ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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ルーンギミック

ルーン解読スキルを持っていると使えるギミック。刻印にも使うハンマーで叩いたりすると、ギミックが起動する。


伝説級(レジェンダリー)ルーン

通常のルーンより強力で、破格の性能を誇るルーン。入手方法はエンシェント級からレジェンダリー級のクエストだと噂されていた。


23.世界の根を断つ剣ー後編ー

 ボス部屋らしき大広間に入った俺達が最初に見たのは、金銀財宝の数々だった。総額何ユルドかも分からないそれらに圧倒される中。

 

「……小虫が飛んでおる」

 

 広間の奥、暗がりが広がる方向から、重低音が響いた。

 

「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、一つ潰してくれようか」

 

 喧嘩を売るような声が響くと共に、ずしん、ずしんと床が響く。ライティングが機能する範囲までそれが近付いた時、俺達はその巨体に目を剥いた。

 

 デカイ。説明不要なまでにデカイ。隆々とした筋肉は巨木を想起させる。

 

「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫共が、ウルズめに唆されてノコノコと。どうだ、いと小さき者共よ、あの女の居場所を教えれば、黄金を持てるだけくれてやるぞ? んん?」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ、さっさとかかってこいうどの大木が」

 

 おっと、つい汚い言葉が。

 そんな言葉と共に武器を構えると、恐ろしいほどに大きな巨人は、不敵な笑みを浮かべながら最後尾の女性────フレイヤに視線を向けた。

 

「おお、フレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がつい────」

 

 ズドォンッ!! 

 

 と、凄まじい轟音を立てて、俺の持ってきていた雷のルーンが刻まれた投擲物が巨人の目玉に炸裂した。さすがの巨人の王もトールの力が込められた雷霆の一撃は堪えるようで、右目を押さえている。

 

「ぬぅ……礼儀のなっておらん羽虫が……!」

 

 もう我慢の限界である。ごっちゃごっちゃごっちゃごっちゃうるせぇんだよ、重低音巨人がよぉ!! さっさとクリアさせやがれ。あと女性へのベタつくような視線は気持ち悪いからやめろ。

 

「御託はいいからさっさと殺らせろ。こちとら時間がねぇんだ」

 

 明日のクリスマスイブの仕込みが待ってるんだ。さっさと倒してエクスキャリバー引き抜かせろ。そしてクエストも解放させてくれ。

 

「道化に唆された羽虫ごときが、頭に乗るでないわぁ!!」

 

「ロキは有名なんだな。さすがトリックスター」

 

 ずしん、と巨人の王が一歩踏み出した瞬間、俺の視界右上に、あまりにも長大なHPゲージか三段積み重ねられた。長丁場になるかもなぁ、と頭の片隅でぼんやり考えていると、色々バフが付与される。

 

「────来るぞ!」

 

「スタンプ、来ます!!」

 

 キリトとユイの叫び声が聞こえるのと同時に、スリュムか大岩のような右拳を猛然と振り下ろした。────俺目掛けて、ピンポイントで。

 

「────ぬ?」

 

 直感に従って、《ソル・レムナント》を振りかざした俺は、茨とツルを意味するルーンギミックをハンマーでぶっ叩く。するとそれは炎を吸収しながら凄まじい勢いで成長していく。まるで意思があるかのようにスリュムの腕に絡み付いた。

 

「ヴァン神族のルーンか! 小癪な! ────グウッ!?」

 

 試しに《マニ・レムナント》をかざしてみると、植物が紫色の魔力? を迸らせながら伸縮し、スリュムの首を締め上げた。……うん、これは俺がタンクをやるべきだな? 

