ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
実は、普通の漢方を作る人間よりも漢方に精通している。葦名は水がいいのか、無駄に漢方やら薬草やらが生えており、下手な薬を飲むよりも効くことがある。
キリトの妹である直葉やトーマスの姉の悠那も、月に一度、にキリトやトーマスが葦名で薬師監修の下で作った漢方をもらって腹痛などに耐えることがある。
また、流れる血がそうさせるのか、まぁまぁ医者などへの適正がある。
葦名という地方は日本の中でも異端の存在だ。なぜかは知らないが、政府が干渉しようとしない。税金とかはしっかり支払っていたりするから日本の自治体という判定ではあるようだが……
あと、どこの名家も警戒するし、やっかみなどをしようとしない。これは葦名を築き上げた最強の侍、葦名一心様が関係しているだろう。幕府も朝廷も、葦名一心率いる国盗り達を恐れていたそうで、その名残が今でも残っているそうだ。
さて、そんな葦名では四つの信仰がある。一つは竜神信仰。桜の竜神様を祀る氏神信仰だ。
二つ目は百足信仰。八百万の神様……に部類するものではなく、産土神。
三つ目は白蛇信仰。凄く大人しくて、大きな蛇がいるのだが、それを奉る信仰だ。
最後に仏門。仙峯寺がそれらしいんだけど、百足信仰とも混ざっているように感じる。
「瑞理殿、バルバストル殿、御子様がお待ちです」
そんなことをぼんやり考えていると、黄色い道着を着た修行僧が声をかけてくれた。
「ん、はいはい。……あれ? 幻廊行かなくていいの?」
「ああ、それが……御子様が問題ない、と」
ふーん……大婆様って、いつもなら猿との追いかけっこさせるんだけどな。豊穣を与える御子様ってことで、色んなご利益があると思われているらしく、色んな人達が来る。だが、全員会えていない。
猿を捕まえることができた者だけが謁見できるのだ。
それがバラエティ番組であっても、取材であっても捕まえられないなら、絶対に会うことはない。少し前、動画投稿者達が集まり、『御子様に会ってみた』みたいな企画をやっていたけど、結局会えてなかった。
「恐らくですが……瑞理殿や瑞理殿の匂いが染み付いている者があそこへ行くと、猿が集まってくるからかと」
「ああ、なるほど」
猿達は俺を見ると寄ってくる。大婆様が言うには、遠い昔にやってきた人によく似ているから、だそうだ。うちの家宝である一振りの刀と、一振りの大太刀……それらを扱えた唯一の人に似ているらしい。そんなに似てるのかな?
「とにかく、奥の院にて、御子様がお待ちです」
「うん、ありがとう、
案内をしてくれた道巌さんにお礼を言って、奥の院へと向かう廊下を歩いていると、ルナさんが俺の服の袖を引いた。
「ねぇ、瑞理、聞いていい?」
「ん、何かあった?」
「ここ……何かあったの? GGOのマップのゴーストがたくさん出てくるエリアに似た雰囲気があるんだけど……」
ああ、それのことかァ。
「昔ね、とある実験をしてたらしいよ、ここ」
「実験?」
「そ、実験。……不死の実験。ゾッとするような、背筋が凍るような、恐ろしい実験が」
仔細を聞いたことがある俺は、ニヤリと笑ってそれだけを伝える。あんなおぞましい実験、内容まで話す必要はないだろう。ルナさんビビってるし。
「ふ、不死って……そんなことできるわけ……」
「さァ、どうだろうね?」
そもそも百足信仰だってそこに起因しているものだし。ルナさんの震えが強くなり、掴むのが袖ではなく腕となる。怖がらせすぎたかな?
