ハサキが領主の屋敷から帰ってくると、満面の笑みでチェシャが出迎えた。
「おかえり!」
「ただいま」
カウンターから飛び出すような勢いでこちらに近寄る少女。すぐ側まで来ると、まだか細い両腕をそっと広げた。
「ん」
あごを少し引いて、投げかけられた上目遣い。何かを求めている瞳。何かを求められている気がするが、その何かがわからない。ハサキは首を傾げた。
「? どうしたの」
「んー!」
チェシャは不満げに頬を膨らませて、両腕をぶんぶんと振った。よくよく見れば、少女の視線は足元の床とハサキの足を行き来している。――なるほど、膝を着けと言いたいのか。
ハサキがその場で蹲踞の姿勢を取ると、チェシャが身を寄せてきた。子猫がじゃれつくようだとつい思ってしまう。
少女に抱きしめられる格好になった女は、チェシャにそっと投げかける。
「どうしたの、急に」
「……この後、また潜るから」
嬉しそうに人の背中を撫でる時間にじっくりと浸る声音を聴いて、ああ、とハサキはようやく合点がいった。
そうか。また、地下迷宮に。
チェシャは13歳の少女だ。けれど同時に探索者でもある。まだ新米と言えど、その心意気は十分な資質を兼ね備えていた。
二人きりの工房で、少女が抱き寄せるための両腕をぱっと放す。ハサキの両肩に手を置いて、にししと歯を見せて笑う顔をハサキの視界いっぱいに映した。
「しばらく私に会えないと寂しいでしょ? だから思いっきり私を覚えてられるようにしてあげたの!」
「私のためにしてくれたんだ。ありがとう」
「……ふ、ふふん。素直に褒めたってなんにも出ないんだから」
「しばらく会えなくなるんだね」
「うん。今回はちょっと深いところまで潜る仕事を請けたのよ。だから長い事戻ってこれないかも」
「そっか」
これまでチェシャが請けた仕事は浅層を主な領域としていた。ということは、中層まで足を延ばすということだろう。
中層域まで潜るとなると、死亡リスクは一気に跳ね上がる。
「……ねえ、やっぱり怒ってる?」
チェシャが唐突にそう言った。いつの間にか思案に耽っていた思考を眼前の少女に移す。俯きがちの、どこか怯えている表情が見えた。
「私がその、探索者になるって決めたこと」
「どうして突然そんなこと」
「だって。ハサキ、いっつも私が迷宮に潜るって聞くと辛そうな顔をするから」
「……」
辛そうな顔。
一瞬、自分の頬に触れてみたくなって指がぴくりと震えた。そんな表情をできるほど器用な女だったのかと、つい疑問が芽生えてしまって。
だけどその衝動を抑えて、ハサキは淡く微笑んだ。
「大丈夫。チェシャを信じてるよ」
何故なら少女は、神さまになってくれると言ったから。
かつて神であった男から剣を引き抜き、宣言してくれたから。
だからハサキは確信している。
チェシャ・バイストィアは必ず戻ってくると。
「待ってるから、ここで。ずっと、私は待っていられるから。だからいつでも、帰ってきたくなったら帰っておいで」
少女の手を、両手を使って包み込む。
鍛冶で荒れた手のひらに染み込むような熱。この感覚がハサキの心を無限に満たす。
「チェシャ。チェシャが望む時に、私はちゃんと居るよ」
「そっ――――」
少女の顔が一瞬で真っ赤になった。首元まで急激に赤く染め上げ、ぶわ、ととび色の瞳が見開かれる。
「そ、そういうこと真剣な顔で言うの禁止ー!」
繋がったままの片手をぶんぶんと振る少女に、ハサキの顔には本心からの笑みが浮かんだ。
さて、そうしてチェシャが地下迷宮に潜るための準備を終えた頃。
「ハサキ。あのね、帰ってきたら、ひとつお願いしてもいい?」
チェシャがもじもじと落ち着かない様子でそんなことを言った。少女の装備を点検していたハサキは顔を上げる。
「なに?」
「あのね、……その」
いつものチェシャらしくない、煮え切らない態度。珍しいものを見ているな、とハサキが思った矢先。
頬をほんのりと朱に染めて、心臓の鼓動がそのまま現れたように揺れる瞳をして。
チェシャが言った。
「――私もここで暮らしていい?」
チェシャ・バイストィアはハサキの隣家に住む、迷宮研究に熱を上げる夫婦の子だ。
良くも悪くも迷宮に人生を捧げている彼女の親は家を空けてばかりで、だから少女が生まれてからの13年間をずっと、ハサキは共に過ごしてきた。
それでも少女が帰るべき家は、この工房ではなかったというのに。
「チェシャ」
どれだけの意味が込められた言葉なのだろう?
