ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
トーマスが使うソードスキルは想像の産物です。
トンネルへと落ちてきた俺達は、長い階段を延々と下っていた。ノーマルルートでヨツンヘイムに行こうとした場合、最速二時間かかるところを、このルートなら五分で到達できるわけだが……ぶっちゃけ長いよね。
しかもトンキーを呼ばないとヨツンヘイムの中央大空洞に落ちて死ぬしかないという悲しい仕様。
「まぁ、それでも簡単に行けるって考えたらお釣りは来るのかなぁ」
「だろうな。というわけで、一段一段感謝の心を込めながら降りるんだぞ諸君」
「あんたが造ったわけじゃないでしょ」
「「それはそう」」
キリトの前を走るシノンの一言に俺とキリトは同意。これには圧倒的感謝を伝える他あるまい。
「ツッコミどうもありがとう」
キリトが握手の代わりに目の前で揺れていた水色の尻尾を握った。結構思いっきり。
「フギャア!!」
途端、シノンが物凄い悲鳴を上げて飛び上がった。ケットシー族特有の耳と尻尾は、人間には存在しないはずの器官なのだが、どういうわけか感覚があるらしい。ACBONWでも仮想器官感覚接続システムみたいなのがあったから、それと同じ原理なんだろうけど……慣れていないプレイヤーは、いきなり掴まれると変な感じがするらしいのだ。
「アンタ、次やったら鼻の穴に火矢ブッコムからね!」
意外と恐れ知らずだよなぁ、キリトって……そんな思いを込めてクラインと一緒に唸っていると、出口が見えてきた。冷たい風が吹き込んでくる大きな出口を抜ければ、邪神蔓延る地下世界、ヨツンヘイムが俺達を出迎える。
「さっむ……!」
「いやー、本当に寒いよなぁ、ここ。フィンブルヴェトルなんてごめんだぜ」
『ッ!?』
バッ、と俺達が振り向くと、温かそうなスープと湯気立ち上るパンを頬張るフードの男がいた。
「あー! ロキ!」
「やぁ、トーマス。それと……真実の到達者達」
食事を掻き込んだロキは、俺達を見て楽しそうにニヤリと笑う。
「初見の妖精もいるが……まぁ、いいさ。見てみるといい、トーマス。ヨツンヘイムの惨状を」
惨状? 惨状って、スローター系のクエストが発生していることだろうか?
眼下に広がる分厚い雪と氷に覆われた常夜の世界を見て、そんなことをぼんやり考える。
「まぁ、見れば分かる。ちょいとばかし面倒なことになってるみたいだが……頑張れ。お前達の力、見せてみろよ」
「うわぁ、無責任」
バチンッ、と指を鳴らして消えたトリックスターに俺が吐き捨てると、アスナが右手をかざしてスペルワードを唱え始めた。全員の体を一瞬薄青い光が包み、凍結耐性が上昇する。
「うーん、霜のルーンとかあるのかなぁ……」
寒さ耐性が上がりそうなルーン刻印はヨツンヘイムにあるのか、ニヴルヘイムにあるのか……あれば防具に刻印しておきたいな。今は装備に状態異常耐性の刻印しか刻んでいないから、寒さとか暑さには弱いのだ。
「リーファちゃん、お願い」
「はい!」
アスナの声を受けてリーファが口笛を吹いたことで、象のような鳴き声が遠くから響いてくる。
鳴き声の主は平べったい魚のような、あるいはシャモジみたいな見た目の胴体の側面から、八枚の羽を生やしている。体の下にはクラゲ────というよりもツタ植物に近い触手が垂れ下がっており、六つの黒い眼と、長い鼻が印象的だ。
彼? の名前はトンキー。かつてヨツンヘイムに落ちた俺達が助けて、助けられた邪神である。……おや? 助けてくれたなら邪神ではないのでは……?
「にしてもあいつ……なんだろう、ガ◯ラとモ◯ラとダイオウドウとドククラゲとモジャンボを融合させたような見た目してるな……?」
「凄いチョイスだな」
でも実際そうじゃない? 見えない?
