ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
キリトは原作より勘が良くない。しっかり考えたりしなくてはならない時は鋭くなるが、普段はトーマスが暴走しているせいで勘が鈍い。
強い。絶剣、なんて言われているだけはある。
「ハハッ、そらァ!」
「なん、のッ……!」
まずはこの反応速度。見てから回避、なんてことはしてこないがとんでもない反応速度で攻撃を凌いでくる。
「お兄さんやるね! 戦ってきた中で一番かも!」
「そりゃどうも!」
次に攻撃へ転じる時の隙が少ないこと。ほぼノーモーションで攻撃に転じてくるため、ガツガツと攻勢に出ることが難しいのだ。技量、駆け引き、反応速度、どれ一つ取っても一流以上……素晴らしい。……が、
「視線が甘い!」
「ッ!?」
顔を隠しているのは防御のためもあるのだろうが、一番の理由は視線が正直すぎるからだろう。キリトと斬り合っているユウキもまぁまぁ正直だが、ランはさらに正直である。もったいないなぁ……
「ハハ、ハハハハッ!」
(この人、見えて────ううん、見切り始めてる!?)
纏うオーラが驚愕の色に染まっているランに向けて、攻撃の速度をどんどん上げていく。彼女達ならそのうち対応するだろうが、それは今じゃない。
にしても、この二人の反応速度……妙なまでに早いな? ほぼオールでログインし続けて慣らしているような……そんな感じがする。システムアシストとは違う、リアルな反応速度ではあるけど……強化人間を相手しているような感じだ。
「ま、そこら辺もあとで聞けばいいか」
「随分と、余裕そうですね……!」
「あ、そう見える? まぁ、あんたの攻撃はフラジールより遅いし」
槍で剣と打ち合う────のではなく、打点をずらして攻撃を凌ぐ。絡め取ることもできるのだが、そこまで槍の使い方を学んでいない俺は弾く、受け流す、躱すという三つを中心に守りを固める。
「キリトォ! そろそろいいかァ!?」
「まぁ、なっ!!」
鍔迫り合いをしていたキリトがユウキを蹴り飛ばし、バックステップで距離を離したのを見て、俺も距離を取った。
「カウントは?」
「いらない」
あら、そういうことなら死ぬ気で合わせてもらいましょうか。
────なんて思っていると、ユウキもランも剣を片手に突っ込んできた。最初のオーバーブーストもどきの意趣返しでもしたいのかと思ったが、そうじゃない。先程の笑みが消えた本気の縮地……と言うべき速度の接近による切り払いが俺達を襲う。
これだけの圧を感じさせる一撃を武器だけで弾くのは不可能だが、この世界は武器だけが攻撃の手段ではない。
「「ヌンッ!!」」
地面が割れる勢いで足を踏み出し、拳を突き出せば、がら空きになっていたボディに凄まじい衝撃が叩き込まれる。ソードスキルでも何でもない、ただの体術スキルと、リアルで鍛えた技能が生み出した全力のボディブロー。
可視化されるレベルの衝撃が彼女らの腹を通り抜け、絶剣達は目を丸くする。
その隙を見逃すことなく槍の石突きでランの顎を捉え、かち上げると、すかさずキリトが二本の剣で攻勢に出た。このデュエルは二対二のデュオ。連携が許される戦いにおいて────いや、戦闘という行為において俺達は慢心などしない。
だが、それは向こうも同じ。向こうの目はまだ、死んでいないのだ。
「まだ、だ────!」
無理矢理即死コンボから抜けたランと、復帰していたユウキの動きが重なる。
引き戻された黒曜石の剣が青紫色の光を、白銀の剣が青白い光を放つ。これは、一か八かではなく、彼女らが積み重ねてきた経験が読み取った、必殺のソードスキルの輝き。
「「やあっ!!」」
ユウキとランの気迫が込められた声が響き、神速の直突きが放たれた。
放たれる一撃を、ゾーンに入ったように引き伸ばされる体感時間の中で見つめる。ランは右肩、ユウキは左肩を狙っているのだろう。俺達のHPを削り切ることができるという確信を持って放たれたOSSを前に、俺達は────
「「はぁっ!?」」
「貸し一つ!」
「お互いにな!」
「「ラーメン一杯────幸◯苑な!」」
お互いの腕を肩ごと切り落として初撃を回避。そしてそのままやってくる攻撃をステップのみで綺麗に回避してみせる。
「「なんで避けられるの!?」」
「「ゼロ距離ミニガンを避けた俺達に隙は無かった……! ガチタン勢ありがとう!!」」
(((ガチタン勢……?)))
