなるわけだ。あまり盾を持つ相手と戦ったことがないからこれは非常に為になる。

 

さて、しかしどうしよう。直前まで鍛錬していたし昼前だから正直体力がかなり減っているのだけれど実戦の時にそんな言い訳しようモノなら死んでいる。だから受けた。

荒げそうになる呼吸を何とか通常通りに見せ、呼吸を重ねていく。

 

太陽の恩恵を受け続けうつくしく成長する若葉と同じ色の瞳と視線がかち合い、高揚していく感情が抑えきれない。私の感情に仮面が呼応し、熱を帯びるかのようで────。

 

「双方、そこまでだ!」

 

思考と戦場を斬り裂く声が割って入り、そのまま迸る光の斬撃が私と神速の間に突っ込んできた。互いに大きく跳躍して難を逃れ攻撃手を見ればそこには鉄機隊の剛毅と魔弓が立っている。剛毅が自身の得物である白銀のハルバードを構えていることから彼女が声の主だろう。

 

「どういうつもりですが」

「アイネス、エンネア、こちらは戦っていますのよ!」

「それは私達も分かっているわ。でも、もう駄目なことくらい────分かるわよね?」

「これ以上続ければどちらか、あるいは両方がタダでは済むまい」

 

諭すような魔弓と剛毅の言葉に、深いため息を吐きながら武器をしまった。邪魔が入らなければいいところまで昇りつめられそうだったというのに。

神速もこちら同様憤然としつつも興が削がれたのか剣をしまい、軽い礼だけして三人共に広間を去っていこうとする。

 

「待ってください。他者の鍛錬を止めた上で何もせず退出出来ると思っているのですか」

 

既に終了の雰囲気になっていた空気を切り裂くように言葉を投げかけ三人へ近付いていく。

 

「……それが我らの善意であると解らぬ其方ではあるまい?」

 

後頭部で結ばれた赤く長い髪を翻し剛毅が私を見下ろす。足鎧のヒールがあるにしても私より随分と背の高い武人が容赦なく睥睨してきたというのは、威圧による屈服で済ませようという一種の慈悲によるものだ。

しかしそれでも真正面から視線を返す。これは逸らしていいものではない。

すると横にいた魔弓が眉尻を下げ小首を傾げた。

 

「困ったわね。そうは言っても私達を相手出来るほどの体力、残っていないでしょう?」

 

鍛錬の代わりに鍛錬を置いていけと取られたのか、魔弓は優しげに、しかし冷酷に告げる。

確かにそれは正しい。直前までやっていたソロに、神速との打ち合い。平気そうに見せかけてはいるが実際のところだいぶ削られている。継戦体力の課題はずっと付き纏うのだろう。

 

「貴方の言う通り残ってはいません。が、ひとつ見せて欲しいものがあります」

「アイネスとエンネアの訓練風景とかですの?」

「いいえ。私が見たいのは星洸陣です」

 

こちらの言葉に顔を見合わせた三人はそれでも拒否することなく起動する様を見せてくれた。命の危険性がなく、攻撃されるようなこともなく、起動から接続までをじっくり観察出来たそれは無駄のない霊力の流れによって構築される光の陣。

見れば見るだけ、ぞくりと背筋が笑うほどうつくしい。

 

これは死地を共に歩んできたこの三名だからこそ成せる業であり、仮に境界侵犯である私が結節点となって構築しようとしても紛い物にしかなるまい。三人フォーメーションの極地のような代物だ。

ARCUSシリーズとは根本的な思想が異なる。これを導力器で汎用的に再現しようとするのなら別のアプローチが必要になってくるだろう。

 

「────ありがとうございます」

「もういいんですの?」

「はい、しっかとこの目に焼き付けました」

 

その上で再現不可能であることも十分に強く悟った。まぁ武人が複数で練り上げて作るものを掠め取ろうなどという行為自体が間違っている。確かに私は人類にとって裏切り者ではあるが、それでも先達に対して敬意を失っているわけではない……と自分では思いたいが。

 

どうしてだか最近、自己の感情について見つめてしまう場面が多いな、と鉄騎隊の面々を見送りながらぼんやりと考えた。

 

 

 

 

1206/08/17(木) 夜中

 

