[完結]わすれじの 1206年   作:高鹿

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二章
24 - 08/19 これからのこと


1206/08/19(土)

 

相克が終わり、私がクロウを、アルティナさんのクラウ=ソラスがリィンくんを、そして二人の得物をガイウスくんが持って陽霊窟から地上へ上がり、波止場にある管理小屋へと運び込むことにした。

 

「……二年前も、こんな感じだったっけ」

「ああ、そうでしたね。クロウを預かろうとしたら難なく持ち上げて驚きました」

 

階段を昇りながら腕の中にあるかたまりはあの時よりも更に体温はなく、ついさっきまであった生命維持動作の疑似再現もない。ただの動かない血袋。大きく変わったことといえば持ち上げる時の重量的な辛さが軽減していることだろうか、と考えようとしたけれどあの時はいっぱいいっぱいだったからあまり思い出せないことに気が付き比較を諦めた。

 

鍵のかかっていた小屋をエマさんがすこし申し訳なさそうに魔術で解錠し二人をベッドへ。私はといえば取り敢えず寝やすいようにとクロウのコートやブーツなどを外していく。死人だからあまり関係はないだろうけれど。

その横でVII組の男の子たちもリィンくんの服をくつろげたり何だりして、待合用の椅子を出してきて机の周りに座り、一旦は場に落ち着きが訪れたと思う。

 

そんな多少賑やかな中でベッドの上で瞼を下ろしているクロウは本当にただ死んているようにしか見えず、起きている……というより稼働状態の時は再現される生命維持動作は眠る必要がない不死者に搭載しなかったんだな、と黒の工房の技術的怠慢に笑いをこぼすしかなかった。

……まぁ、そもそもイレギュラーな状態であると同時に、たとえ呼吸動作が再現されていても死んでいることには変わりがないのだけれど。

 

ベッド脇に置いた椅子に座り、そっとクロウの手を握る。

現状実体があり、霊力が巡っているということは問題ないと、思う。私の方からもオルディーネにアクセスが出来てクロウの存在を感知出来る。でも目を覚ます保証はどこにもない。

 

「セリ先輩」

 

ラウラさんの声に顔を上げたら、そっと彼女が着ていた青と白を基調としたコートが肩へかけられる。……他の人の体温が残るものに久しぶりに触れたかもしれないな、とどことなくほっとする自分に気がついた。

 

「失礼やもしれませんが腹の辺りも破れていますし、よければ」

「ありがとう……お言葉に甘えるね」

 

確かにアダルウォルファであった時は脚周りに何もなくて機能美だとさえ思っていたけれど、人前に出るにはすこし……いやだいぶ恥ずかしい衣装だ。でも衣服を格納してくれているオルディーネには仮起動する霊力さえもクロウの回復に使って欲しいし、この場をすこしでも離れるのが怖いという想いもある。

だから彼女の……いや、VII組の子たちの優しさに甘えよう。コートだけでいったら男性陣のものの方が面積的には多いけれど、たぶん気を遣ってくれたのだろうし。

 

「それで、本当に悪いんだけれど、行方不明の間に何があったのか教えてくれる?」

 

場を仕切るようにサラ教官が私に向けて言うので、ぎゅっとラウラさんのコートの前を握りながら頷いた。

 

 

 

 

六月の下旬、例の海上要塞での騒動があった後に墓暴きをアンと敢行し、その際に露呈が工房側にバレて仮面をつけさせられ霊脈侵入のために各地を回っていた、というのを手短に説明を終える。どうであれ私が世界の敵であったのには変わりがない事実だ。

 

「なるほど、それでノルドに居たんですね」

 

あの時遭遇した一人であるマキアスくんが納得した表情で頷き、沈黙が落ちた。

この状態であればおそらくクロウはリィンくんたちと行動を共にするだろうし、そうであるのなら私も彼らについて行くことになる。ただ私自身は戦力として見込めはしないというのをどう伝えたらいいものか。

