ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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トーマスの秘密

実は女の子への耐性がそこまでない。別の世界では適切な距離を保つ傭兵ばかりだったので問題なかったのだが、年上で美人な人と話すと、結構どもる。
アスナとミトは別に問題ないらしい。悠那も姉として見てるから問題にはならない。


10.裏切り者には追放を

 ユージーンが去った後、俺達は会談場の中央で、憶測混じりの成り行きを説明した。サクヤとアリシャ・ルーを始めとする両種族の幹部達は話を聞き入っていたが、話を聞き終えると大きな溜め息を吐いた。

 

「……なるほどな」

 

「なるほどね」

 

「大団長帰れ」

 

 ボケをかましながらも話は進む。ここ何ヵ月か、シグルドとやらが苛立っていたこと、独裁者と見られることを恐れてしまい、シグルドを諌められなかったことなどをサクヤは語った。

 

「へー、領主も大変なんだなぁ」

 

「「「滅茶苦茶どうでもよさそう」」」

 

「他人事だしねぇ。ま、崩壊したらしたで口実ができるから楽しそうではあるけど」

 

 ダークサイドっぽいことを言いながら、それで? と話の続きを促す。

 

「彼は多分、サラマンダーに勢力的に負けていることが許せなかったんだろう」

 

「んー……それがどうしてスパイ行為に繋がるのか、コレガワカラナイ」

 

「トーマスは知らないか。噂があるんだ。次のアプデの《アップデート五・〇》で『転生システム』が実装されるって」

 

 ふーん、転生ねぇ……確実に代償を伴うタイプでしょ、それ。泉に願って、片眼を失うとかそんな感じで。あとはアイテム全てロストとか……考えられるデメリットは多い。

 

「じゃあ、シグルドがスパイをしてたのは……」

 

「モーティマーに乗せられたんだろうな。領主の首を差し出せば、サラマンダーに転生させると。だが、転生には膨大な額のユルドが必要らしいからな……」

 

「金払って転生とか現金な転生だなぁ。……運命三姉妹は守銭奴だった……?」

 

 他人事のように呟くと、小さく笑いが起こる。

 

「ま、んなことはいいんだわ。俺個人としては世界樹の碑文に興味があるね」

 

「世界樹の碑文?」

 

 おや、皆あんまりルーン文字読めない感じか。やれやれ……日本人ゲーマーたるもの、ルーン文字、古ノルド語、ギリシャ語、ラテン語、モールス信号は必修科目だろうに。俺は両親の影響だけど。

 

「色んな場所にある石碑だよ。スイルベーンにもあったぞ。ルグルーにも」

 

「マジかよトーの字」

 

「……まさか、誰も見てないの?」

 

 周囲を見渡してみると、全員が目を逸らした。嘘でしょ……キリトまで見てないとか、皆この世界の歴史に興味なさすぎ……? 

 

「そ、それでなんて書いてあったのかな?」

 

「話逸らしたな領主さん。……まぁいいや。スイルベーンにあった石碑は街の由来だったよ。ルグルーのは……不思議なことが書いてあった」

 

「不思議なこと?」

 

「うん。……『古き妖精の最後の王は、約定を交わした。遥か昔、空へと消えた鉄の城。その封印を、約束の日まで守ると。九つの種族集いし時、王は姿を現さん』」

 

 よく分からないけど、グランドクエストのことなんだと思う。凄いね、このゲーム。クリアのヒントが色んなところに隠されてるんだから。

 

「末尾にも何か書いてたけど、掠れて読めなかった……って、皆どうしたの?」

 

 なんだか皆が疲れたような顔してるんだけど……

 

「つまり……我々の小競り合いの原因の上位種アルフは……」

 

「妖精王のミスリード。約束を守るために嘘を流したんだろうねぇ。やりおる」

 

 憶測でしかないが、一考の余地はあるだろう。

 

「グランドクエストがクリアできないわけだ……妖精王の嘘を見破り、九つの種族が手を合わせねば……」

 

「本来のグランドクエストが出現しないなんてネ……もう、また騙されるところだったヨ!」

 

「騙して悪いが、をここでも味わうとはな……デザイナーは嫌な性格してるんだろうなぁ!」

 

 殺しに来ないだけマシでしょ。……あ、いやでも最終的には殺されるんだから、どっちにしろ同じなのか。やはり傭兵稼業をやっててよかった! 