その答えにたどり着くのはきっと、きっと……槌を振るって武器を作るよりも難しいのだ。
「な、なに? 今更だめとか言われてもそんなのだめだから! 私もう決めたのよ! これからは本当の意味でハサキと一緒に暮らすって、だから、」
「帰ってくる頃までにはさ、欲しい剣を考えておいて」
「――」
今なら本当にチェシャの望む剣を打てる気がする。
それこそ、神殺しすら超える夢想の神剣を。
――だけどそれくらいだ。
それくらいしか出来ない。
様々な情でもって接してくれるこの子に応えられるものなんて。
「いらない」
だから、悩むこともない即答には、本当に驚かされた。
心臓が止まっている錯覚さえ、ある。
「――」
言葉に詰まる。何を言えばいいのかもわからなくなる。
剣は……不要だろうか。
ハサキが唯一自負を持って『できる』と言えるだけの代物は、チェシャには求められていないのか。どこかで驕りのようなものがあったのか。大人で、得たいものを得て、こうして成功した立場が。
「だって、だってね?」
そうやって唇を真一文字に引き結んで、肩を強張らせることしかできないハサキに、チェシャは尚も追い打ちをかけるような言葉を使った。
「そんなにハサキから貰ってばかりだと、幸せすぎて頭がおかしくなっちゃう……」
時間だって止められるくらいに、甘く。蕩けすぎた声。
ハサキの心はこれ以上ないくらい固まっている。
「あなたが」
「……」
「ハサキがね。ハサキであるというだけで、きっと、それだけでいいの。あなたの中にいるものの中で、私が一番なら、それでいい」
それがいいな。
そう、掠れるほど小さく呟いた少女が照れ隠しにはにかむ。それはハサキがこれまで見た中で最も大人びた表情だったかもしれない。
工房の中はぴたりと静寂で満たされ、時計の秒針が音を刻むばかりだ。その音にハッとなったチェシャが慌てた様子で「もう時間!」と叫んだ。
玄関扉に手を掛け、少女が笑った。
「いってきます!」
「……いってらっしゃい」
ハサキは、少女の後ろ姿を、街の雑踏に消えるまでずっと眺め続けた。
「……いつの間にか、もう追い抜かれている」
きっとこれからもチェシャは成長し続けるのだろう。
何にでもなれるし、どこへでも行けるのだ。
遠くへ。
どこまでも遠くへ。
――いつまで自分は、側に居られるのだろう。
ハサキはふと、領主の屋敷で相見えた大英雄との会話を思い出した。
◇
ハサキの前に、本来の姿を晒した伝説的な探索者が居た。
名は、リーリェ・ヒプロメロォス。僅か2年で一つの地下迷宮全層を踏破してみせた偉大なる英傑。付いた名は、『オールエンドの大英雄』。
「迷宮神話。ご存知ですか」
女は、ハサキに向かってそんな話題から切り出した。
「世に、星より広い超巨大地下迷宮が12ある。その12の地下迷宮の最終層に座す
「そう」
誰もが生まれた頃から知っている。自分たちが暮らす星より広い超巨大地下迷宮が12あること。その最奥に到達した者が『十二分割された真理』を得られることを。
それはハサキにとっての――もっと言うなら、この世界に住む誰にとっても“常識”だった。
しかしリーリェ・ヒプロメロォスはそんな当たり前を疑うように、両手の指を突き合わせ、疑り深い瞳の色をする。
「おかしな話だとは思いませんか? なぜ、星の地下に、星より広い空間が存在するのでしょうか? こんな誰にでも分かる矛盾を、なぜ誰もが受け入れているのでしょう? 世界は何故、迷宮を十二も生んだ? なぜこの星なのか? なぜこの宇宙にあって、なぜ?」
「……」
「答えは地上にはない。迷宮最奥にしか」
