尚、主人公は霊力が0の上に好かれやすい体質とする。

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プロローグ 拝啓神様へ。どうしてただのガンマンを物理が効かない霊がいる世界に転生させたのでしょうか?

 皆はガンマン·ガンスリンガーなどの銃を扱う者をカッコいいと思ったことはあるかい?

 

 

 俺はそれに憧れを持ってアメリカ等の外国へサバゲーしたり、傭兵をなって戦地を駆けていた。

 ……傭兵の仕事は二度とやりたくないけどな……。

 

 

 話がズレたな。とにかく俺は銃が大好きだ。

 特に回転式拳銃(リボルバー)を扱うことは俺にとって一種の夢だった。

 更に言えばリボルバー同士のガンマンの早打ち勝負は俺にとっての儀式、神へ命を捧げる熱き漢の勝負だと崇拝しているほどだ。

 

 

 それ故に俺は転生特典として、銃が当たり前に使える世界に転生できるようにと、神様に懇願したのだから。

 勿論、『優しい世界』や『ほのぼのとした原作』を条件として付き足した。

 

 

 俺は残酷で大変だった僅か5年の傭兵時代の経験を生かして、あまり死人や怪我人がでないほのぼのとした、例えるならばサバゲー中心の熱血スポーツマンガみたいな世界線を俺は期待していた。

 

 

 しかし俺は神の策略、いや陰謀に気がつかなかった。

 

 

 まさか()()()()()のほのぼのだとは……。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 『風神(かぜかみ)オカルト探偵事務所』。

 

 

 それは第二の人生で俺が生きるために住処としている古びた事務所。

 築30年前の木造の2階建ての地下倉庫もガレージもある、少し裕福な方が建てたことが分かるような構造。

 

 

 俺は窓を開け、そして胸ポケットから掌サイズの長方形の青と白を基調とした箱を取り出す。

 下を向けて1、2回振れば一本。そこから白色の棒が出てくる。

 

 

 俺はそれを口に添えて、そして────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ~! ココアシガレットが美味しいんじゃ~!」

 

 

 ────噛み砕いては甘味を舌全体を使って感じていた。

 

 

 え? タバコじゃないのって?

 いやいや高校生がそれをしたら犯罪だし、昭和ならばワンチャン有ったかもしれないけど、今こちらは令和なので、警察官に手錠をかけられる定めになるのは目に見えている。

 

 

 まあ野郎の名前はどうでもいいと思うが、一応自己紹介させてもらおう。

 

 

 風神(かぜかみ)颯斗(ハヤト)

 それが今世の俺の名前だ。仲が良い奴らからはハヤトと呼ばれている。

 まあ察しのよい方々からすれば、俺が転生者というのは一目瞭然だろう。

 

 

 俺には好きなものが2つある。

 

 

 一つは銃。特に回転式拳銃(リボルバー)が大好きだ。

 もう一つは平和。争い事がなく、誰かの悲鳴も聞こえないそんな素晴らしいものだ。

 

 

 まあ平和と銃って水と油みたいなモノだが、俺は生憎様それが大好きだ。おそらく遺伝子に刻まれているぐらい大好きだ。

 

 

 だからこそ俺は『ほのぼのとした少女達による銃が使えるスポーツ漫画』に転生したかった……本当に其方へ転生したかったぜ…………。

 折角、転生特典を犠牲にしてまで頼み込んだのにな……。

 

 

 どうやら神様は俺のことが嫌いなのか、また天然だったのか。

 俺が転生したのは普通の現代社会、しかし悪霊や怪異が暗躍するホラーバトルアクションモノなのであった。

 勿論、主人公達は世界(World)幽霊(Ghost)機関(Organization)、通称WGOが手配した教育機関、ほんの少し宗教色が強めな私立学園を舞台にWGOが手配した依頼をこなしつつ対悪霊·怪異の精鋭除霊師を鍛え上げる修業の場だ。

 

 

