[完結]わすれじの 1206年   作:高鹿

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36 - 08/30 最終軍議

1206/08/30(水) 夕方

 

とはいえ、だ。

さあ試練へ向かうかといった意気込みではあったのだけれど、ここまで来たのですから、と星の霊場へいち早く向かいたいだろうデュバリィさんが聖ウルスラ医科大学病院への訪問──すなわちユーゲントIII世陛下への見舞いを勧め、縁のある極小数で向かうなど、試練の前に少しだけ時間を取ろうという話になった。

 

朝にチラシを配り、昼過ぎに公演が開始して、いろいろやっていたらもう夕方なわけで。

朝から走り回っていて汗だくだしこの後ベッドで寝るのだからと、カレイジャスIIになって設置されたお風呂へ入ることにした。飛行戦艦にシャワー室じゃなく浴室を入れ込むあたりだいぶ趣味人だなあ、としみじみオリヴァルト殿下について思いを馳せてしまう。

 

身体を洗い大きな窓が見える浴槽へ浸かり手足を揉んでいると脱衣所の方に追加の気配。

 

「ああ、やはりセリ先輩であったか」

「やっほ」

 

姿を現したのはラウラさんとフィーさんで、まさかこの二人が学院生時代は物凄く仲が悪い……というわけじゃないけれど、お互い上手く折り合いがつかずにそれなりの期間リンク破綻していたとは今や誰も思うまい。

 

ま、追加で誰が入ってきても浴槽が広いので上がる気は特になく、手足を伸ばしてのんびりしていると身体を洗った二人もお湯の中へ入ってきた。

 

「二人もお疲れさま。朝から結構駆けずり回ってたもんね」

「私はそうでもないけど、ラウラはお父さんのこと心配だっただろうから特にかな」

「無論心配ではあったが、相対することに気力を消耗したといった方が強いかも知れぬな」

 

これからの予定を話している時に余力はまだある、と言っていたラウラさんではあったけれど少し寂しげにそうこぼす。

いくらアルゼイド流皆伝をたった19歳で認められたとはいえ、自分が越えるべき壁とこんな形で剣を交わすことになるのは娘というより武人として忸怩たる思いだろう。

 

「……そういえば、先輩はマクバーンとは何か縁が?」

「えっ」

 

思わずそんな声が出てしまい、同行していなかったフィーさんと一緒に首を傾げた。

 

「その、窓の外が視える女によろしく言っといてくれ、と。クロチルダ殿であればわざわざ我らに言う必要もないと思ったのだが……あれは先輩のことではなかったのであろうか」

「まず間違いなく私ですね」

 

思わず敬体で頷いてしまったけれど、自分の精神のことを考えるとよろしくしたい相手ではない……が、個人的な興味だけでいえばよろしくしてくれるなら嬉しいなと思ってしまうので物凄く矛盾する気持ちが向かう存在だ。

 

「……窓の外って何?」

「私にも分からない、けど、たぶん劫炎殿はこの世界の理のなかで生まれた存在ではないんだ」

 

この世界の理──すなわち女神さまの理、その外にいた存在。けれど女神さまの理に捕まってしまったヒト。それが具体的にどういう意味なのか私にも理解は出来ていないけれど、どうやらあの表現は劫炎殿のお気に召したようだ。

しかし考えてみれば翠のアダルウォルファであった時にたびたび見かけてはいたし、アルベリヒに改造されたこともあって自分の能力を最大最小完全に操り切れるなら、劫炎殿の前に立つのは面白いのかもしれない。あのヒトが望むのならその窓の外をもう一度覗いてみようかぐらいは思ってしまうのでたぶん自覚以上に私は劫炎殿を気に入っている。

 

「先輩っていっつも変なのに目ェつけられてるね」

「そ………………うかもしれないね?」

 

否定しようとして否定しきれないような気がしたので肯定するしかなかった。

いや、でもガイウスくんは変ではないと思う!規格外ではあると思うけどそれはもうVII組の誰もがそうなのでこの場合は度外視でいい。とはいえ彼から貰った想いを吹聴する趣味はないので結局頷く結果は変わらないのだ。

 