 

「気になってたんだけど、アンタってオルディーネの準起動者になってるの?」

 

セリーヌさんが私の思考を見透かしたかのように指摘してくれたので、ええ、と頷いた。

 

「そちらと違って唯一の準起動者ですね。なので」

「オルディーネやクロウさんの霊力ポンプになっているのはそういった理由ですか」

 

言葉を継いでくれたエマさんが重そうに言うので、苦笑するしかない。こんな状況で前線に出られないというのは戦闘者として残念ではあれど、仕方のないことだとも思えるのは私がクロウとオルディーネのことを好きだからだ。

 

「うん。霊脈から霊力を効率的に汲み上げるポンプ、あるいは外部導力器とでも言おうか。霊脈から離れた上にクロウが騎神に乗り始めたらこの身体を自由に動かすことはたぶん難しい」

 

霊力を回すことに集中するとおそらく生命維持以外のエネルギーをそちらに使おうとして自動的に睡眠に近い状態に陥る。それでも私個人の戦闘力とクロウの総合戦闘力を比べたらどちらを取るべきかは明白なのも確かで。

 

「えっと、それってどういう……ことですか?」

 

緊迫した空気の中、おずおずと疑問を口に出したのはリィンくんの生徒であるユウナさんだった。疑問を素直に口に出せるというのは本当に美徳だし、そういうことを躊躇わず訊いてもいいのだと学んだのは分校教官たちによる薫陶の賜物かもしれない。

 

「霊力というのは僕らにも流れているものなんですよね? であれば全員で負担を分け合うというのは出来ないのですか?」

 

ユウナさんの質問に続いてクルトくんが続けて発言する。うん、それが出来たら私の負担も物凄く軽くなる。だけど無理だ。

そのことを察している二人からちらりとアイコンタクトをもらい、静かに頷くと今度はガイウスくんが口を開いた。

 

「先輩の特殊な体質……先程の情報流入のように他者へ強制的に介入出来る技術があるからこそリィンと繋がったオルディーネ、そしてクロウへの霊力の補給が出来るのだろう」

「これに関しては私たち魔女でもどうにも出来ません。そして……後で詳しく話しますが、クロウさんと霊的に繋がったリィンさんは霊力をクロウさんとオルディーネに供給する役目も持ちます」

「だけど一人で二体の騎神、そして人間一人を保持するなんて無茶なのはわかるわね?」

 

騎神というのは維持するだけで馬鹿みたいに霊力を消費する。とはいえ正式起動していたら大気中の霊力を取り込むことで待機時であればプラマイゼロ程度には持っていける、が。

 

「騎神での戦闘が見込まれる場合、リィンが真っ先に倒れる可能性がある、ということか」

「そ、そんなのものすごく困ることじゃない……!」

「まぁ現に今もそこで暢気に倒れていますしね」

 

ユーシスくんの言葉に慌てるアリサさんに対し慈悲なくデュバリィさんが追撃し、特に否定もせず三者共に首肯した。

 

「本来の使い魔……つまり完全な霊的存在であれば生体を維持するために食事で補うことも緊急措置として有効だけれど、クロウではそれも叶わない」

 

私がアダルウォルファであった時のことは任務外だと朧げだけれど、セリーヌさんにいろいろ持って行っていたことを思い出して補足する。操られていた時にしたことは大概どうかと感じるようなことだったけれど、彼女を見捨てる判断をしなかったことはよかったと思える出来事のひとつだ。

 

「食事をしてもそれをエネルギー変換し切れず、内部に残ってしまうのですね」

 

人造人間としてその辺りの造詣が深いからかアルティナさんが呟く。

元々が人間ということもあって実体を持つ存在はエネルギー変換効率が非常に悪く体内にものが残ることは免れず、体の中に残ったものはいずれ腐り本体に何かしらの影響を及ぼしかねない。それをさせないのが人間の生命維持行動なわけだけれど、死人にそれは通用しない。

