ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
トーマスの秘密
身内が死ぬと滅茶苦茶泣く。泣いて泣いて、泣き止むと高熱によって寝込む。寝込むと、夢の中で自分が炎に焼かれる夢を見るらしい。
十二月三十一日日朝午前三時。俺とキリトは御茶ノ水のロボット開発会社の食堂で、無心で大量の麺類を生産していた。
「とんでもない量だな」
「捌ける捌ける」
「瑞理、お前十五分前にもそんなこと言ってたぞ」
そうだっけ? ……まぁ、俺の集中力の話はどうでもいいんだ。なぜ俺達がこの企業────Uテック&Iテックにいるのか……それは、先日《スリーピング・ナイツ》が生きたいと叫んだ後、急いで企画書を作って焦園寺さんに直接持ち込んだのだ。
彼の秘書の道理さんに「企画書の完成度は評価しますが、アポ無しの突撃は誉められたことではありませんよ」と窘められたのはいい思い出。
企画書の内容は《遠隔旅行ロボットの運用について》。旅行に行きたくても入院中で行くことができない人達へのロボットサービスだ。ニュースでそういうものを見た記憶があったので、この期を逃したくなかったのである。
「できると思う? あ、かき揚げ蕎麦上がり」
「できるだろうなぁ……あの人達凄いやる気だったし。あ、天麩羅うどん上がり」
男性女性関係なく、滅茶苦茶食べるんだよねあの人達。ちなみにこの麺料理大量生産は動画にもさせてもらうつもりだし、賃金もくれるそうで。儲かってるんだな、この企業。
「────よし、あらかた用意できたかな。運べ運べ!」
「出でよ、出前でよく見るシルバーボックス!」
料理を出前でよく見る箱に入れて配達開始。この箱は面白いことに、スライド機構が付いているのでスープが溢れる可能性が低い。画期的だ。
「にしても、凄い時代になったもんだよなぁ」
「色々物騒だからってのもあるんだろうけどねェ」
視聴覚双方向通信システムによる……なんだっけ? ざっくり言うと、仮想世界を利用して現実世界でロボットの体を動かそう、というものである。これの臨床試験ってのが足りないらしく、俺達の頼みごとは願ってもない話だったそうだ。
交渉……というか、皆が入院している病院に勤めている担当医及びご家族の方々には、仮想世界ではあるけどお会いして頭を下げた。そしたらびっくり、全員が「患者さんがやりたいことをやれるなら」とか、「家族がやりたいと言っているなら」など好意的で、即決してくれた。
「あとは、ユウキとランの病気だよな」
「竜咳の治療方法……ね」
その日のうちに大婆様に電話したら、干し柿しかないと言われてしまった。根治するには生柿でないといけないらしく、干し柿での治療は延命療法に近い代物となる。症状は抑えられるし、変貌した姿も戻るが、定期的に干し柿を食べないといけないのだそう。どうしてかは知らない。
「他のメンバーは?」
「新薬の投与とか、手術があるらしい。ずっと渋ってたけど、覚悟を決めたってさ」
他のメンバーは決意が漲っているようだ。生きたいという欲に満ちているのだから、きっと上手くいくだろう。
そんな話をしていると、話題が年末────今日向かうつもりの地元の話になる。
「土産、どうしようか……」
「竜泉とか渡されたりするからな……」
「未成年なのにね」
溜め息を溢しながら、扉を開けた先では────
『酒だ! 酒を飲め!』
『乾杯!!』
深夜テンションで酒を飲んでいる大人達がいた。
「うーん、この」
「三日間で仕上げる化け物集団め……」
蕎麦やうどん、ラーメンを配達しながら奥に見える人形ロボットを見て、俺と和人はドン引きした表情を浮かべる。マジで八人分のアンドロイド義体及びセットアップを完了させやがったよこの人達。
「お、やぁ瑞理、和人。約束の品だよ」
「ありがとうございます、焦園寺さん」
「これで目的も果たせます」
「ただ、まだまだ新しい技術だから、トラブルの可能性もある。担当の連中も同行させてもらうよ」
そりゃあ願ってもないことだ。最近メカトロニクスなるものに手を出し始めた和人でも、これ程高度なロボットはいじくり回すことができないだろうからな。
「それで……このアンドロイド、どこに運べばいいんだい?」
「「葦名」」
