ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
実は商品紹介的なこともやっている。トーマスの父の地元の観光大使に任命されていたりするため、定期的にそこに向かう。その時の二人はスマホのバイブレーション並みに震えている。
……温かい。
まだ日も出ていない午前五時。ぼんやりとした意識の中で、そんなことを考える。
────昨日はどうやって寝たのだったか……確か、ALOの中からずっと不機嫌だったルナさんの機嫌を直したくて頭を悩ませことは覚えているんだけど……
「んにゅ……す、いり……ふふ……」
「……!?」
少し上で聞こえた声によって俺の意識は完全に覚醒する。飛び起きようとしたが、両手で体を拘束されていて、足も寒くならないようにか絡まっている。さらに言えば、フェンリー、スコル、ハティが後ろ、横、足元にいるせいで起き上がりたくても起き上がれない。
「フェンリー、スコル、ハティ、ちょっと」
「「「グゥ……?」」」
「ちょっとどいてくれない? 起きれない」
「「「……ウルォン……」」」
ええい、この親子の狼犬め! 面倒だし眠いし寒いから動きたくないじゃないんだよ! 寒いなら自分の部屋に行きなさいよ! センサー付きのストーブ設置してあるでしょうが!
さて、どうしたものか……というかこうなったのは誰のせいだ? …………俺のせいだな。正確にはALOのAI化されたNPCスクルドからクエストを出されたのが悪い。お陰様で《ソル・レムナント》と《マニ・レムナント》の強化が解放されたけど、それでもしばらくヨツンヘイムから出られなくなってしまったのだ。出してください。アインクラッドの攻略が俺を待っているんです。
いっそのことACBONWに逃げてしまおうか。あそこはいいぞ……巨大なタワーの探索、別惑星への資源集めにジャンク集め……純正スカベンジャーなんてムーブをしている人もいる。滅茶苦茶レアなパーツとか抱えて歩いてたりするから、ルーキーや中級者が襲いかかることがあるけど、スカベンジャーの人達は全員化け物クラスに強いからおすすめはしない。
「ん……」
「ミィィィィ……!?」
現実逃避を許さないルナさんの反撃に脳が沸騰する。脳天に直撃するような甘くて優しい匂いと高い体温に加えて、鍛えられているがとても柔らかい体の感触。の、脳が溶ける……! 溶けちゃう……! 気絶したらダメだぞ俺……気絶したらルナさんの膝で目を覚ますことになって、今日の予定は台無しだぞ……!
「ミ、ミ、ミ……」
なんとか脱出する手段を考えねば。こんなことだったら、父さんの地元でやってる道場で護身術学んでおけばよかった。……でも、道場のテンション怖いから嫌なんだよなぁ……
「ん……? あ、瑞理。おはよ……」
「オハヨウゴザイマス……」
そうこう考えている間に、ルナさんが目を覚ました。寝ぼけ眼でトロンとしている彼女は、ある程度意識がはっきりしているようで、俺が顔を真っ赤にして気絶寸前であることを察している。
普段ならそれを見てもガンガン攻めてくるが、今回は違う。とても残念そうにしながら起き上がって、ベッドから降りた。
「んん……! 瑞理、Merry Christmas!」
目覚めたルナさん────彼女は目覚めるのが早いのだ────は、俺に可愛らしい笑顔を向けてそう言った。
そう、今日はクリスマスイブ。俺もルナさんも楽しみにしていた日である。今日のために色々と準備をしてきた……ローストチキンの材料となる丸鶏の購入、プランターによる香草栽培、ピザ生地作りなどなど……! 二日間のクリスマスを楽しむ準備はできている。
「メリークリスマス、ルナさん」
「……ルナでいいんだよ?」
「やめてください、まだ心の準備ができてないんです……」
いつも言われてしまうが、ルナさんを呼び捨てにはできない。その……ね? 一回だけ呼び捨てにしたら、凄く嬉しそうに抱き締めてくれたんだけど……それがとてもじゃないけど心臓に来るんだよね。理性もガリガリ削られるし。
ルナさん、俺はまだまだ中学生……いや、もう高校生になりますけどね? なんかもっとこう……あるでしょう?