「平穏な人生とはほど遠くなってしまった」

「それたぶんクロウと恋人になった段階で無理だったと思うよ」

「……フィーを怒るべきか同意するべきかで迷ってしまった」

「大丈夫、私もそう思ってる。だいぶんと取り返しがつかない」

 

好きになった段階ではまだ双方向ではなかったから戻れたかもしれないけれど、体当たりでぶつかった私をクロウが受け止めると決めた時に運命は決まっていたのだと思う。

暴き暴かれ踏み踏み込まれ、碌でもない恋愛模様な気がするけれど、もしかしたら巷の恋人同士はこういうのが当たり前だったりするのかもしれない。いや恋人がテロリストがそうそうあってたまるか。

 

「とりあえず伝言ありがとう。確かに受け取りました」

「何かあれば相談して頂ければと。かつて助けてもらった身ですから」

「あは、そんなこともあったねえ。懐かしい」

「なになに、何かあったの?」

 

湯船に浸かりながら学院生時代の思い出話を語り、向かいの遊戯室で子爵閣下と待ち合わせしているラウラさんや武器の手入れをしたいなとの工房へ向かうフィーさんと別れ、私は何か軽くお腹に入れようかと食堂の方へ向かった。

 

「あ、先輩」

 

階段を一つ降りて食堂へ入るとお茶をしているらしきエリオットくんが手を振ってくれ、彼の向かいにいたユーシスくんに勧められて席へ座ると流れるような所作で中身入りのティーカップが渡される。置いてあった美味しそうな木の実クッキーもすっと近付けられたので有り難く頂くとしよう。

 

「練習公演の話でもしてたの?」

「はい。前夜の練習は相変わらずのスパルタぶりだったようですが」

 

苦笑いしながら話すユーシスくんはあのマキアスくんとのデュエットだったのだからそんな表情になるのもむべなるかなである。音楽の妥協は許さないし、いいステージになると思ったら梃子でも動かないというのはVII組全員が知るところであるらしい。普段が温厚な分、怒らせたら一番怖いとも言いそう。

 

「でもみんなちゃんとついてきてくれたし、熱意に僕の方が引っ張られたくらいだよ」

「その甲斐もあってかすごい歓声だったねえ。最終リハは見ていたとはいえお客さんが入るといろいろポテンシャルが引き出されるだろうし、観たかったな」

 

クロチルダさんや怪盗Bも飛び入り参加していたようだし、舞台は水物で決して同じものは作れないという誰かの言葉通り、一回限りの公演はクロスベル市民の間で幻のように語り継がれていくのかもしれない。

 

「記録結晶に保存してあるようですから今度落ち着いた時があれば上映会でもしましょうか」

「あ、そうなんだ。じゃあそれを楽しみにしようかな」

 

生で観るのには劣るだろうけれど当事者みんなでわいわい言いながら観るのも楽しそうだ。なんなら1204年の学院祭ライブや、トワの許可が降りるなら1203年のを交えて一気に上映会をするのもいいなと思う。

そんな風に未来への展望をふわふわと語りつつ時間はあっけなく過ぎていき、本日手術が行われるという陛下へのお見舞いを果たしたリィンくんたちが戻ってきたところで星の霊場への作戦が開始された。

 

 

 

 

行ってらっしゃい、といろいろ開き直ってクロウにハグをしてから送り出し、霊場の入り口に到着し次第仮眠室のベッドへ行く予定になる。

それまでに何かしておけないかな、とカレイジャスの中を歩いていて何かに導かれるように工房へ行き着いた。奥に見える蒼と灰。ヴァリマールの足元でそっと見上げても彼は何も言わない。陽霊窟で相克を行なった日の夜にもお礼を伝えるために訪ねはしたけれど結局彼の心は壊れたままなのだとリィンくんが言っていた。

思い返してみれば私は灰の騎神と言葉を交わしたことはなく、彼がどういった性格かは知らない。だけどリィンくんと相性がいいということは実直な方なのだろうと勝手に想像を膨らませてしまうばかりだ。

 

「灰が気になるか」

「気にならないと言ったら嘘になるねえ」

 

オルディーネに話しかけられ近付くといつものように手が差し出されたから腰掛ける。もうお互いに慣れたものだ。

 

「でも、心が壊れていると言ってもがらんどうじゃない。彼の心は確かにリィンくんと共にあるし、ミリアムさんも見守ってくれているよ」

 