「銅のゲオルグ」

「ああ、侵入者だ。相手の数はわかるかい」

「……一人二人、気配が取りづらいのはいますが14名ほどですね」

 

霊脈のゆらぎを覚え普段銅のゲオルグが研究をしている工房へ向かうと既に気が付いていたのか走ってくるのにはち合わせた。踵を返し並走して言葉を交わしていく。

今はまだ物理的に侵入してきたわけではないけれど、外界を遮断していたこの工房にいるリィン・シュバルツァーと外の人間の小径が繋がってしまえばそれを伝って焔の魔女たちがこじ開けてくるのは時間の問題になる。

 

「君は稼働させられる人形兵器にアクセスして指揮を取ってくれ」

「いいのですか?」

「元々この工房は侵入者を想定していないんだ。その上で多重展開させるなら君が一番いい」

 

つまりこういった危機的状況になったことがほぼなく、非常事態訓練もしていなかったということだ。

確かに記録から考えてみるに場所を点々と変えつつも800年ほど地中にいて襲撃などに備える必要もなく、好きなだけ研究に没頭できる環境であった、というのは見方を変えれば不幸だったのかもしれない。しかし技術者には"好きにやれる環境が大切"だと、昔誰かが言っていた。

 

人形兵器たちは程度のさはあれどどれも自立思考をし、必要であれば複数体で敵に襲いかかる判断もする。しかし此度の相手はスペックに任せた制圧はし辛く、私が介入し稼働させることで演算のロスなどをなくして時間を稼ぐのが何かと都合がいい。

 

「とりあえず全員が集合して到着、といった形にはならないよう散らしておきます」

 

とはいえあまり散らしすぎるとそれはそれで人形兵器のコントロールが散り散りになり、煩雑さによる指揮ミスをもたらすことになるため難しいところではあるが。

 

「ああ。────セリ……いやアダルウォルファ、頼んだよ」

「無論です、銅のゲオルグ」

 

制御権の一部委譲を賜り、私は一番近いルートを構築して制御室の方へとひた走った。

 

 

 

 

制御室に滑り込みすべての計器類に直接アクセスをする。稼働する腕が足りないから導力ではなく霊力駆動に無理矢理切り替え、私と感覚を一体化させ席に座った。

程なくして工房に潜り込んでくる霊子振動を観測したので何とか四分割ほどにし、人間と機甲兵で振り分け、且つリィン・シュバルツァーから一番遠い場所に配置するよう魔術に干渉していく。焔の魔女長であるローゼリアに加え、別の修正する力が加わっているのを理解し、これ以上こちらの観測が出来ないようそれを切断。

 

「────っ」

 

一瞬、空間を超越して緋い瞳と視線が合ったような気配がしたけれど、断絶は成功した。これでもうバックアップは望めまい。

次いで急ぎ倉庫にいる人形兵器のコンテナを解放し、稼働状態になったものから次々掌握して行き現場へ急行させる。頭痛がし始めたような気がするけれどそんなものは後回しだ。

工房内の監視カメラと人形兵器内蔵のカメラから戦場を把握し動かしていくけれどいかんせん────通常人形兵器如きでは歯が立たない。さすがに全員何らかの死地を超えてきただけはある。

屋内である故に稼働させられる人形兵器のサイズ・量にも限度はあるため、扉がボトルネックにならないよう一部は飛行状態に移行させた。

 

すると赤アラートが鳴り響き、何事かと武器倉庫側のカメラをチェックすれば────。

 

「リィン・シュバルツァー……」

 

鎖に繋がれていた灰色の鬼と化した灰の騎神の起動者が、破壊の獣に成り果てた姿で魔導障壁や人形兵器へ容赦のない刀を振るっている。それを裸足で追いかける見覚えのない褐色肌の少女……独房にセリーヌの姿が見えないことから推定彼女の変化能力とみた。

しかしこの状態は──VII組の到着が更なる暴走の鍵になったのか。リィン・シュバルツァーへの想念を利用したこの侵入ならばそういったことが起きてもおかしくはない……とはいえ歓迎したいものでもない。

 

「全く、大人しくしていればいいものを。────そうしたら楽であったでしょうに」

 