「ヘタレ」
「自覚してるよ」
「据え膳って言葉知ってる?」
「知ってるからこそだし、ルナさんが大好きなので……ちゃんと手順を踏んでから……そういうことはしたい」
一応男だからね。そういうことに興味がないわけではない。だけど、それでも……うん、ヘタレだし、ルナさん大事だし。
「……こういうことに関しては本当に堅物よね、君」
「ヘタレですから」
お互いに笑っていると、俺の部屋のドアが開け放たれる。音もなく開けられたドアの方向を見ると、クリスマスコスチュームに着替えたウォークトーカーがいた。
「おはようございます、瑞理様、ルナ様。本日はクリスマスイブということで、着替えさせていただきました」
「そんな服あったっけ?」
「瑞理様のお洋服の中にありましたので、お借りいたしました」
「ああ、なんか見覚えがあると思ったら……」
和人と一緒にクリスマスライブをした時に用意した服だ。ウォークトーカーが使っている部屋────元々物置だった場所なんだけど、そこで見つけたらしい。
「では、早速ですが、着替えをなさってください。下でお客様がお待ちです」
「「お客様?」」
二人で顔を見合わせて首をかしげる。こんな朝方にお客様とは、どういうことだろう。心当たりが無いわけではないが……
「行けば分かる……かな?」
「多分……」
とにかく着替えてリビングに行こう。そう思い、着替えをしようとして動きを止めた。
「あの、ルナさん」
「ん? どうかした?」
「貸してる部屋、ありますよね?」
「うん」
「そこで着替えて!?」
なんでこの人ここで着替えようとしてるんだよ!? 俺の部屋と違って暖房あるでしょうに。俺の部屋はちょっと特殊で、温室みたいな場所を作ってあるため、暖房機器がなくても多少暖かい。代償として夏は冷房がないと死ぬ。
「ここの方が暖かいじゃない?」
「ルナさんの部屋の方が暖かいから!」
「じゃあ今度は私の部屋で寝る?」
話を逸らそうとしているな? その手には乗らないぞルナさん。
「とにかく自分の部屋で着替えて」
「えー……もう面倒だよ。別に君に見られても恥ずかしくないし」
「そういう問題じゃ────ギャアアアア!?」
堂々とパジャマを脱いで下着姿になったぞこの人!? 悲鳴を上げて布団の中に潜り込むと、ルナさんの匂いが漂ってきて脳が溶ける。匂いだけでこうなるとかヘタレ以下? うるせぇ。
「「「ウォン……」」」
飼い犬にもヘタレ判定されながらも、俺は朝の試練を乗り切ることができた。
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「瑞理、久しぶりだな────って、どうしたよげっそりして」
「か、母さん……久しぶり……」
リビングで待っていたのは、紅茶を片手に厚切りの手作りベーコンに齧りついている銀髪の女性────母、遠間出雲であった。相変わらず日本人とは思えないほど真っ白な肌と銀色の髪だなぁ、と思っていると、キッチンから音もなく背高の男が現れる。
「やぁ、瑞理。元気そうでよかった」
「これのどこが元気に見えるんだよ、父さん」
穏やかに笑ったのは遠間幸海。俺の父親である。彼の片手には、先日和人と作ったスモークチーズとチキンの串焼きが握られていた。
「これ、全部瑞理が作ったのか?」
「これってのがスモークチーズとベーコンとチキンならそうだよ。クリスマス用に拵えたのも食べやがって……そこに直れ馬鹿両親共」
「「すみませんでした」」
食において、俺の地位は父さんと母さんより上だ。俺の両親は食生活に頓着しない。俺がやらないと飯すら食べずにいるので、小さい頃から料理をすることが多かった。
そもそも両親は、俺の誕生日でも帰ってこれるか分からないくらい忙しいのである。こうしてクリスマスに帰ってきてくれるようになったのも、ここ四年くらいの話で……ん? 俺ってわりと子供じゃないんだな。
「海外から帰ってきて色々あるのは分かるけど、朝っぱらから俺を怒らせないで」
「い、いやー、小腹が空いて冷蔵庫開けたら、美味そうなのがあったからよォ……」
「ベーコン作りの動画見てないなら教えてあげるよ。それ、作るのに四週間かけてるんだ」
「ヴェ!?」
「四週間、和人と一緒に作ったんだけど……何個か作って、焼き豚になっちゃったり、表面にカビが生えたからトリミングして加熱処理して食べたりして、なんとかできたのが、それ。スモークチーズもそうだよ」
「うぐ……」
ちなみに本日、和人は不在。昨日、エクスキャリバーを手に入れた後に結城家へと連行されていったそうで、たまにメールが飛んでくる。俺と共にマナー講座に参加したりしたのが功を奏したとか、緊張で料理の味がしないとか色々。いやー、大変だなぁ、和人は。……そういえばどこの学校行くのかとか聞かれたとか言ってたかな?