あとでアスナ達に聞いたが、まるでダンスをしているようだったという動きで絶剣達の攻撃を十回避けきり、ラストの凄まじい光を纏った突きを同じくソードスキルで対応。槍の単発重撃ソードスキル《タイタンクリーパー》と、片手直剣の単発突進ソードスキル《ソニック・リープ》が、彼女らの剣の横っ腹に激突した。
……さて、ALOやGGO、ACBONWなどの武器を使うゲームには、武器破壊や武器破損というものが存在する。武器の接続部分など、脆くなりやすい部分に攻撃をぶつけてやると、武器として使い物にならなくなる……まぁ、ぶっ壊れるのだ。
このALOというゲームはその破壊判定というのが、若干分かりやすく設定されている。ソードスキルを発動した状態で、凄くざっくりした計算式にはなってしまうが、
(武器の重さとか諸々含めての耐久値×ソードスキルの威力&属性値)-(ぶつかった武器の重さ+ソードスキルの威力&属性値)=
……みたいな感じ。しっかり計算したわけじゃないからガバガバだけど。
何が言いたいのかというと、俺もキリトも重い武器が好みであり、ギースリもユナイティウォークスも中々の重量を持っている武器なのだ。ゆえに────
「「ああああ────!?」」
細い軽量武器の横っ腹にぶち当たれば、そりゃ折れる。綺麗に、ポッキリと。
「すげ……見たかよ今の」
「狙ってやったのか?」
「武器破壊……? そういうのもあるのか」
観客の声が聞こえてくる中、俺とキリトはダラダラと冷や汗をかいていた。
「ボクの武器……」
「私の、武器……」
対戦相手だったユウキとランがポッキリ折れた武器を見て、プルプルと震えているのだ。女の子を泣かせたとなると、ALO世界での社会的地位が死ぬ。────まぁ、別にどうでもいいが。ACBONWなんかじゃ、泣き叫ぶ女性プレイヤーのコックピットを踏み潰したりするのは当たり前だったし。
そういえばMURAKUMOでぶった斬った二人のプレイヤーさん元気かなぁ。フカ次郎? とレンだっけ? 見てないけど、今はどんなゲームやってるのかな。
「す────」
「「す?」」
「すっごいねお兄さん達!? 武器を壊されるなんて初めてだよ!」
……なんだろう、犬かな? 輝くような笑みを浮かべているユウキを見て、そんなイメージが浮かんだ。その隣ではランが楽しそうに微笑んでいる。うーん、反応が予想外。
「ユウキ、じゃあ決まり?」
「うん! お兄さん達に決まりだ!」
「「何が?」」
よく分からない言葉に間抜けな声が出る。
「あのー……デュエルの決着は?」
「お兄さん達の勝ちでいいよ! びびっときた! お兄さん達で決定!」
「すみません、お二人は時間ありますか?」
「????」
「おいトーマス、考えることを止めるな」
いや、だって……ねぇ?
「とにかく、ちょっと付き合って!」
「わ、ぁああああああああ!?」
「き、キリトォオオオオオ!?」
「メテオストライク!!」
あ、大丈夫そうだな。豚のフックで捕まえてやりたいところだが、鎖は持ってきていないからなぁ……
「もう、あの子は……すみません、トーマスさん。お時間をいただけますか?」
「え? んー……まぁ、いいけど。ちょっと待ってて」
唖然としているアスナ達────
「ごめん皆、ちょっと行ってくるわ。キリトめ……暴走機関車の座を狙ってるな……?」
「「「いや、それはない」」」
「そう?」
ならいいや。俺のポジションを奪われたら、俺がブレーキ役をすることになってしまう。そうすると、キリトは暴走しかできなくなるからな。ブレーキなんてやらねぇぞ俺は。
「お待たせー。どこに向かえば? ルーンである程度は移動できるけど」
「えーと……二十七層の主街区です」
ほうほう、《ロンバール》か。あそこはワクワクする感じがあるよね。入り組んでいて、路地裏がたくさんあって……獣が角待ちしてそうで……オルゴールが聞こえてきそうで……
「青ざめた血を求めろ、狩りを全うするために……」
「あの、どうかしましたか?」
「はっ……!」
俺は何をしていたんだ……?
頭を振って、ルーン・ハンマーと転移のルーンを取り出すと、思い切りぶっ叩いた。
「ちょっと気持ち悪いかもだけど我慢してね」
「え────」
落下する感覚を味わいながら、俺とランは転移門を通過する。その瞬間のランはとても味わい深い表情をしていたことを記しておく。
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「……で、俺達はどうしてここに?」
酒場の中央の丸テーブルには、俺とキリトを含めて十人のプレイヤーが座っている。ウンディーネが二人、レプラコーン、スプリガンが二人、サラマンダー、ノーム、インプ、プーカ……あら、いつものメンバーとほぼ変わらねぇな?
