器仗神殺の剣   作:てりのとりやき

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『デッドセットの鏖殺者』チェシャ・バイストィア=絶宇
君が死ぬ9分31秒前


 

 

 チェシャ・バイストィア。

 その名を、全世界の人々はもう知っている。

 11番目の迷宮“絢爛の地下迷宮”攻略後、全十二の地下迷宮最奥に入口が出現した、13番目の迷宮“六角魔女の迷宮”。

 その全層をたった一撃で完全破壊した者。

 

 

 

 01層、《想造始卵》破壊。全生命を殺害。

 02層、《絢爛舞踏》破壊。全生命を殺害。

 03層、《絶景二龍》破壊。全生命を殺害。

 04層、《拡張田園》破壊。全生命を殺害。

 05層、《高次回廊》破壊。全生命を殺害。

 06層、《御前高層》破壊。全生命を殺害。

 07層、《螺旋恒星》破壊。全生命を殺害。

 08層、《創世霊呪》破壊。全生命を殺害。

 09層、《播種層連》破壊。全生命を殺害。

 10層、《微小宇宙》破壊。全生命を殺害。

 11層、《三次超城》破壊。全生命を殺害。

 12層、《銀河船団》破壊。全生命を殺害。

 13層、《剥離存在》破壊。全生命を殺害。

 14層、《絶滅示唆》破壊。全生命を殺害。

 15層、《王路秩序》破壊。全生命を殺害。

 16層、《正逆鱗竜》破壊。全生命を殺害。

 17層、《雲恒星膜》破壊。全生命を殺害。

 18層、《殺意光子》破壊。全生命を殺害。

 19層、《六次元炉》破壊。全生命を殺害。

 20層、《天意死相》破壊。全生命を殺害。

 21層、《循環時間》破壊。全生命を殺害。

 22層、《波及新星》破壊。全生命を殺害。

 23層、《制激之王》破壊。全生命を殺害。

 24層、《乳樹脂禍》破壊。全生命を殺害。

 25層、《滅滅滅滅》破壊。全生命を殺害。

 26層、《孵化宇宙》破壊。全生命を殺害。

 27層、《天蓋幕覆》破壊。全生命を殺害。

 28層、《屈折覇道》破壊。全生命を殺害。

 29層、《次次託々》破壊。全生命を殺害。

 30層、《咀嚼癌性》破壊。全生命を殺害。

 31層、《座挽廃鎖》破壊。全生命を殺害。

 32層、《願廻羨帰》破壊。全生命を殺害。

 33層、《正退樹誉》破壊。全生命を殺害。

 34層、《曖昧黙緻》破壊。全生命を殺害。

 35層、《争敵寿滅》破壊。全生命を殺害。

 36層、《菌夥湧宙》破壊。全生命を殺害。

 37層、《叫百葉心》破壊。全生命を殺害。

 38層、《銘礎直石》破壊。全生命を殺害。

 39層、《能鏡介威》破壊。全生命を殺害。

 40層、《岩窟抽顕》破壊。全生命を殺害。

 41層、《化剥払仏》破壊。全生命を殺害。

 42層、《憧師御巻》破壊。全生命を殺害。

 43層、《錦価無猫》破壊。全生命を殺害。

 44層、《臓物唾船》破壊。全生命を殺害。

 45層、《葬祭数原》破壊。全生命を殺害。

 46層、《芙濁桐溶》破壊。全生命を殺害。

 47層、《塗泥沈殿》破壊。全生命を殺害。

 48層、《宇宙史歴》破壊。全生命を殺害。

 49層、《神人都市》破壊。全生命を殺害。

 50層、《死死死死》破壊。全生命を殺害。

 51層、《貴人涙界》破壊。全生命を殺害。

 52層、《雌雄銀河》破壊。全生命を殺害。

 53層、《暗黒白令》破壊。全生命を殺害。

 54層、《暁収束天》破壊。全生命を殺害。

 55層、《貧貪食飢》破壊。全生命を殺害。

 56層、《歯列連星》破壊。全生命を殺害。

 57層、《養殖隷奴》破壊。全生命を殺害。

 58層、《唯黄金蚤》破壊。全生命を殺害。

 59層、《熱溺残珠》破壊。全生命を殺害。

 60層、《爽鎖永続》破壊。全生命を殺害。

 61層、《験亡伯尋》破壊。全生命を殺害。

