ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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トーマスの秘密

左腕の義手は高性能。黒をベースとした義手。


12.旅路は続くよどこまでも。

 妖精王オベイロンとの戦闘は、熾烈を極めた。オベイロンはシンプルな戦い方ゆえに強い。各属性を剣に纏わせる連続攻撃の数々は、まさに妖精の王の名にふさわしい戦いぶりであった。

 

「さぁ、これはどうかな?」

 

「! 全員後ろに飛べ!」

 

 キリトの号令がギリギリ間に合い、全員が後方へと飛ぶ。数コンマ後、詠唱を終えたオベイロンを中心に紫紺の波動が放たれる。誰も見たことがない魔法に目を疑っていると、得意気にオベイロンが笑う。

 

「重力魔法さ。古の魔法の一つ……詠唱が長いのと、射程が短いのがネックだがね」

 

「十分強いだろ、それ」

 

「まぁ、君達が当たれば一溜りもないだろうね」

 

「「ラダーンかよ」」

 

 どこかのデミゴッドの名前をぼやいたトーマスとキリトは、いい塩梅に強いボスを前に笑みを絶やさない。

 

「でもこのままじゃジリ貧だよ。マジックポーションもなくなってきた」

 

「ま、だろうね。序盤で喰らいすぎた」

 

 妖精王オベイロンの残りのHPは二本。このHPバーが半分を切ると、パターンが変わることは明らかだ。どんな姿になるのかは分からないし、どんな攻撃パターンが増えるのか分からない。分かることは、古の魔法を併用した剣での攻撃が追加されることのみ。

 

「さぁ、どうするんだい、反逆者諸君? 君達の敵はここにいるぞ?」

 

「野郎、余裕ぶりやがって!」

 

「落ち着けよクライン。……で、本当にどうする? アスナの言う通り、このままじゃ本当に押し切られるぞ」

 

 挑発に乗りかけるクラインを窘め、エギルがDPS回避タンクという属性もりもりの役目を演じているトーマスに問いかける。

 

「うーん、一応勝ち筋はあるけど……」

 

「あるのか?」

 

「あるよ。時間かかるけど」

 

 提案されたのはトーマスらしからない堅実な戦い方。回避と防御を優先して、一撃一撃を丁寧に当てることで攻略するというものだった。まさかの提案に聞いていたエギルとクラインが意外そうな表情を見せた。

 

「ゴリ押し大好きそうなトーマスからそんな提案が出るとはな」

 

「こう見えて俺、堅実バトルもできるんだよ?」

 

「意外だったぜ。トーの字はもっとこう……本能的に戦うもんだと思ってたからよ」

 

「勝率が高いならそれでもいいんだけどね。妖精王というだけあって、隙が少ない。確実に怯ませて、一歩ずつ丁寧に、ガンガン行こう」

 

 作戦会議が終わるのを優雅ながらも隙を見せずに待っていたオベイロンは、強者の笑みを浮かべる。

 

「作戦会議は終わったかい?」

 

「お前を倒すのに作戦なんかいらねぇよ」

 

「その威勢がどこまで続くか、楽しみだ!」

 

 黄金の光を放つ剣と、灼熱の刃が激突する。さすがの勝利の剣であっても、ムスペルヘイムで生み出された炎と何度もぶつかるのは負担になるらしく、オベイロンはできるだけ鍔迫り合いにならないように立ち回っていた。

 

「あたし達を忘れてもらっちゃ────」

 

「困ります! ピナ、バブルブレス!」

 

「くっ、小賢しい!」

 

 深緑色の羽を大きく振動させて、リズベットのメイスとシリカのテイムしたドラゴンの攻撃を吹き飛ばす。

 

「「どりゃああ!!」」

 

「ぜぇええいっ!!」

 

「ぐっ!? 舐めるな────!?」

 

 後ろから刀と両手斧に斬り付けられたオベイロンのHPが大きく減少する。だが、怯むことなく反撃しようとして、自分の体に何かが絡まっていることに気付いた。それは、ALOに存在するアイテムの中で最も強靭で、断ちにくい素材で作られたもの。神すら縛るであろう縄のレプリカ。

 

 誰もが使おうとしなかった外れ武器という不名誉な名前すら付けられた武器カテゴリ、鞭。

 

「グレイプニール・レプリカだと!?」

 

「「「「せーの!」」」」

 

「ぐおおおおおおっ!?」

 

 トーマス、キリト、アスナ、ミトが引っ張り、オベイロンが体勢を崩しながら近付いてくる。それに合わせて、獣のような咆哮を上げたトーマスが拳を振り上げた。

 

「ガルァアアアアアアアアッッ!!」

 

