ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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さぁ、深夜テンションで仕上げたのでおかしなことになってる気がするぞぅ!(三徹目)


キリトーマスの秘密

実はもう色々と我慢の限界だったりする。少し小突いてやれば爆発する可能性すらある。滝行を実施するか、本格的に思案中。


29.楽しい打ち上げ

 巨人の攻略が始まってから四十分が経過した。今のところ回復は間に合っているが、そのうち間に合わなくなるだろう。

 攻撃チームも限界まで踏ん張っている。巨人の攻撃はほぼ全て回避しているし、広範囲ブレスは指示通り一歩下がったり、テッチの盾の後ろに隠れてやり過ごすなど、しっかり立ち回っているのだ。

 

「うがぁあ! いつになったら倒れるんだい、こいつは!?」

 

「これだけ硬いと嫌になりますね……!」

 

 ノリとタルケンが悪態を吐く中、巨人の暴れっぷりが顕著になっていく。HPがほぼほぼ尽き始めている証拠である。体力が見えないのが、アインクラッド唯一のゴミ仕様と言わざる得ない。

 

「弱点……見えたか、キリト」

 

「……多分な」

 

 さっきから紫色の宝石が目につくのだ。首の付け根中央で輝いているそれを、カウンター覚悟で攻撃する度に怯んでいたため、もしかしてとは思っていたのだが……

 

「こっから(の距離が)高いんだよここから」

 

「高いねぇ……」

 

「武器は伸びないからな……」

 

「伸びないねぇ……」

 

 現実逃避ではなく、攻略方法を考えているだけだ。あの距離だから……ヴォーパル・ストライクとかなら簡単に詰められるだろうけど、狙い撃ちにされたら元も子もない。

 キリトと俺ならやれるだろうが、それじゃあ《スリーピング・ナイツ》が倒したとは言えないだろう。では、どうするか。

 

「あの二人なら、やれるな。キリト」

 

「ああ。捨て駒ってやつだ」

 

 勝つための布石……俺とキリトでやつの体勢を崩し、その間にユウキとランがあのOSSを叩き込めば、勝機はある。

 

「刀、使うか?」

 

「んーん。いらない」

 

 俺は《ソル・レムナント》と《マニ・レムナント》を激しく打ち鳴らす。その瞬間、轟々と炎と霜が俺の腕を覆い尽くした。この武器の使い方、その一つがこの技である。普段から使っていたが、このまま使うのが正解ということではないそうだ。

 

「ラン! ユウキ! 首の付け根の宝石を狙え!!」

 

「ええ!?」

 

「私もユウキも届きませんよ!?」

 

「大丈夫だ。俺とキリトを信じて!」

 

 ハンマーを間一髪で躱して叫んだ俺に、ランとユウキは少し考えた後、笑みを浮かべた。

 

「シウネー、ヒールを任せます」

 

「ええ、行ってきてください!」

 

「テッチ、ジュン、ノリ、タルケン! ラストアタックを仕掛けるから、全力で援護して!」

 

 テッチとジュン、ノリとタルケンは一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに何も言わずに頷く。

 その直後、巨人は真っ黒いガスのようなブレスを放った。硫黄の臭いが部屋に立ち込め、俺達のHPがガリガリ音を立てるように減少する。

 

 が、それを嘲笑うようにシウネーが完璧なタイミングで体力を回復させてくれた。

 

「合図したら、全力で叩き込め!」

 

「頑張れ、絶剣姉妹!」

 

 ハンマーの攻撃を掻い潜り、俺とキリトは自身の全力を叩き込むべくソードスキルを発動する。キリトの二本の剣が青白く輝くのと同時に、俺の短剣も荒々しい輝きを放つ。

 

「「オォオオオオオオオオラァアアアアアアアア!!」」

 

 二刀流三十五連撃OSS、《スターダスト・イクリプス》。俺が型を作り、キリトが形にした俺達だけのソードスキル。俺が親元になっているからなのか、キリトはOSSをもう一つ開発できる。この仕様、どうにかならないのだろうか……アプデでOSSスロット追加してくれないかなぁ。

 