リィン・シュバルツァーが逃げないよう逃げられないよう一応の保険として騎神までのルートに常時起動されていた魔導障壁をさらに強化し、何重にも展開し、行く道を阻む。突破されないとは到底考えていないがそれでも数十分は稼げる。

 

「銅のゲオルグ、貴方が向かっている方は星杯騎士がいます。お気を付けて」

『わかった』

「紅のロスヴァイセ、そちらには焔の魔女がいます。精神干渉に注意して下さい」

『フフ、仔猫ちゃんに中身を暴かれるのであれば吝かではないが了解した』

 

一瞬直ぐ様通信を切ろうか考えたものの、仕事をする気はあるようなので最後まで言葉を聞くことを選択した。特に必要はなかったかもしれない。

 

「蒼のジークフリード、どこへ向かっているかわかりませんが貴方の近くにいるリィン・シュバルツァーと接触したら戦闘の可能性があります。コンタクトは非推奨です」

『おうおう、わかった。ところでお前はどこにいるんだ?』

「……? 工房の管理区画の一室です」

『なるほどな。そんじゃ、怪我しないようずっとそこにいろよ』

 

────それは、決して私を気遣っているなどという生ぬるい慈愛の言葉ではなく、戦闘職であろうというのに前衛に出ていないこちらへの明らかな罵倒の言葉だった。

 

一瞬視界が赤く染まり、瞬間的に自分の脚を殴打する。怒りに飲み込まれてる場合じゃない。蒼のジークフリードに揶揄われるだなんて今までに何度だってあっただろう!……そう、思うのに。分かっているのに。それでも、剣を握らずただひたすらに人形兵器を動かす私は、本当に己が望む己なのかと、自問をしたくなってしまった。

 

 

 

 

とは言っても侵入者の手が緩まることなどなく、休む暇もなく操作盤にアクセスし続けていたところで再度別のアラートが鳴り響く。

 

「……!」

 

最新型人形兵器から登録アカウントの破棄申告を受けデータを見ると、そこには蒼のジークフリードと神速のデュバリィのアカウントを破棄し殲滅モードの適用を行う、といった文面が表示されていた。

急いで該当箇所のカメラにアクセスをすれば、灰色の鬼と少女の前に────彼らを守るように蒼の影と鎧を着た騎士が立ち塞がっている。間違いようがないほどの敵対行為。それでもどうしてか腑に落ちてしまう。蒼はとっくに蒼ではなくなり、神速もずっと思い悩んでいた顔をしていたのだから。

でも。

 

「……貴方がたがそこまで愚かな選択をするとは思いませんでした」

 

思わずこぼれた言葉は、自分のものだったのか、それとも、かつての私のものなのか。起因とする感情がわからない。わからないが。人形兵器からの申告を受理し、当該アカウントの除外処理を行う。

それでもせいぜい足止め程度で、止められることはないだろう。彼らは──脱出出来るかはともかくとして──騎神が飾られている中央連絡橋に辿り着くのは自明となった。私に今出来ることは黒のアルベリヒ様のお戻りと、結社に所属する面々や西風の帰還まで時間を稼ぐこと。

 

「結局、貴方はやはり彼の手を取るのですね」

 

内戦の時、クロウ・アームブラストはリィン・シュバルツァーを助けるために己の命を差し出した。今も背中から斬りつけられる可能性があるというのに前に出て叱咤激励をしている。

私は、セリ・ローランドではない。翠のアダルウォルファだ。かつてクロウ・アームブラストと恋仲であったという過去があるにしても、今は黒のアルベリヒ様に己の全てを捧げた。それでいい。それでよかった。────そうでありたかった。

 

絶望の鐘が頭の中でこだまする中、がたりと椅子から立ち上がり、腰に帯びた刃物をすべて確認する。自我がないとはいえ数百体にも及ぶ人形兵器の並行稼働に怒涛に流入してくる情報精査で頭は酷く痛むけれど、それでも、この感情に自分で決着をつけられるならそうしたいと願う己を止められはしなかったのだ。

 

 

 

 

蒼は灰を連れていく。必ず目的を達成させる。そういう男だ。どんな時もそうだった。

それに加え大前提として、死者を殺すことは摂理として不可能だ。

────であれば私に出来ることなどもう殆どありはしない。

この欲が果たして黒のアルベリヒ様の為のものなのか否か、判断をつけることは難しいが。

 