そもそも生命維持ではなく騎神戦闘ともなれば食事で賄える規模を超えている。

 

「つまりオカルトでしかねえが、その供給がパイセンの……いやオレたちの命綱ってわけかよ」

「そういうことになっちゃうね」

 

端的にまとめてくれたアッシュくんの言葉に同意を返すと、難しい雰囲気と共にまた沈黙が落ちた。VII組……というよりリィンくんのある種我儘とも言えるような行動の結果、私の活動範囲・時間はぐんと制限されたと言ってもいい話ゆえにさもありなんである。

といっても複雑な感情はあれど恨んではいない。パッシブとはいえ自分に役目があるというのは素晴らしいことだ。

 

「まぁでもリィンくんとクロウの両方が全力で戦えるっていうのはすごくアドバンテージだと思うから、勝率に貢献出来ているという意味では悪くないよ」

 

クロウがこれを延長戦と言っていた通り、ここから黄昏の終了、あるいはリィンくんの敗北までもそう長い期間じゃない。どうせ終わりが消失であることに変わりないのなら、せめてクロウが望むままに力を振るえた方がよっぽどいい。

 

「……人は寝てる時も外の音は聞こえてる、って知ってますか?」

 

思ってもみないところで人間一人を拘束することに後ろめたさがあるのか暗く重くなりかけていた空気の中、エリオットくんがいきなりそんなことを言い出した。

 

「だからもし本当に先輩が眠る日が訪れても、安らかなものになるよう奏でますね」

 

空と若葉が色を分かち合ったような綺麗な瞳で彼はそう言い切ってくれる。

私の眠りに彩りを与えられる、音楽というものの力を本当に信じているのだと。かつて学院生であった頃に迷ったりしていたエリオットくんは、この二年で本当に自分の道をきちんと見つけたんだとなんだかとても嬉しくなった。

 

「……エリオットくんの生演奏を睡眠に使うなんて、ファンの方々に羨ましがられそうだけど」

「あはは。でもそれが先輩へ対して僕に出来ることだって思うんです」

 

思考をシフトする、というのはなかなか訓練しても身につくことじゃないけれど、土壇場での一歩先で見せる彼のその強さはかつての特別実習でもレポートから見えていた。

 

「じゃあ手が空いていたらお願いしちゃおうかな」

「なら私はその横でおひ……護衛係でもしようかな」

「フィーの昼寝はともかく確かにエリオットの音楽で眠るというのは非常に魅力的ではあるな」

「でしたら私も少し演奏で混ぜてもらったりとか」

 

フィーさんの言葉に頷くラウラさん、そしてエリオットさんと協奏を志願する胆力のあるミュゼさんの提案などなど、どこか空気がふんわりして行くのが分かってほっとする。

 

「おいおい、俺を置いてセリを囲む相談してんじゃねーよ」

 

その言葉で弾かれたように全員の視線が私の横のベッドへ集まった。

かけられた薄手の毛布を上半分退かしながら、くあ、とあくびのような反応で眇められる色はやっぱり私の大好きな紅色で、感情が一瞬にしてぐしゃぐしゃにされる。思わず繋いでいた手を離してその胸に衝突すると、ほんの僅かな困惑ののちに肩や背中に腕が回ってきてもうそれだけで嬉しくなってしまった。

────たとえその手に体温が宿っていなくても。

 

 

 

 

「ら、らぶらぶですねぇ……」

「そういえば学院時代は結構な名物カップルだったか」

「手当たり次第いちゃいちゃしてたわけじゃないのにトリスタ住民全員知っていたものなぁ」

「ああ、何となく目に浮かぶようですわね」

「うふふ、その時のお話も聞いてみたいです、乙女として♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を覚ましたことに安心したのかずっとそのままで居たんだろう見慣れないコート姿のセリが立ち上がり、地下にいるオルディーネから服を受け取ってきて着替えた後、リィンがまだまだ全然目を覚さねえだろうということになって晩飯の支度が開始される。