 降り注ぐ流星のような閃光と、夥しいダメージエフェクトが迸り、巨人の絶叫が響き渡る。フィニッシュの袈裟斬りが巨人の両足に激突した途端、やつの体が傾き────怒りを込めたハンマーの一撃が俺達の横腹を直撃した。

 

 だが、俺達は囮だ。残念だったな、巨人め。俺達に釣られた時点で、お前の敗北は確定しているんだよ。

 

「「往け、絶剣」」

 

 ざまぁみろ、と吹っ飛ばされながら、嗤ってやる。HPはショックダメージで消し飛ぶはずだが、そこはこの武器の特殊ギミックによって作り出された炎と霜のクッションによって緩和。ミリ単位で残った。

 

「「はぁあああああッ!!」」

 

 ソプラノボイスとアルトボイスの鋭い掛け声が重なり、青紫色のエフェクトフラッシュと、青白いエフェクトフラッシュが部屋中を照らした。

 

 ソードスキルは発動したら、技が終了するまで落下することはない。ランが左上から右下、ユウキが右上から左下へと突きを五発放ち、交差するようにもう五発叩き込む。交差する十字の剣技が弱点に直撃する度、巨人は悲鳴を上げる。

 

 最後の一撃、凄まじい閃光が彼女らの剣から放たれる。ダイヤモンドのように輝く剣は、カリヨンベルのような音を響かせながら、エックス字の交差点────丁度巨人の首の接合部に重なる位置だ────に突きを叩き込み、刀身を深くまで届かせた。

 

 巨人が絶叫を途切れさせ、不自然な体勢で全身を硬直させるのを見て、俺とキリトは笑い、《スリーピング・ナイツ》のメンバーは動きを止めた。

 やがて、巨人の体に亀裂が生じ、凄まじい轟音と共に砕け散る。

 

「「勝っ…………たぁあああああああああ!!」」

 

「「「「「「「やったああああああああ!!」」」」」」」

 

 俺とキリトが両手を突き上げて叫ぶと、《スリーピング・ナイツ》のメンバー全員が飛び上がり、ガッツポーズを決めて歓声を迸らせた。

 

「アハハハハハハ! 超、疲れた!」

 

「分かる」

 

 でも────

 

「「楽しかったぁ……!」」

 

 大の字で倒れた俺達は、重々しい音が響いてきたことに気付く。

 扉が開け放たれるのと同時に、ギャーギャー言い争いながら突入してきたのは、ザザさんとジョニーさんを筆頭にしたラフコフのメンバーと、アスナ達だった。

 

「「やりやがったよ、あのギルド」」

 

『やるじゃん!』

 

 ニヤリと笑って、Vサインを見せてやると、プレイヤー達が俺とキリトを含めた《スリーピング・ナイツ》のメンバーを胴上げする。長かったなぁ……いや、まぁ、二時間程度なんだけどさ。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

「じゃあ、皆さん……今回のボス攻略は私達の完全勝利です! ありがとう、乾杯!!」

 

 グラスを持っていた俺達は、ランの掛け声に続く形で乾杯する。いつもキリトと使っている小さな酒場で、ガラァンッ、という音が響き渡った。

 

「いやー、勝った勝った。あ、ところでキリトとトーマスってALOの他にどんなVRMMOをやってたんだ?」

 

「ACBONW歴が一番長いかなぁ……あそこはいいよ。頭のおかしい連中ばっかりでさ。今度紹介しようか?」

 

「え゛っ、いや……遠慮しとく」

 

 そっかぁ。ジュンの────いや、《スリーピング・ナイツ》の皆なら俺の使ってない機体使いこなせそうだと思ってたんだけどな……紙タンとか、軽量四脚とか……あ、でも鴉を貸すのも悪くない。

 

「そ、そういえば……トーマスさん達はゲームをし始めたきっかけとか、ありますか?」

 

 話を逸らしたなシウネー。俺は諦めんぞ。絶対にお前達を闘争の世界に引きずり込んでやるからな! ……それはそうときっかけねぇ……きっかけ、となれば……

 

竜咳(りゅうがい)かなぁ……あれのせいで外に出れなくてさ」

 

「俺は元々ゲームが好きだったからな。きっかけってのはないけど、竜咳は確かにキツかった」

 