真の空っぽというものを私はノルド高原でもブリオニア島でも見た。

内側の熱が尽き役目を終えたと眠りについた巨いなる騎士。露出部分だけを見ても80アージュを超える彼らは完全体であればゆうに百は越え、もしかしたら150はいくかもしれない。

クロスベルが併合される前までは帝国800年の歴史を見渡しても最大の建造物はバルフレイム宮の180アージュだったというのだから、その大きさは窺い知れよう。

そして暫定150アージュほどの人型の至宝が神として崇められ果てに闘争を引き起こさせられたことから、現在より一部の技術は発達していた可能性のある大崩壊以前であってもその大きさは威容を伴ったことも推測範囲だ。

人の心がわからなかったから闘ったのか、それともわかるからこそ闘ったのか。どちらであっても二つの至宝から造り出された騎神は自我を持ち自身の起動者を己の魂で選ぶ。リィンくんを選んだ灰がその心に叛くことはないと私は識っている。

 

「ああ、私もそのように思う」

 

オルディーネと話しながら、霊力が少しでも満たされた状態で向こうへ行けますように、と願いを込めながら供給し続ける。相克はどれもこれも気が抜けないものではあるが今回は何せあの鋼の聖女殿が相手なのだから念には念を入れたくなるというのも仕方がない。

 

「セリ先輩」

「ん?」

 

かけられた声に掌から見下ろすと先ほどまで工房の机でオーバルギア──RF風に言うとEXAを調整していたアリサさんが見え、そっとオルディーネが掌を会話しやすいところまで下ろしてくれる。

 

「どうかした?」

 

掌から降りつつも接触面積は確保しておきたくてオルディーネの指に腕を絡ませながら首を傾げると、大したことじゃないんですけど、という前置き。知ってる、そういう時は大抵大したことだったりするのだ。

 

「先輩は騎神の核に入ったことってありますか?」

 

……騎神の核に入ったことありますか?……核に!?

 

「入れるものなの!?!?」

 

思わずオルディーネを見上げると、不可能ではないな、と特段驚いた風情もなく頷かれる。

き、起動者じゃなくても入れるものなんだ……?

 

「でもってその質問が出てくるってことはアリサさんは騎神の中に入ったことが……?」

「あ、はい。他にも乗せてもらった人いると思いますよ」

 

騎神によって開かれた精霊の道を通るのではなく、核の中に入ることが準起動者であっても可能だというのは驚きの話だ。いややっぱり大した話だったねえ!

 

「一人でも入れはするが正式起動しない故、クロウと共に入ることを勧めよう」

「あ、でもすごく狭いですから気を付け……先輩たちなら問題ないですね」

 

それは単純に入った瞬間の着地の話なのか密着具合の話なのか。どちらも籠っていそうだなと忠告はありがたくもらっておく。

 

「それじゃ、それが少し気になっちゃっただけなので」

「物凄く有益な情報をありがとう」

 

ぱたぱたと工房の作業台へ戻っていくアリサさんを見送り、オルディーネの核の中かぁ、と思いを馳せる。どんな感じなんだろう。

機甲兵はオルディーネを解析した博士が図面を引いたと聞いてはいるけれどさすがに核の中には入っていないだろうし推測材料にはならない……はず。それに機甲兵は騎神を再現したものではなく、現在表社会にある技術で量産が可能、という制約のもとで作られている。それを実現するのが博士の凄いところだ。

 

「相変わらず仲いいわね」

 

ひょい、とオルディーネの掌の上に飛び込んできたセリーヌさんが指に絡んでいる私の上腕辺りでまるくなり、触れたところからあたたかい何かがじんわりと流れ込んできた。

 

「……うん、ちゃんと安定してるみたい」

 

満足気な声に、心配かけ通しだな、と空いている手で黒い艶のある毛並みを撫でる。

 

「いつも気にかけてくれてありがとうございます」

「別にアンタの為じゃないのよ。……借りもあることだし」

 

ぷいっと顔を背けられてしまったけれど、それが照れ隠しなのはいくら私でもわかるものだ。

 