 

「……そういえば、もらった髪紐失くしちゃったんだ。ごめんね」

 

動いてる方が気が楽なのか晩飯の支度を手伝って机の上を拭くセリが、椅子や何やらを用意しているガイウスにそう言ってるのが聞こえた。

失くしたというか俺がほどいてそのまま工房に置きっぱなんだが……覚えてないのか、それとも失くしたというていにしたいのか。どっちにしろ今更戻ってくる可能性はゼロに等しいが。

 

「すべり難くて気に入ってたんだけど」

「僅かでも先輩のお役に立ったならオレにとっては十分ですが、もしまたノルドへいらしてくれることがあれば集落中から渡されるかもしれませんね」

「……そんなことあるかな」

「先輩は里を救ってくれた恩人ですから」

 

穏やかに笑うそいつらは、思ってた以上にお似合いで、俺が完全にいなくなった後に任せるならあいつがいいとさえ思い始めちまった。俺が顔もしらねえどこぞの男と街のために、血縁存続のために結婚して子供をこさえるくれえなら、ガイウスと契って聖女のように暮らしてる方がなんぼかマシじゃねえかと。

俺の胸で泣く選択を取らなかったセリを見て、そして自分が消えかけて、ようやく、そう。

 

「何をぼーっとしてますの」

「ん? ああ、いや、あんま品のよろしくねえこと考えてただけだっつう」

 

ため息を吐きながらデュバリィの訝しげな視線を払い、毛布の中でかいた胡座に肘をつく。

どうせ飯を食うわけでもねえしそもそも上半身が起こせるようになっただけで自由に活動出来るほどは回復してねえから眺めるしかないわけだが……こんな賑やかなのも久しぶりだなと。

 

「あ、そうだ。エマさん手が空いてたりする?」

「え? はい、大丈夫ですがどうかしましたか?」

「確認して欲しいものがあって」

 

言いつつ作業を終えたらしいセリが俺の方に近寄ってきて、「ちょっとごめんね動かないで」と片膝を乗せて両腕を伸ばしてくる。何だ何だと思ったら頭を抱え込むようにしながら左耳にそっと指が触れ、かちゃりと音が。

 

「クロウのつけてるこの金色のピアス、何か変じゃないかな」

「……ん? それ私にもよく見せてくれませんか」

 

こっちに来た委員長へ差し出したそれに食いついたのは意外にもアリサで、眉を寄せながらためつすがめつ眺めているのに頷いてセリが俺の方に向く。

 

「クロウ、これ壊していい?」

「あ? まぁ俺んじゃねえしいいけど……なんかあんのかよ」

 

俺の元々のピアスはセリの耳を飾ってて、あのピアスはいつの間にか……つまり工房に運び込まれてからつけさせられてたやつになる。

 

「うん、あるかも」

 

アリサからピアスを再度受け取ったセリの「えい」という掛け声と共に、ぱきん、と軽い音。

 

「……やっぱり、中に機械が埋め込んでありますね」

「小型化は技術の華だけどここまで来ると怖いなぁ」

「起動者であるクロウさんの動向を掴むためのもの、でしょうか?」

 

三人が壊したピアスを眺めながらやいのやいの言い始め、俺はといえば仮面が取れた時の保険をかけられてたのかと苦い顔になる。

そんでもそれが誰の手によるものなのか、基盤を見て製作者がわかるような技量は生憎持ち合わせちゃいないが何となく分かるような気もしちまった。不器用極まりねえ。

 

 

 

 

「やっぱ大勢でご飯といったらカレーですよね! うちのチビたちも大好きで」

「カレーも好きだがハヤシライスもいいものであろ?」

「ラウラのハヤシ美味しくてわたし好きだよ」

「……リィン・シュバルツァーが暢気と言うより全員暢気ですわね」

 