 因みに学園なので普通の学園祭や修学旅行もあります。

 

 

 じゃあ俺は? という話になるよね。

 

 

 勿論入学しているよ。けど主人公達よりも一歳年上だから関われるキッカケが殆ど無い。有ったとしても何かしらその機会が潰される。

 

 

 まあいくらWGOが手配した学園といえど、やっぱり普通の学園なのでそう易々と悪霊や怪異に関わる依頼がこない。

 そもそも俺は霊力が0という前代未聞の体質なのである。

 

 

 つまり雑魚。雑魚に依頼して失敗するのは確実なのに依頼を出す奴おる?

 だからこそ俺はこうやって私立探偵事務所を構えて経営している。

 

 

 いずれも悪霊や怪異に遭遇しても対応できるようにね。

 ただでさえ俺は霊に好かれやすい体質なんだ。どれだけ鍛えても、どれだけ強くても困らないしな。

 

 

 さてと、そろそろ仕事の時間だ。

 

 

 俺は仕事着を着て、ドアの取っ手に手を掛ける。

 

 

 今日もなんとかなりますように頼みますね、勝利の女神様。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 何処にでもある街中の喫茶店。

 そこで今回の件の請負人……除霊師と待ち合わせをしているらしい。

 

 

『除霊師』

 それは今から1400年前の飛鳥時代から密かに存在する警察官と同様に国家認定の職業であり、かなり重要な仕事である。

 なにせ縄文時代後半、弥生時代によって生まれた餓死してこの世に未練を残した悪霊、さらに争いによって死んでしまった未来ある若者の後悔、未練、恐怖によって誕生した怪異などが溢れてしまったのだ。

 

 

 霊能力がまだ発達していなかった弥生時代の人々にとってはまさに無慈悲の災害、恐怖の権化、絶望そのものだった。

 人々はろくに夜も寝れず、ただただ口に指を咥えて怯えていた。

 

 

 しかし神様、仏様は見捨てなかった。

 

 

 まずは世界最強の浄化能力を誇る卑弥呼が日本に暗躍する魑魅魍魎を弱体化させて最小限の被害しか出せないようにして、古墳時代では偉人や英雄の方々の力を借り、八百万の神々に祈り捧げては加護を授かることでようやく対抗手段を得た。

 最後に仏教伝来と共に聖徳太子が除霊師の制度や立場を不安定なものから安定するように確立させ、さらに全国で暗躍する魑魅魍魎に対しては派遣するという、様々な制度を作った。

 

 

 こうして日本の除霊師は他国に比べて発達しており、世界有数の除霊大国と確定してきた。

 しかし現代の除霊師の依頼は、とにかく金がかかるのである。

 

 

 理由は3つ。

 1つ目の理由は『質の低い除霊師の増加』。安くて早い国の信頼のある公務員除霊師がドンドン増えてきているために、民間除霊師の稼ぎが少なくなっていることから。

 2つ目の理由は『物理的·社会的な死の非常に高い危険性』。やっぱり命を掛けているからには高くないと割に合わないよね、ということから割には合わない値では仕事しなくなって。

 3つ目の理由は『自分たちでしか解決できないから』。魑魅魍魎の化け物は除霊師しか退治できない。故に味を占めた金に目を眩んだ除霊師が報酬を吊り上げている者が多い。

 

 

 勿論、そんな金の亡者、守銭奴ばかりではない。心優しき正義感溢れる除霊師もいた。

 しかしながら残念なことに除霊師はそんな世間のイメージ、レッテルが貼られているのだ。

 

 

 そのために除霊師は実力主義の一流しか億万長者になれない。

 当たり前な話。わざわざ高いお金を払うならば二流、三流よりも一流の『プロ』に任せたくなるものである。

 

 

 そして現代社会は二大勢力に分けられており、例えるならば『コンビニマーケット』の早くて安い(だが弱い)国の信頼のある公務員除霊師か。

 例えるなら『三ツ星レストラン』の高いが完全な信頼と成果が期待できる民間一流除霊師に分けられている。

 