 

「皆! 攻撃頼む! 俺はタンクやるから!」

 

「了解! 行くぞ皆!!」

 

 キリトの号令で、恐らくスリュムヘイム最大の戦闘が始まった。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 スリュムヘイム城最後の戦い────恐らくだけど────は、予想通り、大激戦となった。

 

 スリュムの攻撃パターンは左右の拳によるパンチと薙ぎ払い、右足による三連踏みつけ+霜踏み、直線軌道の氷ブレス、氷のドワーフ生成というもの。

 

 厄介なのはドワーフ生成だったが、シノンと銃士Xが瞬時に殲滅してくれた。他の攻撃はユイのカウントに合わせて回避すれば一応完全回避が可能だったので、前線に出ているキリト、クライン、リーファ、ミトは何とかノーダメージで保っている。

 

 攻撃パターンは読めたので攻勢に転じた俺達だったが、中々に面倒なことになっていた。弱点であろう顔は高すぎて届かず、分厚い毛皮のレギンスに守られた脛にしか攻撃が通らないのである。アナライズでの耐性共有を行うと、皆が苦笑するくらいには物理耐性が高い。

 

 そこで助かるのが、銃士Xの火炎魔法とフレイヤが放つ雷撃の魔法だ。顔面にピンポイントでぶつけてくれるので、目に見えてダメージが通る。ユイもそうだが、フレイヤを助ける決断をしたクライン、リーファ、シノンには改めて感謝をするべきだろう。

 

「トーマス! ルーンは!?」

 

「あと五秒待て!」

 

 スリュムの攻撃を防ぐために効果的だったのは、フィールドのあちこちに設置されたルーンギミック。

 

 強制のけぞりを起こす黄金の金槌の残滓、一瞬だけ地面に這いつくばらせることができるヴァン神族の植物、バリアのようなものを発生させる盾のルーン────たまに壊れているものもある────の数々は中々曲者だ。すぐに使えるというわけではないし、発動したら次に使うまで三分の待機が発生する。

 

 ゆえに、ルーンギミックをいつ、どのタイミングで使うかで攻撃を防げるか、攻撃タイミングを作れるかが変わってくる。

 

 無駄に考えさせられるギミックに頭を悩ませていると、攻撃パターンが変化したスリュムが大量の空気を吸い込んだ。

 強烈な風が俺達をスリュムのいる場所へと引き寄せていく。

 

「ダイ◯ン来てるぞ!?」

 

「トーマス! タイミングに合わせてルーンを!」

 

「んぎぎ……了、解!」

 

 回避が間に合わないと判断したのか、キリトのオーダーが入る。

 

「三、二、一────今!!」

 

 キリトの叫びと同時に、ランダム配置されたルーンギミックの一つをぶっ叩いた。発生したのは先程まで見たことがなかった土の豪腕。目を見開く俺達を無視して、その豪腕はスリュムの顎に向かって綺麗なアッパーカットを決めた。

 

「ブッフゥッ!?」

 

 ブレス攻撃を中断されたスリュムは、口の中で冷気を暴発させてのけぞる。

 

「よぉしっ!!」

 

「「「ナイスゥ!!」」」

 

 さて、スリュムの残りHPはまだまだ残っている。俺のクエストだけなら持久戦でいいのだが、キリト達のクエストは違う。時間切れでゲームオーバーになる可能性が高い。

 

「ドルイド様」

 

「ド、ドルイド?」

 

 ドルイドってケルト文化の魔術師だったような……? まぁ、そんなことは今どうでもいいや。

 

「このままではスリュム打倒は叶いません。望みはただ一つ……我が一族の秘宝を取り戻すこと」

 

 フレイヤを名乗るNPCにそう言われた瞬間、俺の脳内に暗号と、とある物語の内容が蘇る。フレイヤと秘宝、雷霆の秘宝と女神を名乗る者。霜の巨人と戦った神の代表といえば、このNPCが何者なのかすぐに分かった。

 

「雷霆の秘宝……この部屋にあるんだな? ────戦神トール」

 

「! ……うむ。頼めるか、妖精よ」

 

「了解。……全員、傾注!!」

 

 凄まじい声量で叫んだ俺に視線が集まる。

 

「ちょっと探し物してくるから、ルーンギミックは使えない! 見つけるまで堪えて!!」

 

「おうよ! トーの字の取り分がなくなるくらいにゃあやってやるぜ!」

 

 頼もしい声と共に駆け出していく侍を見送り、俺は壁際の財宝に目を向けた。

 

 雷霆の秘宝────つまりは戦神トールの武器《雷槌ミョルニル》のことだろう。それが財宝の中にある……らしいので、全力で探してみる。

 

