ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
実は最早我慢の限界。少し刺激しただけで瑞理を骨の髄までしゃぶり尽くすレベル。頑張れ瑞理、負けるな瑞理。君の貞操は君が守るのだ。
桜の匂いは嫌いじゃない。特に、葦名の桜の匂いは好きだ。甘くて、芳しい香りがするから。
心を穏やかにして見ることもできるし、なんだか懐かしい感じがする。
「わぁ……! 桜! 桜咲いてる!? 冬なのに!」
「これが、常桜……枯れることのない花……」
「そっか、皆は初めて見るのか」
「葦名にしか咲かないからねェ、この花」
西洋にもあるらしいが、そこと葦名以外の土地では育たないと聞く。昔、海外に持ち帰って育てようとしたけど、すぐに枯れたって話を聞いたことがある。確か……シーボルト氏?
「それにしても不思議な場所……大きな湖の上に建物があるなんて……」
「ねえ二人共、動画で水中撮影してたけど、どうやってたの?」
「「水生の呼吸術」」
『なんて?』
「「水生の呼吸術」」
葦名の中でも漁業などが盛んに行われている水生村という場所がある。そこに生まれる者には特殊な呼吸方法を教えられる。それが水生の呼吸術で、俺達は水生村出身ではないものの、なんだかんだあって鬼寺の仏師様に叩き込まれた。あの人何者なのだろう。
「知りたいなら教えようか?」
『人外になるつもりはありません』
「「ハァン!?」」
聞き捨てならないぞ。まるで葦名の人間が人ではないような言い種だ。確かに茜心さんとか、朧蝶さんとか、左近さんとか緣さんとか人類が生み出したバグみたいな存在だけど、他の皆まで人外扱いするのは許さん!
「ワン」
「ガウ」
「ウルォン」
ん? どうしたフェンリー達────って、そうか、ここって谷に繋がってるから、登ろうとすれば登れるのか。断崖絶壁、滝だし登れるかと言われたら無理だけど……
「皆、ちょっと下がろうか。登ってくる」
「え?」
「何が────!?」
それを見たルナさんの言葉が途切れた。建物の近くにあった滝を、巨大で真っ白な何かが昇ってきたのだから、当然ではある。
「────────────────」
『ハァアアアアアアア!?』
葦名にて信仰される白蛇様。巨大な蛇ではあるが、大人しく、何を喰らって生きているのかよく分かっていない土地神様だ。言い伝えによると、落ち谷などで増えすぎた生き物を食べているそうだが……何回脱皮したらあんなに大きくなるのやら……頭だけで六メートルはくだらないぞ。
「珍しいこともあるものですね、白蛇様。あなたがここまで登ってこられるとは」
「────────────────────────」
なぬ? 俺達に用があった? 白蛇様が? 俺達に用事とはどういうことだろう。
「────────────────────」
「は……? いやいや、お戯れを。白蛇様のご息女を預かれるほど驕ってはおりません」
『なんか会話してる!?』
「ええ……瑞理君って、どうなってるの……」
「うーん……住める環境、うちで整えられるかな……白蛇様、俺の家族に相談してからでいいですか?」
「和人君も話せるの!?」
白蛇様の言葉を理解するのに大事なのは、フィーリングと信じる心である。
「うーん……葦名の水を飲まなければアナコンダくらいのサイズで収まるか……?」
(((アナコンダ……!?)))
「まぁ、大きくなったとしてもティタノボア一歩手前でしょ」
(((ティタノボア……!?)))