 

 そして今回の除霊師はまさに一流。それなのに相場に比べては安く明朗会計、さらに信頼があるわ謙虚だわ依頼人のことを考えてくれるわ等々。

 もはや大企業や他の一流除霊機関は目をつけており、チャンスが有ればいつ、どこでもスカウトはできるようにしているらしい。

 

 

 尚、本人が述べる条件はあるのだが、それさえ満たせばほぼ解決したようなモノだ。 

 

 

 するとご来店のベルの音がカランカランと鳴り響く。

 

 

 そこには黒と金色を基調としたガンマンのような年季のある服装をしたガタイの良い男性が入ってきた。

 

 

 白色の羽を一つ付け加えた黒色のカウボーイハット、深紅色のストール。

 黒茶色のメンズシャツと紺色のジーンズ、そして黒と金色を基調としたコートを重ね着していて。

 最後にギザギザ、あれは拍車と呼ばれた金具が付いた黒色の赤色の槍マークが付いたブーツを履いていた。

 腰のベルトの右側には隠す気がない取っ手が木で金属が黒色、異様に長いバレル、まさに西部劇のリボルバーをぶら下げている。

 しかし異様に目立つのは男の左手に巻かれている血で書いたように見える謎の中国語らしき漢字がぎっしりと並べられた黒色の古びた包帯。

 

 

 男の容貌は俗に言うならばクール系イケメンに近い顔つきだ。

 そして何よりも特徴的な顔の部位は、その黒曜石のナイフのように鋭い目つきに黒色の結膜、そして日本人では見られないダークグリーン色の瞳。

 そして元ホストじゃないかと思うほどに異様に色香が強い。全体から体臭の代わりに色香が出てきているかのような錯覚をする。

 

 

 そして闇へと墜ちてしまったかのような、そんな印象がとても強かった。

 

 

 

 そしてそんな殺伐とした格好の男は私を見かけるとスタスタと早歩きで近づいてくる。

 

 

「もしかして叶多(カナタ)さんでしょうか?」

 

 

 そうやって話しかけてくる男。

 目から多分この人だと確信しているが、念のためにという慎重さが滲み出ている。

 

 

「はい。もしかして貴方が……」

 

 

「如何にも、今回の依頼を承りました。除霊師兼オカルト探偵の風神(かぜかみ)颯斗(ハヤト)と申します」

 

 

 帽子を取ってお辞儀をする姿は礼儀正しく、かなり教養のある方のようだ。

 

 

「早速ですが本題へと───「その前に座ったらどうでしょうか?」……はい」

 

 

 ……意外と短気なのかもしれない。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 今回の依頼人の名前は田中(たなか)叶多(カナタ)

 俺のお得意先、大手建築会社『株式会社二ノ宮(にのみや)コーポレーション』からだ。

 長ったらしいので二ノ宮コーポレーションと称するか。

 

 

 二ノ宮コーポレーションの最大の売りであるのが『豊かな自然に安心を』という田舎、つまり山や海の都会から離れた自然豊かな環境にホテルや別荘などの大型建築を早く美しく建てることが出来る強みがある。

 

 

 だがメリットがあることはデメリットも当然ある。

 

 

 除霊師が豊富な都会ならまだしも、除霊師が少なく強い怪異や悪霊が存在する田舎や地方ではそんなに安心して建築に取りかかれない所が多い。

 

 

 原因不明の体調不良、機械の動作不良は当たり前、ひどい時は災害を起こしては死者を出してくる。

 その為、二ノ宮コーポレーションは俺と同じ除霊師に依頼を出して、建築、解体予定場にいる怪異、悪霊を退治してから取りかかる、これが二ノ宮コーポレーションの200年間も続くやり方である。

 

 

 では一旦この話は置いといて。

 

 

