ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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トーマスの秘密

実はわりと男の子な思考。彼女を作りたいと考えてはいるものの、受け入れてくれる人が見つからない。
好みのタイプはまさかの年上。どもるくせに、年上とお付き合いしたいとか考えている。キリトにそのことを伝えたら

「まぁ、お前危なっかしいから、手綱を引いてくれる人……というか、無茶できないようにしてくれる人が必要だと思うから、いいんじゃないか? ……年上の異性と話しただけでどもるのはあれだけど」

と言われた。両親がそこまで家にいないため、無意識に包容力のある愛情を求めているため、なのかもしれない。トーマスにそんな愛嬌ごあれば、の話だが。


11.世界樹

 あの後、戻ってきた俺は皆から心配されながらも旅を進めた。……まぁ、アルヴヘイムからヨツンヘイムに落ちたり、なんだかヘンテコな生物とE.Tごっこしたりとトラブルはあったけど……とにかく。

 

「「「着いたぁあああ!!」」」

 

 世界樹の庇護を受ける最大の都市、央都アルン。

 そこに俺達は辿り着いたのだ。

 

「長かった……今何時?」

 

「二時半。早く宿取って解散しよう」

 

 積層都市が縦横に建ち並ぶ夜景は美しく、幻想的だ。

 古代遺跡めいた石造りの建築物、黄色いかがり火や青い魔法光、桃色の鉱物灯が列を成して瞬いている。その明かりの下を歩いているのは、俺達のような混成パーティーの往来が激しかった。九つの種族が平等に揃っている街は恐らくアルンくらいだろう。うーむ、圧巻。

 

 そして、濃紺の夜空を枝葉の形にくっきりと切り取る影が見えた。

 

「……あれが、世界樹か」

 

 巨大な樹木だ。あれが妖精の世界に加護を与える巨木……俺達の最終目標……か。

 巨大都市の喧騒に体を浸し続けていると、クラインが口を開く。

 

「それよりトーの字よう、体は大丈夫なのか?」

 

「え? ああ、うん。平気」

 

 強制ログアウトがあったからか、心配してくれているクラインに笑みを返し、そう答える。あの時の強制ログアウトは戦闘行為を行っていないのに心拍数が上がったことに原因があった。安全を謳うアミュスフィアと安全を謳うALO、隙がないよね。

 

「そうか? 気分悪くなったら言えよ?」

 

「大丈夫だって。ほら、早く宿取って解散しようよ」

 

「だね。確かそろそろ────」

 

 アスナが何かを言うのと同時に、パイプオルガンのような重厚なサウンドが大音量で響き渡った。午前四時から週に一度の定期メンテナンスを行うため、サーバーがクローズされるらしい。別の世界でもそういうのあったな。

 

「メンテナンスっていつまで?」

 

「今日の午後三時まで」

 

「ならそれまでは昼寝する────いやダメだわ。お姉ちゃんに呼ばれてるわチクショウ」

 

「俺は仲間に連絡だな。ケットシーとレプラコーンとノームの知り合いならいるから」

 

 へー、意外と交流あるんだなキリト。リアルじゃ俺と同じくらいのぼっちのくせに。……あ、いやでもキリトはオタク友達が結構いるわ。いかん、雨が降ってきた。

 

「んじゃ、宿へ行こう! レッツゴー宿屋」

 

「比較的安くて広い宿あるし、そこで解散ね」

 

 夜更かしには慣れているが、眠いものは眠い。これから散歩もあるし、と欠伸を堪えながら俺は宿へと足を運んだ。

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

「正気ですか悠那お姉様」

 

 薄く雪が残る重村家の庭で、悠那お姉ちゃんの話を聞いた俺は呆れた顔でそう呟く。

 眠気はフェンリー、スコル、ハティの散歩で吹っ飛んだし、悠那お姉ちゃんの言葉によって寝る気も失せた。

 

「本気だよ。瑞理君のことをプロデュースするんだ!」

 

「頭大丈夫ですか悠那お姉ちゃん」

 

「うん。瑞理君って歌上手だし、ビジュアルも人気出そうだし」

 

 そう、悠那お姉ちゃんが俺のことを歌手としてプロデュースするというのだ。VR&ARシンガーのユナ、その弟として。正気か? ……ああ、正気らしいな……いい笑顔の鋭二さんが企画書をくれた。

 

「俺のこと辱しめて楽しいですか鋭二さん……!」

 

「ああ、楽しいね。その顔が見たかったァ……! 恥辱に耐えるその顔が! ────真面目な話、俺も賛成してる」

 

「うわぁ!? いきなり落ち着くな!」

 

「どの口が言うんだ? ……ところで瑞理、モンハンのアプデ見たか?」

 