ハサキが思うに、探索者というのはありふれた生業だろう。星より広大な地下迷宮だ。そこに眠る資源を掘るためにはどうしても『探索者』が必要になる。需要はありすぎて困るくらいだ。だが、深層探索を主とする、本当の意味での『探索者』は、一種の病気みたいなものなんだろう。今目の前のリーリェ・ヒプロメロォスを見てそう感じる。
サワグタリとして工房に住み着いていた頃から、時折この女は熱病に浮かされるような目つきをしている時があった。『そこ』に謎があるなら、暴きたくて仕方なくなる病気。
「私は、知りたいんです。答えを」
「答え?」
「世界の成り立ち。迷宮神話と呼ばれる矛盾世界に対する結論」
そんなもの、これまで疑問にすら思ったこともなかった。ハサキはただじっとリーリェ・ヒプロメロォスの話に耳を傾ける。
「私は、『十二分割された真理』を一つ獲得しています。それは確かに“この世界”の答え、その一つでした。ですが足りない。もっと深みへ行く必要がある。十二ある内、まだ攻略されていない迷宮に潜らなければならない……答えはきっとそこにあるはずだから……」
ふと、ハサキはリーリェの青い瞳が赤く輝いていることに気づいた。
蒼穹の瞳に宿る紅蓮をした一条の光。――それだけではない。
「……」
リーリェ・ヒプロメロォスの右腕が
幻覚?
いや、だとしても……。
対面しているハサキすら前兆に気づけなかった。
何故か、女の右腕は今、二本あった。
「……」
「? どうかしました?」
「いや。目の色が。それに、腕」
「ん」
瞳を赤い瞬きで埋め尽くす女はハサキの視線を追う。そこでようやく、「ああ」と呟き、呆れたように笑った。
リーリェ・ヒプロメロォスの視界に捉えられた途端、二本目の右腕は溶けるように掻き消えてしまった。まるで始めから存在していなかったかのように。
「すみません。私、たまにこうなるんです。存在が不安定というか……」
目線をリーリェに。
女の両眼は今、紫色に染まっていた。その上で黄金の光を湛えていた。
何かしらの『オブジェクト』による副作用とは思えない――ハサキのように、『オブジェクト』によって性質が変化してしまった状態にも見えない。
これは、まるで――。
「私が“最果ての地下迷宮”攻略に要した年月、知ってますか?」
自身の異常性を知ってか知らずか、リーリェ・ヒプロメロォスはからかうように微笑む。
「……2年って聞いてるけど」
「2000年です」
リーリェ・ヒプロメロォスはさらりと言ってのけた。
2000年間生き続けたと。当然のことのように。
「正確には最終層到達までに300年。最終層攻略に1700年。私は迷宮で2000年の時を過ごしています。ですがここへ帰還した時、たった2年しか経過していなかった」
「……」
「時間の流れも、空間の広さも、何もかもが地上とは別。私はそんな迷宮に潜りすぎて、存在自体が『オブジェクト』化しています――ハサキ様と同じように」
「人体の『オブジェクト』化。『オブジェクト』の影響を受けるのではなく、か。それも私みたいに人為的に成ったわけでもなく、自然と『オブジェクト』になった……と?」
「ええ」
その影響の一端が、先ほどから続く変異の変遷。まるで虹のように色彩を変える瞳に――黒髪に金のメッシュが入っていた長い三つ編みも、今では茜色に燃えている。
ぐらぐらと揺れる陽炎のような女だった。
「魂が。存在が。そういったものが、たぶん、ほとんど地下迷宮にあるんだと思います。自由に外見を変えられるのもその副作用でしょう」
「私やチェシャに意図してサワグタリ嬢の姿を見せられていたのもその力か」
「そうです。いつだったかハサキ様の工房に来ていた男性には、突然だったので準備できませんでしたけど……」
道理で仲介人だけ、サワグタリを見て呆然としていた訳だ。
しかしここまで外見が変わるとなると、ハサキはつい訊いてみたくなる。