 今回の依頼は解体予定の地方にある廃屋からとても強力な霊波(れいは)を感じたらしく、調査の結果から悪霊による仕業だと判明。

 そもそも悪霊と怪異の違いとしては、ざっくり言えば人か人じゃないかだ。

 

 

 悪霊は死んだ人の想いや未練によって現代に居残る霊のこと。

 本来ならば神様の名の下に死んだ人々の魂は輪廻転生するのだが、その輪から外れた罪深き魂の集合体。

 

 

 怪異は人々の信仰、知名度によって生まれた人間の上位互換。

 人ならざるものであり、自然現象や概念を歪ませて操り、物理法則やこの世の理が無いもの同然の規格外の存在、そもそもチートが当たり前な存在ばかり……最早出会ったら即終了。

 

 

 とにかく悪霊よりも怪異の方がヤバい。そう覚えたらいい。

 

 

 話が逸れたが、今回は悪霊なのでそう覚悟決めてやるほどではない。

 だがらといって油断大敵。決して相手を馬鹿にしたり、劣ってはいけない。

 

 

 ガンマン足るもの、相手を尊重して必ず殺す。

 

 

 そう信条を思い返しながら自分を奮わせていると、どうやら車のブレーキ音が聞こえた。

 

 

 ドアを開ければ都会では見れない繁った草木、申し訳程度の整理された道路、前には緑色に侵食されている古びた廃屋。

 それに似合わない黒色のガンマンの格好をした俺、依頼人の叶多さんと黒塗りの高級車。

 

 

「此処が例の場所ですか?」

 

 

「はい。ハヤトさんのおっしゃる通りです」

 

 

 確かに霊力が皆無な俺でも分かるほど、嫌な空気がプンプンしてくる。

 では突入開始……の前に。

 

 

「では改めて依頼を受けるための条件を確認します。これは叶多さんの安全を確立させるためだということをご理解してください」

 

 

 俺のことを伝えないとな。

 除霊師足るもの、依頼人の安全を絶対確保しなければならない!

 依頼は達成しましたけど、その依頼人が死にましたー! だったらいくら俺でもそんなところに依頼したくない。

 故にちゃんと確認しなければならない。

 

 

「俺は霊力と呼ばれる魑魅魍魎に対抗する力が()()()()()。それ故に、まあ当然ですが霊を()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 俺が全くの無力であることを。

 

 

「しかし日本除霊師規約によって、叶多さんは除霊師……つまり私と一緒に行動しなければいけません」

 

 

 それは霊がいる危険地帯に一般人を一人にして置いていけるか、という話になる。

 だからこそ危険であるが、対抗できる人の側が安心できるということ。

 だったら其処から遠く離れた場所で依頼したり、そもそも其処へ行かなければいいんじゃないか?

 

 

 そんなに世の中は甘くない。

 

 

 悪霊と怪異の唯一の共通点と言っても過言ではないこと。

 それが『繋がり』だ。

 

 

 視認、体験、噂、SNS……世の中は情報社会、関わり方は多種多様に存在している。それに関わるモノに関わってしまったら必ず出会ってしまう運命である。

 なんなら目を付けられたら、飽きるまで追われ続けられる。

 

 

 つまり『ソイツを除霊させる依頼』という依頼してしまった依頼人は必ずしもソイツと遭遇してしまう。

 何故なら『依頼』を通して()()()()()()()()のだから。

 

 

「存じています。けど覚悟は出来てます」

 

 

 それを承知の上なのか、叶多さんは堂々と答えた。

 ……この人は、かなりの経験者だな。

 

 

「では行きましょう」

 

 

 俺は廃屋のボロい扉を蹴り飛ばした。

 

 

 ……たまに鍵がかかっているのがあるからなのよ。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 全てのガラスを失った窓枠のペンキはすっかりはげおちて変色し、木の壁は各所で腐っていてぐずぐずに崩れ落ちそうだ。

