SAOサービス開始おめでとう!もしかしたらあったかもしれない話。

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SAOサービス開始記念小説 鋼鉄城の死にたがり

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 鐘の音が聞こえた。

 この世界に囚われて、たった一度しか聞いた事のない音。あの全てが始まった日に、始まりの街に鳴り響いた鐘の音。

 それが再び、鋼鉄城に鳴り響いていた。

「……終わった、のか」

 それを、彼は呆然とした表情のままに聞いていた。

 情報屋がひしめく事務室で、原稿の山を前にしながら。剣ではなくペンを手にしながら、ただただ聞いていた。

 二〇二四年、十一月の七日。

 SAOがサービスを開始してから丁度二年が経った日の、翌日の事だった。

 

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 SAO事件全記録著者、○○○○インタビューより抜粋

 

 私は、元々ただの自殺志願者だったんですよ。

 

――と、言いますと?

 

 本当にそのままの意味で(笑)SAOが始まる前は親の脛かじって生きてたニートでしたし、元々小説家志望だったはずなんですけど、まあ、ワナビによくあるやつで。

 芽も出ないまま歳ばっか重ねて、段々ネットの小説の更新も滞って、ネトゲばっかして生きてるみたいな。

 生きてる意味とかないと思ってたし、実際SAOがデスゲームになった直後も周りが泣き叫んでるのに、私はただ現実味がないだけだったんですよ。心に膜が張ってて、外的刺激に対する反応が鈍くなってる……みたいな。今思えば完全にうつ病ですね。

 それでようやく現実を咀嚼して、ちゃんと理解した後に思った事は、やっと楽になれる、でした。本当に亡くなった方々に失礼な話です。

 

――それは、なんというか、こう言っては失礼ですがよく生き残れましたね?

 

 それな(笑)いやホントそうなんですよ。そもそもの話として、よく親がナーヴギア剥がさなかったなって思います。

 私からすればあの世界は合法的に誰にも迷惑かけずに死ねる世界でしたけど、親からしても合法的に私っていう不良債権を処理できるチャンスだったはずなんです。殺されても文句は言えない人生だったはずです。

 なのに、親はちゃんと入院費も払ってくれて、生き残った時には泣いて喜んで……すいません。湿っぽい話になって。

 ただ、自分で言うのもアレですけど、やっぱりゲーム慣れはしてましたから。むしろゲーム慣れしてた方が……みたいな話もあったので一概には言えませんが、あの世界で生き残る才能はあった方なんだと思います。皮肉な事に。

 

――そもそも、今のお話を聞く限りだと初めは生き残るつもりもあまりなかったんですよね。心変わりをした……と言って差支えはないですかね?

生き残る気になったきっかけのようなものはあったんですか?

 

 情報屋と縁を持った時……ですかね。最終的には、私もそっち側だったんですけど。

 SAOにおける情報屋っていうのは、攻略情報を取りまとめるプレイヤー達の事です。要は攻略サイトの中の人みたいな感じですね。ゲームのかなり序盤の方で、そういうプレイヤーの一人に会ったんです。

 その当時の私は、自殺するくらいならゲームで遊びながら死のう、みたいな感じで頭おかしくなってました。だけどまあ、命を度外視して戦う頭のおかしい奴なんてそういなかったので、攻略効率がよかったらしいんですよね。それで私が持つ攻略情報を必要としてる人がいる、って言われて。

 私は、そこで初めてこのゲームを真面目に攻略して生き残ろうとする人がいる、って気付いたんです。当たり前の話なんですけど。

 それなりに情報が膨大だったんで、編纂作業を手伝ったんです。事務処理と文章化は得意だったんで。そこで、今まで現実味のなかった世界が急に現実だって受け入れられて。ゲームとして楽しんでから死のうとか、そんな事考えてたのが他の人に失礼だなって。

 それで、どのくらいぶりだったかもう分かんないんですけど……もしかしたら人生で初めて本気で怒ったんです。多分あれが、原動力になった。

 

――怒ったというのは、SAOに?

 

 SAOと自分に、ですかね。

 それまで私は、死ぬのに都合のいい世界だって、ある種肯定的にSAOをとらえていました。でも、他の人にとってはそうじゃなかったんですよね。

 あの日、怒って泣いた人達の気持ちがようやく分かったんです。生きようとは一ミリも思わなかったですけど、なんで生きたい人を巻き込んだんだって。

 私があの世界で死ぬ分には、死にたがりが死ぬだけでどうでもいいと思ってたんです。でもあの世界には、生きたい人がいくらでもいて、生きたいのに死んだ人もいっぱいいて、なんでって。

 なんで俺みたいなのが生きてるのに、あいつらが死んでるんだって。

 それで、真面目に攻略するようになったんです。死んでもいい奴が危険な事やって、生きたい人の手助けを出来るなら、それが一番だって思って。

 まあ、その考えも、今思えば親とか友人に申し訳ない考えだったとは思うんですけどね。

 だから、言葉にすると本当に陳腐で偽善者なんですけど、私はヒーローになれると思ったからなろうとしたんです。自分の命を勘定に入れずに、力の限り他人を救う。そういう事ができるから、やったんです。

 そうやれば、ちょっとは私みたいなのの命にも生きた意味みたいなのができるかなって。そんなことを考えてたんでしょうね……。いや、改めて語ると本当に気持ち悪いな。

 

――それを実行できた事は本当に尊敬します。

それ以降は、情報屋の手伝いを?