 62層、《恒砲毒掛》破壊。全生命を殺害。

 63層、《戦時船裏》破壊。全生命を殺害。

 64層、《病癒砕淀》破壊。全生命を殺害。

 65層、《狂襲壊無》破壊。全生命を殺害。

 66層、《蟻塚世界》破壊。全生命を殺害。

 67層、《魂承誰何》破壊。全生命を殺害。

 68層、《造子機配》破壊。全生命を殺害。

 69層、《賊器歩十》破壊。全生命を殺害。

 70層、《探網形桁》破壊。全生命を殺害。

 71層、《炉邸阻熱》破壊。全生命を殺害。

 72層、《微睡凹息》破壊。全生命を殺害。

 73層、《排称緋熱》破壊。全生命を殺害。

 74層、《金穂海在》破壊。全生命を殺害。

 75層、《禁禁禁禁》破壊。全生命を殺害。

 76層、《螺旋闘汎》破壊。全生命を殺害。

 77層、《民集合皇》破壊。全生命を殺害。

 78層、《吐瀉合者》破壊。全生命を殺害。

 79層、《傾牙刺星》破壊。全生命を殺害。

 80層、《寄生死緩》破壊。全生命を殺害。

 81層、《悄硬理福》破壊。全生命を殺害。

 82層、《狙沃駆癖》破壊。全生命を殺害。

 83層、《飛去竜残》破壊。全生命を殺害。

 84層、《愚苗解剖》破壊。全生命を殺害。

 85層、《邪姓駒法》破壊。全生命を殺害。

 86層、《宇宙始卵》破壊。全生命を殺害。

 87層、《之奥終絶》破壊。全生命を殺害。

 88層、《創始者達》破壊。全生命を殺害。

 89層、《弑逆者達》破壊。全生命を殺害。

 90層、《理解者達》破壊。全生命を殺害。

 91層、《獲得者達》破壊。全生命を殺害。

 92層、《播種者達》破壊。全生命を殺害。

 93層、《再生者達》破壊。全生命を殺害。

 94層、《到達者達》破壊。全生命を殺害。

 95層、《解剖者達》破壊。全生命を殺害。

 96層、《異常者達》破壊。全生命を殺害。

 97層、《教導者達》破壊。全生命を殺害。

 98層、《分断者達》破壊。全生命を殺害。

 99層、《絶滅者達》破壊。全生命を殺害。

 00層、《邪神領域》破壊。

 

 

 

 

 

 全層単独完全破壊(デッドセット)

 

 

 

 

 

 地下迷宮一つを完膚なきまでに割断し、そこに住まう何もかもを虐殺し尽くした君の名を、今では誰もが知っている。

 チェシャ。

『デッドセットの塵殺者』チェシャ・バイストィア=絶宇(フォーマルハウト)

 最終的に『オールエンドの大英雄』すら超えた“最強”。

 これは、そんな君の話になるはずだった。

 

 

 ◇

 

 

 ──なんで、こんなことになってるんだっけ。

 

 

 

 私は酸欠気味の頭でそんなことをぼんやり考える。

 考えている間にも時間は流れ、刻々と死の危機が迫りくる。

 死の危機。私を殺そうとする敵のこと──それは女の姿をしていた。

 同性の私から見ても美しい黒髪に部分的な金のメッシュを入れた三つ編み。瞳の色は秒ごとに変遷する虹色。握る剣はハサキが打った器仗神殺の剣(ゼームレス)……。

 そして空中を悠々と駆けるその足は音速に到達している。物理法則なんてどうでもいいと言わんばかりの笑みを私は視認して、瞬きよりも早く肉薄する女の突進を、自前の剣で受け流す。衝撃をいなしきれず、私の体は遥か後方へと吹き飛ぶ。大地を何十回と転げまわる体。

 天と地が交錯し続ける視界の中で、血に濡れた瞳が映す現実を、私はもう一度見定める。

 私を殺そうとしている女──女の名を、リーリェ・ヒプロメロォスと呼んだ。“最果ての地下迷宮”全層単独踏破、『オールエンドの大英雄』。紛う事なき“最強”。

 私はそんな存在と殺し合いをしている。

 

 

 

 ──なんで、こんなことになってるんだっけ。

 

 

 

 私の方が聞きたい。なぜなのか?