 あれ、マジで死ぬかと思ったよね。腹は痛いし、体液という体液がヌメヌメし始めるし、色んなところに鱗が生えてきたり、その他諸々苦しかった。気を紛らすためにゲームを始めたらこれが面白くて、ゲームの世界に飛び込むようになったわけだ。

 

「滅茶苦茶甘い柿を食べた後に……凄く苦い薬飲まされて……」

 

「その後変なお香が焚かれた部屋に押し込められたっけ」

 

「そうそう! その時にはもうキツくもなかったから、一日中ゲームして過ごしたねぇ」

 

 俺やキリトがなった竜咳という病気だが、科学的な治療法が見つかっていないらしい。地元の風土病で、治し方が変なものだから、医療従事者の人達が蛇蝎のごとく嫌っている、と遠間家の爺様とかから聞いている。

 

「あの病気? って地元の人達の血が混ざってる人にしか感染しないんだっけ?」

 

「らしいな。あの土地、呪われてるのか? ご飯は美味しいけど」

 

「あはは、まっさかぁ! 大婆様はびっくりするほど若いけど────って、どしたん、ラン、ユウキ?」

 

 この世の終わりとか、宇宙の真理を知った猫みたいな表情を見せて。……いや、これは人間が変なものを見た時の反応に近い。《スリーピング・ナイツ》のメンバー全員が変なものを見たような目でこちらを見ている。

 

「あの……竜咳というのは……?」

 

「あ、方言だよ。病気の正式名称は確か……竜ノ澱咳(たつのでんがい)、だったかな?」

 

「あんまりニュースには出ないからな、あの病気。感染するのが特定の血が流れている人ってのもあって、知名度も低い」

 

 放っておくと死ぬらしいけどね、あれ。血の塊を吐いたりするらしい。

 

「それを、患ったのはいつですか?」

 

「えーと……小学生の頃だったかな? まだ腕もあった気がする。だよね、キリト?」

 

「ん、ああ。そのくらいだな。俺よりトーマスが酷かった記憶がある」

 

「俺は秘明と遠間の間の子供だからね……血が濃くなってるからだと思うよ」

 

 秘明と遠間は昔からあそこにいる人達だから、あの病気に罹患して亡くなる人もいたらしい。大婆様の話からして大昔の話らしいけど……乱世ってのは凄いね。

 

「秘明と遠間といえば……酒造りの大御所じゃないか! あそこのウィスキーは絶品だったよ。日本酒もね!」

 

「最高級品は確か、竜泉……でしたか。いつもすぐに売り切れるとか」

 

「竜泉かぁ……あれ、地元だと御神酒とかに使われてるよ。桜の神様に供えるんだって」

 

 大婆様や爺様に話してもらったことがある。毎年、とんでもなく高い山に建てられた神社に参拝しに行き、豊穣を祈るお祭りがあるのだ。大晦日ではお寺で、正月三ヶ日では神社で行うそうで、今年こそは参加するつもりである。

 ……というか、大婆様からルナさんを紹介してほしいと頼まれているのだ。キリトとアスナも道連れにして、地元に向かってやるぜ。

 

「トーマス、凄く寒気がしたんだが?」

 

「気 の せ い で し ょ」

 

「嘘 つ け」

 

 お前だって秘明の血が流れてるだろうが。知ってるんだぞ、お前がお米や燻製とかの生産に熱中できる質だってことを。俺と同じ穴の狢だぞ。

 

「……そっか。キリト達も、そうだったんだね」

 

「「何か言った?」」

 

 取っ組み合いしてたから聞き取れなかった。もう一回言ってくれユウキ。

 

「ううん、なんでもない!」

 

「「ほんとかなぁ? (疑心暗鬼ゴロリ)」」

 

「ホントだよ! ボク、嘘は吐かないよ!」

 

 そう……そうなのか? 一日二日の関係だから分からないや。まぁ、俺は信じよう。……だが、疑い深いキリトが信じるかな!? こいつは疑問を疑問のまま終わらせない質の人間! 地雷を踏まないどころか掘り起こして電極切ってから踏むタイプの人間だぞ。

 

「まぁ、いいや。《スリーピング・ナイツ》の皆は……春に解散なんだっけ」

 