「ユウキ、ラン、何も説明せずに連れてきたの?」
「……てへっ」
「ごめんなさい、伝えてませんでした」
……この二人、マジで不思議な人だな? 雰囲気的には……姉妹か? でも、なんだろうなぁ……このパーティー……あ、いやギルドか。ギルド《スリーピング・ナイツ》のメンバー全員から感じる諦めというか……生への執着の無さと、滑らかすぎる動きは。
キリトもそれを感じ取っているのか、少しだけ首を傾げていた。それをここに連れてこられた理由が分からないからだと思われたようで、スリーピング・ナイツの団長であるランが口を開く。
「ごめんなさい、キリトさん、トーマスさん。今回ここに連れてきたのは、お願いがあってのことなんです」
「ほむ……」
「お願い?」
狩り……ではないだろう。ランとユウキを含めた全員が実力者だろうこのギルドに、俺達が加わったとしても旨味はない。だとすれば……ネームド・エネミーの討伐とかだろうか? それとも戦争とか? 戦争なら楽しいだろうなぁ……このギルドと拮抗できるくらいの集団がいるということだ。
「おい、トーマス、気持ちは分かるけど抑えろ」
「ん? ああ、ごめん」
「トーマスってもしかして戦闘狂?」
「食い荒らすのが大好きなだけだよ?」
愛嬌のある巨漢のプレイヤーテッチにそう返すと、周囲から苦笑が飛んでくる。
「残念ですが、戦争ではありません」
「あ、そうなんだ」
「はい。……その、私達は……この階層のボスを倒したいんです。このギルドだけで」
……ほう。ギルドのみによる階層主討伐と来ましたか。大きく、難しい問題だ。だが、楽しい問題でもある。
「キリト、ギルド加入縛りとかしてるっけ?」
「いや、してない。……やるつもりか?」
「うん。楽しいでしょ、こんなの」
「それはそう」
ニヤリと笑い合った俺達は、ギルド加入申請を行う。その行動が予想外だったのか、目を丸くする八人の妖精達。
その中で、いち早く驚きから復帰したシウネーが口を開いた。
「ひ、引き受けてくださるんですか!?」
「うん。楽しそうだし」
「た、楽しそう……?」
ゲームは楽しいからやるもんだろうに。神は食べるもの、神様の手は振り払うもの、カーパルスは焼き尽くすもの、ゲームは楽しむもの。
無鉄砲だろうが、無茶や無謀と笑われようが、貫き通してみせれば俺達の勝ち。壁があるなら壊して繋ぐ。線路はどこまでも続くのだ。
「……ところで、聞いてもいい?」
「……何でしょう?」
ずーっと気になっていたのだ。このウンディーネとインプの二人────否、このギルドのメンバーについて。
「プレイ時間、どれくらい? 中々ヌルヌル動くから気になってさ」
「プレイ時間……?」
「俺とキリトはACBONWってゲームで暴れてたから結構動けるんだけど……皆はそうじゃないでしょ? 皆を傭兵として見たことがない」
だからちょっとだけ踏み込んでみる。地雷なら地雷で撤退するつもりだ。リアルの詮索はマナー違反だしね。
……皆の顔色からして地雷っぽいし、撤退しよう。そして空気を変えるのだ。
「あ、言いたくないなら言わなくていいよ。皆それぞれ事情はあるだろうし。かくいう俺も抱えてるし? ……うん。色々と」
「おいこら、何を隠してやがる」
「……ダイジョウブダヨ、キリトニハカンケイナイカラ!」
「嘘だろ絶対! 言え、何を隠してる!?」
「HAHA!」
「誤魔化し方下手くそか!?」
広がれキリトーマスワールド。地雷からの撤退と空気の入れ替えを同時に行うのだ。
そんな俺達を見て、《スリーピング・ナイツ》の面々は唖然とした後、吹き出して笑い始める。
「あははは! キリトもトーマスも、動画と全然変わらないんだね!」
「お、ユウキってもしやリスナーさん? お気に入りは?」
「砂でお城完成するまで寝れません!」
「「カフッ……!」」
あれ、凄く疲れたんだよ。ノイシュヴァンシュタイン城を作ろうってことになったせいでな。
「ちなみに姉ちゃんは観光企画だよ!」
「あれ、大好きなんです。……どうして震えてるんですか?」
「「鬼ごっこは嫌だ、鬼ごっこは嫌だ、鬼ごっこだけは嫌だ……!」」
組分け帽子にスリザリンじゃないように願う眼鏡ボーイのように念じていると、ノリが分かるのか、ランが低い声────それでも高いが────を出す。
「ほう、鬼ごっこは嫌かね?」
「お願い、鬼ごっこだけはやめて、鬼ごっこだけは……!」
「それならば……騎馬戦をしましょう!」
「「もっとヤバイやつじゃねぇか!?」」
正気かラン!? 俺達を殺すつもりか!? あの人達に騎馬戦をやらせてみろ! 死ぬぞ!?
「楽しそうじゃないですか、騎馬戦」
「それが言えるのはね、あのお爺様達と対面して倒せる自信がある人だけなんだよ、ラン」
空気はたちまち混沌を呼び込み、地雷を踏んだことは有耶無耶になる。……俺とキリトは心にモヤモヤを抱えながらも、このギルドに協力することになった。アスナ達の方が適任な気がしなくもないけど。
原作なら八人パーティーまでじゃないと名前が刻まれません。しかし、この世界ではギルドメンバー(十人まで)なら刻まれることになっています。違和感があるかもしれませんが、ご了承ください。
アスナ達の出番もしっかりあります。