 キリトの苦笑混じりの発言に誰もが同意して笑いが起こる中、サクヤが笑みを消して、一瞬瞼を閉じる。すぐに開いた深緑色の双眸は冴え冴えとした光を放っていた。……うん、為政者って感じだ。

 

「ルー、確か闇魔法のスキルを上げていたな?」

 

「うん、上げてるヨ」

 

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「月光鏡……? 月光……? ────────ああ、ずっと……ずっと側に居てくれたのか……」

 

「誰か狩人連れてこい。獣がいるぞ」

 

 周回は終わらぬ。

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長くもたないヨ」

 

「構わない。すぐ終わる」

 

 アリシャ・ルーが一歩下がって詠唱を開始。へー、闇魔法ってあれなんだな……イントネーションが古ノルド語に近いんだ。光魔法も古ノルド語だったけど、他の属性魔法はラテン語とかイギリス英語に近かったし、古い魔法なのかな? 

 詠唱が完成すると、たちまち周囲が暗くなり、どこからともなく一筋の月光が降り注ぐ。

 光の筋は金色の液体となり、やがて円形の鏡を生み出す。これが、闇魔法の月光鏡……なんだか幻想的。

 

「あ……」

 

 リーファが小さく息を漏らす。鏡に映っているのは恐らく領主館なのだろう。そしてそこに映っていたのは────

 

「あ、俺のこと馬鹿にしてきたやつ」

 

 その呟きが聞こえたのかは分からないが、小さく溜め息を吐いたサクヤが琴のような声で呼びかける。

 

「シグルド」

 

 途端に男は目を開き、バネ仕掛けのように起き上がった。サクヤと目が合ったのか、口元を強張らせていた。

 

「サ……サクヤ……!?」

 

「ああ、そうだ。残念ながら生きている」

 

「なぜ……いや、会議はどうなった?」

 

「無事に終わりそうだ。調印式の他にも、有用な情報も手に入れた。……ああ、そういえばユージーン将軍が君によろしくと言っていたよ」

 

 言い逃れができないくらい、シグルドという男の表情が歪んだ。いやー、面白くなってきましたなぁ。まるで逆◯裁判みたいだぁ……

 言葉を探すように視線を泳がせていたシグルドは、その視線に俺達を捉えた。

 

「貴様は……!?」

 

「ドーモ、シグルド=サン」

 

 ふざけて挨拶をしてやると、状況を悟ったのか猛々しく歯を剥き出しにする。

 

「……無能なトカゲ共め……」

 

「無能はお前だと思うんですけど(名推理)」

 

「お、そうだな(肯定ペンギン三号)」

 

 俺とキリトが漫才をやっているのが不快だったのか、青筋を立てるシグルド。

 

「貴様……腕なし風情が……!」

 

「腕なしにボロ負けしたやつがほざきよる。あと、てめぇのID暗記したからな。運営に言って垢BANさせてやるわ」

 

「待ってくれるかなトーマス君。その前に私が制裁を下す」

 

 む、謝罪をしてくれた礼儀正しいモラルある人に頼まれては仕方があるまい。やつを終わらせるのは最後にしてやる。

 

「何をするつもりだ? 懲罰金か? 執政部からの追放か?」

 

「いや、シルフでいるのが耐えられないようだから、それを叶えてやる」

 

「な、何……?」

 

 サクヤが左手を振ると、巨大なシステムメニューが現れた。もしかして、領主専用のシステムウィンドウとか、そんな感じなのかな? 