 拳がオベイロンの顔面に突き刺さり、ぶっ飛ぶ妖精王にキリトの剣が追撃。その背中を踏み台にして、アスナが頭上から見事な高速突き、ミトが鎌で胴体を斬り付けると同時に引き寄せる。引き寄せられた先に待っていたのは、右腕を炎に、左腕を霜に包まれながら、刃を構えるトーマス。

 

「これっ、で! どうだあぁあああ!!」

 

「グオアアアアッ!?」

 

 切り裂かれたオベイロンが絶叫し、HPバーを残り一本────それも一撃入れただけで撃破可能な領域まで削り取った。

 

「今だ! 全力で────!? いや、下がれ皆!」

 

 トーマスの絶叫に従って、全員がオベイロンから距離を取る。

 

「トーマス、どういうこと!? 今なら倒せるはずでしょ!?」

 

「いや、無理!」

 

「なんで!?」

 

「勘!」

 

 ただの勘で下がらせたのかと誰もが思った瞬間、妖精王オベイロンがとんでもない行動に走った。

 

「────────ああ、我が愛しきゲルズ。光の国へと旅立った愛しき君、我に勝利の輝きを与えたまえ!!」

 

 その言葉と共に、手に持っていた刃を心臓に突き立てたのだ。

 

「なぁッ……!?」

 

「自害、だと……!?」

 

「!? 待って! オベイロンの体が────!」

 

 妖精王オベイロンの体が溶け落ちて、新たな肉体へと変わっていく。深緑の羽や服は剥がれ落ち、無垢なる輝きを放つ銀の鎧へと変貌。妖精らしい美男の顔は、鎧と同じ銀色の兜によって隠された。

 

 剣は何本にも増え、彼の背中で円を描きながら回転している。

 

『この姿を見せるのは、いつぶりか……まぁいい。この一撃を以て、汝らへ引導を渡そう』

 

 右腕を天高く掲げれば、輝かしい勝利の剣が集い、螺旋を描く。

 

「おいおい……聞いてねぇぞこんなの!?」

 

「即死だよな、あれ……!?」

 

 嵐が生まれ、妖精王オベイロン────否、《虚神フレイ》最強の一撃が完成に近付いていく。あれを放たれれば最後、ここまで戦ってきた時間は無駄になる。だが、止める方法は残っていない。

 

「おや、何事かと思って来てみれば、面白いことになってるじゃないか」

 

 万事休すかと思った直後、フードを被った男が現れた。その声と服装に、トーマスは見覚えがあった。

 

「ロプト!?」

 

「やぁトーマス。まさか君とその仲間がアルヴヘイムの真実に辿り着くとはね。やるじゃないか」

 

 トーマスに《ソル・レムナント》と《マニ・レムナント》を贈った張本人────ヘラヘラと胡散臭い笑みを浮かべた青年ロプトは、トーマス達の視線を浴びながら楽しそうに口を開く。

 

「さて……虚像の神となった妖精王────いや、豊穣神フレイの残骸の彼の攻撃は間違いなく最強の一撃だ。残骸、死に損ないの神だとはいえ、神の文字通りの死力を尽くした一撃。君達には耐えることができない」

 

「じゃあどうすればいいの!?」

 

「そう焦るなよ、妖精の子。ちゃんと方法はある。君達九つの妖精の力を合わせれば、止められるはずさ」

 

 そう言ってロプトはルーンが刻まれた宝石を一人一人に渡す。ただ一人、トーマスだけには渡さずに。

 

「ロプト、俺は?」

 

「君は力の終点。プーカは妖精の力を歌にする。その歌こそが、あの死に損ないを鎮める力となるのさ」

 

「……レクイエム?」

 

「そうとも言うね。さ、時間がない。最後になるかもしれないから、何か聞きたいことはある? プーカ限定で聞いてあげよう」

 

 真剣な表情であろうロプトを見て、トーマスは問う。

 

「ロプト、あの日、俺がお前に会わなかったとして、協力はしたのか?」

 

「もちろん。僕は面白いことが大好きでね。偽りから解き放たれようとする妖精の子達に協力したとも。君達以外でも、ね」

 

「なるほど。……本当に、娯楽好きのトリックスターだよお前は。なぁ、ロキ?」

 

 ロプトという名前に引っ掛かっていたトーマスは、母親に電話した時に聞いたのだ。ロプトという人物が神話にいるのか、と。そして母から言われたのは、かの有名なトリックスターの名前。

 バレたらバレたで面白いと思っていたのか、はたまたバレると思っていなかったのか、ロプト────《稀代のトリックスター・ロキ》は心底楽しそうな笑い声を上げた。

 

「ハハハハハ! ああ、ああ! これだから面白いんだよこの世界は! 名前には辿り着けない呪いをかけていたというのに、好奇心旺盛な妖精は止まらない!!」

 

 ひとしきり笑ったロキは、指を鳴らして姿を消す。

 