「見た。……渾沌マガラね……」

 

 数枚に纏められた企画書に目を通しながら受け答えを行う。仮想世界のゲームが台頭してきている中でも、未だにSw◯tchやPSシリーズは人気だ。

 

 ……マジでやる気かこの人達、俺はやる気そこまでないんだけど……やると言ったらやる人だからやるんだろうなぁ、悠那お姉ちゃん。目がマジだし。……さて、この件は一度持ち帰るとして、それよりも。

 

「重村伯父さん、弁護士の紹介の話なんですけど……」

 

「ん? ああ、例の件だね。いいとも。弟も怒り狂っていたし、徹底的にやりなさい」

 

 俺は未成年だから色々不便があるが、証拠は押さえている。あの野郎、その取り巻きとかサラマンダーの連中のSNSアカウントらしきものを見つけた時、俺のアバターが晒されていたので確定だ。逃がさねぇからな。

 

「ざっくりと話は説明しておいたが、彼は勝てると言っていたよ。証拠もあるんだろう?」

 

「スクショ、IDの印刷、録音データの複製、ちゃんとやりました」

 

「よろしい。データは私が彼に渡しておく。瑞理君、君はその日の準備をしながら過ごすこと。しかし、友達と過ごす時間を切り捨ててはいけない」

 

「分かってます。今日も約束がありますから」

 

 今日の午後、俺は世界樹という最強のダンジョンを攻略する。九つの種族が揃って、妖精王に訣別を告げるのだ。楽しみで仕方がない。

 

「私と鋭二君は仕事があるから行けないけど……頑張ってね!」

 

「もちろん。楽しみだよ、本当に」

 

 ギリギリ、と機械仕掛けの左腕を握り締めて、俺は立ち上がる。

 

「じゃ、そろそろ帰りますわ。また来ます」

 

「また来なさい」

 

「またね、瑞理君! ちゃんと考えてきてね、その企画書の話!」

 

 誤魔化せないかぁ……

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 世界樹の下で、キリト達はトーマスを待っていた。同じ時間に接続したはずなのに、トーマスだけが来ていないのだ。

 

「……遅いな、トーの字のやつ」

 

「トーマスは時間を守るやつだからな……どうしたんだか……」

 

 今集ったメンバーの中で一番トーマスを理解しているキリトが心配そうに呟く。

 キリトは、和人は、トーマス────遠間瑞理がどうして腕を失ったのかを知っている。あの日も、約束の時間になっても来なかったことを心配してスマホを起動して、目を疑った。

 

『少年が小さな女の子を庇ってトラックの荷物に直撃、左腕が圧壊。出血が多く、意識不明』なんて生中継が飛び込んできたのだから。その何時間後にいつも通りのヘラヘラした笑い声と共に電話がかかってきて、逆に引いたが。

 

 とにかく、キリトはそれを知っているから、トーマスが来ないことが心配なのである。

 キリトがソワソワしていると、他のメンバーも嫌な胸騒ぎを感じ、不安げに待っていると、土煙を上げながら走ってくる影を発見した。間違いなくトーマスである。

 

「……はぁ、なんだ、何も────?」

 

「よかった、何もなかった……ってあれ?」

 

「えーと……?」

 

「? リーファちゃん、皆さんもどうしたんですか?」

 

 全員の反応に首をかしげるケットシーの少女、アルンで合流したシリカ。

 

「おいおい、俺の目の錯覚か?」

 

「いいえ、私も見える」

 

「えーと、アスナ? あたし、アスナから隻腕って聞いてたんだけど……」

 

「俺もそう聞いていた。……だが、あれは……」

 

 同じく合流組のリズベットとエギルも合わせて、近付いてくるそれに向けて、口を開いた。

 

「「「腕、あるな」」」

 

「「「腕、あるわね」」」

 

「メンテナンスで左腕生えてきた! 感覚全ッ然ないけど!」

 

 笑いながら走ってきたトーマスがブレーキをかけて止まると、キリト達の前で気持ちのいい笑顔を見せるトーマス。その左腕は今までのプラプラ状態の袖があるのではなく、ルーン文字のような妙な刺青が施された左腕があった。

 

「いやー、左腕あるっていいねぇ。義手みたいな感じで面白」

 

「感覚、ないのか? バグじゃねぇの?」

 

「あー……あるにはあるんだよ。けど、義手みたいな感じ……って言っても伝わらないか! とにかく動くよ」

 

 トーマスは基本的に義手であることを隠して動画を投稿している。人工皮膚と独学でやれてしまった特殊メイクも利用して、本物の手のように見せていたのだ。だから動画のリスナーのごく一部しかトーマスの左腕が義手であることを知らない。なお、学校では面倒なのでそんなことはしないが。