 

 

 

連峰内部にある亀裂に造られた中央連絡橋のはるか上空、岩肌に腰掛ける形で来訪者を待つ。まず一つ、走り込んできたのは灰色の鬼。どうやらちょうど帰ってきていた劫炎や鉄機隊の面々は蒼のジークフリードや神速、セリーヌに足止めを食らっているようだ。次いで来たのは各方面から二人と三人で、特務科の五名。

 

繰り広げられる戦闘はかつての私が海上要塞で見ていた彼らとは一線を画しており、彼らも随分と成長したのだな、と内心で感嘆を落としてしまった。そうして叫ばれる担任教官への想いは光となり、狂気に飲み込まれかけていた心を穏やかに修復していく。

その中で、"彼女"から結びつく想いもあった。どうやら今は皇妃殿下と共にいて無事のようだ。最期の憂いも解消出来たのでその時を更に待つ。

 

リィン・シュバルツァーが鬼から人間へと戻りきったところで旧VII組も駆けつけては来たものの、各方面から迎撃者が追いかけてくる。挟み撃ち。当たり前の構図に嘆息する。

そうしたところで、黒のアルベリヒ様と、その工房長が主と呼ぶ黒の騎神の起動者である鉄血宰相、そして銀の騎神の起動者である鋼の聖女が姿を見せた。

 

多少の会話はあれど始まる乱戦を確認し、ダガーだけ抜き壁を蹴って加速する。狙うはリィン・シュバルツァーただ一人。長時間この場にいることで気配を溶かしたこちらが気取られることはほぼ有り得ず、そして多人数戦はどうしたって死角が発生するもので。

 

 

  貴殿は情報屋で斥候だ。暗殺は職務ではないだろう

 

この高原の空がとても似合うと思ったので  

 

たとえ何年ぶりに会ったとしても、

昨日まで一緒にいたように笑っていられるさ

 

 

けれどかつての言葉が今の行動を責めるようにリフレインする。煩い。煩い煩い煩い煩い!

 

 

しなないで、セリちゃん

 

 

脳髄を揺さぶるように"彼女"の悲痛な声が響き渡り、それに呼応するかのように紅と蒼がリィン・シュバルツァーへ至る筈だった私の刃を防いでいた。どうして。ねぇ、なんで。

あなたたちはてきどうしで、たたかっているのではなかったの?なんで、じゃまを。

 

「っとにもう、貴方も貴方で手がかかりますわね!」

 

目の前で起きた出来事に処理が追いつかず、しかし戦地においてその僅かな隙は致命的であり、唐突に落ちてきた真後ろの影へ振り返りかけるも、打ち下ろされる盾の衝撃が全身を貫く。

それを受け流すことも出来ず、私は、どうしようもないところで意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女のことはこちらで確保しますから、そちらはすべきことをなさいな!」

「悪ぃな! 正直助かる!」

 

明らかにリィンを殺そうとしていたアダルウォルファを、本人の無意識の声なき叫びもあって何とか察知出来て阻止は出来たものの、騎神を呼んで起動して乗り込まなきゃ唯一の脱出ルートも見えやしねえ。かといってうっかりタイミングも読まずに呼んじまえばマクバーンの野郎を更にその気にさせちまうのも事実ってなもんで!

 

「……言っとくがお前には感謝しねえぞ!」

「彼女の手を汚させないのはここでは私の役目だろう? 亡霊はお呼びじゃないさ!」

 

お前一応同陣営殴り倒そうとしてたの分かってんのか?ってぐらい(仮面で隠れててもわかるレベルの)ムカつくドヤ顔を披露してくれやがった紅のロスヴァイセは後でぜってえ殴る。ゼリカに戻ってもだ!

つうか亡霊の出る幕じゃねえなんて一番分かってんだよクソ!