 呼吸が聞こえるほどに静寂の中、隙間風がビュービューと吹いて植物と腐った木が混ざった臭いを届けてくる。

 二人分の足音、そして拍車の音が静寂に響き渡る。

 

 

「スマホに異常ありませんか?」

 

 

「はい。特には……」

 

 

 私は今、歩きスマホをしています。ちゃんとスマホは『圏内』となっています。

 ハヤトさん曰く「上位の悪霊、怪異には霊堺(れいかい)と呼ばれるアイツらが有利になる空間を形成する力があります。それらを判別するためです」とのこと。

 本来、私だったら感知する道具を使うんですけどね。

 

 

「何らかの異常があったらすぐに教えてください」

 

 

「分かりました……」

 

 

 そして再び無言となる。

 私が経験してきた除霊師の大多数は"霊波感知(れいはかんち)"という霊力の流れを感知する術に任せっきりにしている方が多かったのですが……。

 また使わない人は代わりの道具を使って感知していたのですが、ハヤトさんは道具を持っていなければただただ周りに気を配っているのみ。

 

 

「あのー……ハヤトさん」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「なんで周りを警戒しているのですが? 普通の除霊師は"霊波感知(れいはかんち)"や道具を使っているのですが……」

 

 

 私が質問していても、気を緩めず警戒をするハヤトさん。

 

 

「簡単な話ですよ。言うならば『悪霊、怪異は馬鹿にできない』ですかね」

 

 

 顔を此方側に向けずに答えるハヤトさん。私では理解できなかった。

 するとハヤトさんが急に立ち止まった。

 

 

「……ハヤトさん?」

 

 

「居るな」

 

 

 それは丁寧で口調が柔らかいハヤトさんではなかった。

 それは覚悟した兵士のように、確信しているからこその静かに刃を磨ぐような落ち着いた声だった。

 

 

「……すみません。ここから口調が荒れますが許してください」

 

 

 爆弾のスイッチを押す前のように、私が許した瞬間に爆発し相手を必ず殺す。

 そんな考えがよぎってしまうほどに、ハヤトさんの後ろ姿がそうして見えてしまった。

 

 

「……構いません」

 

 

 私は許した。そしてハヤト(爆弾)は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野郎ブッ殺したらァァアッ!!!」

 

 

 ───扉をまた蹴破った(爆発してしまった)

 

 

 蹴破った音、扉が壁にぶつかる音よりも怒り狂った叫びが他の音を遮って耳に聞こえる。

 鼓膜が痛くなる。あまりにも大きな声、いや言うならば咆哮だ。

 

 

 突入した部屋はまさに楽器倉庫だ。

 部屋のど真ん中にはグランドピアノ、壁にかけられた僅かに違う様々のバイオリン、床には飛んできたドアのせいで楽譜が散らばっている。

 至る所に楽器が飾られている。それが第一印象だった。

 

 

「此処にいるのは分かっているぜ。早く出てこい」

 

 

 先程までは優雅に落ち着いていたハヤトさんの面影はなく、まさに必ず殺す暗殺者のように右手に銃を構えていた。

 

 

「ハヤトさん! 此処に本当にいるんですか!?」

 

 

 しかし私は納得できない。

 どうして此処にいることが分かったのか、何故確信しているのか。

 金属探知機無しで鉱脈を探し当てたように、嘘をついているようで信頼できなかった。

 

 

 ハヤトさんは初めて、此方の方へと顔を向けて話してくれた。

 

 

「いいか? 悪霊も怪異は馬鹿にできないというのは、アイツらだって考える力はあるということだ!」

 

 

「それが何か問題でも……」

 

 

「大有りだ! 除霊師は皆、"霊波感知"か道具頼りだ! それが間違っていない、だが逆に言えば己の直感、死に対する本能の警告が鈍くなる!」

 

 

「それはつまり道具や"霊波感知"のいうことを必ず信じてしまう! "霊波感知"は大きな霊力から些細な霊力を全て察知する万能な霊能力だ。しかし鵜呑みにしてはいけない!」