そう思った直後────────
『そう怖がらせてはいけませんよ、瑞理』
声が響いてきた。
「ヒッ!?」
「大婆様も怖がらせてるではありませんか」
大きな扉を力一杯引っ張ると、重い音を響かせながら扉が動く。水の音が鼓膜を叩く中、しがみついているルナさんを連れて、奥の院に続く短い廊下を進む。ルナさんってホラー映画とか得意なはずなんだけど……あれかな、ノンフィクションとフィクションでは話が違う的な……
「す、瑞理……大丈夫なの……?」
「うん。大婆様は優しい人だよ」
そう言って、奥の院に足を踏み入れると、空気が変わるのを感じた。厳かで、それでいて懐かしい感覚。
「……お久しゅうございます、変若の御子様」
座布団に座った女性を見た俺はすぐに頭を垂れる。……む、ルナさんから驚いている雰囲気が飛んできたぞ。これでも礼儀作法は全部叩き込んでいるのだ。
「顔を上げてください、瑞理。そう畏まらなくともいいのですよ」
「……は」
顔を上げると、穏やかに微笑む大婆様が見えた。
「久しいですね、瑞理。年に一度の帰省、待っていましたよ」
「大婆様につきましても、お変わりのないようで」
いや、髪が若干白くなったかな? 大婆様は凄い昔から生きていると聞くけど、実際どれくらいの年月を生きているのだろうか……
「ふふ、それで瑞理。彼女が、そうなのですか?」
「は……ルナ・バルバストル……私にはもったいないくらいの女性でございます」
「敬語でなくともいいと、何度も言っているでしょう? 普段の言葉で話してください」
「……御意」
大婆様にそこまで言われてしまったら、普段の言葉遣いにするしかないじゃないか。
「じゃあ、遠慮なく。大婆様、この人が俺の彼女。ルナさん」
「ル、ルナ・バルバストルです。よろしくお願いします」
「……なるほど。あなたが…………頭を上げてください、ルナ殿」
穏やかに微笑んだ大婆様は、頭を下げたルナさんに頭を上げるように伝えた。
「瑞理の大切な人に頭を下げさせてしまうのは、心苦しいものですから」
「は、はい……ありがとうございます……?」
「瑞理、この方とはどのような出会いを?」
「えーと……最初は小学生の頃。再会したのは本当にちょっと前だよ」
意外とこういう話好きだよね、大婆様って。
そんなことを思いながら、俺とルナさんは大婆様を相手に色んな話を始めた。
────────────────────────────────
『ここぞとばかりに隻狼は、黄泉から戻った一心に渾身の一太刀を叩き込んだ!』
仙峯寺で大婆様と会話しているであろう瑞理を待つ間に、俺と明日奈、そして《スリーピング・ナイツ》のメンバーは葦名に伝わる忍者の物語を観賞していた。
提案したのは意外なことにユウキ。ラン以上に結構な読書家らしく、日本で出版されている葦名の物語も何度か読んだことがあるそうで、葦名の演劇を見てみたいと思っていたらしい。
『ぬぅ…………かっ!!』
ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーすら感じる、気迫の籠った声に、アンドロイドの義体である《スリーピング・ナイツ》のメンバーは背筋を正す。何度も見ている俺でも背筋を伸ばすような声なのだから、初めて見た彼ら彼女らはもっと凄いことになっているだろう。
そう思っていると、物語は終盤に近付いていく。隻腕の忍者が正座をする葦名一心に真っ赤な大太刀を向け────
『やれい!』
首を叩き斬った。これで、黄泉から戻った最強の男は倒される。恨むことはなく、憎みもせず、ただ小さく、彼は呟いた。
『見事……じゃ……隻狼……』
『…………さらば』
『────────葦名一心、討ち取りて。隻狼、竜の故郷へ旅に出る。これが葦名最後の
三味線と笛と太鼓の音が会場に鳴り響き、幕が閉じると共に大きな喝采の嵐が巻き起こる。