「黄昏が活性化してるおかげかアルカンシェル関連で動き回ってもそこまで疲れなくて。大戦が終わったら終わったらで無茶のない範囲を理解しないと酷い目に遭いそうです」

「そうね。ま、霊力が尽きる前に休んだり、エリンの里に来なさい。一応アンタ情報協力者なんだから」

 

隠れ里だというのに里に居着いているわけでもない人間にそんなこと言っていいのか、というのはもう今更だろうか。

 

「うん、お言葉に甘えます」

 

もらった優しさをせめて無駄にはしないよう心に誓うと、ヘッドセットから受信音が響きスイッチを押して通信回線を開く。

 

『セリちゃん、リィンくんたちからそろそろ霊場に到着するって連絡があったよ』

「了解、予定通り仮眠室に移動します」

 

通信を切ってするりとオルディーネの掌から腕を抜き、二者に手を振って階段へ向かった。

星の霊場、槍の聖女改め結社の幹部である鋼の聖女・アリアンロード殿が待ち受けているその場所は一体どのようなところなんだろう。そしてどんな戦いを繰り広げるのだろう。

クロウから許可を貰えたら記憶を覗いてみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

1206/08/31(木)

 

そんな願いの中、蒼を伴った灰が銀と織りなす第三相克は夜明け前に終わり────デュバリィさんの説得の甲斐もあってか灰の軍門に降り黄昏の果てを自身の目で見届けようと銀の起動者が心を決めた瞬間、それは起きた。

 

相克の決着が着きし時、突如として金────ルーファス・アルバレアが搭乗するエル=プラドーが膝をついた銀の背後に現れその剣で以て銀の核を貫いたのだと。呆気に取られるVII組を余所に金は銀の力を漁夫の利で掠め取り、最終盤面で待ち受けると去っていった。

そうして獅子戦役から250年にもわたる長い旅路を終えた鋼の聖女……いや、槍の聖女は本当の意味でその生涯を閉じた。

騎兵槍を墓標にその魂は湿地帯の奥地で丁重に弔われ、結社の一部や離反した面々さえも弔意に訪れたのだとか。それだけで鋼の聖女殿がどれだけ高潔であり慕われていたのかわかるほどだ。しかしその死を穢した愚か者がこの世に存在しているらしい。

 

そうして。

霊場が己の役目を終えたと閉じ始め、リィンくんたちが脱出を果たした辺りでいつも通り意識を落としていた私が跳ね起きた。

 

────空中機動要塞、起動。

 

オスギリアス盆地上空に出現したそれはゆっくりと帝都上空へ移動し、またその要塞出現に合わせ帝国国内に──ノーザンブリアの塩の杭を彷彿とさせる──白い巨大物体が出現する。

海都近郊、旧都近郊、ノルド北部、アイゼンガルド連峰、エベル湖。多少歪つではあるけれど繋げれば帝国を囲う形になる場所。

加えて各地から上がってきた報告から詳細な位置を記された地図が各人の端末に共有され、思わず舌打ちをしてしまった。霊脈の侵入をしてきた私ならわかる。分からないはずがない。特に強い霊脈のある場所に杭は存在を築いている。そしてそれらは帝都、幻想起動要塞に繋がっているのだ。

 

しかし要塞と一口に表現はするが、有機的な部分も見えるそれらは悍ましいとも表現しようがあるというのに、帝都民は『対共和国戦における最終兵器』というセドリック皇太子殿下の言を(呪いによる精神汚染もあってか)恐怖を抱いていないようだ。

こんな中で喜ばしいニュースといえば昨日手術を受けた陛下が無事に目を覚ましたということぐらいだろうか。いや、一つでもそんな前を向ける話題があっただけこの状況では上等だろう。陛下の無事は他意なく嬉しいのだし。

 

「セリ、起きているかい」

 

情報が出揃うまで取り敢えず寝ていなさいとエマさんとロジーヌさんに半ば強制的に寝かしつけられたので未だ仮眠室だったわけだけれど、起きてるよ、と寝台から足を下ろせばアンとシャロンさんが入ってきた。珍しい組み合わせ。

 

「ひとつ相談があってね」

 

にやりとアンがそう笑う時、ものすごく碌でもないか、ものすごく面白いかのどっちかだ。

 

 

 

 

