第四回ヒヨリミコロシアム企画投稿作品

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Born from blood

なにが私を飢えさせる。

誰が私を震わせる。

 

 

目には見えぬものが、私を包む。

例えるのならばそれは、母が赤子を宥めるような仕草ではなく。

幼い子供が綺麗な石を見つけて、好奇心で拾い上げるような。

無垢で、純真で、色のない仕草。

どうしようもなく抗いようのない事柄の内側に私はいた。

 

分かる。

分かるよ。

 

私は死ぬ。

 

そう覚悟し、瞳を閉じた刹那。

 

扁桃に似た頭部、網目状の骨格から剥き出しとなった無数の目玉が、私を選別するように見つめていた。

 

その瞳の一つ一つが、私を射殺すよりも早く。

握るその手に圧し潰される必要もなく。

 

私はとうに、イカれていたのだ。

 

 

 

 

我ら血に依りて

かの地に迷い

暁を乞う

 

我ら血より出でて

彼の智を仰ぎ

赤月を追う

 

故に、狩人

 

 

 

 

幾度となく、死を体感した。

獣に腹を食い破られた。

群衆に囲われ、身体を切り刻まれた。

巨人に圧し潰され、斧に真っ二つにされ、機関銃に撃ち抜かれ、杭に貫かれ――

幾度となく、灯りの下で目を醒ます。

吐き気を催すほどに身体は青く白く、それでもなお、ヒトの形を保っている。

 

 

群衆は生に飢えている。

獣は血肉に飢えている。

少女は両親を求める。

聖女は祈り、叫び、猛き智は瞳を覆う。

目を蒐集する老婆、脳を啜る者、蛇頭、鐘を鳴らす女、宇宙人、ほおずき。

そして狩人はいつしか、狩人を求める。

 

おぞましい。

この街はなにもかもが狂っている。まるで理解が及ばない。

おおよそヒトの心と呼べるべきものが存在しない。

 

 

それなのにどうしてだろうか。

この世界が嫌いになれない。

 

 

 

 

――気がつけば、歩みを進めていた。

一体、どうして、これほどまでに。

私を突き動かすものはなんだ。

あの人形――女に狂わされたか。

それならばどれほど幸せだっただろうか。

 

不思議と笑みがこぼれる。

 

 

分かる。

分かっているよ。

 

誰に語りかけるでもなく呟く。

 

そんなありきたりな幸せが、この夜にあってたまるか。

 

 

幾度となくこの土を踏んだ。

幾度となくこの匂いを嗅いだ。

 

焼けた草木。

土と、屍肉。

 

銃を持つ手が、引き金にかけた指が震える。

 

ひとつ、

 

ふたつ、

 

みっつ

 

 

踏みしめた足が土をなじるよりも先に血錆びた爪牙が閃く。

閃光が私を裂くよりも早く、引き金を引き、獣の脳天を撃ち抜く。

轟音が瞬閃をかき消した。稲光よりも疾く雷鳴が迸ったのだ。

脳天をぶち抜かれた獣は仰け反り、青ざめた血の空を見上げる。

 

雷さまがへそを取りに来るよ。

 

そう茶化す母の声が脳裏をよぎる。今の獣の在り様がまさにそれだ。

もっとも、私は雷さまではない。

獣を狩る、狩人だ。

 

へそを貫き、その内にあるものを思い切り引き抜く。

 

熟成された酒にも似た芳醇な匂いが噴き出し、それに思わず酔いしれる。

私の渇きを潤すような真紅の閃光が迸りが、狩り装束を紅く染め上げる。

生命の秘密が、神秘が、私の傍で音を立てて跳ね回る。

僅かな余韻の後に、握りしめた臓物を見つめ、精を吐き捨てた直後のような歪な多幸感と憎悪をとともに投げ捨てた。

 

分かるよ。

よく分かる。

私はただ、この人差し指をかけた引き金を引きたくて仕方がないのだ。

右手に握る鉈を振り回し、肉を削ぎ、骨を断つあの感覚が。

ワインのコルクを抜くように臓物を引き抜き、溢れ出す濃厚な匂いに酔いしれたい。

あたたかくもつめたい飛沫を全身に浴び、血の遺志を飲み干す瞬間、刹那、玉響!

 

 

願わくばこの、獣狩りの夜が。

青ざめた血の空が、永遠に続かんことを。

 

 

聖堂街の一角。今ならば見える。

尖塔にへばりつき、狩人を選別しては狂わせる者。

上位なる者。

見てくれは蜘蛛の異形のようであったが、似ているだけでそうではない。

まず膨れているのは腹ではなく扁桃のような頭部だ。

剥き出しの脊髄のような頼りない胴から、七本の腕と、二本の足。

そして何より目を見張るのはその巨体。巨人を見たことはあるが、それよりもまた大きい。

 

ああ、きっとそうだ。

この鉈でお前の生きる意味をずたずたに切り裂いてやる。

この水銀の弾丸でお前の目玉のすべてを潰してやる。

 

そうして、意思が折れ、頭を垂れた瞬間

網目状の骨格の隙間から右手をねじ込んで、中のものを抉り出す。

お前の血は何色だ?

どんな匂いがする?

どれだけ流れ続け、どれほどで渇く?

 

あれならばより一層長く、激しい血の雨を降らせてくれるだろう。

 

 

 

 

我ら血によって

人となり

人を超え

また人を失う

 

 


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