 

 

 

久々に大勢で飯を囲んだからか、わりと楽しそうにしてるセリをベッドから眺めていたら食後の片付けも済み、どうせここに泊まることになりそうだと倉庫の方に積まれてた布団の確認とかをし始めた辺りでクルトが「そういえば」と口火を切る。

 

「先程エマさんが説明すると仰ってくれた霊的な繋がりというのは」

「それについてはリィンさんも含めて説明をしたいのですが……」

 

委員長の視線につられてリィンの方を見ると、僅かに眉間が動き始めるのが見えた。

 

「お、そろそろ起きるみたいだな」

 

俺の言葉にユウナや黒兎がこれでもかってレベルで真っ先に反応し、起きかけの寝ぼけた動作を見てその場に脱力しつつ揃って悪態を吐き始め、笑いながらエリオットがさらっとアドバイスをかましてく。

はは、まぁ教官冥利……いや男冥利に尽きる話だな。

呻きながらとりあえず上半身を起こしたそいつは、軽く頭を振ってクリアになった視界でようやく自分が注目されてることに気がついたらしい。

 

「……ここは、確か前に……?」

「ええ、以前の実習で訪れたブリオニア島の管理小屋ですね」

「あれから六時間ほど……随分グッスリだったじゃねえか」

 

ミュゼの説明にアッシュが揶揄いながら補足してやるんだからワルを気取ってても面倒見のいいヤツめと思っちまう。ま、指摘したら本人は否定すんだろーが。

 

「それだけ全力を使い果たしたという事だろう」

「今後ある相克については先輩のことも含め予め備えておくべきかもしれんな」

「そうだ、相克……! あれから一体────デュバリィさん、まだ居てくれたんですね」

 

仲のいいケンカコンビの言葉に辺りを見回してほっと嬉しそうにするリィンに、「名前で呼ばないでくれます?」と照れたようにデュバリィが顔を逸らすもんで、おっとこいつはひょっとしたらひょっとしたがあんのか?と思っちまって笑いがこぼれる。

するとそれに反応したのかようやく視線がこっちを向いて……さらに嬉しそうにすんだからもうだめだこの後輩。誰かとさっさとくっつけ。

 

「よう、お先。つってもまだ歩けそうにはにねえが。お前もおんなじだろうけどな」

「……そうか。一応、何とかなったんだな?」

「みたいだな。格好つかねぇし、セリにもだいぶ迷惑かけちまってるようだが」

「その点に関してなら私は別に構わないよ」

 

若干含みある言い方のような気がせんでもないが、それに思い至ってるのは俺だけのようでなるほどなと内心で頷いておく。

 

「エマさん、セリーヌさん。結局何があったんですか?」

「ええ、霊力の流れ的にどうやらヴァリマールがオルディーネを"眷属化"したみたいですね」

 

眷属。霊的な繋がりのある関係で、委員長とクロネコ、あるいは黒兎と戦術殻のような関係らしい。VII組どもは帝都実習時の騒動で共和国の特殊部隊が似たような状態になっていたのを見たらしいが、そっちは眷族と呼ばれる意志を持たぬ下僕であって根本から違うようだ。

 

「相克としてはイレギュラーな形なのだろうが、供給源が別に存在していた為にリィンの霊力が枯渇することもなく、蒼の力は灰に吸収されずにそのまま残ったわけだ」

「供給源?」

 

意味深な単語にリィンが首を傾げるもんで、使ったガイウスがまた口を開いた。

曰く、リィンがオルディーネや俺の主となっちゃいるが動くためのエネルギー──つまり霊力は効率的に供給可能なセリが担っており、そうでもなけりゃ相克直後のからっけつ状態で眷属化したって霊力供給出来ずに消えててもおかしくなかったんだと。

 