「……どうだった、皆?」
「言葉にできないくらい凄かった!」
明かりが会場に戻ると、ユウキが楽しそうに言った。余程気に入ったのか、刀を振るような仕草も見せている。……まぁ、気持ちは分からんでもない。
あの演劇は葦名で年に一度しか見られない特別なものでもある。だからこそ、役者に選ばれた者は大喜びしてさらに精進するし、周囲も祝福すると共に研鑽を積む。為すべきことを為す。そんな教訓を胸に抱いて。
「それにしても、不思議な物語だったね……ねぇ、和人君……本当にいたのかな、半兵衛さんみたいな人……」
「ん? ああ、半兵衛様はいるぞ?」
『え゛っ……?』
驚いたような声の中に若干の恐怖が混ざった声が聞こえる。明日奈はゴーストとかレイス系が苦手だし……いじわるは程々にしとくかな。
「ほら、最初に参拝しただろ? 鬼寺。あそこに墓があったの覚えてるか?」
「あ、うん。あったね」
「そこに三つの小さな墓……それが半兵衛様のお墓だよ」
残り二つは確か、半兵衛様と懇意にしていたある姉弟の墓だと聞いている。昔、瑞理が話していた。
「そっか……え、てことは蟲憑きって本当にいたのか!?」
「さて、ね。まぁ、なぜか知らないけど竜咳があるくらいなんだし、いたんじゃないか?」
瑞理の家系を辿ると、変な家にもぶち当たるしな。あいつ、結構貴い血が流れてるだろ。なんで西洋の貴族の血まで流れてるんだ……
いや、まぁ、俺の本当の親の片方もそうだったみたいだから、人のこと言えないんだけど。
「さ、さすがに首無しは……いないでしょう」
「まぁ、脚色入ってるかもな。……神ふぶきの存在があるけど」
「キリトさん、今なんて言いましたか?」
何も言ってない。何も言ってないぞ皆。
「ま、まぁ……とりあえずお昼ですけど……本当に食べられるんですか?」
「らしいぜ。元々、そういう機能を付けて販売する予定らしい」
味覚センサーとか、擬似的な消化器官などが組み込まれたアンドロイドは、「手足も動かず点滴しかできていないけど、美味しいご飯を食べたい」、「家族ともう一度だけでいいから食事をしたい」といった患者さん達への救済措置? に使われるらしい。救済になるのかは知らないけど。
消化されたものは体内でいくつかの成分に分離されて、肥料やら何やらになるんだとか。
「はいはい! ボク、茶屋に行きたい! おはぎ美味しいところ!」
「うーん、私は葦名鶏が食べられるお店に行きたいのですが……」
ユウキとランが提案すると、口々にどこに行きたい、いやここがいいだろうと声が上がる。生きる原動力を手に入れた《スリーピング・ナイツ》はさらに活発化している気がする。というかノリとタルケンは本当に酒好きだな?
「おお、和人ではないか!」
直後、よく響く声が俺の鼓膜を叩く。ブリキの人形になったかのような動きで振り向くと、着物を着た白髪の男性がいた。
「………………ご無沙汰しております
「おう。……うむ、弛んではおらぬようだな」
「そりゃ、年末年始は山登り、ですからね……」
「かかっ! それもそうじゃが、迷いが少なくなっておる」
……この人、本当に何者なんだろうか……本当に齢八十九の男性なのだろうか……百年生きても死ななそう────いや、葦名の人達百歳まで現役の人滅茶苦茶いるから、百五十年生きても死ななそうだ。毎年、お盆とかにも帰省するけど、帰る度に元気になっているような……?
「ああ! さっき舞台にいた……!?」
「おうよ。お主らは…………」
じっ、と《スリーピング・ナイツ》のメンバーを見つめる茜心さんは、合点がいったように笑う。
「────なるほど生にしがみつく騎士、か。気に入った!」
アッ、アッ、アッ……茜心様! 茜心様! あー! 困ります茜心様! いけません茜心様! まだ元気になっていないのです! 修行は! 修行はまだできませんよ茜心様!?
