ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
実は仙峯寺拳法免許皆伝。師範となる資格も得ている。現在は大太刀を練習中。
凄いなこの義手。この義手は俺が失った左腕よりも自由かもしれない。これがあればどこまでも行ける……!
「……なぁ」
「ん?」
どうした和人、俺の暴走を止めるつもりか? え、止めない? ああ、そう……
「お前、時間大丈夫なのか?」
「時間?」
時間って言ってもまだ二時半………………………………二時半?
「やっべえェ!?」
「やっぱり忘れてたのかよ!?」
忘れていましたね、ええ、本当に。冬休みが終わったが、進路が確定している俺と和人は自由登校……これもボランティア活動と成績上位を取り続けている恩恵だろう。
葦名から帰ってきた後、《スリーピング・ナイツ》のメンバーは各々やりたいことをやると一時的に離散。病気を治して再会しようと誓い合った。
ユウキとランは一週間ずっとお香を焚いた部屋で過ごすという治療段階に移っており、倉橋先生やご両親からは「あんなにも楽しそうに話している二人は久しぶりだ」と聞いている。一週間、部屋に閉じ籠らなければいけないが、ずっと入院している彼女らなら大丈夫だろう。
まぁ、それはそれとして……俺は急がなければならない。なぜなら今日は────
「ルナさんと放課後デート……!」
「待ち合わせ場所は大学だったよな? 間に合うか……!?」
多分間に合うだろうけど、彼女には背伸びをしたくなってしまうというのが男心だ。ちょっと早めに到着して、出迎えるとかしたいじゃん。お決まりの会話とかはなくても、勉強で頑張ったルナさんを労いたい。
和人には今日の予定を話していたため、
「和人、電車は!?」
「人身事故による運転見合わせだと……!? タクシー使えタクシー!」
「了解!」
急いで行かないと、という思いで一杯になった俺だが、忘れ物がないかはしっかり確認する。財布よし、鞄よし、服────はあまり肩肘張るようなものじゃないのでよし。
「髪型……伸びてきたし、そろそろ切ろうかな」
「今日は結んでいけ。ほら、髪紐」
紺色の髪紐を受け取り、伸びた髪を一つにまとめて準備万端。髪を切ったらルナさんになんて言われるだろう……俺が髪をいじっている時の表情が獲物を見定める野獣の眼光だったんだよね……
「瑞理」
「何?」
「決まってるぜ」
和人のサムズアップに笑みで返し、俺は外に出る。雪は降っていないが肌寒い午後の空の下、待ち合わせ場所に指定された大学までの道のりへと足を踏み出した。
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退屈な講義が終わって、ノートと筆記用具を鞄にしまう。単位のために取った講義だったけど、これなら取らなくてもよかったかもしれない。
「ルナ、講義これで終わり?」
「え、ああ、うん。私はこの講義で終わりだよ」
帰りの準備をしていると、私が入っているサークルメンバーの雨宮凛が声をかけてきた。
「今日サークルの皆で遊びに行こうと思ってたんだけど、どう?」
「んー……ごめん、今日これから人と会う予定なんだ」
「あ、そうなんだ。…………もしかして、これ?」
小指を上げた凛はニヤニヤとからかうような表情を浮かべている。これに反応してしまうと、数週間はからかいのネタにされてしまうだろう。
「うん、恋人だよ」
だから、ここは笑顔で正直に答えるのが正解だ。そうすれば、凛は硬直する。
「……マジかぁ……」
「? 何か問題?」
「いや問題は無いけどさ、ルナの人気分かってる?」
人気ねぇ……瑞理と恋人になってから────というか、それ以前からそんなものを気にしたことはない。
「先輩が狙ってたの知ってる? ほら、武術サークルの」
「さぁ、興味ないから」
「最初から眼中になし、ね。あんたらしいわ」
高校からの付き合いで、生徒会副会長も務めていた凛は苦笑して私の肩を叩いた。彼女も結構モテるはずだけど、生涯独身を貫きたいと常日頃言っていたのを覚えている。
「あ、ルナ、凛。おつおつー」
「お、天音お疲れー」
「お疲れ、天音」
ロリポップを咥えて歩いてきた金髪の女の子は焦園寺天音。派手……というか、今の最先端を進んでいるようなおしゃれな女の子だが、ああ見えて滅茶苦茶頭がいいプログラマーでもある。
焦園寺といえば、あの企業の専務さんと同じだけど、あの人の子供ではなく、少し歳の離れた兄妹だそう。あの専務さん、まだ二十六歳らしいが、ダンディすぎない?