 彼女が一枚のタブを取り出して素早く指を走らせると、シグルドの前に青いウィンドウが出現。それと同時にシグルドが血相を変えて立ち上がった。

 

「貴様ッ……! この俺を、追放だと!?」

 

「そうだ。シグルド、君はやりすぎたんだ。障がいを持った者への差別的発言は種族以前に、人間として恥ずべき行為。レネゲイドとして彷徨うといい」

 

「う……訴えるぞ! 権力の不当行使でGMに訴えてやる!」

 

「その前に俺が訴えるからなてめぇ。マジで覚えてろよ社会的に終わらせてやるからなてめぇ」

 

 俺を馬鹿にしたのはいい。許さねぇけど。だが、それ以上に俺以外の人を馬鹿にしたのは絶対許さねぇ。

 

 腕なしになっても、父さんと母さんは愛してくれた。キリトは────和人はそれでも「お前、無茶しすぎだって」と苦笑しながらも受け入れてくれた。和人のご家族も、近所の人達も、重村一家や後沢一家も、何かと心配されてはいるけど受け入れてくれた。

 

 こいつは、そんな優しい人達すら侮辱した。絶対許さねぇからなお前。逃がさねぇぞ。

 

「法廷で会おう、シグ某」

 

 ゲームの世界だからと言って、訴えられないと思うなよ貴様。こっちはいつでも録音してるんだよ。

 シグルドが何かを喚こうとしていたが、サクヤがタブに触れると同時に鏡からその姿が消えた。

 

「……私の判断が間違っていたのかは、次の領主投票で分かる。ともかく、礼を言うよリーファ。来てくれてありがとう。それにアリシャ、シルフの内紛に巻き込んでしまいすまなかった」

 

「生きてれば結果おーらいだヨ!」

 

「そうか。……トーマス君、改めて謝罪を。すまなかった」

 

「別にいいよ。サクヤが謝ることじゃないでしょ。償いはシグルドに法的にさせるし」

 

 明日、裁判所の仮想課に駆け込むつもりだ。

 

「あたしも、皆も何もしてないもの。お礼ならキリト君とトーマス君にどうぞ」

 

「ああ、そうだったな…………ずっと気になっていたが、君達二人は一体……」

 

 サクヤとアリシャ・ルーが改めて疑問符を浮かべる。キリトのことも何者なのか知らなかったのか。レネゲイドとでも思ってたのかな。

 

「んじゃ改めて……ハロー皆さん! いつでもどこでも現れる! 助言者暴走機関車トーマスだよ!」

 

「んで、俺が一応ブレーキ役兼常識人枠のキリトだ」

 

「貴様に我がアクセル止められるものか! そも、我にブレーキなど有らず!」

 

「廃棄しろそんな列車!」

 

「「というわけで、どうも、キリトーマスチャンネルですよろしくどうぞ」」

 

「「「もっと分からない!!」」」

 

 あらそう……一番分かりやすいと思ったんだけど、そんなことはなかったのね……それは残念。

 

「ちなみに俺は事実だけど、キリト大使発言は嘘ね」

 

「な────……」

 

「「イエーイ、騙されたー!」」

 

 ニヤリと笑ってハイタッチをした俺とキリトに向けて、サクヤとアリシャ・ルーは絶句した。

 

「無茶な作戦を思い付くものだ……混成だったのもただパーティーを組んでいただけ……あの状況で大法螺を吹くとは……」

 

「手札がショボい時は強欲の壺か強欲で謙虚な壺を使う主義なんだ」

 

「とりあえずデッキアウトさせます。または消し飛ばします」

 

「ニビルジャガーノートは許さねぇ……!」

 

 悪びれもしない俺とキリトに対して、アスナもミトもクラインもリーファも呆れている。騙されたやつが悪いんだよ、この世界じゃあな。

 

「────おーうそつきくんにしては、二人とも随分強いよネ? 知ってる? さっきのユージーン将軍はALO最強って言われてるんだヨ。それに勝っちゃうなんて……スプリガンとプーカの秘密兵器、だったりするのかな?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべると、アリシャ・ルーが俺達の顔を覗き込んだ。それに対する俺達の答えは決まっていた。

 

「まさか。別の世界で【山猫の英雄】なんて御大層な名前で呼ばれてた、ただの傭兵さ」

 

「同じく【人類種の天敵】なんて呼ばれてた、ただの傭兵ですドーモ、領主=サン」

 

「……ぷっ。にゃはははは!」

 

 にんまり笑顔の俺達の答えにひとしきり笑った彼女は、俺達の手を握ってコケティッシュな流し目を乗せる。

 

「まさか【黒い鳥】がこんなところにいるとはネ」

 

「ぬ? ……ああ!?」

 

「おん? ……そのエンブレム!?」

 

 首に着けていた鈴に刻まれていたエンブレムは、ホワイトグリントのエンブレムによく似ていた。ま、まさかこの人、ラインアークにいたホワイトグリント二号機の人か!? 

