ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
実はまだ中学生。この世界線だとシリカとかリーファ以外多分一つか二つほど年上かもしれない。そのため、リーファとは一つ違いの年齢。
世界の秘密
実は、何者かが密かに黄金の種子を世界にばら蒔いた。コンバートシステムの確立もこの種子のお陰。
「お兄ちゃん達中々映らないねー」
薄くグリーンがかった金色のポニーテールを揺らしたリーファがそう呟いた。
「ほんとですね……キリトさんとトーマスさんのことだから、てっきり最初から飛ばしまくると思ってたんですけど」
「んなこと言ったらトーの字も映ってねぇな。いつもの暴走機関車っぷりを見せると思ってたんだが……」
シリカやクラインの言葉に、リーファとシリカ、リズベットが座っているソファに掛けていたアスナは苦笑する。
「いくらキリト君達でもそこまでしないわよ。……しないと思う、なぁ」
「アスナ、小声で補足したのが答えよ」
やや小声の付け足しに、アスナの隣にいたインプの少女────ミトがツッコミを入れた。
「ま、あの二人のことだから銃ゲーなのに剣振り回してそうだけどね」
一瞬、剣を振り回している二人組を連想して、たちまち朗らかな笑い声が部屋に満ちた。
久しぶりに集った六人と一匹だが、ここは現実ではなく、妖精王オベイロンの撃破後、世界樹の上に生み出された空中都市《イグドラシル・シティ》。その一画にキリトとアスナが共同で借りている部屋だ。
今回ここに集まった理由は単純明快。ハングドマン────本名
「しっかし、キリトとトーマスのやつもなんでまた、ALOからコンバートしてまでこの大会に出ようと思ったのかしら」
エメラルド色のワインで満たされたグラス片手にリズベットが首をかしげると、アスナとリーファが苦笑した。
「それがね……ゲーム仲間────ネクスト? レイヴン? そんな繋がりの人達とGGOが不穏らしいから、ちょっと様子見しに行こうって話があったらしいの」
「二人って未成年よね? 大丈夫なの?」
「うーん……万全の対策を用意してるって説明されたし、実際に見せられたから大丈夫だと、思う」
あれだけの警備ロボットと、警備員────よくCMにも出ている厳めしいが結構気のいい男性達も含む────を見せられ、対面させられては納得するしかない。絶対にキリトとトーマスに危害が来ないように対策し、二人の他にも大人を何人か投入するとも言われたのだ。
キリトとトーマスの両親だけでなく、子供であるアスナとリーファにも誠心誠意頭を下げてきた。信じなくてはなるまい。
「……なんだぁ?」
ふと、クラインが画面を見て呟く。中央近くで中継されていた戦闘に横槍が入った。
「黒い……?」
「キリト……じゃ、ないわね。何あの集団」
その四人組は黒と赤の隊服に身を包んでおり、顔が隠されている。ただ、肩につけられたエンブレムを見て、アスナはキリトの話を思い出した。
「死神部隊……!」
「死神……? 知ってるの、アスナ?」
「キリト君が前に言ってたの。集団戦において、あの四人組に勝るプレイヤーはいなかったって」
リーダーであるジョットがペイルライダーというプレイヤーの顔面に、サブアームらしいデザートイーグルを見事な反動制御で全弾叩き込み、オーバーキル気味にカズーがスナイパーライフルの弾丸を撃ち込んだ。
ペイルライダーを狙っていたプレイヤーダインにはナーリヤが攻撃、反撃はドナルドが戦艦の装甲のような盾で防ぎきってからカウンターのミニガン。弾幕の中走り抜けたナーリヤがショットガンでダインのHPを消し飛ばす。
圧倒的な力と、緻密に組まれた連携を成功させる信頼。彼らの力量、プレイヤースキルの高さにアスナ達は舌を巻いた。
「うわ……強い……」
「あの連携……どれだけ練習したんでしょうか……」
一瞬でプレイヤーのHPを刈り取る怪物達。そんな四人組に向けて、銀色の影が飛来する。
『遊ぼうぜぇ、死神共ォ!! ハハハッ、ハハハハハハ!!』
『やはり来るか、【人類種の天敵】』
『お前で二十八人目……恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ』
『死神を騙る者がいると聞いてここに来たが、貴様もそれが目的か?』