「ミョルニルなら……雷で反応する、だろ!」

 

 残っていた最後の雷爆弾をハンマーで叩き、黄金の財宝に通電させると、ごく短い紫色の雷光が瞬いた。

 スリュムの王座の近くの財宝を掘り起こしていると、白金の頭を持つ金槌が現れる。バチッ、バチッ、と紫雷を迸らせるそれを持ち上げた瞬間、恐ろしい重量と拒絶するような痛みが襲いかかった。

 

「ガガガガガガ……!! トールゥ! 受け取れェえええ!!」

 

 バチバチと視界が電気で瞬く中、ハンマー投げでもするかのようにフレイヤ────否、トールにぶん投げる。

 オーバースロー気味に投げられたミョルニルは吸い寄せられるように細い右手に収まり、紫電がフレイヤに変身していたトールを中心に発生し始めた。

 

「感謝するぞ、妖精よ……! お陰で漲る……漲るぞ……! 我が力が……! 我が雷霆の力が、漲るうぅぅぉぉおおオオオオオオ!!」

 

 黄金と紫が入り交じった雷光が肥大化していく。三メートル……五メートル……まだまだ巨大化する。腕や脚が巨木を想起させる程に逞しくなり、胸板はスリュムすら超える筋肉量。右手に握られた金槌もまた、持ち主が大きくなるごとに大型化していった。

 

 北欧神話最強の神、巨人殺しといえば、まずかの神の名前が口に出る。

 

「オッ……」

 

「サンじゃん……!?」

 

 現れるのは雷を纏う金槌を振るい、常勝を謳われた戦神。父さんと母さんが口を揃えて北欧最強の神はこいつだ、と言った雷神────トールが、今ここに顕現した。

 

「ヌウゥーン……卑劣な巨人めが、我が秘宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!」

 

 雷神トールは、右手に握った黄金の戦槌を振りかざし、スリュムへと突撃した。

 対する霜の巨人の王スリュムは、氷の戦斧でミョルニルを受け止める。

 

「小汚い半神が! 巨人でありながらアース神族に与した貴様の髭面を切り離して、アースガルズに送り返してくれるわ!」

 

 まさに神話の再現。父さんと母さんが見たら大笑いするような戦いだったのでキャプチャーを始めた俺や、トール顕現のショックから脱していないキリト達に、シノンが叫ぶ。

 

「トールがタゲを取ってる間に全員で攻撃しよう!」

 

「だな……! 騙して悪いが、なんてごめんだ!」

 

「そら行くぞォ!!」

 

 ここまで来たらルーンギミックの出し惜しみはしない。土の豪腕、植物の縄、ミョルニルの残滓など、ノンストップで起動していく。この際スキルディレイも気にせず、三連撃以上の攻撃を叩き込んでいった。

 

「にしても、ロキがいないのによくバレなかったなぁ」

 

「え、なんでロキが出てくるの?」

 

「北欧神話だと、トールってもっと粗雑な戦神なんだよ。だからフレイヤに化けてもボロを出しまくるんだけど……」

 

 それをロキがフォローして難を逃れるのが本来の道筋……らしい。小さい頃、母さんが寝る前に話してくれたおとぎ話である。

 

「ま、倒せればなんでもいいんだけどさ」

 

 スリュムの両足に高威力の攻撃を叩き込み続けていたのが功を奏したのか、スリュムが唸りを上げて体を揺らして膝を床に着いた。スタン状態というやつで、ここにヴァン神族の植物を追加。縛り上げて地に伏せさせる。

 

「地の底に還るがよい、巨人の王!」

 

 とどめとばかりに、トールが雷を纏ったハンマーでスリュムの頭を殴った。王冠が砕け散り、巨体の四肢と髭が氷に包まれていく。

 

「ぬっ、ふっふっふっ……。今は勝ち誇るがいい……だが、アース神族に気を許せば────」

 

「ヌンッ」

 

 何かを言いきる前に、トールがスリュムの顔面を踏み潰し、霜の巨人の王は凄まじい規模のエンドフレイムが巻き起こり、爆散した。

 