 

 ヘラヘラと自分が義手であることを告げたトーマスに、誰もが彼に闇を感じた。その目が仄暗いものを宿しているように見えたからかもしれない。

 

「っと、初見の人が何人か……どーも、トーマスです。よろしくね」

 

「エギルだ。よろしくな」

 

「リズベットよ。リズでいいわ。よろしく」

 

「し、シリカ、です。よろしくお願いします!」

 

「エギルにリズにシリカ……OK、覚えた。よろしく!」

 

 順番に握手を交わしたトーマスは、酷く楽しそうな笑みを浮かべながら、キリトの隣に立つ。

 

「さてさて、行こうぜキリト。世界樹の中にさ」

 

「────ああ! 皆、準備はいいか!?」

 

 キリトがそう言えば、集まったメンバーは各々の武器を掲げて威勢のいい返事をする。これから向かうのは偽物のグランドクエストなどではなく、本物のグランドクエスト。等しくゲーマーであるこの九人、その誰もが興奮しないわけがなかった。

 

「これに勝って、俺達でMMOトゥデイの一面を飾ってやろう!」

 

「「「おー!!」」」

 

「……んじゃ、遅れてきたトーマス、ちょっと一言頼むよ」

 

 勇気が出るやつ、と指定したキリトを一瞥した後、トーマスは小さく息を吐いて声を上げる。

 

「……これから俺達は、この世界の歴史に名を残すことになる」

 

 耳に残る声で、トーマスは八人の戦士に語りかけた。

 

「妖精王に反旗を翻した愚か者として? あえなく敗れた敗北者として? ────────どちらでもない」

 

 いつものトーマスを知っている誰もが、そのギャップに困惑しながらも、背筋を伸ばしてしまう。それだけの凄味が、彼にはあった。

 

「妖精王と訣別した妖精として、名を刻む。勝者だ。勝者となってまた、ここに戻ってくる。誰一人、死ぬことなく。……目指すはパーフェクトゲーム! 九人全員、揃ってここに戻るぞ!」

 

 トーマスの演説を聞いた八人全員が頷き、一歩踏み出す。グランドクエストの入口が開き、九人の妖精を迎え入れた。

 ────視界が真っ白になり、視界が回復すると、彼らの視界の先に王座があった。その王座には、一振りの剣を携えた一人の妖精がいる。

 

「……あれが、妖精王オベイロン……」

 

 リーファが小さく呟くと同時に、金髪の妖精は目を開けて、トーマス達を見て笑う。

 

「ああ……僕の嘘がバレたのか……古のルーンを読めないように細工したのに、どこでバレたのやら」

 

「ヒントはルグルーにあったよ」

 

「ルグルー? ……ドワーフ共め、僕に隠れて何かをしてたのか……やれやれ、これだから世界ってのはままならない。そうは思わないかい、僕の可愛い妖精達」

 

 妖精王オベイロンという存在は、須郷伸行が操るアバターである。須郷は、封印を守り続ける妖精王オベイロンというキャラクターに成りきっていた。

 

「それで? 真実を知った君達は何をしに来たのかな? まさか、謁見なんて行儀のいいものじゃあ、ないんだろう?」

 

「妖精王オベイロン。お前を倒すために来た!」

 

 キリトの声に、オベイロンは笑う。

 

「ははは! 倒す! そうか、倒すのか! この僕を君達が?」

 

「ええ、そうよ。そして、あなたが封じていたものを私達が解放する!」

 

「ふぅん、随分と威勢がいい」

 

 オベイロンが黄金の剣を手に、立ち上がる。ルーン文字が刻まれた剣は鈴のような音を鳴らしながら光を放ち始め、神々しい気配を放ち始めた。

 

 妖精王オベイロン専用武器、《勝利の剣》。本来ならヴァン神族、豊穣の神フレイが持っているとされる剣を握るオベイロンは小さく笑みを浮かべて、戦闘形態へと移行する。

 

「……このまま話していても平行線だ」

 

「だろうね。あんたは秘密を守り続けたい。俺達はその秘密を暴いてしまいたい。平行線は確定してる」

 

「なら、道はもう一つだけだろう。来るといい、真実を求める妖精よ! 我が名は妖精王オベイロン! 貴様らに引導を渡す者なり!!」

 

 ボスらしく四本のHPバーが表示された瞬間、全員が戦闘態勢になる。

 

 妖精王オベイロンVS九人の妖精、ALO史上最大の戦闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




オリジナルクエスト

本物のグランドクエスト

妖精王オベイロンとの真剣勝負。滅茶苦茶強いけど、しっかり隙はある。
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