『じゃあね妖精達! また会おう!! 生きていれば、だけどね!! ハハハハハ! アーハッハッハッハッ!!』

 

「────トーマス、時間がない! やってくれ!」

 

 ひきつった笑みを浮かべていたトーマスがキリトの声で再起動して、宝石を握る八人を見る。死んでもいいゲームではあるが、彼らは強い目でトーマスを見つめ返して頷いた。

 

「まさか俺の最初のライブがこんな絶体絶命な状況とはなぁ……! いいじゃん、楽しくなってきた!!」

 

 大胆不敵な笑みでトーマスは虚神フレイを見て、プーカの基本スキルで歌を紡いでいく。嵐に拮抗するようにして極彩色の光が歌となって形を成す。

 

 暖かな火はサラマンダー。

 爽やかな風はシルフ。

 豊かな土はノーム。

 淡い輝きを放つのはケットシー。

 鉄の音はレプラコーン。

 穏やかな水流はウンディーネ。

 命を生み出す彼らに寄り添う命の影と安寧の闇はスプリガンとインプ。

 

 そして────それらを束ねて紡ぐ、プーカ。祈りは歌として形になり、嵐を飲み込んでいく。やがて、極彩色の光は収束し、トーマスの歌声の余韻だけが広い空間を震わせた。

 

「どう、なったんだ……?」

 

「あ! 見て、あそこ!」

 

 リーファが指差した先には、灰となって消えかけている妖精王オベイロン────否、虚神フレイが共に消え去ろうとしている剣を鞘に納めて佇んでいた。

 

「見事、だ……妖精達」

 

「……俺達の勝ちだよ、妖精王」

 

「ああ、私の……完敗だよ……」

 

 悔しげで憎々しげな表情を浮かべながらも、オベイロンはどこか嬉しそうな声音で言葉を紡ぐ。

 

「私は……この世界を、守りたかった。約束を守り、あの城を隠すことで、子供達を、守れると……思っていた。小競り合いを起こしたとしても……彼らを繁栄させてみせる、と」

 

 だが、と妖精王は続ける。

 

「それは、違ったのだな……可能性を……私の可愛い妖精達はもう、守られるだけの存在では、なかったんだ……」

 

「……」

 

「それを証明してくれたのは、君達だ。九つの妖精が力を合わせて、証明してくれた」

 

 清々しい笑顔で、彼は告げた。

 

「私が消えれば、封印は消え去る。呪われた鋼鉄の城が、姿を現すはずだ」

 

「鋼鉄の城……それってまさか……!」

 

「君が……君達が、もし、あの城を征服できるというなら……君が例外だと、言うのなら……」

 

 フレイはニヤリと笑った。まるで、挑戦状を叩きつけるようにして、彼は言う。

 

「往け。止まるな。走り続けろ。……君達にはその権利と義務がある。────ああ、全く、ままならない。けれど、けれどね、中々どうして……悪くない人生だった!」

 

 最後の最後まで、彼は笑って灰となった。そしてその数秒後────壮大なファンファーレと共に《Congratulation!!》という表記がトーマス達の頭上に表示される。

 

「……終わった、のか……?」

 

「みたい、だね……」

 

 キリトの呟きにアスナが答える。それと同時に、キリトとトーマス以外のメンバーが全てを出しきったように倒れた。

 

「「「終わったぁ……!!」」」

 

 所要時間五十分、体感時間はその倍以上戦っていたように感じていた。

 

「つ、強かった……」

 

「さすが、グランドクエスト……って感じだったな……」

 

「でも、まだ鋼鉄の城とやらがあるのよね……」

 

 絶望のどん底に叩きつけるようなリズベットの発言に誰もが苦笑している中、トーマスはステンドグラスのような王の間を見上げている。

 

「……往け。止まるな。走り続けろ……か」

 

 フレイの言葉を脳に焼き付けたトーマスは、いつものように笑みを浮かべて炎と霜に覆われた拳を強く握った。

 

「ああ、やってやるよ。生き延びてやるさ。最後の最後まで……好きなように生きて、好きなように死んでやる」

 

 そう言ってから、

 

「皆ー、今度オフ会やりたいんだけど……それ以前にさ」

 

「「「ん?」」」

 

「これ、どうすりゃ消えると思う?」

 

「「「冷たいし熱い!?」」」

 

 ごうごうと燃える炎とキンキンに冷えた霜を纏った手を仲間に近付けるトーマス。ふざけているようで、わりと真面目に聞いてきているのだから質が悪い。

 

 ともかくとして、グランドクエストはクリアされた。後日公開されたMMOトゥデイでは、『グランドクエスト、遂に攻略! 少数精鋭の妖精達』という見出しで、九人のプレイヤーがやりきった感を全面に出した笑顔の集合写真が掲載された。

 

 

 

 

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