 

 

「逆に考えろ。自分の霊力を抑えれば弱いと認識され、逆に霊力をただただ出すモノを強いと認識してしまう! 故に"霊波感知"頼りは騙されやすいのだ!」

 

 

「だからこそ俺は俺の直感を信じる! 俺に眠る本能の死への警告をな!」

 

 

 そう言いきるハヤトさん、私は終始マジックのタネ明かしを聞いている気分だった。

 なるほど、と相槌を打とうとした。

 

 

 しかしできなかった。

 

 

 何故ならピアノが浮いたから、そしてこっちへ飛んで来ようと構えだしたからだ。

 

 

「こんな風になッ!」

 

 

 しかし浮いた瞬間、ハヤトさんは後ろ向きでも関係なく撃つ。

 乾いた音、風船を割ったかのような音が3回聞こえた。

 

 

「オメェみてぇなデカイモンが突然動いたら、いくら霊力がカスな俺でも気づくわ」

 

 

  大きめな角材が倒れた音がする。

 他にもいろんな音がしたが、それが一番よく聞こえた。

 宙に浮いたピアノはもう楽器として使い物にならないほどに壊れている。

 3本の足の2つは折れていて、ピアノの中にあった弦は切れて、鍵盤は幾つか取れていた。

 

 

「……妙だな」

 

 

 整理ができずに口をポカーンと開けている私を余所に何かを不思議そうに感じるハヤトさん。

 

 

「おい。叶多さん」

 

 

「ッ! は、はい」

 

 

 ようやく声をかけてもらったことで頭の整理が一旦落ち着いた私。

 反射的に返事をしてしまう。

 

 

「アンタのいう通りならば、此処の悪霊のジャンルとしては『付喪神』だよな?」

 

 

「そ、その通りです……」

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 俺は叶多さんの情報を元に考え直す。

 

 

『付喪神』。

 物を捨てられた恨みや執念によって生まれ、悪さを行うことも人に危害を加える悪霊の一種……とされているが、除霊師界隈では物に魂や感情が宿りし、意識がある物として一種の霊と指定している。

 

 

 勿論、物によって込められた想いや魂は違うが、まあざっくり言えば人殺しをした包丁などは人を傷つけ、人を守ったり大切にしてきたぬいぐるみは誰かを守ったりするってな感じだ。

 

 

 今回は人を傷つけるほどの強さと憎しみを重ね備えた『付喪神』だと依頼は書いてあったが……。

 

 

 あまりにもピアノの動きが愚直すぎるし、何よりも意識を()()()()()()()()

 となると………!

 

 

「理解したぜ。今回の件の全貌をな」

 

 

「な、何がですか?」

 

 

「失礼!」

 

 

 俺は叶多さんの腹に()()でパンと軽く叩く。

 

 

「ッ!?!?!?」

 

 

 叶多さんは苦しそうに腹を抱え始め、床に倒れる。

 しかし痛みからではないようだ。まるで耐えきれずに出てくる何かが、体から出てこようとしているようだ。

 

 

「なにが!? 何かが、私の体からァ────ッ!!?」

 

 

 そしてまるで吐くように口を開ける。しかし吐瀉物は出てこなかった。

 そこからまるで黒色の泥のような何かが出てくる。それは徐々に泥同士でくっつき合いながら人の形へとなっていく。

 

 

「クソが……! アド、モウスこじデ! ノットレタノニ……!」

 

 

 それは俺からすれば黒いモヤが集まって人の形を成しているようにしか見えない。

 だが吐き終えた叶多さんは眼鏡をちゃんとかけ直しながら、驚愕の表情(カオ)をする。

 

 

「あ、あれは……!?」

 

 

 そして叶多さんは驚愕から段々恐怖へと顔を染めていく。

 

 

「落ち着け。アレはおそらくジャンルは『地縛霊』だな」

 

 