螺旋を描いて上昇してきたトンキーは長い鼻を伸ばし、ふさふさの毛の生えた先っぽで────クラインの髪をわしっと撫でる。
「うびょるほ!?」
「背中に乗れとさ」
「うーむ……ええい、漢は度胸! 頼むぜ、トンキー!」
覚悟を決めた声でトンキーの背中に乗ったクラインに続き、動物好きの対象にトンキーも含めることにしたらしいシリカが続く。次にシノンが澄ました顔で乗り、リズベットとリーファ、アスナ、ミトが飛び乗った。
銃士Xとキリトが最後に飛び移ったのを確認した俺は、ロキがいた場所に積もった雪を払い、ルーンのギミックを起動する金槌でぶっ叩く。
するとツタ植物のような紫色のヘンテコが生えてきて、小舟みたいなものが現れた。
「スキーズブラズニル!?」
「あら、リーファはご存知か」
「う、うん! だってそれって……フレイの船だよね!?」
各地に点在するルーンギミック、その一つがこの小舟、スキーズブラズニル。フレイの船らしいが、これはフレイが残した残骸のようなもので、どこまでも行けるというわけではない。この小舟の場合、行けるのはヨツンヘイムで行ったことがある遺跡やダンジョンのみだ。
「んじゃ、俺はこれに乗っていくので」
「「「ズルい!?」」」
悔しかったらルーン解読スキルを取るんだな!
「と、とりあえず、トンキー、ダンジョンの入口までお願い!」
首の後ろに座ったリーファが叫ぶと、長い鼻を持ち上げてトンキーは八枚の翼を羽ばたかせた。
それに続く形で、俺が乗る《スキーズブラズニルの残滓》も動き出す。……さて、ダンジョンに到着するまで時間がある。小舟に乗っている俺はそこまで心配していないが、アスナ達は落ちたらどうしようとか考えているようだ。
「検証したけど、トンキーが助けてくれたよ」
「なんて命知らずな……」
「だって気になるじゃん?」
そんなやり取りをしていると、トンキーが翼を鋭角に畳んでダイブを敢行した。
「「うわあああああ!?」」
というキリトとクラインの太い絶叫。
「「「「「「きゃあああああ!?」」」」」」
と、女性陣の高い悲鳴。
「やっほ────────う!」
それにリーファの叫びが続く。
小舟もそれに続いて急降下していくが、魔法の天井があるのか、振り落とされる気配はない。
しばらくしてトンキーが翼を広げ、急ブレーキを掛ければ、小舟も急停止して緩やかな水平巡航に入る。ゆったりしている俺にメンバーからのクレームが殺到するが、知らん知らん。悔しかったらスキルを取るがいい。……あ、でも銃士Xはごめんなさい。許してください、何でもはしないけどある程度はしますから……
「……あ、あれ! お兄ちゃんあれ見て!」
トンキーの頭に乗り上げるようにしていたリーファが、悲鳴混じりの声を上げて指差す。
言われるまま俺達が左前方を見ると、フラッシュ・エフェクトが炸裂するのが見えた。……なるほど、あれがロキが言っていたヨツンヘイムの惨状かぁ。
「こりゃ酷ぇな……」
「人型邪神と協力して、動物型邪神を殲滅するみたいな感じ、かな……?」
俺達が息を呑んだ直後のことだ。
「その通りです、妖精達よ」
荘厳な雰囲気を纏う声が響いたのだ。
トンキーの背中、誰も座っていなかったあたりに、巨大な女性が顕現したのである。……なんだろう、凄く怪しい……こいつ本当に人かぁ?
「私は、《湖の女王》ウルズ」
ウルズ? 運命の女神じゃないの?
「我らが眷属と絆を結びし妖精達よ、そなたらに、私と二人の妹から一つ請願があります。どうかこの国を、《霜の巨人》の攻撃から救ってほしい」
……はて、俺のことは認識していないのか、俺に視線が向けられていない。俺がロキからのクエストを受けているから、なのかな?