「先輩もいいって言ってるし、結果的には良かったんじゃない? 単に武装強化するよりも味方が増えたほうが有利っぽいし」

「フィーの言う通り、ヴァリマールに続いてオルディーネが麾下に加わった。クロウと合わせてまたとない戦力増強になったであろ。セリ先輩がいるのも心強い」

「いやー、私は単に置物になってると思うけどね」

「もう、誰も肩代わり出来ないんだからそういう風に言うのやめなさい」

 

動けないのに心強いと言われるのが苦しいのか卑下に走ったセリへサラがぴしゃりと嗜めた。珍しく教官らしい。

 

「ま、いいぜ。どのみち黄昏にケリが付くまでの追加ステージくれえ付き合ってやるよ」

 

肩を竦めて改めて告げると、さっきまでの明るさ何処へやらで冷や水被ったかのようにしんと静まり返る。テンション下げて悪いがそこだけは忘れられると、俺はともかく残される方はキツいだろうからな。

 

「……やはりそこの部分が覆ることはないという事か」

「ああ、どんな立場になった所で俺という存在は摂理に反している。たとえ女神の奇蹟が起きたとしてもその無理筋は通らねえだろ。なあ、ガイウス、委員長に────セリも」

 

ユーシスの言葉を受けて"俺"がどういった存在であるのかようく分かってんだろう三人に話を振ると、全員沈黙を以って肯定してくれた。

 

「そんな、でもそれじゃあ……!」

「何とか、ならないんでしょうか」

「……ユウナさん。アルティナさんも」

 

何とかなって欲しいなんて、たぶん世界で一番願いたいだろうセリが言わねえんだからこの世の誰にも口に出す資格がない。それが分かってるからこそミュゼは二人の名を呼んだ。

 

「────それでも。それでも俺たちは嬉しいよ。その件については納得したくないし、諦めたくもないが……今はただ、クロウが戻ってきてくれるのを嬉しく思う」

 

諦めない。それが、その姿勢がどれだけセリの心を抉るのか、コイツは本当に気が付いちゃいねえんだろう。そこがいいところもであり悪いところもである。あの黒の工房での殺意にセリの意志が欠片もなかったとは到底思えず、でもだからこそリィンやVII組の姿を見て得られるものがあればいいと思う。残酷だろうがな。

 

「おかえり、クロウ。そして、これからも宜しく。目一杯力になってもらうからな」

 

まだ起きたばっかでへろへろだろうに突き出された拳の力強さに、敵わねえな、と苦笑しながら俺もそれにこつんと自分のを軽く当てる。

 

「わーった。利子分は働いてやるよ」

 

初対面で手品見せるフリして騙し取った50ミラが(一応返したとはいえ)ここまで響いて来るだなんて誰も思わなかっただろうな。でも、そういう口実があるってのは行動しやすいもんだ。

そんなこんなで、俺とセリはもちろん、頑なに拒否をしてたデュバリィも鋼の聖女が相克に無関係じゃないと餌をチラつかされ、結局客将っつう扱いで行動を共にすることに同意した。

ほら、やっぱチョロいじゃねえか。

そうしてこれからの方針として、取り敢えずトワやリィンの身内、分校生徒に関係者辺りを探しながら短い時間ではあるが自分たちがどう動いていくべきなのかを見極める、という話にまとまり、今夜はこのまま管理小屋で世話になることになった。

 

 

 

 

「あ、セリさんはクロウさんとベッドの使用お願いしますね」

「えっ、それどういうお気遣い……?」

「えっ……あ、あー! 違います、単純に寝具が足りないので一緒に眠れるペアってだけで!」

「!! ごめんそういうことか変な風に取って申し訳ない恥ずかしい!」

「別に布団の中でイチャついてもいいけど、バレないようにやりなさいよ?」

「教官! バレなきゃいいってものじゃないです、やりませんよ!」

(そもそも気配に聡すぎるヤツが隣のベッドだし、そうでなくても多いんだよな)

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