『地縛霊』

 それは死んだ場所、強い思い出がある場所、なにかしらの未練を持った場所に留まる一種の悪霊。

 基本的に地縛霊はその場所から動けない代わりに、その場所では圧倒的なアドバンテージを得る。

 

 

「今回の件は俺なりの推測だが、まず叶多さんが解体場所の下見として此処へ来る。その時に地縛霊がアンタに取り憑いた」

 

 

「そしたら地縛霊の霊波を受け取ったのか、叶多さんが持っていた霊波を感知する道具が作動する。そして俺が今回の依頼を引き受けたってところかな」

 

 

 するとさらに皺を歪ませ、憎しみや殺意を露骨に出してくる悪霊。

 どうやらご名答のようだな。

 

 

「アンタはおそらく此処で死んでしまった憐れな霊、死んでしまったショックがあまりにも強すぎて未練が残った。そしたら『未練が残った場所』としての『地縛霊』へとなった。……合ってるか?」

 

 

「ワカッテルナラ、カラダヲヨコシヤガレェぇえッ!」

 

 

 口から涎をダラダラと流しながら、狂乱としながら俺へとゾンビのように襲う悪霊。

 俺は体を反らして回避する。

 

 

「チョコマカドォ゛────────ッ!!」

 

 

 すると周りにあった楽器がピアノのように宙に浮き、そして台風に巻き込まれたかのように、俺の周りを回り続ける。

 

 

「は、ハヤトさん! いったいどうしたら……!」

 

 

「逃げるぞッ!」

 

 

「はいィィィイ!?」

 

 

 いや事前に説明したよね?

 まだ物体のある付喪神ならまだしも、さすがに物体がない悪霊では俺は無価値のゴミとなる。

 だって俺が持ってきた武器ってリボルバーと弾丸だけだかね! あとリボルバー簡易修復セットのみ。

 

 

「安心しろ! 策はあるぜ!」

 

 

 だが手がない訳ではない。

 まずは俺らが避難しなければいけない。そうしないと巻き込まれるからだ。

 

 

「叶多さん! アイツは地縛霊ゆえにここの部屋から出れない筈だ! アンタはまだ悪霊に狙われていない、早く!」

 

 

「は、はいィー!」

 

 

 そしてみっともなく部屋から去る叶多さんに続いて俺も逃げる。

 楽器は最低限、合気道か回避で避けつつも出入口へと向かう。

 これなら……!

 

 

「ザゼルカァアッ!!!」

 

 

 すると壊れたピアノをまた出入口へと動かす悪霊。

 おかげさまで俺はぶっ飛ばされる挙げ句、出入口がピアノを無理やり押し込まれたように塞がってしまう。

 

 

 そして俺の左手は……あっ。

 

 

「オレサマガ! オレサマガァ、強インダァ────ッ!」

 

 

 そして悪霊自身が俺の左手をさらに引っ掻くように攻撃してくる。

 俺もお礼に股間狙いの蹴りを喰らわそうとするが、これがすり抜けられる。

 

 

 例えるならば一方的な攻撃ができる、尚かつ物体を操れるホログラムだと例えるべきか?

 俺の左手に巻かれた包帯は遂に肌が露出し、そして血が流れる。

 

 

 ()()()()()()()

 

 

「モットモットモットイタブッテヤルッッッ!」

 

 

 そうして俺への追撃をする悪霊。頭、腹、腕に痛みが伝達してくる。

 遂には壁すらも巻き添えて壊す一撃をもらってしまった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「は、ハヤトさーん!」

 

 

 情けない男の叫びが聞こえる中、俺は焦っていった。

 

 

「逃げるぞ、早く!」

 

 

 俺はとにかく逃げる。叶多さんを抱き抱え、体力が続く限り走る。

 

 

「ハヤトさん!?」

 

 

「やっちまった……俺としたことがッ! そういえばスマホは!? 早く確認を!」

 

 

 戸惑いながらもスマホを手慣れた手つきで作動させる叶多さん。

 不味い不味い不味いィッ!!