「かつてこのヨツンヘイムは、そなた達のアルヴヘイムと同じように、世界樹イグドラシルの恩寵を受けていました。しかし────」
その言葉と同時に、悲しげな表情を浮かべた。
「霜の巨人の王スリュムが、エクスキャリバーを泉に投げ入れました。その結果、剣は大切な根を断ち切り、恩寵を奪ったのです」
へぇ……そんなことがあったんだねぇ……ヨツンヘイムって寒いだけじゃなかったんだな。……あれ? でも、ロキの依頼だと────
「あの、ウルズさん、世界を喰らう蛇って知ってます?」
「……恐らく、ニーズヘッグでしょう。道化と絆を結びし妖精よ。かの蛇は今眠っているようですが……」
あ、やっと認識した。────にしてもニーズヘッグは寝てるのか……まだ戦えそうにはないな。
「霜の巨人達は、生き残った獣達を皆殺しにし、アルヴヘイムへと根城を浮き上がらせようとしています」
「んじゃ、スリュムを倒して、エクスキャリバーを引き抜けばいいのか?」
「その通りです。さすればイグドラシルの恩寵がこの地に戻るでしょう。妖精達よ、お願いします。どうか、スリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを台座より引き抜いてください」
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さて、女王ウルズに請願された後、俺達はダンジョンに侵入を果たしていた。
予想ではもっと邪神がうじゃうじゃ蔓延っていると期待していたのだが、そんなことはなく、雑魚モンスターはいないしフロアの中ボスもいない。しかし、さすがに次の階層へと進む階段を守るフロアボスはしっかりいる。
「あの金ぴか、物理耐性凄いな?」
「だな……ルーン刻印してなかったら、もっと硬いかも」
サイクロプスをぶっ殺した俺達を待っていたのは、ミノタウロス型の邪神であった。金ぴかミノタウロスは物理耐性が、黒いミノタウロスは魔法耐性がとんでもない数値らしく、魔法によるアナライズでステータスを共有した俺達は思わず「ないわー!」と叫んでしまった。しかも体力が減ると下がって回復するおまけ付き。死ねばいいと思う。
幸い、銃士Xが魔法を撃ちまくってくれるので、なんとかなっているが……それにしても硬い。
「ええい! ごり押しが早いんじゃねぇかキリの字!」
「だな……! 皆! 金色をソードスキルの集中攻撃で倒すぞ!」
「っし、行くぞォ!!」
威勢のいい叫びを上げて、俺は武器にライト・エフェクトを迸らせた。
ロスト・マジック、《ソードスキル》。その上級クラスには特殊効果が付与されている。それが魔法属性の追加だ。上級になればなるほど魔法の純度が高くなっていき、物理ダメージの割合が減る。
クライン、リーファ、シリカ、リズベット、ミト、シノンの順に炎や風、水やら雷やら氷やらのソードスキルが金色ミノタウロスに直撃したのと同時に、俺とキリトが飛び込む。
「う……おおッ! 合わせろ、トーマス!!」
「ハハハ! キリトが合わせろやァ!!」
キリトが放つのは物理四割、炎六割の八連撃ソードスキル《ハウリング・オクターブ》。対する俺は物理四割、地属性六割の《サウンド・ベルグラム》。高速斬り上げからの上段斬り、その威力を乗せた回転斬りと二連続の刺突の五連撃という派手な技で硬直も長いわけ……だが。
「「………………ッ!!」」
キリトと共に気合いを込めて、意識を切り替える。なんだか気持ち悪い感覚に襲われながらも、左手へと意識を集中させて放つのは八連撃ソードスキル《アルタイル・オーバードライブ》。物理二割、闇属性八割。
フィニッシュの直後、さらに繋げる。《ソル・レムナント》の特殊効果である焔を発生させながら、高速四連撃《ブレイク・フェネクス》を叩き込む。
ここまでキリトと共に与えた合計斬撃数は二十を超えている。爆炎の中、キリトがアサルトアーマーめいた轟音と共に突撃。合わせるようにして俺も《マニ・レムナント》のギミックを起動、霜に覆われた刃から放たれる単発重攻撃《ムーン・フォール》で切り払った。
しかし、金色ミノタウロスのHPはミリ単位で残り、俺達は硬直で動けない。逃げたくても逃げられない状況ではあったが、俺とキリトは勝ちを確信していた。
「い……やあァァァァッ!!」
銃士Xが使ったであろう風の魔法を纏い、青い疾風となってアスナが飛び込んできたのだ。目にも止まらぬ速度で放たれた突きは容赦なく金色ミノタウロスのHPを奪い去り、硬直後に爆発四散する。
回復しきった黒いミノタウロスが目を見開く中、硬直から復帰したクラインが笑う。
「ようし、牛野郎、そこで正座しやがれ」
その直後、鬱憤を晴らすように大技が次々放たれ、黒いミノタウロスは一瞬で爆散したことを、ここに記しておこう。
ドロップアイテムが散らばる中、歩いてきた銃士Xは、疲労で座っている俺に手を伸ばしてくれた。
「お疲れ様。……で、さっきのは?」
「────んーと……《スキルコネクト》って言って、ソードスキルが終わるタイミングに合わせて、ソードスキルを連続使用するって技。システムの恩恵はないから頭が疲れるんだよね」
軽く説明してやると、その技術を知らなかった皆が感嘆の声を上げる。
「なお、失敗すると普通より長いディレイを要求されます。悲しいね」
「それでも恩恵は凄まじいけどな。……ところでリーファ、残り時間は?」
「あ、うん。…………多分一時間くらいかな」
女王ウルズから渡されたメダリオンを確認したリーファがそう言うと、キリトが思案顔になる。まぁ、時間がなぁ……足りないよなぁ。 あと何階層あるのかも分からないんだから、時間配分も考えられない。
さて、どうしたものかと考えていた俺達だったが、ふとミトが何かを見つけた。
「ねぇ、あれ、何かしら」
ミトの指差した方向を見ると、古ぼけた鏡があった。いかにも何かしらギミックがありそうだなぁ……なんて思っていた俺は、鏡に何か刻まれているのを発見する。古代ルーンだ。
「これ、もしかして、さ……ワープポイント的なサムシングでは?」
「解読できる、トーマス君!?」
「任せろ、スキルコンプリートしてんだぞ」
アスナの問いかけに頷き、鏡に近付くと、スキルが反応して解読が始まる。
「えーと……『繋ぐは百の足の奥、氷の牢獄。美しき女神を縛るは雷霆の秘宝。眠るは鋼鉄の城より生まれし幼子、妖精の番によって目覚めん』……?」
まーたわけの分からない古文書め……!