「あ、はい……そうですけど……」

 

「……」

 

 突っ込むか、否か……決めるのは、今しかないだろう。どうする? 俺とキリトの疑問を解消するために、地雷を踏むか? 目の前にいる皆の地雷を踏んで、不快な思いをさせてしまうかもしれないのに……いや、これは言い訳になる。どこまで行っても結局は自分のための行動なのだから。だから、俺達は嫌われる覚悟を持って────

 

「それは、さ……皆がどこか諦めてるのに関係してるの?」

 

 地雷を踏み抜いた。

 

「────何、を……」

 

「どこまでも、諦めてる。生きることを、諦めてる。仕方ないって思っちゃってる。長い間、染み付いた習慣みたいに」

 

「まるで、もう少しで死ぬ、みたいな……そんな諦めが伝わってきた」

 

 俺とキリト────遠間瑞理と桐ヶ谷和人は死にかけたことはある。あったけど、生き延びることができた。運が良かっただけで、俺達は彼ら彼女らと同じようになっていたかもしれない。

 

「俺とキリトに踏み込んでほしくなかったのは、それが原因でしょ。……うん、怒られても、恨まれても仕方がないことを言ってる自覚はある」

 

「でも、知っておきたいんだよ、俺とトーマスは」

 

 エゴだと言われるだろう。踏み込んでほしくないことに踏み込んだ愚か者だと罵られる覚悟はある。それでも俺達は知りたかった。このギルドが────目の前で申し訳なさそうに、泣きそうにしている皆のことを忘れないように。

 

「余計なお世話かもしれない。偽善かもしれない。けど、知りたい。俺もキリトも……ごめん、上手く言えないや」

 

 苦笑いを浮かべて、俺とキリトは頭を下げる。罵倒だって覚悟していたから、皆が無言で立ち去っても文句はない。

 

「……ごめん、なさい、トーマスさん、キリトさん。そんな顔をさせてしまって」

 

 だが、俺達を待っていたのは、シウネーの謝罪だった。驚いて顔を上げると、《スリーピング・ナイツ》のメンバー全員が凄く優しく、それでいて申し訳なさそうに笑っていた。

 

「あなた達は本当に、優しいんですね」

 

「「いや、欲望に忠実なだけです」」

 

「ううん、本当に優しいよ、キリトも、トーマスも」

 

 ユウキが屈託のない笑顔を見せて、そう言う。

 

「ずっと考えてたんだよね? ボク達のことについて。さっきの質問だって、凄く悩んだんでしょ? 聞くか、聞かないか」

 

「……うん」

 

 だって聞きにくいだろう、皆がどうして死人みたいな雰囲気を纏っているのか、なんて。これでも気遣いはできる方なんだぞ。

 

「やっぱり優しいじゃんか、二人共」

 

「うん、そうだね。悩んで悩んで、悩んだ果てに、聞いてくれたんだから」

 

 ジュンとテッチの言葉に、皆が頷いた。お人好しすぎやしないか、このギルドメンバーは。

 俺とキリトがそんなことを考えていると、タルケンが口を開いた。

 

「キリトさん、トーマスさん。ワタクシ達は、話し合ってたんです。お二人がワタクシ達の事情を察して、踏み込んできた時どうするか」

 

「勘がいいからね、二人はさ。それで、話し合った結果……」

 

「踏み込まなければ、そのまま解散。踏み込んできたのなら、お話しようと、結論付けました」

 

 タルケン、ノリ、ランの言葉に俺達は絶句した。気付いていたのか、俺達が皆に疑問を持っていたことを。それでも、離れようとしないで、俺達を懐に留めるとは……

 

「でも、私は……いいえ、私達は、踏ん切りがついていません。これを話して、お二人が迷惑を被るのではないか、嫌な思いをしてしまうのではないか、と」

 

「「……」」

 

「だから……だから、トーマスさん、キリトさん。もし、少しでも、聞きたくないと、思うなら────」

 

「「思わないよ」」

 

 今にも泣き出しそうな声で言葉を紡いでいたランの言葉を断ち切り、断言する。

 

「俺も、キリトも、後悔しない。皆と会えてよかったと思ってる。迷惑や嫌な思いなんて、するもんか」

 