 

 そうですね。最前線のボス攻略に出る事もありましたけど、基本的には各階層のクエストやイベントの攻略をして情報をまとめる、情報屋の私兵をやってました。

 ただ、段々とソロだと厳しくなってきたので、似たような事をしてる連中と組むようになって、それが確か10層とかその辺だったかな……?

 それがギルド≪情報同盟≫ですね。なので、今の仕事仲間とはその頃からの付き合いになりますね。

 ただまあ、元々が文筆家志望なので、段々机に向かい合う時間の方が長くなって、50層あたりからは最前線には出れなくなりました。単純な能力的に、私が最前線に出て情報を取って来るよりも、情報を取りまとめる役割の方が重要度が高くなっていったんですね。その辺はニュースサイト兼攻略サイトのMトモさんには釈迦に説法な気もしますけど(笑)

 

――正直今でも○○さんにはMトモ入ってほしかったですよ(笑)代表がまた今度ヘッドハンティングしに行くって言ってました。

 

 えぇ……まあご縁があれば……(笑)

 

――(笑)

そういう事もあって、SAOのあらゆる情報を手にする立場になっていった訳ですね。

だからこそあのSAO事件全記録の執筆に至ったのかとは思いますが、書くときに意識した事などはあるんでしょうか?妙に人物にバイアスがかかっているのは……?

 

 あれね、よく言われます(笑)黒の剣士からは直接文句言われました(笑)

 まあでも、実際現実として彼らはあのくらい英雄である事は伝えたかったんです。内心はどうあれ、彼らは本当に、あのゲームの最前線で戦って生き残った、現代の英雄なんです。

 ゲーマーっていう人種は、まあ私も含めて、自分を卑下しがちじゃないですか。エゴイストだとか。別に他人のためにやったわけじゃないとか。力がモノを言う世界で、弱者になるのが怖かっただけだとか。

 もちろんそういう一面はあると思うんです。だけど同時に、本当にそれだけの理由で最前線に立ち続けた人は、私が知る限りいません。絶対に、どこかに他者性があったんです。

 生きて帰りたいからこその攻略組ですし、攻略組が存在するっていう事実そのものが、その他のプレイヤーにとってはある種希望の象徴でした。その事は、私が誰よりも分かってます。

 彼らが戦っていたからこそ、あの世界で希望が潰える事はなかった。それは、純然たる事実なんです。

 私が生き残ったのだって、ほとんど攻略組の人たちのおかげですよ。生き残るっていう彼らの感情に、いつの間にかこんな死にたがりすらもあてられて、一人でも多くの人を生き残らせようって思ったんです。

 だけど、彼らを英雄扱いする人は、現実世界にはいないじゃないですか。事件の記録にはもちろん公表できない事がいくらでもありますし。彼らの偉業を讃える事ができるのは、きっと私だけだって……そう思って、あの本を書き始めて、そしたら仲間内に出版社勤務がいて、トントン拍子でマジでびっくりしました。最初はネット小説にでもするかーって思ってたくらいなんで。

 だから、あの本の人物像は、正しくはないです。正しくは書けないですし。

 でも同時に、私達の希望としてあり続けた、英雄たる彼らの一面でもあります。

 生き残れた、なんていうマイナスがギリギリゼロになるような報酬じゃなく、彼らの行動には正当な栄誉があっていいはずなんです。

 それを私は、現実世界にも伝えたかった。どうしようもない事件だったけど、ただ臭いものに蓋をするように忘れ去るのではなく、あの世界で生きた人達が確かにいたっていう事実を誰もが記憶に刻み付けてほしかったんです。

 SAO事件を正当化する気は一切ありません。あれは最悪の事件でした。ゲームという文化に対する最悪の破壊行為ですし、人類史に汚名を刻む最先端技術を利用した最悪の虐殺です。

 けれど、だからこそ忘れて欲しくない。エンタメを利用した破壊行為だったからこそ、私はエンタメで対抗します。茅場に証明し続けるんです。お前が破壊しようとした文化は、こんなにも力があるぞと。お前には決して負けないと。

 それが、今私が生きる意味です。

 


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