「それで、そんな貴重なベーコンとチーズ、スモークチキンを食べやがった俺の両親はどう思ってるんでしょう?」
「「マジですみませんでした」」
床に正座していた父さんと母さんが綺麗な土下座を見せる中、大きな溜め息が出る。こんなんでも俺の両親だ。仕事を頑張ってるのだって知ってるし、定期的に生活費+お小遣いを入れてくれている。お小遣いはACBONWで結構稼いでるからいらないって言ってるのにも拘わらず、だ。
「はぁ……食べたものは仕方ないからもういいよ……俺も何も書かずに冷蔵庫に入れていたのが悪いし」
今回は水に流そう。だが次はないからな、父さんも母さんも。
「とにかく、おかえりなさい、父さん、母さん」
「……ただいま、瑞理」
「ただいま、瑞理。────ところで、お前の後ろにいる女の子は誰だ?」
「ん? ああ、言ってなかったっけ?」
後ろにいた白銀髪の女性に振り向いて、小さく笑った俺は、父さんと母さんに彼女を紹介する。
「俺の彼女。ルナ・バルバストルさん」
「初めまして、ルナ・バルバストルです。瑞理君とお付き合いさせてもらっています」
頭を下げたルナさんを見て、父さんも母さんもポカーンとした表情で俺達を見ていた。こんな表情を見せたのは、俺が腕を無くしたと笑いながら電話した時以来だろうか? あの後滅茶苦茶怒られたけど、後悔はしてないぞ。
「か、彼女……?」
「ウォークトーカーからの報告、マジだったのか……」
「む、俺だって彼女ぐらいできる年頃なんだよ。何か問題?」
それを言ったら、父さんと母さんだって恋人作れるような人間じゃないくせに。
「あ、いや……混乱はしてるけど、反対はしてねェよ」
「うん。人のことをよく見ている瑞理が選んだ子なんだ。反対なんかするわけないさ」
あー、うん。この二人はそういう人だったな。そもそも、完成された放任主義の化身みたいな人達だし。もちろん、親らしいことはしっかりやってくれるけど、極力干渉しないのが父さんと母さんだ。
「遠間出雲だ。バルバストルさん、あんたのことはウォークトーカーから少しだけ聞いてる。……大変だったな」
「い、いえ、瑞理君が助けてくれましたから。それに、今凄く幸せですから」
「遠間幸海です。ご両親がフランスにいるんだって? 帰ってきて安全になるまで、ここにいるといい」
「あ、ありがとうございます、出雲さん、幸海さん」
おや、意外と好感触……父さんも母さんにルナさんは波長が合うのかな。父さんと母さんは考古学の権威ではあるが、気難しいと言われているくらい波長が合う人がいない。父さんの地元と母さんの地元なら違うかもしれないけど。
「さて、挨拶も済んだところで、クリスマスパーティーの時間だ。ウォークトーカー、鍵渡してたはずだけど……」
「こちらにございます」
渡してきたのは俺の家にある大きな地下室に続く鍵。涼しいから、夏は基本的にそこにいる。電波も届くからね。そして、何より地下室は色々と保存しておくのに最適な環境なのだ。
「ありがと。ルナさんってブドウジュースは好き?」
地下室の鍵を開けて、色々置いてある一室から樽と木箱を取り出して戻ると、ルナが頷いた。
「え? うん、大好きだよ。私の地元ってワイン用にブドウを作ってたから。ボルドー地方って知ってる?」
ボルドーワインは有名だから知ってるぞ。まさかルナさんがそこの出身だったとは。
「なら、舌に合うといいんだけど……」
「? ────あ! これって……!」
木箱の中に入っているものを察したのか、ルナさんは目を輝かせた。俺と和人がやった企業企画の商品紹介を見たことがあるのだろう。
「ふふふ……この日のために取っておいたんだ。この、熟成ブドウジュースを!」
「わぁ……! これ、美味しいからすぐに売り切れるんでしょ? よく手に入れたね……動画の報酬とかだったの?」
「個人的に買ったよ。美味しかったからね」
岩手県のワイナリーが作った熟成ブドウジュース。高かったが、お金を出す価値はある。
「あ、父さんと母さんはこっちね」
「……んん? これなんだい?」
「
クリスマスパーティーのために送ってくれたみたいだけど、俺はまだ未成年だっての。ボケてるのかなぁ、あの人達。……でも、秘明家と遠間家の人達って怖い人ばっかりというか……なんでも見通しているような人達ばっかりなんだよ。
まぁ、とにかく────トラブルとかはあったものの、クリスマスパーティーは楽しく過ごせることになりそうだった。
キリト君はアスナさんの実家に連行されてます。そのうちキリト君の才能に気付いたら結城家の企業に囲われる可能性あり。トーマスの意志を継承してるので起業する可能性もある。