白蛇様が言うには、三年の間預かってほしいそうだ。人間のことを理解する期間らしく、毎年蛇の一族内で行っていたそうだが、長決めがあるためゴタゴタしているために難しいとのこと。
「────────────」
「あ、じゃあ春にまた来ますね」
そう伝えると満足したのか、白蛇様は音を立てずに滝の下に消えていった。あんな図体でどうやって無音で動いているのだろうか……
「おや……瑞理君達ではありませんか」
皆が唖然としていると、張りのあるアルトボイスが聞こえてきた。
「緣さん、明けましておめでとうございます」
「ええ、明けましておめでとうございます」
着物を着た優男っぽい男性、
「瑞理君、その後、義手の調子はどうですか?」
「問題ないです。今まで使ってたのよりもいいくらい」
「そうですか。それは良かった。……ところで、御前試合には参加するのですか?」
ああ、そんなのありましたね。神様に捧げる試合……お互いの武を神に見せるとか、なんとか……
でも、今回の目的はそれじゃないし、不参加でいいと思う。というか和人とあらかじめ相談して決めている。今回の桜竜神社への御詣りはお香の材料をいただくためのものだ。
「今回は止めておくつもりです。そのために来たわけではありませんから」
「おや……珍しいことですね。瑞理君と和人君が不参加とは……楽しみにしていた方々もいたでしょうに」
どうせ師範代とかでしょ。嫌だよ、俺……あの人達と素手で戦いたくない。仙峯寺拳法の師範からは免許皆伝を伝えられているし、模擬刀であればなんとか弾けるかもだけど、それでもやりたくないのだ。痛いし。刀ではなくとも、槍くらい使わせろ。
「何を隠そう私もその一人でしたから」
「刀持った人達と素手で戦う子供を見て楽しむとか馬鹿か何か? 母さんに言いつけていい?」
「おっと、やぶ蛇でしたね……」
「俺だけ素手で、あんたらは武器あり……母さんに殴られればいいのに」
母さんの拳は痛いぞ。というかあんたら、前に父さんと母さんに殴られた経験あるでしょうに。
「あの拳は痛かった……祖父の骨を砕いたのは、後にも先にも遠間夫妻のみでしょう」
「あのまま逝っても良かったと個人的に思ってる」
「瑞理の私怨はともかく、瑞理に武器を使わせないのはダメだろ。相手は大人……しかも有段者だぜ?」
「ごもっとも……ですが、祖父達はどうしても瑞理君に武器を使わせたくないようなのです」
使うな、握るなの一点張りだもんね。
「まぁ、君は……武器を握らなくとも強いので、武器を使わずとも彼らといい勝────ゴブッ!?」
「あ、しまった、イラついて拳が」
「うーん、迷いのない仙峯寺拳法。九十点」
苛立ちで拳が出るなんて、まだまだ未熟だな……てか緣さん、なんで避けなかったのかな? いつもの彼ならこの程度簡単に避けるはずなんだけど。
「ゲホッ、ゲホッ……! み、見事な一撃……衝撃を余さず内部に通すとは……」
「す、瑞理、これ、大丈夫なの?」
「え、あ、うん。こんなの葦名じゃ日常茶飯事だし」
いつもなら向こうから仕掛けてくるからね。正当防衛だ。過剰なくらいがここでは丁度いいのである。
「ふむ……やはり参加しませんか? 今からでもエントリーが……」
「もう一発行ってみます? 最近気付いたんですよ、仙峯寺拳法って全部の型に繋がるって」
「ステイ、ステイだ瑞理。さすがに菩薩脚は不味い。やるとしても破魔の型にしとけ」
『いやダメだからね!?』
皆から止められたので、ここは退くとしよう。さすがに兄貴分をこれ以上殴るのは気乗りしないし。……あ、なんかイライラしてきたな……いつもはこんなに短気じゃないんだけどなぁ……
「ごめん和人、一試合だけ参加してもいい?」
「んー……まぁ、一試合くらいならいいんじゃないか? 皆も見たいだろうし」
やった。このイライラを武器を使わせようとしない老人共にぶつけてやる……目指せ一勝。
目標を掲げ、俺は御前試合のエントリーへと向かった。
────────────────────────────────
「うぐぐ……ふざけんなよあの爺……!」
温泉宿の自室で、ルナさんの膝を枕にした俺は不貞腐れていた。
数時間前、桜竜神社にて御前試合に参加した俺は、佐瀬師範代の抜刀術に敗れてしまった。瞬殺とまではいかなかったが、それでも数分で負けてしまったのである。しかもその後に放った言葉が「まだまだ未熟だな」だ。んなこと言うなら刀を握った和人と素手で戦ってみろよ。
「本当に素手で戦うなんて……手、大丈夫?」
「ちょっと痺れるけど、大丈夫。義手も壊れてないし」
「それならいいけど……無理はダメだからね?」
「うん」
頭を撫でてくれているルナさんに頷いてから、俺は申し訳なさそうに呟く。
「ごめん、観光したかったでしょ? 今からでも合流してきなよ」
「ううん、いい。瑞理と一緒にいる方が楽しいから」
微笑んでくれるルナさんの言葉に嘘はない。不貞腐れているからなのか、膝枕してもらっていてもドキドキしないのは僥倖かも? いつも気絶とかしちゃうし……
「この温泉宿、そろそろ温泉の時間来るらしいよ。温泉に入ったら、ちょっとは落ち着くかもだけど……どうする?」
「……もうちょっとこうしてたいかな……」
「ん、いいよ」
頭を撫でられながら、桜竜神社でいただいたものについて考える。いただいたのはお香の材料である桜の花、睡蓮、そしてトゲトゲした石ころだ。これらを香炉に入れて焚けば、かぐわしい香りがする。あとは滅茶苦茶苦いあの薬と柿だが……来週家に送ってくれるらしい。
それらが揃えば、ユウキとランの治療が行える。太郎柿が手に入るまでは、葦名の干し柿を定期的に食べてもらわねばならないが、なんとかなるだろう。
「瑞理」
「何?」
考え耽っていると、ルナさんが話しかけてきた。その顔はいつもと違って赤くなっている。
「女将さんから聞いたんだけど……」
「? うん」
「ここの温泉、混浴も、あるんだって」
………………………………なんですと?