『見せてみろ、お前の力』
片手にリボルバー、片手に光を放つ鉈を握った銀髪の美少女────っぽい元気な男の子。黎明卿とかお館様の声真似がそっくりな暴走機関車である。
「トーマスだ」
「トーマスね」
「トーマスさんですね」
「トーの字だな」
「トーマス君……」
頭が痛くなるような表情で、銀髪の少年を見る六人。跳ね回り、暴れ回る白銀の凶鳥と、巧く受け流す黒い死神達の戦いの中に誰もが目を奪われていた。
トーマスが噛み付こうとすれば、盾やブレードが壁となり、死神達が反撃を挟もうにも、上手く逃げるために、お互いに千日手。いたちごっこを繰り返すかと思っていた最中────
「あっ────!?」
トーマスの体を電磁波のようなものが包み込んだ。右肩に狙撃を喰らったのか、トーマスは肩を押さえるようにしながら倒れる。
「まるで、風魔法の《
リーファのコメントを聞きながら、アスナはトーマスが倒れている映像を拡大する。
麻痺転倒からすでに十秒が経過しているが、トーマスの麻痺が解ける気配はない。なお、トーマス本人は動こうとして釣り上げられた魚のように跳ねているが。ザスカーもさすがに麻痺状態で動かれるとは予想していなかっただろう。
『あー……ドナルド、担いでくれない?』
『……なるほど、目的は一致しているらしい』
そんな話し声が聞こえた直後、分厚い装甲を背にしたドナルドがトーマスを守るように盾を展開。甲高い音が響いた。
「狙撃……!」
「麻痺させたやつが撃ったのかしら」
「多分……」
中継はそこで打ち切られ、トーマス達は見えなくなる。トーマスの心配は全くしていないが、トーマス達に麻痺弾を撃ち込んだであろう人物について、一抹の不安を抱いた。あれだけの狙撃ができるのなら、麻痺状態など使わずにスナイプすればいいだけなのに、なぜ。
そんな謎を抱えながら、BoBの中継を見守った。
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氷の狙撃主シノン────本名朝田詩乃は、未だに克服しきれていないトラウマを抱えている。特定の銃への恐怖心、と言えばいいのだろうか? GGOや、キリトとトーマスの動画を見たり、相談したりしているうちに、ある程度は克服したが、それでもまだまだ克服しきれていない。
ゆえに、克服するための戦いに明け暮れていた。GGOで、多くの強者と戦い続け、己の精神を強くするという荒療治にも近い芸当。トーマスが聞けばゲラゲラ笑った後「逃げないとか、馬鹿だけど……強くない?」と真面目な顔で褒めるくらいには荒療治である。
だから……だろうか。キリトとトーマスの────現実世界でも強く生きている人間をその目で見て、考えるようになった。
戦ってみたいし、知りたい。彼ら二人が、なぜそこまで強くあり続けることができるのか。何を見て、聞いて、感じて、強くなれたのかを。
コンクリートで造られた廃墟の街の中で、キリトと潜伏していたシノンはそんなことを考えながら、四度目の《サテライト・スキャン》を待っていた。
バトルロイヤルが去年と同じペースならば云々、と考えていると、キリトが口を開く。
「シノン、この世界に透明マントはあるのか?」
「は?」
「だから、透明マントだよ。光学迷彩……みたいなやつ」
一瞬、キリトが何を言っているのか分からなかったが、シノンはこの世界のベテラン。すぐに頭に入っている知識を取り出してみせる。
「あるにはあるけど、一部の超高レベルネームドモンスターにしか実装されてないわ」
「それは人型か?」
「……確か、人型モンスター」
「なるほどな……」
何かに納得したように頷いたキリトの表情に少々イラッときたシノンは、問う。
「ちょっと、勝手に納得して、なんなの?」
「あの髑髏……トーマスを狙ってたやつがいきなり現れた理由が分かった」
「分かったって……普通に泳いできたんじゃないの? あんたみたいに」
「いや、違う。あいつのマント……多分光学迷彩だ」
スキャンをしながらキリトが言った言葉に目を見開く。そして、次にあり得ないと叫ぼうとして、言葉が止まる。あり得ない、なんてことはあり得ない。運営を越えようとしている時、運営もまたこちらを越えようとしているのだ。