「そこまで行くと、もう生まれた頃にどんな姿をしていたか覚えてないんじゃないの」
「……ご明察」
リーリェ・ヒプロメロォスはさして気分を害するわけでもなく頷いた。
「私、顔の形も簡単に変えられるんです」
ほら、こんな風に。
言いつつ女は自身の小さな顔をそっと両手で隠す。いないいないばあ、とでも言いそうな雰囲気で手をどけると、そこにはサワグタリの――リリ・ゲシュペスの顔があった。
「強いて言うなら性別もそう――臓器の数も簡単に増やしたり減らしたりできます」
「そいつは凄い。実質的な不老不死だ」
「さてどうでしょう。ハサキ様ほど凄まじい存在ではありませんよ」
どっちもどっちだろう。
ハサキが肩を竦めると、リーリェも本来の顔で笑った。
「……地上では2年しか経っていなくても、私にとっては2000年でした。苛烈な戦闘があり、肉体の9割を消失する経験もしました。首から上も何度か全損しています」
だから、
「親の顔も名前も、もう思い出せないんですよ、私。久々に――親から見れば2年ぶりで、私からすれば2000年ぶりでした――久々に会っても、ほとんど他人のような気さえしました。おかしいですよね、私、地上じゃまだ18歳の小娘なんですよ? なのに実家に居ても『ここは私の居場所じゃない』ってそんなことばかり感じたんです」
リーリェの浮かべる表情は孤独に慣れすぎた者がするものだった。自身の境遇を嘆くことはなく、しかし一抹の後悔を滲ませる微笑みの皺。
もしもリーリェ・ヒプロメロォスが地下迷宮を発見していなければ、今頃はどこにでもいるような村娘だったのだろう。よく笑い、よく生き、そうして死んでいく、ただの少女らしく。
「それでも……それでも、迷宮に潜るのが楽しかった」
だが、今の彼女は過去に戻りたいなどとは決して願っていない瞳をしていた。虹色の瞳には未来へ馳せる思いばかりが乗っていた。
「『そこ』にどんな冒険が待ち構えているのか想像するだけでワクワクしました。どんな危険が潜んでいて、どんな光景が広がっているのか、私が知らない世界が『そこ』にはある……想うだけで心臓の鼓動がうるさいんです」
ハサキはリーリェ・ヒプロメロォスの本質を垣間見た気がした。
自身の全てを失ってでも迷宮探索に全てを捧げる、その執念。その奥に潜む本質はきっと、探究心であり未知の冒険への期待なのだろう。
「私が得た『十二分割された真理』は、簡潔に言い表すならば“未来”そのものです。私は一部始終の未来をこの目で見ました」
だからハサキ様。
どうか覚えていてくれませんか。
「これから私はこの迷宮街が擁する迷宮、“絢爛の地下迷宮”に潜ります。
──そして死ぬことが確定しています」
それこそ朝の挨拶でもするような気軽さで、偉大なる大英雄は自身の死期を明かした。
ハサキには彼女の言葉が嘘には聞こえなかった。
「ハサキ様。あなたに会いたかったのは、あなたの打った剣が欲しかったから」
これは確かに預かります。そう言って、リーリェ・ヒプロメロォスは机に置かれた
そろそろこの会談も終わりか。ハサキとしては渡したいものは渡せたし、用事は済んでいる。
ハサキも椅子から立ち上がろうとした時だった。
「そしてもう一つ……お願いをしたかった」
リーリェ・ヒプロメロォスは佇まいを直すと、ハサキに対し真剣な表情を向けた。
「お願い?」
「私が得た『十二分割された真理』では、とある存在を予言しています。全ての地下迷宮を破壊し、迷宮神話そのものを壊す終末存在――
女の言葉に嘘はない。ハサキはやはりそう感じてしまった。
「『デッドセットの鏖殺者』チェシャ・バイストィア=
到底、信じられる話ではないというのに。
「いずれそう呼ばれるようになるあの子を、どうか導いてあげてください」
信じてもらう必要はありません