「…………やれやれ、礼を言うぞ、屈強なる妖精達よ。これで余も、ミョルニルを奪われた恥辱を灌ぐことができた。────どれ、褒美をやらねばな」

 

 左手を持ち上げ、右手に握った黄金の雷槌の柄に触れると、嵌まっていた宝石が外れ、人間サイズのハンマーへと姿を変える。

 

「《雷槌ミョルニル》、正しき戦のために使うがよい。では────っと、忘れるところであった。そこのルーンを操りし妖精よ」

 

「ん、俺?」

 

 トールが俺に視線を向けたと思えば、不思議な輝きを放つ文字が俺の腕に刻まれて、消えていった。

 

「我が力を込めたルーンよ。偉大な父に与えられたはいいが、余の戦いには似合わん。お主なら、正しく使えるであろう」

 

「え、あー、うん。ありがとう」

 

「うむ。では────さらばだ」

 

 トールが右手をかざした瞬間、青白い稲妻が広間を貫く。俺達が目を閉じて、再び開けた時には、トールはいなかった。アースガルズに帰ったのだろう。

 ……ところで、トールがくれたルーンはどんな効果があるんだろうか。

 

「ちょっと確認………………はい?」

 

「トーマス、どうしたの?」

 

 ミョルニルを受け取っていたクラインのところに行っていなかった銃士Xが、硬直した俺を見て首をかしげる。

 

「こ、ここここ、ここ、これ……!」

 

「え? ────────ええええ!?」

 

 銃士Xの叫び声に、皆が反応してこちらにやってきた。やはりレア物を見つけると見たくなるのはゲーマーの性というものなんだ。

 

 トールがくれた伝説級(レジェンダリー)ルーン、《雷神のルーン》の効果は破格にも程があるものだった。

 

 まず、巨大モンスター及び巨大ボスへの特効が《破砕のルーン》の3.5倍の倍率。次に武器への常時と雷属性の攻撃UP。これだけでも破格の性能だというのに、力の補正がプラスされる効果もある。まさに伝説のルーンだ。

 

 一人にしか使えないことを加味しても、凄まじい性能である。

 

「す、凄ぇ……!」

 

「とんでもないルーンだな……トーマス、試しに俺に付けてくれないか?」

 

「あ、狡いよキリト! 私も使ってみたい!」

 

 手に入れたルーンについては、帰ってから色々検証するべきだろう。にわかに騒がしくなる俺達だったが────

 

 その直後。

 

 凄まじい重低音と揺れが起こる。

 

「きゃああっ!」

 

「動いて……いや、浮上してるの!?」

 

「……あ、そういやエクスキャリバー抜いてなくね?」

 

『そ、それだぁ!?』

 

 皆の声が重なるのと同時に、ユイが鋭く叫ぶ。

 

「パパ、王座の後ろに階段が生成されています!」

 

 キリトがその声に反応して走り出す────が、しかし。

 

「ぎゃんっ!?」

 

 障壁のようなものにぶつかってHPを減少させた。

 

「キリト君、大丈夫!?」

 

「こ、これまさか……ルーンギミック!?」

 

 わぁ、最後まで用意周到だぜ運営! ルーン使わないと進めないとか、中々鬼畜じゃな? ……もしや、これからのクエストってルーンスキル必須……? 日の目を浴びる時が来た? やったね! おら、ルーン解読スキル取るんだよお前ら。

 

「『眷族の命を掲げよ。さすれば剣への道は開かれん』……リーファ、メダリオン!」

 

「うん! ────本気で取ろうかな、ルーン解読スキル……」

 

「どうせなら皆で取ろうぜ。トーマスがきっと手伝ってくれるさ」

 

 お? いいのか? ルーンのレッスンはハードだぜ? 