その地名を言った瞬間、部屋の空気が凍りついた。
「……なんだって?」
「「葦名に、お願いしたく」」
どんだけ意外だったんだよ専務。俺達が毎年葦名に行ってるのは知ってるだろう。
詳しい事情を説明しようにも、ここから先はプライバシーの問題にもなってくる。どうにか誤魔化そうかな、と思っていたが、そこはUテック&Iテックの皆様。何やら察してくれたようで、何も聞きはせずに発送の準備を始めてくれた。
「じゃあ送っておくから、君達は準備を進めていくといい。来年もよろしく頼むよ、二人共」
「「こちらこそ! 今年もお世話になりました! 来年もよろしくお願いいたします!」」
俺達は社員の皆さんに頭を下げて、食堂近くに置いてあった荷物を詰め込んだキャリーバッグを背負う。
「いざ、葦名へ……!!」
「ああ……!!」
今年はルナさんと明日奈さんも向かうことになっている。葦名流の運搬、気に入ってもらえるといいけど。
「迎えは?」
「もう来てるとさ。さすが『黒傘観光バス』……伊達に二十四時間運営じゃないぜ……!」
葦名は昔、とんでもなく凄腕の忍者? がいたらしい。それが黒傘のムジナ様。らっぱ衆とやらの中で最も優れた忍だったという彼の名に肖り、観光バスの会社の名前に黒傘と付いているそうだ。
お土産の購入ならば、『物売り穴山』。お酒の取り扱いは秘明や遠間……あと、骨董品なら『供養衆』……物騒な響きだが、いい品物を揃えている。俺の愛用している水分補給用のカラフル瓢箪もそこで購入したものだ。
「俺と明日奈は葦名城城下町で降りるから、皆を案内しておくよ。お前は────」
「大婆様に呼ばれてるから、仙峯寺だね」
高いお山の山頂に聳えるお寺の仙峯寺。俺が大婆様と呼んでいるお方がいらっしゃる場所で、俺が生まれたのもそのお寺の中でのこと。下手な病院よりも手早い出産の手伝いができるとか、あそこのお寺……というか、葦名の人達何者なんだよ。
あ、ちなみにだが、俺は名家の生まれです。遠間も秘明も結構格式あるお家だそうで。まぁ、いい意味で名家らしくない家だけど。
「ルナさんがガチガチに緊張してたけど……大丈夫かなぁ」
「慣れるだろ。大丈夫大丈夫」
「お、そうだな? ────お、バス来てる! 行こう、和人!」
「ああ! 最高の旅になるといいな!」
会社の外で待っていた黒いボディに紅葉のペイントが施されたバスに乗り込んだ俺達は、先に乗り込んでいた二人+三頭を見て、にっこりと笑う。
「お待たせ、お二人さん、フェンリー、スコル、ハティ」
「ううん、大丈夫。おはよう和人君」
「おはよ、瑞理。凄いね、このバス。ベッド付いてるよベッド。ふかふかだよ」
普通は高級バスにもなるかもしれないようなベッドが備え付けられた夜行バスに、ちょっとだけ興奮しているルナさんを見て癒される。うーん、俺の彼女が可愛い。
『えー、まもなく葦名行きのバス、発車いたします。二回程、パーキングエリアに入ります。仮設トイレはございますが、可能であればパーキングエリアのお手洗いをご利用ください』
「そろそろ出発だって。ほら、瑞理、こっちおいで」
「あ、俺は奥のベッドで……ミ!?」
「ダメ」
恐ろしく早い掴み技、俺でなければ見逃しちゃうね。なお、躱せるとは言ってない。
「旅行中に寝ないように今寝ておこうね」
「ミ……ミ……ミ……ミィィィィ……」
「和人君、あれ大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。まだミ゜って言ってないし」
無責任だぞ和人。俺の耐性の無さは知ってるくせに、なぜそこまで無責任になれるのか。おお、親友よ……助けておくれ……じゃないとお前にスタマイの32.6%血晶石が出ない呪いをかけてやる……赤子の赤子、ずっと先の赤子まで。
「おい瑞理、さっきからとんでもないこと言ってる自覚あるか?」
「口に出てた?」
「ギィギィ言いながら呪いをかけるんじゃない。ブラボ耐久二十四時やったからって染まりすぎだろ」
楽しかったのでいいのだ。────アッ、お待ちくださいルナ様。俺のことを掴んで離さないのは聞いてないです。温かい……温かいよう……柔らかいしいい匂いするし温かいしでいいこと尽くめかよ……心臓が爆発しそうってのを除いてな。あ、ヤバい……もう限界……!
