ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
よく飼い犬と一緒に寝ている。冬場は特に。電気代の節約のためらしい。
「
新しい映画か何かかな? トップガン的な。
ケーキを頬張りながら、動画の企画考案のために家に来ていた和人の話に耳を傾けていると、そんな名前が出てきた。
「ああ。GGO────ザスカーが発売した《ガンゲイル・オンライン》で現れたリアルPKプレイヤー……らしい。ザザさんっていただろ? リスナーの」
「うん」
「その人がSNSで拡散してたぞ。STRの高いキャラが襲われてるって注意喚起だとさ」
「ほへー……凄い物騒なやつもいたもんだねぇ……ザザさんの知り合いが殺された感じ?」
「多分な……」
始まりとしては、とあるプレイヤーが覆面のプレイヤーに撃たれた後、苦しむような動きをしてログアウトしたことらしい。どうやったのかは知らないけど、そんなことして何の意味があるのやら。
「で、なんでそいつを話題に?」
「いや、その……前に接触してきた人、いるだろ?」
「ん? あー……いたね。なんだっけ、菊一文字?」
「菊岡な?」
そうそう、その人。総務省の人だーって言ってたけど、フェンリー達がビックリするくらい威嚇して胡散臭かった人だ。
「その人がどうかした?」
「あいつが、またコンタクトを取ってきた。……死銃に接触して、真偽を確かめろって」
「受験生に何を求めてんだあの野郎」
思わず荒い言葉になってしまった。接触したいなら自分達で勝手にやれよ。俺と和人────一般人を巻き込もうとするんじゃねぇ。
「録音は?」
「抜かりなく」
ニヤリと笑って取り出されたのは、母さんが送ってきた高性能録音機。二つあったから、一つは和人に譲ってある。
「総務省及び仮想課への問い合わせは」
「さっきメールで。あとで電話もするつもりだ」
「言い争いとかには?」
「なってない。こっちが下手になってるように対応した。断りも入れてる」
「パーフェクトだ、和人」
「感謝の極み」
そもそもの話、あの野郎は本当に総務省の人間なのか? これで総務省から「菊岡という人物は総務省には在籍しておりません」なんて言われたら、いよいよだぞ。
「瑞理様、和人様、お茶を淹れました」
「あ、ありがとう。ウォークトーカー」
和人と菊岡への対策を考えていると、俺の部屋に人が入ってくる。
正確には人ではなく、アンドロイド? らしいが。これも両親が送ってきた代物。中々帰ってこれないから、彼女が親代わりとして接してほしいとか言ってた。父さんも母さんも俺をなんだと思ってるんだ……俺の親は父さんと母さんだけ。彼女は俺の家族……まぁ、お姉さん。そうありたい。
名前はウォークトーカー。最近台頭してきた家政婦ロボットの特殊個体……と言えばいいのだろうか、感情を持ち、一人の人間のように活動している。関節部分が球体となっていることを除けば、誰もが人間と間違えるだろう。
「何をお話になられていたのですか?」
「ん? 最近不審者出てきたらしいよって話。ウォークトーカーも気を付けてよ?」
「かしこまりました」
銀色の髪を揺らし、両親のように白い肌を少しだけ晒しているウォークトーカーが頷く。……いいなぁ、その髪……母さんの遺伝みたいだ。高校生にもなるし、高校デビューってやつをやってみようかな?
「では瑞理様、私は夕食の準備に取りかかりますので、何かあればお申し付けください」
「うん、ありがとうウォークトーカー」
「お茶、ありがとうございますウォークトーカーさん」
俺と和人がお礼を言うと、心なしか満足げに部屋を後にするウォークトーカー。見送った俺達は、彼女が淹れてくれた紅茶を飲んで企画を詰める。
「じゃあ、次の動画は……」
「豚汁の炊き出しだな。冬だし、近所付き合いにもなる」
「寸胴買わないとねぇ。何個買う?」
「七十リットル寸胴鍋一個」
「了解。注文しとくわ」
注文するのは頑丈なやつ。具体的には直火釜の上に乗せても問題ないやつだ。
「ところで瑞理、ハングドマンのメール見たか?」
「ハングド……ああ、主任? キャロリンさんからのメールは見たけど、何かあったん?」
「GGOへのお誘い」
「物騒なことになってるのに誘うとか狂ってやがるぜ主任!」
狂ってるなぁ、本当に。あの人のことだから安全策はあるんだろうけどさ。会ったことあるけど、結構上の立場の人だったはず……確か、専務? どこかのロボット開発会社の。
「で、なんでお誘い?」
「ビーム兵器、ランチャー、なんか馬鹿みたいに重いライフル」
「話を聞こうか」
ガンゲイル・オンライン……噂には聞いていたが、面白いのかもしれない。
「大会があるんだとさ。ゲーム内で」
「ほんほん?」
「そこで協力して遊ぼうぜって誘いだよ。彼の他に、RGとか、マギとかヘレンも誘ってるって」
「わぁ、凄い豪華」
全員化け物じゃないか……そんなにシビアなゲームなのか、GGOってゲームは。話を聞く限り、ApexとかCODとかBFみたいな感じにしか聞こえないんだけど……いや、あのゲーム難しいわ。
「目的は……まぁ、お察しだよな」
「死銃?」
「正解。ただ、その目的を果たすのに対策を立ててるって」
そう言った和人に見せられたのはPDFデータ。確認してみれば、一種の企画書のようなものが纏められていた。
「……カウンターシステム?」
「ああ。ハッキングによる殺害ならそれをブロック、逆探知して自動で警察に通報するシステムらしい。それと……」
「UNAC────────UNAC!?」
じ、実在したのか、あのAIが……!?