 

しかしセリのことはどうにかなったって言うがそもそもあれもこれもと考えること多すぎだろ誰だこんな復路のことを考えてねえクソ大博打に賭けたヤツは!俺だ!自分の選択を詰りながら攻撃を捌いていると唐突に"歌"が聴こえ始めた。かつて何度となく聴いたそれを聴き間違える筈もねえ。

 

「なるほど、そう来たか!」

 

それに対し何とか時間を作ってやるとガイウスと委員長ちゃんが聖痕と魔術を重ねて転位門を完全展開し、星杯騎士の副長さんとやらの匣が門の存在を固定する。

すると空間転位で守護騎士に下賜されるっつう銀色に輝く専用の作戦艇に、カプア急便の山猫号がこの状況に突っ込んできやがった。ハッ、前者はともかく後者は一般人だっつうのにいい胆力してやがる!

そこから真っ先に降りてきたのは黄金の羅刹に重剣、元猟兵のランドルフ────そしてヴィータと来たもんだ。

 

「ここは我らに任せ退却の準備をするがよい!」

 

オーレリアの勇ましい声がジャンクションに響き渡る。加勢というには主力級だろうって面子が雁首揃えて来たことに「ここしかねえ」とリィンとアイコンタクトをして互いに騎神へ呼応した。

 

「来な、オルディーネ!」

「いま行くぞ、ヴァリマール!」

 

穢れちゃいるがヴァリマールの方はリィンが自分で何とかするだろうしあっちの準備が整うまで凌ぎ切ってやらぁよ。そいつが先輩の意地ってもんだろうが!

しっかり丁寧に手入れされた騎神用の双刃剣を振り回し生身勢が後ろへ下がれるよう支援していくわけだが……あのバケモンみてえなオーレリアに渡り合う鉄血の野郎に驚けばいいのか、それともその反対をすればいいのかわからねえ闘いが繰り広げられてやがる。

 

そんな中、ガキンチョが変化した剣を携えて、核が正常な色に戻ったヴァリマールが俺の横に降りてきて周囲に分校機甲兵も転位してきやがった。なんだなんだもう絶好調だな!

 

「しっかりやり切ったな!」

『ああ、クロウも含めた皆のおかげだ!』

 

リィンの生徒たちも機甲兵に乗り込み、完全な工房側の優勢とは言えなくなっちまった。そのことに、(実父だから当たり前なのかも知れねえが)やけに楽しそうな鉄血宰相の野郎と鋼の聖女が騎神を呼び出し核へと搭乗する。

それはこれから起こり得る騎神同士の戦いに先立つ顔合わせのようなものにも見えちまった。

 

『悪運だけは強いようだ』

 

アルベリヒが忌々しげに呟いてフィンガースナップで魔煌機兵をジャンクションへ呼びつけずらりと並べる。とはいえここでこれ以上の事を構えようってワケじゃないらしい。おそらく、戦うことになったらこの程度はすぐに動かせるぞっていう脅しのようなもんだろう。それで萎えてくれるヤツばっかりなら楽だったろうがな。

 

『周りに助けられたとはいえ、"機"を掴んだことは誉めておこう。だが、分かっているな? 最早宿命が避けられぬ事は』

 

騎神は元々ひとつのかたまりであった。それが一つに戻るための儀式……騎神同士の戦いに挑めばどちらか一方は確実に無事じゃ済まない。七騎中、黒緋紫銀金の五騎が向こう側で、俺も味方ってワケじゃないこの現状、リィンの敗北は即決着に繋がりかねねえ。

まぁ、四騎に黒を下す気概がない八百長なんぞ黄昏がお気に召す気もしねえがな。出来レースなんて認めねえぞ。

 

『ああ、黄昏の贄となって初めて分かった。騎神の起動者全員に課せられた逃れることの出来ない宿命。避けようとすれば歪みは更に大きくなる────それがクロチルダさんが言っていた"真なる物語"なんでしょう?』

 

内戦の頃。俺は俺で自分の目的にヴィータの力を借りてたが、ヴィータはヴィータで自分の目的を遂行しようとしていた。俺が灰に負けたからそれについて狂わせちまったのは申し訳なかったな。ただそれでも、この未来に行き着いたんじゃねえかと今なら思う。

 

『ええ、私が煌魔城で結末をすり替えようとしたお伽噺。下位次元であるこの世界で騎神として分かれていた巨イナル一を取り戻すための儀式────相克、と呼ばれるそうね?』

『正確には七の相克と私たちは呼んでいる。巨イナル黄昏が進む中、世界の滅びと共に行われる儀式だ。黒の工房はその実現に黒の騎神の起動者……我が主へ膝をついているのだよ』