 リーリェが私と組んで迷宮攻略をしたいと言い出したのは、数年前のことだった。明らかに分不相応な組み合わせ。その頃の私はまだ“絢爛の地下迷宮”中層程度までしか潜ったことがなかったし、迷宮全層を攻略したリーリェにはもっと深層探索を主とする『探索者』が適任のはずだった。

 未だにこの女のことを私は理解できていない。

 リーリェと組んで5年が経ち、私もリーリェに引っ張られる形で迷宮深層の攻略に参加するようになっていた。

 99層階層守護者を発見し、打倒するための作戦を二人で練り、いざ決戦……というところまで来ていたはずだった。

 目前まで来た偉業。階層守護者と倒し、最終層への道を拓く──それは私が願っていたものだった。ハサキと並び立つには十分な実績になるはずだから。

 だというのに。

 

「なんで……!」

 

 全身の関節が熱い。肺は悲鳴を上げすぎて痛みすら寄越さなくなった。額が切れて片目の視界が赤い。ようやく突進の衝撃から制動をかけられた体で、悠々と地に立つ女へと吠えた。

 

「なんで今、こんなことをしてるの! リーリェ!」

「あら。そんなこと気にする余裕、あるんですか」

 

 彼我の距離は数百メートルかそこら。リーリェの音速を突破する脚力の前では数歩も要らない距離でしかない。

 99層のとある惑星。岩と砂ばかりの星は戦場にぴったりだった──だからここで99層階層守護者を迎え撃とうとしていたのではなかったのか。

 

「あんたが理解できないのよ! あんただって迷宮最奥に行きたいんでしょ!?」

「ええ。ですが、これもまた必要なことなのです」

「『十二分割された真理』? それがなんなの、なんだって言うのよ!」

「私の全てなんです」

 

 言葉と同時、全身の皮膚に“圧”を感じた。直感にも等しい理解──『来る』。

 リーリェの初動に予備動作は一切なかった。歩くようなステップが驚異的な加速を産み、瞬間、音速の壁をブチ破るのを私は見た。

 そう。

 音速突破の跳躍を、この目で見ていた。

 

「な、め──」

 

 リーリェが旅の途中で言っていた。

 迷宮深層へと潜れば潜るほど、肉体に変化が生じると。物理法則から外れ、存在自体が『オブジェクト』へと近づくと。

 きっと私もそうなっているのだろう。

 私の眼はリーリェの姿がはっきりと追えている。

 

「──るなぁッ!」

 

 肉体を動かす神経信号を完璧に手繰る、そんな感覚。秒と秒の間隙で完結する戦闘とはその領域にまで行く。

 握る剣が閃く。振るった瞬間にはすべて過去形になるほどの極限時間──リーリェの、器仗神殺の剣(ゼームレス)による刺突を弾き上げ、その勢いを殺さずに回し蹴りを女の背中へと。

 鉄同士が打ち合う快音──同時に鞘入りの直剣が高く舞う。

 私の蹴りを簡単に受け流し、無手で立ち止ったリーリェへと剣の切っ先を向けた。

 

「もう勝負はついた!」

「あら。武器ひとつ落とした程度で、もう勝ちを確信するんですか?」

「これ以上戦う意味はないって言ってるのよ!」

 

 くすりとリーリェが笑う。私はこの女のそういう笑い方が大嫌いだった。

 何でも知っているぞと言いたげだからだ。私が知らない秘密をひけらかそうとしている表情だからだ。

 

「5年前……私がどうしてハサキ様の工房に住んでいたか分かりますか?」

 

 リーリェが笑う。

 笑って、女は右手を自身の左肩にそっと添えた。

 一体何をしようとしているのか。少なくとも、戦意が潰えていないことだけは確かだった。

 

「私がハサキ様の下でただ鍛冶を眺めているだけだと思いました?」

 

『ぶちり』。

 そんな音が聞こえるほど呆気なく、リーリェ・ヒプロメロォスは自身の左腕を根元から引き千切った。

 まるで目の前を横切った羽虫を摑まえるような気軽さで。

 

「──」

 

 苦痛など無いかのようにせせら笑うリーリェは、左肩の断面から盛大に吐き出される血潮を無視して、右手に握る自前の左腕を軽く振るう。

 そして、現実が超過されていくのを、私は見た。

 

 

 

「【錬成──左腕は剣に】」

 

 人間の腕が、握られているはずだった。か細く、白く、しなやかな筋肉と薄い脂肪、健康的かつ硬い骨で構成される人の腕が。

 しかし瞬きのうちに筋も骨も肉も脂肪も、捻じれながら変質した。

 鋼鉄の剣に。鮮やかな刀身で光を返す、抜き身の一振り。

 