「ルナさん、今なんて?」
「だから、混浴だよ……! 一緒に入れるって、言ってた」
真っ赤になったルナさんはあまり見ないからちょっと新鮮で可愛い。いつもは大人っぽくて、小悪魔みたいなこともしてくる人だけど、こういう恥じらう面もたまに見せてくるため、ギャップに脳が蕩けそうになる。
「そ、それで、ね……? 一緒に…………温泉……入らないかな……って」
「あの、ルナさん……それ、俺に死ねと申してる?」
彼女であるルナさんなら分かっているはずだ。俺がどれだけルナさんの下着姿とか見て悲鳴を上げたり、気絶しそうになったりしているかを。今朝だって、浴衣姿とかに悶絶してたんだぞ? そんな俺が、ルナさんと温泉に入ったらどうなると思ってる……気絶待ったなしだよ!!
そんな思いが通じたのか、ルナさんは赤くなりながらもいつも通りに笑った。
「ふふ、冗談だよ。うん……冗談」
「……」
「あ、信じてないでしょ?」
顔を真っ赤にしながら言っておいて何を申すか……冗談にしては本気度合いが違ったのを俺は見逃さないからな。据え膳食わぬは男の恥とか言われても、絶対に俺は手を出さないぞ。………………多分。
「信じない悪い子には……こうしてやる!」
「わっ!?」
突然太腿から頭を外されたかと思いきや、すぐに柔らかい感触が俺を襲った。
「ちょっ、ルナさん……! 苦し……」
「あ、ごめんね。瑞理ってちょっとだけひんやりしてるから、こうしてると寝心地いいんだ」
抱き枕のように俺を抱き締めて倒れたルナさんは、満足げに息を吐いて、俺のうなじを撫でる。それだけで甘くて痺れるような感覚が俺を支配する。ルナさんの匂いと体温、聞こえてくる吐息まで、艶っぽく聞こえてきて、思考が白く染まりかけた。
「我慢できなくなったらいつでもいいからね?」
「我慢、します……してみせます……!」
バルバストル夫妻からもルナさんのことを頼まれているのだ。これしきのことで折れたら顔向けできない。
「ヘタレ」
「な、なんとでも言ってよ。俺は折れないから……!」
「じゃあ私が襲ったらいいのかな?」
「そんなことしないって信じてる」
しないよね? さすがに、しないでしょ……? しないよね……? 一抹の不安が過るが、ルナさんがそんなことをしないと信じることにした。
「むー……こっちの我慢だってあるんだから、早くしてね?」
「拗らせた童貞はこういうことに慎重なんですー」
「これ以上待たせたら、本気で襲うよ? いいの? いいんだね? いいよね?」
「ヒエッ……コウコウニュウガクマデ、マッテクダサイ……ユルシテ……ユルシテ……」
「…………仕方ないなぁ。許してあげる」
「アリガトウゴザイマシュ……アリガタヤ……アリガタヤ……」
ルナさんの声がマジ過ぎて余計なことを口走った気がするが、未来の俺がなんとかしてくれるだろう。頼んだぞ、未来の俺。