けど、どうか覚えていてくれませんか。
そして考え続けてください。自分の存在が大きな運命の渦中にあることを。
その意味を。
中心点にいるのが、私でもハサキ様でもなく、あの子であることを。
「私を殺すことになるチェシャちゃんは、あなたにしか支えられないのですから」
決して理解できないだろう。
自身の死期を悟り、それでも尚逃げる事もなく迷宮へと潜る探索者の生き様なんて。
誇らしげに胸を張り、部屋を後にするリーリェ・ヒプロメロォスの背中は、これから始まる冒険への期待でいっぱいに見えた。
◇
坂がある。
坂の頂上から石を投げると、当たり前だけど石は坂を転がり落ちていく。
それは不変の法則だ。この星に生きるのならば抗いようのない現実。
私にとっての世界はそういう形をしていて、きっとこれからもそうなんだろう。
『そこ』に、坂が確かにあった。
今見上げた坂道は少し朧げだ。
いつからか、私の中には神がいた。
絶対の存在。
手を出してはいけない存在。抗ってはいけない者だ。
そういうものを、きっと神と呼ぶのだから。
だけど私はいつも願っている。
祈っている。
いつか死んでくれますようにと。
殺せる日が来ますようにと。
……ねえチェシャ。
スレイヴイレスの作り方を知ってるかい。
スレイヴイレス。
不老不死の力、その根源。
永久機構……フラクタル構造体。
簡単なんだ。
簡単なんだよ。
対象の物質構造にフラクタル状の空洞を無限に作る。ただそれだけ。
そのために必要な手段はね、『折り畳む』ことなんだ。
ただ折り畳むんじゃない。狙って、分子や原子以下の隙間を作る。
数億におよぶ分解能にて肉体の全関節を制御し、
己が与えられるインパクトを調整して、
炉の燃焼によって生まれる冷却収縮を利用して、
非生命級の精度で絶対的な工作物を作り出す。
それだけなんだ。それだけでスレイヴイレスは作れる。
だから私は私を折り畳んだ。
何度も何度も金づちを振るって。『オブジェクト』を利用して。
骨も。
脳も。
神経も。
臓腑も。
無限の命を得た。
永久に不滅の体。
例えば寿命がある人生なら、今を精一杯に生きる事が出来たのか。
過去の後悔。罪。失敗。全てを糧にして、前を向くことができたのかな。
26歳になっても考えている。
20歳の頃から変わらない脳で。
クローゼットの隙間から見つめた両親の死。
地下室で眺め続けた我が神。
――全ては坂のようなもの。
『そこ』には意味も理由もない。
ただ、石は誰かに投げ込まれれば、転がるしか術がない。
私はそれがどうしても納得いかないんだと思う。
だから、やっぱり、いつか殺そう。
私は。
私の神を。
そのための武器をこれまでも、これからも、永遠に作ろうと思うよ。
チェシャ。
絶対に変われない私を君は、それで良いと言った。
私の神様になってくれると言った。
だから殺すよ。
復讐でもない。
怒りでもない。
憎悪でもない。
だとしても、私はやはり、愚図で無能な生き物だった。
あの男から頭がすげ変わった、チェシャという名の神。
この手で殺す、私のチェシャ・バイストィア。
君を殺すことが出来るだろうか。
それは、きっとあの男を殺すより難しい。
6年やそこらでは結論の出ない問題だろう。
果てしなく遠い先で答えは見つかるかな。
私は変わることが出来るだろうか。
であれば祈ろう。
いずれは祈りも形を得る。
きっと。私は神殺しなど成せずに死んでいく。
これまで通りに息をし続ける。
ひとつ、
ふたつ、
みっつ……。
……心臓を動かす必要がないことに気付いて、私は呼吸にすら飽きた自分をかすかに笑った。
息を吸うのも吐くのも、そうして、やめた。
私は今日も坂を転がり落ちながら、神を待つ。
槌を振り上げ、ただ剣を打つ。