「まぁ、正確にはUNACもどき、だってさ」
麻酔銃、スタンロッド、拘束粘着ネットに刺股……対人用ゴム弾……あらあら、中々の殺意を感じますわ。必ず不審者を捕まえてタコ殴りにしてやろうという強い意思が。……つーかこれ、ウォークトーカーの背中に刻まれてた刻印とデザイン同じじゃね? え? マジ? ウォークトーカーってもしかしてハングドマンの会社で生まれたの?
「試験完了して商品とする前の最終チェックも兼ねた完全仕様だそうだぜ……ってどうした?」
「ウォークトーカーがハングドマンの会社生まれの可能性に驚いてる……」
「……マジ?」
「マジ。……父さんと母さんって、本当に何者なんだ?」
真面目な話、ただの考古学者のはずなんだけどな……ニュースでも見たことあるし、そのはずなんだけど……これ以上考えても仕方がないので、帰ってきた時に聞いてみよう。
「まぁ、今の時代、流行ってるしなぁ、警備ロボット」
「あー、ね。新宿で殴った連中ヤバかったしなぁ」
あれは動画撮影のために新宿に行った時のこと。西洋剣を振り回して襲いかかってきたやつがいたのだ。生憎とこっちは山と無人島と動画の企画で達人達に教えを乞い、鍛え上げた身。素人程度なら簡単に捌ける。
問題は俺を襲ったのと、もう一人のマチェットを使っていたやつが人質を取ったせいでフェンリー、スコル、ハティがわりと殺す勢いで襲いかかったことだ。警察署で説明して無罪放免になるまで大変だったなぁ……あとで賞状を贈るとか言われたけど、和人も俺も正直いらない。そんなことする暇があるなら捕まえた違法薬物使用者の更正に力を入れてくださいな!
とにかく、最近は物騒な事件が多くて、人間とロボットの同時警備などが流行っているのだ。
「VRMMOゲームは、現実世界で他人を物理的に傷つけることへの心理的障壁を低くする……か」
「ん? それ誰の言葉?」
「お前だよ」
そんな難しい言葉吐いたかなぁ……
「あの世界だとそんなことは少ないんだけどな……現実とゲームの境界線を分かってるというか……」
「過激派でもリアルでやらかさないもんね」
「むしろその過激さを起業力に向けたりするからな……」
一部のゲーム……ACとか件のGGOとかはPK行為が日常となっている。それを殺人の予行練習、なんて揶揄されたりもするくらい、小学生のゲーム問題として取り上げられているのだ。大丈夫かよ今の小学生。
「確か、先鋭化したタイトルなんかじゃ、腕ぶった斬ったら血がブッシャーするし、内臓出てきたりするんだっけ?」
「らしいな。それに取り憑かれたプレイヤーがログアウトの代わりに自殺なんかもするらしいぜ」
「うへぇ……気が知れねぇや」
紅茶を口に含み、喉を潤す。
「ま、毎日そんなこと繰り返してれば、現実でもやってやろう、なんて思う馬鹿も出てくる。楽しくゲームをしたい俺達にとってはいい迷惑だな」
「優越感に浸りたい、分かる。PKで培った技術を現実で殺人に使いたい、コレハワカラナイ」
ゲームの寿命を縮めるつもりかよ。ふざけんじゃねぇよてめぇらが勝手に寿命削ってろよ。俺達に迷惑かけるな。
おっと、また荒い言葉使いが。苛立ちをウォークトーカーが作ってくれたミルフィーユによって打ち消したのと同時に、和人が口を開く。
「持論だけどさ、MMOユーザーが求めるのは優越感……本能的な衝動なんだと思う」
「ふむん?」
「ゲームだけじゃなくてさ、人の上行きたいと思うのは社会の基本構造だろ? 劣等感と優越感のバランスがあるからこそ、俺達はこんな平和ボケした顔で動画撮影をしたり、ケーキを食べたりできる」
「なるほどね……和人はバランス取れてるの?」
「うーん……」
和人が腕を組んで悩む。和人自身、結構劣等感を感じやすいから、わりと抱えてる……のかも?