情報を集めながらも各地の反帝国勢力と協議を重ねるため指揮官陣は会議室に篭りきりとなり、霊脈解析の専門家として途中から私も呼ばれはしたけれど通信で会議に参加するジョルジュやロゼ殿、トマス副長などから伝えられた情報は想定を遥かに上回るものばかりだった。

 

まず、分厚い外郭に一部覆われた、上空を超長距離移動する異様なモノ──幻想機動要塞は1200年前に地精の祖先が築いた要塞であり、古代ゼムリア文明時代の技術によって建造されたという。至宝同士の衝突で発生した時空の歪みに隠蔽され千年以上も改築され続けていたその超巨大古代遺物は、帝国人全てに黄昏で極まりし呪いを振り撒き無制限に闘争へ駆り立てる強力な精神汚染機構を保有すると。

あんなものを建造する存在が神と崇めるのであれば150アージュなんて馬鹿の推測だとしか思えない。誰だそう推測したのは。自分だ。

 

そして各地に現れた白い杭は28年前にノーザンブリアに出現した特異点の産物──通称・塩の杭の残骸を利用して構築された建造物という推測が七耀教会側から落とされる。塩化こそ起きない代物ではあるが、私が理解した通り要塞と霊的に結びついており結界を多重展開する任を負っているのも解析された。

 

幻想起動要塞は杭を通じて大陸全土と結びつくことで七の相克の最終舞台と化した。

巨イナル黄昏────即ち世界大戦が最高潮に達する中で最終相克を行い、巨イナル一という世界を滅ぼす力を持った鋼を純度高く再錬成するために。

 

裏の予定は目に見える形となり表も最早止まりはせず、大地の竜並びに千の陽炎は着々と準備を済ませ宣言日である九月一日正午を待つというこの状況。坐して待つわけにはいかない。

故にカレイジャIIは千の陽炎とは別に動くことを既に伝えてはいるが、その上で陽炎作戦の総司令官であるブライト中将やヴァイスラント決起軍司令部のお二方、各地方に散開している協力者などを交え『最終相克という計画を台無しにする』協議が始まった。

 

すなわちなんとか白い杭五本を機能不全に陥らせ、幻想起動要塞にVII組を送り込む計画だ。

開戦前に────というのは土台無理だろうが、大戦初日は様子見の向きが強く黄昏が極まるのは二日目以降との見解が主流で、となれば初日に全てを片付けることが出来れば多少死者は出るとしてもあるいは、と。

 

その白い杭攻略メンバーについての話し合いは通信による挙手で次々と決まっていく。

まずはリベール組、そして特務支援課、加えて鉄機隊と西風のタッグ。誰も彼も歴戦の闘士であり心配はない。ぐ、と拳を握り、目配せをしてくるアンとシャロンさんに頷いた。

 

「ならば私たちも面子に加えてもらおうか」

「ラインフォルト家のメイドとしてお役目を果たさせて頂きます」

「僭越ながら私も」

 

口火を切ったアンに続いて挙手をすると、挙げていない方の手がクロウにそっと握られる。アンからもたらされた相談に乗ると決める前、クロウ、そしてトワにはきちんと話を通しておいた。これは自分だけの問題じゃないから。

 

前提として私はVII組じゃない。蒼の騎神の準起動者だとしても灰との繋がりはなく、カレイジャスIIが着陸出来ず何らかの方法──例えばそれがエマさんの魔術などであればいいが、灰の騎神が精霊の道を繋ぐのだとしたら弾かれる可能性があるのだ。それこそオルディーネの核に乗っていればあるいは、と思わないでもないが土壇場の状況で試したくはない。

最初はクロウも黙り込んでいたけれど、結局のところ杭の攻略は相克よりも前に行うことになる。帝国全体が大きな霊脈になっている今、私の体調はすこぶるいいし騎神戦には疲労を残さないと重ねて告げたら黙って静かに抱きしめられた。

痛いほど強い腕はその択が一番勝率がいいことを分かってる。そしてきっとそれが、最後の別れになることも。でもどうせ共に往けないのなら戦場を経て君の力になりたい。

そしてトワも、相談してくれてありがとう、と許してくれ、私も行きたいけど管制室に穴を空けるわけにはいかないから、と己の職分を全う出来る立ち位置を選択した。

私たち全員、感情に流されず自分の成すべきことを決めたのだ。それが命を落とす危険性、つまりクロウ以外でも今生の別れになるかもしれない危険性を含んでいると理解しながらも。