解読を済ませると、鏡は新品同然に輝き、俺達を映す────のではなく、別の場所を映し出した。……あれ? もしかして、本当にエリアスキップできる……?
「でかしたトーマス!」
「ここで解読スキルが活きるなんて、誰が予想するよ」
「解読スキル取ろうか本格的に悩み始めてます……」
口々に放たれる言葉にちょっとだけ気を良くしながら、俺は鏡に飛び込む。すると、第三階層突破の表記が出る。本当にエリアスキップができたようだ。
「時間短縮完了、なんだけど……」
エリアスキップしてきた俺達の目に、悩ましい光景が飛び込んできた。鎖で繋がれた金髪の女性と、その隣で眠る小さな妖精がいたのだから。心なしか、キリトとアスナを足して二で割ったような見た目の妖精は、キリトが近付いた瞬間目を開ける。
「……?」
「えーと……?」
「……パパ?」
え゛っ。
「だ、誰が……パパだって……?」
「? パパはパパですよ?」
「「ンンンンンンンン????」」
俺と、パパと呼ばれたキリトがサーバル顔を炸裂させる中、目覚めた小さな妖精は、アスナのことを見て、さらに俺達を困惑させる言葉を解き放った。
「あ、ママ!」
「へ……!?」
「「コレガワカラナイ……オシエテクレ、ゼロ……」」
真面目な考察をすると、この小さな妖精は恐らくアインクラッド産のNPC……それもAI化された存在だ。キリトとアスナ────結婚システムで結ばれている二人がトリガーとなって、この少女は目覚めたのだろうが……この子、人間味が強すぎない? 頑張ってるんだな、レクト。
「ママ、かぁ……」
おーい、頬が緩んでますよ、アスナさーん。
「つーことは……キリトとアスナの子供……って認識でいいのか?」
ナビゲート・ピクシーみたいなものだろうが……っと、その前にだ。
「悪いがお嬢さん、そこに倒れてる女の人は誰か分かる?」
「……誰、ですか?」
「俺はトーマス。君のパパの友達さ!」
孤児院とかにボランティアで何度か顔を出している知識と経験をフルに活かして、この不思議な少女に問う。警戒心が緩んだのか、少女は口を開く。
「分かりません。私はずっと、一人でここに閉じ込められていました、から」
「へー……え? じゃあどうして二人を両親って?」
「? パパとママをそう呼ぶのはおかしいでしょうか?」
うん? ……うん。…………うん? 分からねぇ! これは何かのクエストフラグってわけでもないし……
「わっかんね。キリト、アスナ、その子の世話よろしく」
結論、分からないので丸投げ。ナビゲート・ピクシーの部類のはずだし、危険はない……はずだ。キリトとアスナが慌てているのを横目に、倒れている女性を見ると────
「ありがとうございます、剣士様方!」
クラインとリーファが何を思ったのか助けていた。大丈夫かなぁ、この先……騙して悪いがとかされそうで怖いんだが。
「何しとん……?」
「い、いやぁ……その、思わず助けちった……」
「いや、別に構わないけどさ……こうなったら旅は道連れなんとやら……」
先程まで倒れていた女性NPC、フレイヤと、眠っていた小さな妖精の少女────あとから名前を聞いたら、ユイと名乗っていた────を仲間に加えた俺達は、奥に進む階段の先にある大きな扉へと向かう。
本当に大丈夫かな、という少しの不安を抱えながらも俺達は明らかに大ボスが待っているであろう扉を開けた。