そんなことを考えていると、和人は微笑んで回答した。
「……まぁ、親友もいるし、彼女も……できたし」
「いいなぁ……羨ましいぞこの野郎! おめでとう!」
「やめろ、頭を撫でるな!? でもありがとうな!」
和人め、気付いたら彼女を作っておられた。お相手はまさかの結城家のご令嬢さん。そう、あの時ケーキ屋で和人が一目惚れした人だ。
あの後、和人はケーキ屋のボストンパイに惚れ込み、何度か足を運んでいたらしい。イートインコーナーでボストンパイを食べながら、課題に頭を悩ませていた時がその人との馴れ初め。勉強を教えてもらっているうちに、仲良くなって、気付けば恋人になっていたそう。
「俺も出会いが欲しいです先生」
「ホワイトグリント使いのアリシャさん」
「ぐっ……」
「サクヤさん」
「グッグ、グゥ……」
確かに年上だけど! 俺の好みの判定に入るかもだけど!
「ぶっちゃけ、お前早く彼女作れよ。顔も肉体も女受けいいんだし。性格も……わりと気遣いできてるし」
「やめろ和人、その言葉は俺に効く」
和人は俺の好みを知っている。年上の女性……できれば包容力のある人。もちろん遊んでいて楽しい人でもいい。お互いに甘えたり、甘えられたりできる関係がほしい。
「その前に年上と話すとどもる癖直さないとな」
「コフッ……」
「瑞理ィいいい!?」
ああ、和人の純粋な心配が俺の心に刺さりますわ……
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『てめェ、俺の可愛い瑞理に接触しやがったな?』
突然かかってきた電話を手に取った瞬間、ドスの効いたハスキーボイスがスーツ姿の男性────菊岡誠二郎の背筋を凍らせた。
衝撃のあまり、太い黒縁の眼鏡をずらして、最新式のスマートフォンを床に滑り落としてしまう。
『おい、聞こえてんだろ菊岡ァ』
「ひ、ひひひ、
『遠間だ。次間違えたらぶっ殺すぞてめェ』
「すみません! それだけは! それだけはご勘弁を……!」
菊岡に電話してきた人物は、彼にとって最も警戒するべき────否、最も恐るべき相手。考古学者として世界で活躍している遠間出雲である。
菊岡にとっては初恋の人であるが、それと同時に恐怖の象徴だ。高校生時代に彼女にナンパを仕掛け、返り討ちにされたのもあるし、当時から出雲の恋人だった幸海に接触を試みて、タコ殴りにされた経験が彼にはある。
『てめェの声なんざ死んでも聞きたくねェし、連絡するのも願い下げだったが……可愛い瑞理に接触しやがったんなら、話は別だ』
声だけで分かる。この女性、完全にキレている。
「な、何のことでしょう……? 確かに彼とは一度話をしましたが……」
『身分を偽って接触した。加えて何か危険なことに巻き込もうとした。ウォークトーカーから送られたデータに証拠がある』
「そ、それは……!?」
『ああ、安心しろォ。俺は何もしねェよ。こういうのは、司法の出番だからなァ』
瑞理の行動力と徹底力は、出雲からの遺伝だ。ゆえに、出雲は瑞理よりもより過激で、より徹底的に敵を叩く。どこまでも追い詰めて、確実に仕留める。
『未成年への恐喝じみた発言、身分の詐称、エトセトラ……ま、取り繕い頑張れ。精々いい弁護士でも雇うんだな』
「ま、待ってください! それには事情があって────!?」
『んなこと知るかよ。……ああそれと、この電話番号、使い捨てのやつだから。かけてくんなよ』
その言葉を最後に、出雲からの連絡は途絶える。なぜこんなことになった。どうすれば良かったのかと、頭を抱えるがもう遅い。
一度身分を偽っただけ、一度己の先輩の逆鱗に触れただけ、少々脅しのようになってしまった発言をしてしまっただけで、菊岡誠二郎のこれからの展望が崩れ落ちる。秘密裏に動き出そうとしていた計画も、これで途絶えることになった。
ウォークトーカー
家政婦ロボットの特異個体。流暢に言葉を話すし、感情もある。