 リーファがメダリオンを障壁に掲げると、ルーンの障壁がガラス細工のように砕ける。

 

「そーら、行ってこーい」

 

 ミスターノーカウントのようにキリトを蹴り飛ばすと、ゴロゴロとボールのように転がっていく。あ、なんだか面白い光景。

 

「トーマスお前えええええええ!!?」

 

「グッドラック! お前に暗黒の魂あれ!」

 

 銃の世界で散々からかってくれたお礼だ受け取れ。プレゼント……気に入ってくれるといいけど。

 螺旋階段を転がっていくキリトを笑いながら、手すりっぽい場所を滑っていく。気持ちはエウ◯カセブン。ズザザザ! と滑っていると、転ぶんじゃないかと思う速度で追ってきたミトが口を開く。

 

「トーマスって、たまに鬼畜生みたいな性格になるよね」

 

「お、ミトもボーリングのボールになりたいのかな?」

 

「遠慮しておくわ」

 

 あら、それは残念。

 ちょうど視界に入ってきた光目掛けて飛び込むと、正八面体の────つまるところピラミッドを上下に合体させた空間が現れた。

 

「トーマス……お前……!」

 

「Lesson5はこのために」

 

「俺は馬には乗らないからな!?」

 

 ははは。面白いなぁ、キリトは。

 

「文句は来年くらいに聞くから、今は引き抜けよ、それをさ」

 

 柔らかそうな根にぶっ刺さっている黄金の剣には、『我が刃、万物を切り裂く』とか、そんな感じの意味を表すルーンが刻まれており、中でも目を引くのは柄に刻まれたルーン。

 

 伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)には固有のルーンが四つ以上刻まれており、《聖剣エクスキャリバー》には魔法を無効化させる《魔導封じのルーン》、持ち主のHPとMPを回復させる《再生のルーン》、パーティーメンバーのステータスを底上げする《鼓舞のルーン》、ソードスキルの威力を上げる《剣王のルーン》が刻まれていた。

 

 ちなみに、素材が凄まじく重いが、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)のルーンは強化できるため、さらに破格の性能へと変貌することが分かる。

 

「っ……………………! ぎぎぎぎぎぎ…………!!」

 

 奥歯を砕かんばかりに食い縛るキリトが、ありったけの力を込めて台座から引き抜こうとする。頑張れキリト。お前がナンバーワンだ。

 

「頑張れ頑張れできるできる! 絶対できるって!」

 

「行けぇ! キリの字!! なんか光ってんぞ! 抜けるんじゃねぇか!?」

 

 クラインの言うとおり、光を放ち始めた台座には罅が入り始めている。限界を超えるんだキリト! 

 俺達が声援を送って、キリトが踏ん張っていたその直後、重厚かつ爽快な破砕音が聴覚を駆け抜ける。エクスキャリバーが引き抜かれたのだ。

 

「ぬ、抜け────トーマス!?」

 

 キリトの声が聞こえた時には、俺の体を何かが貫いていた。上から伸びてきていた世界樹の根ではなく、根っこの中に入っていたらしい、刃の欠片のようなもの。

 

「心臓を貫かれた……!?」

 

「で、でもHPは減ってないわ!?」

 

「トーマス、無事────って熱いし冷たい!?」

 

 よろめいた俺を支えてくれた銃士Xが悲鳴を上げる。俺の体が炎と霜に覆われたのだから、熱いし冷たいのは当然だろう。しばらくして炎と霜は、刃に吸収されていき、俺の体は元に戻った。……何だったんだ? 

 

「武器は何も変わってないし……何だったんだよ、本当に」

 

 首をかしげていると、周囲の壁に無数の罅が走る。嫌な予感に俺達は顔を見合わせた。

 

「スリュムヘイムが陥落します! パパ、急いで脱出を!」

 

「脱出って言ったって……!」

 

「スキーズブラズニルは……無いよなぁ、こんな場所に」

 

 螺旋階段は世界樹の根っこが吹き飛ばしてしまったし、転移のルーンギミックも存在しない。

 

「ちょっと世界樹ぅ! そりゃあんまり薄情ってもんじゃないの!」

 

「うーむ……縄とかのルーンもないしなぁ……あ、でも大穴って確か……」

 

 このまま落ちたとして、待っているのは落下による死亡ではなく、《グレートボイド》と呼ばれる大穴に住んでいる変な毒蛇の群れによる毒殺だろう。大穴とは呼ばれているが、あそこは巨大な湖。多分だけど、女王ウルズと妹二人が隠れた場所はあそこだ。

 

「いやー、凄いことになってるなトーマス?」

 

『ロキ!?』

 

 こいつ、また変なタイミングで! 