「ああ。だから、聞かせてほしい。《スリーピング・ナイツ》が、どうしてここに来たのか。皆が、何者なのか」

 

「……ああ……」

 

 本当に、泣き出す一歩手前の声が聞こえた。

 

「本当に、お二人と会えて、よかった」

 

「……最終確認は、必要?」

 

「「いらない」」

 

 いつものように笑った俺達を見て、《スリーピング・ナイツ》もつられて笑う。その笑顔は泣いているようにも見えたのは、俺だけだったのだろうか。

 グラスの中身を飲み干したランは、一度目を閉じてから、話を切り出した。

 

「……私達が解散する理由は、忙しくなるから、じゃないんです。…………三ヶ月で……」

 

「ボクと、姉ちゃんがいなくなる、からなんだ」

 

 いなくなる、というのは、文字通りの意味。この世からいなくなるから、解散しようという話になったらしい。

 

「お二人は、ターミナル・ケアという言葉は、ご存知ですか?」

 

「終末期医療、だったよね? ……昔、キリトの爺ちゃんが癌で亡くなったから、知ってるよ」

 

「ああ……あの時、もっと話しておけばって、後悔したことを覚えてるよ」

 

 不仲だったもんな、キリトは。それから、俺達は後悔しないように生きようって思ったんだと思う。

 

「私やユウキ────《スリーピング・ナイツ》のメンバーは、それかそれ一歩手前の人間で構成されています」

 

「このギルドは、元々九人で構成されてたんだ。でも、二人いなくなっちゃった。だからね、皆で話し合って決めたんだ。ボクと姉ちゃんの時には、解散しようって」

 

「だから、思い出をALOで?」

 

「うん。逝っちゃった二人にお土産を持っていけるようにって」

 

 ……キッツいなぁ……分かっていたけどさ、こういう話は本当に辛くなってしまう。後悔はしていないが、目の前の皆がいなくなると考えると、やるせない気持ちになってしまうのは、俺だけではないはずだ。

 

「だから、この世界にボク達が生きていた証明をしたいって思ったんだ」

 

「でも上手くいかなかったんだよなぁ。何も知らない僕達にはキツくてさ」

 

「あー……確かにな。アインクラッドって鬼畜仕様が多いから」

 

「そうそう! で、話し合ったんだよ。二人、手伝ってくれる人を探そうってさ」

 

 そうして見つけたのが俺達だったらしい。

 

「二人共、ありがとな。僕達に協力してくれて。満足だよ、本当にさ」

 

「ホントにね! これでアタシ達の未練はないよ」

 

「ええ、本当に。ワタクシ達が生きた証が刻まれ、お二人も覚えてくれている。こんなに……嬉しいことはないでしょう」

 

 だから、ありがとう。

 彼ら彼女らからのお礼を聞いた俺達の表情はというと────

 

「「ヌゥウウウウウン……」」

 

『すっごい不満そう!?』

 

 そりゃあ不満も出るわ。

 満足? 満足だって言ったか、このギルドメンバーは。だが、少し待ってほしい。忘れていないか、お前らは。

 

「満足してないギルメンが、いるぜ」

 

「へ? ギルドメンバーは、ボク、姉ちゃん、シウネー、ノリ、テッチ、ジュン、タルケン────」

 

「「ここに、いるだろうがァ!」」

 

 今の俺達は《スリーピング・ナイツ》のメンバーだ。ギルドに加入して協力していたからなァ! 残念だったなお前ら……シリアスな空気はここで打ち止めだァ。こっからは暴走機関車モードだ。

 

「満足なんてしてないぞ俺とトーマスは!」

 

「もっと生きたいって、満足してないって言わせてやる! 動画配信者舐めんなよ! リスナー楽しませるのが俺達の役目だ!」

 

「でも……私達は本当に満足して……」

 

「知るか」

 

『知るか!?』

 

「ああ、知らない。皆が満足してるなんて、俺は、キリトは思ってないぞ!」

 

 人間はどこまでも求める生物だ。諦めていたとしても、死にたいと思っていても、心の片隅で生きたいと願うのが人間なのだから。

 