 

 

「【改竄──右腕を二つに】」

 

 人体に備わる“右腕”は一本のはずだった。それはきっと、この世が備える物理法則くらいの常識で、突然変異でも起きない限り違えることのないものだった。

 まさか人為的に腕を一本増やせる怪物がいるだなんて、一体誰が想像するのか。

 

 

 

 これが『オブジェクト』化するという事なのか。

 私の腕がいつの間にか震えていた。底知れない化け物と殺し合いをしている事実はあまりにも絶望を感じさせた。

 

「【来なさい】」

 

 左腕を根元から欠損し、右腕一本をだらりと垂らした女は、空いている右手を軽く掲げる。開いた手に引き寄せられるように器仗神殺の剣(ゼームレス)がすっぽりと収まった。自身の主の命に忠実な下僕のように。

 

「ひとつ教えてあげましょう。迷宮攻略を成すレベルの『探索者』についてです」

 

 迷宮最奥──例えばここ、“絢爛の地下迷宮”99層は、おおよそ我々が住む地上世界の星系規模と同等の広さを持ちます。

 そんな広大な世界を攻略するにあたって、人がどのように“進化”していくか分かりますか? 人体ひとつではあまりに巨大な領域で、どういう『オブジェクト』へと変じていくのか? 

 ──答えは簡単なことですよ。

 

「私は限りなく光速に近い速度で動けます」

 

 その言葉と同時に起きた現象の全てを、私は知覚できなかった。

 以前とは比較にならない、もはや速度という概念を超越した加速。

 目の前にいたリーリェの右腕の片方が──握りしめられた剣が振り上がっているのを、一枚の写真のように感じる。

 本能的に受け流す姿勢を取れたこと自体がもはや奇跡だった。 

 だが、リーリェの右腕は確かにもう一本あって……。

 

「────」

「────」

 

 言葉すら紡げない速度域。

 悠々とした構えから、神速の刺突が繰り出され。 

 避け、

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ご、ふ」

 

 口から塊のような血が溢れた。だらだらと止めどなく零れていく血液。

 激痛で眩む視界は自然と下を向く。もはや首を真っすぐに直す余力すら無いのだと悟った。

 私の腹に、鞘入りの直剣が貫通していた。光速の99%という神速域にて振るわれた刺突が、どうして私の肉体を木っ端微塵にしなかったのか、もはやそんな疑問すらどうでもよかった。

 現実は器仗神殺の剣(ゼームレス)が私の腹部に突き刺さり、その衝撃で内臓をめちゃくちゃに撹拌し引き千切ったということだけ。

 

「────」

 

 痛みという痛みが消失していた。神経が過剰な痛覚を遮断したのか、脳の回路が焼き切れたのか。

 立ち上がることなど出来ない。

 指一本震わせることも出来ない。

 半開きの口から、ただ、血を垂れ流すことしか。

 

「ねえ。覚えてますか? 私がハサキ様の地下室へ行こうとした時、あなたに伝えた言葉を。あなたは確かに選んでくれました。私の得た“未来”へと続く道を、正しく」

「……」

「だから今回も選んでください。正しく選択してください」

 

 そんな私に、誰かの影が差し掛かる。それが誰なのか私には考える余裕がなかった。

 分かるのはたった一つだけだ。

 

「さあ、チェシャちゃん?」

 

 私は、もうすぐ死ぬ。

 

「ここも……分岐点ですよ」

 

 死の間際に想うのは、ここにはない世界のこと。

 過去へと順繰りに遡っていく思い出。

 私……チェシャ・バイストィアの記憶にいつも存在していた彼女のこと。

 

 

 

 私が12歳の頃、あなたと喧嘩をした。

 私が10歳の頃、あなたの異変を感じた。

 私が7歳の頃、あなたは伝説になってしまった。

 私が5歳の頃、あなたに理不尽な怒りをぶつけた。

 私が0歳の頃、私はあなたに恋をした。

 

 

 

 ああ、これ(・・)が走(・・)馬灯か(・・・)

 

「ハサ、キ」

 

 ねえハサキ。

 私、あなたにも言っていない秘密があるわ。

 もしも……。

 もしもね。

 もしも私が、生まれた瞬間からのすべてを記憶しているって言ったら、ハサキは信じてくれる?

 

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