いつかのゲーム配信で彼らが呟いていた言葉がシノンに思慮深さを身に付けさせた。
光学迷彩、メタマテリアル
「あり得なくはないわ」
「なら、あいつがもうこの近くにいると仮定した方がいいな」
「……ねぇ、聞いてもいい?」
ふと、疑問が浮かび、シノンはキリトに問いかけた。
「あなたはどうして、あの髑髏を追ってるの?」
死ぬかもしれない。本当に殺されるかもしれないのに、なぜそこまであの髑髏を追いかけているのかと。
その問いについて、キリトは考える素振りを見せた後に答えた。
「別に、変な正義感とかで追ってるわけじゃないさ。復讐とかでもない」
「じゃあ、どうして?」
「大好きなんだよ、ゲームっていうコンテンツ……VRMMOっていう一つの世界が」
「だから、まだ被害が少ないうちに終わらせなきゃいけない。あんなやつにこの世界を殺させたくない」
「それが理由?」
「ああ。他は……まぁ、トーマスが走り回ってるからな。それのブレーキ係」
別行動を許している時点でブレーキとしては失格だけど、と苦笑するキリトにシノンは思わず笑ってしまう。
「さて、と。あの髑髏を何とかする協力者を集めないとな。シノン、ここから砂漠までどれくらいかかる?」
「そうね……って、砂漠?」
あそこは何もないだだっ広いだけの砂地。AGIを極めている《闇風》というプレイヤーが縄張りにしているくらい、何もないただひたすらに広いエリアなのだ。そんな場所に何をしに行くというのか。
「砂漠で包囲網を作るんだ。透明になろうが、あそこなら関係ない」
「あ、そっか。砂に足跡が残るのね」
「ああ。そこであの髑髏を叩く。確実に叩いて、悲劇を終わらせる」
サテライト・スキャンに表示された脱落者の中にあった、回線落ちの表示。それは恐らく、死銃の被害者である。確証はないが、キリトの勘がそう囁いていた。
「それで、協力者はどうやって集めるの?」
「多分俺が暴れていれば自然と集まってくる」
ハングドマン、ナイン、RG、キャロリン、マギ、死神部隊、そしてトーマス。あわよくば他のプレイヤーも巻き込みたいと考えているが、そう上手く行くわけもない。
作戦を組み立てて、SMGの弾倉を確認。ホルスターにセットして立ち上がる。
「シノン、君があの髑髏に狙われているのかは分からないけど、行動を共にした方がいいと思う。お互いに」
「そうね。……あんたがあいつに殺られて、リベンジもできないんじゃ話にならないわ」
強気な笑みを浮かべたシノンにキリトもつられて笑う。
「なら、ちゃんと生き残らないとな。けど、俺は強いぜ?」
「知ってる。あんたも……あんたの相方の暴走機関車も、私が殺してやるわ」
「言ったな? 言っとくけど、エンジンが入ったあいつを止めるのは至難の業だぞ」
「その方が燃えるわ」
二人が再戦を誓い合っていた直後、市街地の道路をロボットホースで爆走するプレイヤーが、キリトとシノンの視界に飛び込んできた。
「うおおおおお!? 扱い難いなこいつ!?」
「リアルより揺れるんだけど!?」
「あら、乗馬の経験がおありで?」
「地元で少し────ってトーマス!」
「はぁ!? もう追い付いてきたのかよ! プレイヤースキルだけは一丁前にあるんだなあの髑髏!!」
銀髪の女性を乗せたトーマスが、暴れ回る馬を制御して爆走している。それも、奥から追いかけてくる髑髏のプレイヤーから逃げるようにして。
「キリト!」
「ああ! トーマス……! マジでお前は……! てか、死神部隊はどこに行った!?」
サテライト・スキャンを見た時はトーマスと共に行動していたのに、とぼやきながらキリトは待機していた場所から飛び降りる。五接地転回で着地、そのまま駆け出す。トーマスの身体能力も化け物じみているが、それについていくために鍛えたキリトも中々の化け物となり始めている。
本人にそれを言えば確実に否定されるだろうが、動画全てを網羅しているシノンからすれば、どっこいどっこいの五十歩百歩でどんぐりの背比べ。そもそも、なぜ中学三年生がサバイバルなんてできるのか。
「考えたら負けってやつかしら」
そう呟いて、シノンはキリトを追いかけた。追いかけた先で、彼女は────否、この戦いを見ている誰もが、死銃に待ち受ける地獄を目撃することになるが……誰もまだ知らない。
不正なユニットが接続されました。