 

「あ、一応言っておくけど、俺は助けないぜ。……助けられないってのが本音だが」

 

「じゃあ何しに来たのよ?」

 

 いつまでもクールなシノンが剣呑な視線をフードの男、ロキに向ける。それでもロキは表情を崩すことはなく、むしろ楽しそうに笑う。

 

「俺は獣に化けるのが得意でね。スプリガンに魔法を教えたのも俺だったりするんだ」

 

「……それで?」

 

「ルーンってあるだろ? あれ、結構面白い力があってな。体を別のものへと変える力もあるのさ。スプリガンの幻惑魔法、その原典は俺のルーン魔術だ」

 

 話が見えてきたぞ。つまり、スプリガンの幻惑魔法でここから脱出できるということだ。いや、凄いな運営。スプリガンがいないと危機を回避できないエンディングを用意しているとは。

 

「スプリガンの君、幻惑魔法は練習しているか?」

 

「……」

 

「ん?」

 

「実は、全く育ててません」

 

『馬鹿!!』

 

「し、仕方ないだろ!? あの魔法、全然戦闘に使えないんだから!」

 

 うーむ、キリトめ……純粋なパワープレイヤーでしかないとは、宝探しを得意とするスプリガンの恥かな? でも、キリトはあんまりトレジャーハントとかしないしなぁ。

 

「……うん、悪いけど手がないな! ────チッ、見られてるか! 悪いが俺はここまでだ! 何とか逃げてくれ!」

 

「……ダメかぁ」

 

 ロキが消えた後、取り残された俺達。このまま落ちるしかないのかと誰もが確信した時、象のような鳴き声が響いた。

 

「もしかして……!」

 

 リーファが身を乗り出し、目を凝らした先にそれはいた。

 

「トンキー!」

 

「……逃げてなかったのかあいつ」

 

 考えてみれば、送りがあったんだから迎えもあるよな。……俺、人数オーバーで乗れないけど。ならば、覚悟を決めるしかあるまい。

 

「悪い、皆。俺のアイテム類頼むわ!」

 

「トーマス、お前何を────!?」

 

 それだけ言ってから、潔くグレートボイドに向かって飛び降りる。突然の行動に誰も反応できていなかったし、銃士Xが大袈裟に涙なんか流して手を伸ばしていた。大袈裟だなぁ……このゲームは死んでもいいゲームなんだから、こういう体験もしとかないと損だぜ? 

 

「さーて……あの大穴、ニブルヘイムに繋がってるのかね?」

 

 皆の罵声が遠くに聞こえる中、呑気にそんなことを考える。実装はしているはずだけど、行き方が分からないとされていたニブルヘイム。このクエストのクリアによって解放された可能性は大いにある。

 

「────全く、無茶をするな貴殿は!」

 

「ほひょる?」

 

 グレートボイドに飛び込むであろうと考えていた俺の期待は覆されることになった。

 

「だが、その豪胆さが道化の心を掴んだのやもしれないな!」

 

「……あのー、どなたですか?」

 

 甲冑を着た凛と張った声の女性が俺を抱えていたのだ。銃士Xことルナさんと恋人になったので、ルナさん以外に反応することはなくなったが、それでも目が覚めるような美人であると認識できる。

 

「我が名は《スクルド》! ヨツンヘイムを救ってくれたこと、感謝する!」

 

「ああ、そりゃどうも」

 

 にしてもスクルドねぇ……運命の女神の一人のはずだけど、この世界じゃ違うのか? 

 

 まぁ、ともあれ────だ。

 クリスマスイブを前日に控えた朝に始まった俺達の大冒険は、ようやく幕を閉じた。

 

「ところで……貴殿はまだその刃の力を最大まで活かしきれていないな。どうだ、我が神殿で刃と貴殿自身を鍛えてみないか?」

 

 待って? クエスト増えたんだけど。

 

 

 

 




クエスト、《スクルドの神殿での鍛練》が追加されました。
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