『……それこそが黄昏を引き起こした本当の目的である、と』

 

アルベリヒの言葉にデュバリィが歯噛みをして呟くのに対比して、ふん、とオーレリアがつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

『つまり全ては巨イナル一とやらを甦らせるための茶番というわけか』

『ええ、その通りです。茶番というには悪辣すぎますが』

『鋼に言わせればそうかもしれねえが、めちゃくちゃに熱くド派手な祭りらしいからな。そのクライマックス、是非ともお目にかかりたいモンだ』

 

楽しげに喋るマクバーンは世界がどうなろうと知ったこっちゃねえんだろう。いや、世界崩壊がお望みなら自分で出来るのにやっちゃいないんだから、本当に自分が熱くなれる・熱くなっていい場所をただひたすらに探し続けてる……といえば聴こえはいいんだがなぁ。

 

『そして我が兄……ルーファス・アルバレアが金の騎神の乗り手となった今、同時代にすべての騎神が起動しているという条件が整った訳か……』

「ああ、もう後戻りは出来ねえだろう。止めようとしたらどんな形になるか分かりっこねえ」

 

それこそ今より更に悪くなる可能性の方が高いまである。今見えてる未来も決していいとは言えねえが、見えてるだけ対応対策が取れるぶんマシってなもんだ。

 

『────それでも俺は諍うと決めた』

 

帝国の贄なんて大層なもんを引き受けちまったリィンは、しかし負けずに宣言する。

あの頃と同じ……いや、あの頃よりずっと芯がある真っ直ぐな声で。

 

『掛け替えのない仲間や教え子たち……VII組や協力者たちと共に。剣となったミリアムの魂に報いるためにも! そして、何よりも────俺が、俺自身であるためにも!』

 

灰の騎神が剣を掲げ、それに続くよう教え子もVII組も、自分たちがこの激動の時代にどう生きていくのか見極めるために前へ進む事を諦めないと改めて宣言を果たしやがった。

昔っから変わらず青臭い……が、悪くはねえと思っちまうのは毒されてんのかね。

 

『よかろう────ならば諍ってみせるがい。それもまた、相克のための格好の薪となる』

 

闘争の火種はどれだけあっても不都合じゃないとでも言いたげな鉄血の野郎は、顔も見えねえのににやりと笑った気配を出しやがる。余裕綽々なそのツラぜってえ崩してやっからな。

 

『メルカバ弐号機から連絡! 上空で複数の気鋭が接近中!』

『ほら、とっとと離脱するよ!』

 

待機してた空挺のスピーカーから焦りが飛び、ヴィータを中心に委員長ちゃんにガイウス、セリーヌが術を構築・安定させでけえ立体法陣で全員を一気にメルカバだの飛行艇だのに乗せ始める。機甲兵はまぁこっちから霊力を補助して飛ばしてやればいいだろう。

 

「先導する! 付いてこい、リィンに後輩ども!」

『ああ、よろしく頼む!』

 

そうして転位門を抜けると────ずっと光量が一定の暗い地底にいたせいか、太陽の光が余計に眩しく感じちまう。騒動が起こり始めたのは夜中だったってのに、もう明け方になってたらしい。随分と長い、一晩だった。

 

 

 

 

1206/08/18(金)

 

暫く全速力で飛行しアイゼンガルド連峰からほとほどに離れきって、追いつこうとしてきてた機影もレーダーから消え、メルカバ二台で展開してくれてた光学迷彩を解いたところで全員の気が緩む。とんでもねえ大立ち回りをよくやり切ったもんだわ。

 

「そんじゃ、俺たちはここまでだ」

『一緒に来ないの!?』

 

本当に驚いた風情で、メルカバのデッキに出てきてたエリオットが言うもんだから俺は思わず笑っちまう。控えめに見えて誰も言えねえようなことを言えちまう性格、変わんねえなあ。

 

「正直どのツラ下げてだろ。それに相克が始まった今、馴れ合うべきじゃねえ」

 

メルカバへオルディーネの手を差し出すと、未だ目を覚ます気配のないセリ────アダルウォルファを横抱きにしたデュバリィが乗ってきた。霊力がだいぶ尽きてるだろうし、どうせなら着陸するまでは起きねえで欲しいもんだな。