「ミ゜」
「「「あ」」」
年末、俺の午前中はそんな感じで気絶して終わった。
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瑞理が気絶した後、幸せそうに眠ってからおよそ数十分が経過した。本当に、彼女ができて良かったな瑞理……俺は安心したよ……師範代達が言っていたことにはきっとならないはず。そもそも、あいつはそんな簡単に堕ちるようなやつじゃない。あいつが堕ちるのは、ルナさんからの愛情による堕落のみだろう。ズブズブと沈んで抜け出せなくなって、そのまま愛情に溺れてしまえ。
親友のことを考えていた俺の隣では、彼女である明日奈がまだ日が出ていない外を眺めてみたり、持ってきていた飲み物を飲んだりと、ソワソワしている。
「明日奈、ソワソワしてるけど、どうしたんだ?」
「え? んー……ふふ、実はね、初めてなんだ。家族以外と遠出するのって」
「? 修学旅行あるだろ?」
「違う違う。そういうのじゃなくて、プライベートでってこと」
ああ、そういうことか。うーむ……確かに俺も瑞理やスグ、両親以外とは旅行をしたことがなかったな。初の他人との旅行が恋人&仲間達との旅行となるとは、さすがの俺達でも予想できなかった。
嬉しそうに微笑む明日奈の可愛さに脳を焼かれそうになりながら、ふと明日奈の家を思い出す。
「そういえば……家の用事は良かったのか?」
「あ、うん。葦名に行くって言ったら、京都の家の人達が驚いてたってお父さんとお母さんが笑ってたよ。和人君を馬鹿にしてた人も青ざめてたって」
「ああ、それは可哀想に……」
葦名の人はとんでもなく身内への情が厚い。俺は馬鹿にされても瑞理と一緒に「知ってる! はははっ、それがどうかした?」と笑い飛ばすか、動画のネタにするかだ。あまりにも酷い時には侮辱罪で裁判沙汰にするが、葦名の人達は……うん。何かと物騒である。
「葦名に行くなら、実家に行かなくてもいいって」
「どんだけ葦名が恐いんだよ明日奈の実家……」
「本当にね。……ところで和人君……」
「ん? どうした?」
急に瑞理達の方をチラチラ見て、どうしたんだろうか。
「瑞理君って結構寝てる時は子供みたいなんだね」
「小動物みたいと言って差し上げろ」
本人も気にしてるんだ。やめて差し上げてくれ、明日奈。確かにルナさんがあやすようにしながら寝かしつけているのを見ると、子供みたいには思うが、せめて小動物みたいと言って差し上げろ。
「ふふ、ごめんなさい。……本当に、穏やかな寝顔よね」
「まぁ、な」
俺個人としては、瑞理が危ないことに首を突っ込まないでくれるとありがたいし、晩年までルナさんと仲睦まじく過ごしてほしいと思っている。だって、そうだろう。瑞理は俺の親友であり、恩人でもあり、相棒なのだ。そんなやつの無事を願うことが悪いことか? 絶対違う。
俺達が今手を貸している《スリーピング・ナイツ》……彼ら彼女らに手を貸している理由だって、今考えてみると、瑞理が理由の一部にあるのだ。
瑞理は、身近な人間や身内との離別を嫌う。悲しい別れでもすれば、あいつはきっと、一週間は泣く。
泣いて、泣いて……ネガティブ思考になる……わけではないが、とにかく泣く。その後熱を出して寝込んで、うわ言のように「炎が……炎が……」、「待って……どうして、俺を……置いて……」と呟くのだ。それを見たことがあるから……あいつにはもう、悲しんでほしくない。
「……拠り所が見つかって、よかったな瑞理」
「んん……ルナ、さん……大好き……」
寝てる時は大胆な告白できるんだな、こいつ。モゴモゴとくぐもった声が聞こえ、苦笑する。飼い犬達も呆れながら、主である瑞理の近くに寄り添っている。
「さて、と……葦名までまだ時間あるし、寝とこうぜ。明日奈、ベッドはどうする?」
「…………」
「ん?」
「一緒、じゃ……ダメ、かな?」
────────────すまん瑞理、からかっていた俺を許してくれ。葦名まで、俺の理性持つかな……滝行、しようかな……落ち谷で。
と、いうわけで新年、明けましておめでとうございます。