 

 

「クソッタレが……ッ!」

 

 

 俺は古びた廊下の角を曲がる。

 

 

「ッ!!」 

 

 

 そこは竹林だった。

 目の前に続く整理された野道、両側には広がる黄緑色の竹、その竹は天高くと伸びている。

 延々と続く野道の先は俺にもどこへと続いているのか分かんない。

 

 

 これで2()()()なのに……。

 

 

「は、はハヤトさん……」

 

 

 すると青ざめた叶多さんが、ギギギッと油が切れたブリキ人形のように首を動かした。

 俺は目だけ叶多さんを方へと向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマホには『圏外』と写し出していた。

 

 

「走れッ!」

 

 

 俺は自分に向けて鼓舞するように言う。

 

 

「走れ走れ走れ走れ走れェッ!」

 

 

 俺が途方もない野道をひたすら走る。

 肝臓辺りが痛くなり、心臓の動機がしっかり感じるほどに強く早く打つ。

 足裏が段々痛みが消えてきた。呼吸もあんまり苦しくなくなった。これがゾーンなのか?

 

 

 ────あなたさま♡

 

 

 声が聞こえた。

 脳が震えるようほどに甘美な女性の声が。

 

 

「走れ走れ走れ走れ走れッ!!!」

 

 

 俺は負けずに叫ぶ。

 そうしないと飲み込まれそうな気がするからだ。

 

 

 ────そんなに慌てちゃって……大丈夫。此処は安心だから。

 

 

 耳を塞ぎたい。そう思うが右手には得物、左手には叶多さんで塞がっていた。

 

 

 すると突如、白くて消えそうな霧が辺り一面から出てきた。

 それは俺を包み込むように、段々俺の視界が白く染まってきた。

 

 

 ────絶対に逃がさない。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと一緒だからね♡

 

 

 叫ぶ暇すらない。

 霧が強まると比例して女性の声がよりはっきりと鮮明に頭に響いてくる。

 

 

 ────ズット一緒ダカラネ♡

 

 

 もう濃霧よりも白くて濃い霧が、俺を包み込む。

 それは子どもを包容する聖母のように優しくて落ち着く安心感を与えてくれる。

 此度の戦闘によって疲れはてた傷だらけの体を癒やしてくれるような、甘い匂いがする柔らかい羽毛布団に包まれたかのような錯覚に陥る。

 

 

 しかし帰って来れなくなる。俺は確信している。

 

 

 俺は一か八かの思いで踏み込んでは跳ぶ。

 体力が無い、霧で見えない視界、限界を迎えた精神を考慮した上の最後の手段。

 

 

「勝利を我が手にィィイッ!!!」

 

 

 俺は僅か4.08秒間、空を飛んだ。

 

 

 ────今回はムリね。でも恋する乙女は諦め悪いから。バイバイ、愛しのあなたさま♡

 

 

 そんな残念そうな声を機に、女性の声も霧もなくなっていた。

 俺らは黒塗りの高級車、廃屋の外へいた。

 

 

 た、助かったのか……。俺は腰を抜かしたように座った。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 その後はもう一度叶多さんと廃屋へ確認しに行ったが、特になんもなく終わった。

 例の悪霊、地縛霊は部屋どころか廃屋の何処にも居なかった。

 

 

 まるで誰かに消されたかのように、影も形もなかった。

 

 

 今日は遅いからまた後日と、黒塗りの高級車で事務所まで送ってもらい、そうして叶多さんと別れた。

 

 

 俺は自分の左手を見る。そして溜め息をつく。

 

 

 拝啓神様へ。どうしてただのガンマンを物理が効かない霊がいる世界に転生させたのでしょうか?

 

 

 そんな何度目か忘れるほどに思った疑問を胸に閉まって、俺はベッドの上で意識を手放した。




 主人公の格好のイメージはデュエマの闇落ちしたジョニー·ザ·ジョニーです。


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