 

『元よりわたくしは馴れ合うつもりはありません。ここでお暇させてもらいますわ』

 

結社を出奔中だからか転位が使えなくなってるのか、騎神を堂々と交通機関扱いすんのはこいつくらいなもんじゃねえか。いや手伝ってくれる気なんだろうが傍から見ての話だ。

 

『離れるのは仕方ないとは思うが……クロウ。相克についてどこまで知っているんだ?』

「お前よりほんのちょいくらいだな、セリならもう少し詳しいことを識っちまってる可能性もあるが────それでも起動者ならではの気配ってのをお前も感じてる筈だ」

 

騎神同士の戦いが避けられないこと、それをすべき場所に心当たりがないとは言わせねえぞ。お前はそいつを散々利用してきたろうが。

否定の声がないってのは肯定だな、と広げた翼の火力を上げようとしたところで、ふっとヴィータが笑うのが見えた。

 

『まあ、気が向いたら頼ってきてちょうだい。かつての起動者と導き手の仲……私なら割り切って、最期まで付き合えると思うわよ?』

 

最期。蒼の騎神が勝とうとが負けようが俺の結末を知る女。

その言葉に嘘偽りはないんだろう。そして俺に最大限のブーストをかけられるのはこの世でヴィータだっていうのも理解しちゃいる。本当にこの相克を勝ち抜いてく──出来る限り意識を保っていたいのならその助力は必要不可欠だ。だとしても。

 

「そいつはありがたいが、俺にはもう隣に立たせたいヤツはいるからよ」

 

ちらりと仮面に覆われた顔を見下ろし苦笑がこぼれた。

意識を保っていたいって願いも半分くらいはこいつの為だ。そして俺もこいつと一緒にいられる時間があればいいと願っちまってる。それで他の女を横に置くのはさすがにナシだろ。とんでもなく嫉妬深いって知ってるしな。

 

『……そう、連れて行くって、決めたの』

「まぁな」

『それなら仕方ないわね。きちんと守って、且つ守らせてあげなさいな』

 

悪戯っぽく笑う顔に一瞬考え、次の瞬間ハメられたことに気が付いて内心で頭を抱えちまった。これはいっちゃん怖えヤツに言質取られたかも知んねえぞ。

 

「お前こっちの返答わかってたよな?」

『それくらい許してちょうだい。妹ではないとはいえ、その子を見てきた時間だけでいえば私の方が長いのよ?』

 

イストミアの森で育った女と、その森を遊び場にしてた女。いろんな意味で随分と怖い女に挟まれてる人生だな、と嘆息せざるを得ねえ。

 

『クロウ、今の話は本当だな?』

 

今までじっと静かに後ろで話を聞いてたガイウスが、ずい、と柵を握り込んで俺に視線を合わせてきた。俺が実際に生きてた頃からセリのことを好きなんだろうそいつは、それでもこいつのしあわせを願って身が引ける精神力が有りやがる。

境界侵犯者であり、工房長直々の改造された事情も含めれば教会に保護された方がいいし、そうでなくたってパートナーとしては申し分のないヤツだ。誠実さのかたまり同士、相性だってきっといい。

 

「おう、でも言葉にすんのは勘弁な。最初は本人に言ってやりてえからよ」

 

それにあらゆる人間に置いていかれた相手に、どうせまた置いていくと分かっていながら傍にいてくれと願うのは酷だと分かってる。ここで別れて、泣かれ恨まれるとしてもガイウスに託した方が憂うこともなくなんだろうよ。

でもそれで手を離せるなら内戦の時にそのままでいられたって、ずっと自分を嘲笑ってる。飽きるほどに。

 

『────わかった。その言葉を信じよう』

『……人を挟んで長々と色恋の話をしないでいただけませんこと?』

「悪ぃ悪ぃ。そんじゃ、行くとすっかね────蒼にほど近い霊窟によ」

 

そこで待っててやるから準備整えてさっさと来いよ、と言外に告げ俺たちはラマール州の方へ軌道を変えた。とりあえず情報収集も兼ねてオルディスの近くにでもこっそり降りて様子を見るとするか。

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