 

「形は違えどわたくしたちは彼らに使われていた身……一矢報いたいと相談しておりまして」

「聞けばミュラー中佐が明日にはカレイジャスIIに復帰するとのこと。ならば操舵は本職にお任せして存分に暴れさせてもらおうと思ってね」

「私も似たようなものかな。最後の戦場に往けない身だけどせめて闘いで貢献したい」

 

己の思いを告げていくとトワが静かに立ち上がる。

 

「この件に関しては私も相談を受け了承しました。ただ現戦力だと心許ないですが……」

『それについては僕にも手伝わせてもらいたい』

 

心配で重ねられる言葉にジョルジュの通信がアクティブになり、なるほどな、と横から半笑いの納得が落ちてくる。うん、そうだよ。

 

『どの面下げてと言われるだろう。カレイジャス爆破の罪滅ぼしになるとも思わない。……ですが、フランツ先輩のように不可は貰いたくありませんから』

 

工房長がアルベリヒとなる前の人格名……シュミット博士の一番弟子の名前を出しながら苦笑する。

 

「これで四人。戦力的に余裕はないが不足とまでは────」

『ならば妾が手伝うとしよう』

 

その言葉にロゼ殿の通信もアクティブになり、金糸に縁取られた紅い瞳がにやりと笑った。

 

「お祖母ちゃん……」

 

『リアンヌも逝き、妾も役目を果たした。ならば最後の一花、若人たちのためにパアッと咲かせるのも悪くない。そこにいるあほうの体調も診てやれるしの』

 

あほう。いやたぶん私でしょうけど。そんなにあほうかなあ。確かにみっともないところはだいぶだいぶだいぶ見せてしまってはいるけれど……。

 

「それは安心だ。できればボン・キュッ・ボンの方も堪能させていただきたいものだが♡」

 

ああ、そういえば力を分け与え現在は欠けて幼い形になっているけれど、例の月冥鏡の試練の際に本来の姿であるロゼ殿を見たし、リィンくんの記憶を共有したからアンもそれを知っているのか。

 

『アン……空気を読みなさい』

「いや~、ここでこの発言はむしろ安心すらあるよね」

「よろしくお願いいたします、ローゼリア様」

 

そうして杭攻略四組目も決まり、残る一本は、というところでオーレリア閣下の通信が割って入ってきた。えっ。

千の陽炎の専念するんじゃねえのかという驚愕がこもったアッシュくんの言葉に高速で頷いてしまうのですが!閣下!

 

『無論。だが初日はウォレスに全て任せ私が動くのは戦が佳境に入り始める頃となる』

 

確かに先ほど総力戦は二日目からとなる見解がもたらされているし言い分は理解出来なくはないけれど……と一部が頭を抱え始めたところで、クロチルダさんも通信に介入してきた。更には子爵閣下にトヴァルさんまで。

 

「……お前、もしかしてあっちの組に混ざりたいとか思ってね?」

「そんなまさかまさかその通りですけど」

 

小声でクロウから指摘があった通り、閣下と肩を並べられる組があるのならそちらに混ざりたかったと思うのはもう仕方がないと思って欲しい。いやいやでも失敗するわけにはいかない状況、自分の力量を鑑みたら確実に連携が取れる相手と組むべきだ。腕の差は連携を鈍くさせる。

 

「それではここに翼の閃き作戦の発動を宣言する」

 

オリヴァルト殿下のよく通る声が会議室に響いた。

 

「開始は明日正午! 二大作戦の開始と同時刻としよう!」

『本日この後、有志によりミシュラムに陣を構築。壮行会なども執り行うのでどうか奮って参加してもらいたい!』

 

ブライト中将の言葉に一旦お開きとなり、最終作戦に影響が出ないよう身体の疲れを取るのも任務だ、というミハイル少佐の激励が飛ばされることとなった。

……それにしてもミシュラム、ミシュラムかあ。もしかしたらあの願いが果たされるのかもしれない。何も知らなかった頃に抱き、叶えられずに終わっていたものが。

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