「おう、騎士よ! 存分に葦名を見て回るといい。お主らを退屈させはせんじゃろう」
「あ、あれ……?」
なんだか思ってたのと違う。
「なんじゃ和人……この儂でも、病人に挑みはせんわ」
「俺と瑞理が竜咳になった時、試合しようとしたの忘れてませんからね」
「かかっ! それはそれ、というやつよ。あの時のお主らは見てられんかったからの」
「だからって十文字はないでしょうが!?」
模擬刀じゃなかったら、俺達じゃなかったら死んでたからなあれ!? 瑞理は斬られて大人しくなったけどさ……もっとこう……あっただろうに……鬼寺の住職みたいに穏やかな顔をした仏の彫り物とかさ。
「昔の話じゃ、気にするな。ところで……瑞理は仙峯寺か?」
「あ、はい。奥の院にいると思います」
「そうか。ふぅむ……渡すものが、あったのじゃがな……」
渡すもの……? 瑞理に? ……酒じゃないだろうし……本? いや、茜心さんがそんなものを渡すわけがないから、もっと実用的な……俺にあって、瑞理にはないもの……もしかして……
「義手?」
「おうよ。あやつが使っている義手、そろそろ変え時であろう」
そういえば、瑞理が義手についてぼやいていた気がする。何年も使ってるからなのか、感度が悪いとかなんとか……瑞理の義手って結構頑丈に作られてるはずなんだけどな? それを弱らせる瑞理の暴走機関車振りよ……
「葦名一の技師がドイツに直接出向いてな。向こうで調整を施したらしい」
ちょっと待ってくれ、嫌な予感しかしないんだけど。葦名一の技師って、絶対ろくな人じゃないだろ。
「あ、あの、ところであなたは?」
「おお、すまんすまん。挨拶がまだであった」
葦名の青い着物を着た茜心さんはニヤリと笑い、息を飲んでしまうくらい強い力を感じさせる声を発する。
「儂は葦名茜心。葦名流免許皆伝……一応葦名の代表者でもある。よろしく頼むぞ」
「……ねぇキリト、もしかしてこのお爺ちゃん強い?」
小さな声で耳打ちしてきたユウキに、俺は間違いのない事実を述べた。
「強いも何も……俺と瑞理が一本も取れてない人だぞ」
「ええ!?」
仮想世界でも、勝てるかどうか……まずソードスキルは通用しないだろう。本当に、勝てるイメージが浮かばないんだよな、この人には。
「っと、いかんいかん。儂はもう行くぞ。
「また何かやらかしたんですかあなた……」
「何、ただの深酒よ。緣め、昔は素直で可愛い孫だったが……医者となってからは、うるさくてかなわん」
それはしっかり説教されてきてください。……あ、それはそうと……
「茜心さん、緣さんって今どこにいますかね?」
「ん? 緣のやつなら、竜泉川の近くで薬草を集めておるはずだが……用があるのか?」
「ああ、はい。ちょっと相談したいことがありまして」
「ふむ……なるほど、相分かった。緣には伝えておく。宿はどこに取っている?」
「竜桜温泉です」
「では、そこに夕刻向かうように伝えておこう。瑞理への届け物も、渡しておく」
やったな、瑞理。高性能で頑丈な義手が手に入るぞ。どうせろくでもないものが出てきそうだけど、触らぬ神に祟りなしってやつだ。受け取ってくれ。
そんなことを考えていると、ニヤリと笑った茜心さんは俺と明日奈にだけ聞こえる声で呟いた。
「よい薬を用意しておく。……火照り薬は必要か?」
「ぶっ!? 違うから! そんなので緣さんに用があったんじゃないって!?」
「か、和人君、火照り薬って……?」
「かかっ! なぁに、後々役に立つ。持っていて損はないじゃろうて」
セクハラで訴えんぞこの爺さん!? ……どうなるんだこの先の旅行……俺と瑞理の兄貴分に該当する緣さんに生暖かい目で見られたら、俺も瑞理も
ここでは返却エンドからの茶屋エンドを歩んでいる其処許。そこに貴い御方がいらっしゃったのかはご想像にお任せします。