「五体満足────トーマスは違うけど、健康な俺達が何を言っても届かないかもしれない。けど、言わせてくれ。満足なんて、絶対嘘だ」

 

「嘘じゃ、ないよ。だって、こんなにも……」

 

「本当に? 本当に、満足してるって、言える?」

 

 ここまで来たら、どこまでも突き進む。壁を作られても、バリケードを作られてもぶち破って、どこまでも踏み込んでやる。

 

「満足したの? 本当に? やりたいことも、行きたいところも、何もないのか?」

 

「やり残したことは、本当にないのか?」

 

「まだ生きたいって、思わないのか?」

 

「思えないなら、俺達が言ってやる!」

 

 死にたくないって思えないなら、俺達が言ってやる。だから、来い、眠るのはまだ早いぞ勇敢な妖精騎士達! 

 

「「逃がさねぇ! 取っ捕まえて引きずってでも生かすからなお前ら!」」

 

 ビリビリと空気を震わせるような声が、貸し切った酒場に響いた。ギラギラと目を輝かせる俺達を見た《スリーピング・ナイツ》のメンバーは、困ったように笑う。

 

「ははっ、キリトもトーマスも……馬鹿だなぁ」

 

 ポツリと、ユウキが言った。

 

「ボクね、頑張って生きたと思ってた。後悔もないって」

 

 思い出すように、何かに想いを馳せるようにして呟く言葉は、小さくても、耳に残る。

 

「でも、あったよ。行きたいところ」

 

「ほほう?」

 

「学校に行きたい」

 

 学校と来たか。なるほど……確かに入院生活となれば学校なんか行けやしないだろう。

 

「姉ちゃんと一緒に、学校に行きたいな」

 

「ユウキ……」

 

 それを皮切りに、空気が変化したような気がした。皆が纏っていた雰囲気が、希望を求めるようなものに変わったような、そんな感じが。

 

「……私も、行きたい場所があります」

 

「奇遇だね、アタシもだ」

 

「ワ、ワタクシも!」

 

「僕も!」

 

「うん、僕も行きたいところがある」

 

 皆から生きたいと願う想いが伝わってくる。人が当たり前に願うもの、生きたいという感情や想い。まだ生きていたいという欲望が、《スリーピング・ナイツ》のメンバーから伝わってきた。

 

「ねぇ、二人共」

 

「「ん?」」

 

「ボクと姉ちゃんの病気、ね……二人と同じなんだ」

 

 なぬ……

 

「私もユウキも、輸血で、感染したらしいんです。数年前からずっと、ベッドから動けないでいます」

 

「どんどん体が自分のものじゃないみたいに変わっていって……凄く怖いんだ」

 

 ああ……分かる、分かるぞ、その思い。手が竜人みたいになり始めた時は狂いそうになったし。

 

「治る、かなぁ?」

 

「治り、ますか?」

 

 すがるような表情と声。俺とキリトは死ぬほど苦しんだ病気に、この二人は何年も苦しめられてきたのだ。その辛さは、俺達の比ではないだろう。

 だから、だからこそ、言ってやろうじゃないか。無責任かもしれないけど、この言葉を。

 

「治る。絶対に治るよ」

 

「俺達が治ったんだ。二人が治らないわけがない」

 

 だから、生きてくれ。まだ皆、これから先、たくさんの道があるんだから。

 

「ボク……生きたい。まだ、生きたいよ……」

 

「まだ、死にたくない。もっと、皆と一緒にいたい!」

 

「「なら、言えよ! 生きたいって言え!」」

 

『生きたい! まだ生きていたい!!』

 

 その時、俺とキリトは《スリーピング・ナイツ》のメンバー全員と、やっと、本音が聞けたような……分かり合えたような気がした。

 

 絶対に死なせるものか。俺とキリトの思いは一つである。

 

「んじゃあ、やりたいこと、全部やろう! 行きたいところもリストアップして!」

 

「あの、話の腰を折るようで申し訳ないのですが……私達は病院からは────」

 

「「伝はあるんだなぁ、これが!」」

 

 この時の俺達の表情は、まるで悪魔のようだったと、のちにリアルで《スリーピング・ナイツ》のメンバーが口々に言っていた。失礼なことだよ、全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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