 

「傭兵のよしみでキミ達────ケットシー領で傭兵やらない? 三食おやつに昼寝つきだヨ?」

 

 ええ……? アスナ、ミト、リーファ、クライン助けて。傭兵のよしみ発動しちゃう。闘争求めてる人に着いていきたくなっちゃう。

 

 目線で助けを求めると、女性陣からは冷たい視線が突き刺さり、クラインからは羨ましそうな視線を向けられる。ダメだ、救援は望めねぇ。

 

 なんとか抜け出そうと言葉を選んでいると────

 

「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ」

 

 サクヤのどこか艶っぽい声が。着流しの袖が、後ろからするりと俺達の腕に絡み付いた。アリシャ・ルー、負けじと俺の手を引かないでくださいます? 

 

「二人はもともとシルフの救援に来たんだ。優先交渉権はこっちにあると思うな。キリト君、トーマス君、どうかな、個人的興味もあるので礼と謝罪も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」

 

「「未成年なんですけどぉ!」」

 

 くそう、俺もキリトも美人耐性がないんだよ! 彼女いない歴=年齢だから! 悠那お姉ちゃん? 悠那お姉ちゃんはお姉ちゃんだぞ? というかもうやめて! 俺達のライフはもうゼロよ! あと、女性陣の視線が絶対零度突破して零地点突破の炎が出てる! 

 

「あーっ、ずるいヨ、サクヤちゃん。色仕掛けはんたーい」

 

「人のこと言えた義理か! あざとくしすぎだお前は!」

 

 前門のアリシャ・ルー後門のサクヤか……うーむ、助かる未来が見えぬ。……って、なんだこのアイコン────

 

「ミ゜」

 

「「あ」」

 

 確認するよりも前に、俺は世界から弾き出された。

 

「……はっ!?」

 

 いつも以上に早い鼓動を感じながら起き上がると、暗闇に覆われている現実世界が俺を迎える。……もしや、バイタルの異常サインが出たのか? バトルをやっているわけじゃないのに、心拍数が跳ね上がったから。

 

「……二、三、五、七……」

 

 落ち着け、落ち着くんだ……素数と同時に和人とやらかした楽しいやらかしを思い出すんだ……

 

「十一……十三……フランクフルト大量生産祭り……十七、十九……バケツプリンアラモード……大きな壺のカンジャンセウ……ウシガエルの唐揚げ……海釣り二十四時間……二十九……」

 

 ひえっ、まだ右手に感触が残ってる……和人はログアウトしなかったのかな? ……うっ、柔らかかった……何がとは言わないけど……おかしいぞ……俺、ACBONWじゃ全然問題なかったのに……いや、そこまで街に出たりしてなかったな。

 

「ガウ?」

 

 心を落ち着けていると、ハティが俺の部屋に入ってきた。ベッドに乗り上げることなく、俺の前に座ったハティを撫でる。

 

「あ、やぁハティ。フェンリーとスコルは?」

 

「ウルォン」

 

「え? ……うん、大丈夫だよ? ちょっとビックリしただけだから」

 

 なんとなくだけど、フェンリー、スコル、ハティの言いたいことを理解できるので、ハティが俺のことを心配してくれたことを察する。

 

「ありがとね、ハティ。……あ、三時前には戻ってくるから、それまで待ってて」

 

「……ガウ」

 

 了承したのか、ハティが俺のベッドに乗り上がって眠りの体勢になった。……これ、起きたらフェンリーとスコルもいる感じだ。

 

「……ふぅ────────リンクスタート」

 

 そう思いながら俺はもう一度妖精の世界へと飛び込んだ。

 

 

 

 

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