「これから暇? 新しくできたカフェあるらしいから、そこ行かない?」
「あー、天音、ルナはデートがあるからパスだって」
「デート? …………ルナが?」
「ルナが」
「……マジか」
そんなに意外なの?
私が首をかしげると、凛と天音が口を開いた。
「ルナ、いっつも告られては振ってたから」
「そうそう。高校時代、玉砕した男子何人もいたし。……だから気になるなぁ」
「何が?」
「ルナのことを射止めたその人のこと」
……まさかとは思うけど、ついてくるわけじゃないよね? 二人のことだから、そんな不躾なことしないと思うけど……ちょっと警戒してしまう。
「どんな人? カッコいい系? 可愛い系?」
「……半分半分、かな。いつもは可愛い寄りかも」
「へぇ……その人、年上? 年下?」
「年下」
四歳下のはずだけど、あの性格の瑞理だから同い年かちょっと下くらいに感じる時がある。寝ている時は年相応というか、可愛らしい寝顔を見せてくれるけど。起きている時は常に暴走しているか、動画企画を考えているか、地下室で武器を振っているかだ。
廊下を歩きながら、いつもの三人組で談笑していると、外が騒がしいことに気付く。
「なんか騒がしいね」
「あれじゃない? 武術サークルの定期イベント」
「ああ……披露会?」
あのサークル、定期的に披露会を開くのだ。それらを有識者達の間で色々言い合ったり、手合わせしたりするそうで、小さな賭けの場にも使われているとかなんとか……補足するが、お金での賭けではなく、お菓子やジュースといったものらしい。
「あ、来たね三人組」
「有屋先輩」
外に出ると、第二学年の有屋先輩がスマホを片手に手を振ってきた。武術サークルのエースでもあり、賭けを取り仕切っている張本人でもある彼女は、呆れたように苦笑している。
「いやー、参ったね。あの少年強すぎて賭けになんないよ」
「少年?」
「ほら、あそこで大学生圧倒してる子。義手だからって最初手加減してたのに、今じゃ本気でやってるようちの連中」
「…………ああ」
もう誰か分かってしまった。武術サークルの披露会は外部からの参加も有りだし、顧問の教授が結構な武術オタクなせいで、武人を見つけると巻き込んでしまうらしい。多分、興味本位でキャンパスに入ったら巻き込まれた……のだと思う。
「い、一本! それまで!」
「凄いな、あれで何人抜きだ?」
「十人以上は抜いただろ。武術サークル顔真っ赤だぞ」
周囲の話し声を聞きながら人混みを掻き分け、武術サークルの披露会会場の前に出ると、やはり、彼がいた。
「………………」
普通の木刀よりも長い木刀を左手に持った瑞理は、いつもと違う雰囲気を纏っていた。なんというか……ちょっとだけ、怖い、ような……?
「……ああ、やっぱり、楽しいね」
笑っている。心底楽しそうに、瑞理が笑っていた。でも、どうしてだろう? こんなにも寒気がするのは。
そう思っていると、瑞理は大きく息を吐きながら木刀を地面に捨て、こちらを見た。さっきの笑みとは違う、花のような笑みを浮かべて、私の方へと走ってくる。
「ルナさん、お疲れ様。飲み物とかいる? この時期乾燥するから、水分多めに摂取しなくちゃダメだよ?」
「え、あ、うん。……ねぇ、さっきの、どうしたの?」
「え? さっきのって……刀持ってた時のこと? 久しぶりに人相手に武器使ったから楽しくなっただけだよ」
自覚があるなら大丈夫、だろうか?
「爺様達は俺に修羅の影が見えるー、なんて言ってるけど、修羅ってなんだろうね?」
「さぁ……?」
確かに修羅とはなんなのか知らないや。って、そんなことはどうでもいいんだよ。
「どうしてキャンパス内にいるの?」
「そこで伸びてる先生に引っ張られてきた。強引もいいとこだよ」
「……苦情、出しとくね」
「ありがと」
武術サークル、まともな人はまともなのに、一部の変な人のせいで変な人が集まるサークル扱いされている。苦情を出せば、やらかした顧問も変わることになるはずだ。
「当初の予定とは違うけど……行こうか」
「うん。どこ行こうか?」
視線が凄いけど、気にすることはない。瑞理も私も、そんなことを気にするような人間じゃないからね。
「「ちょい待ちちょい待ち」」
瑞理と大学を離れようとしていると、天音と凛が私の手を引っ張った。
「ルナ、その人が彼氏?」
「うん。どうかした?」
偽骨が剥き出しになった義手を、首をかしげながらカチャカチャ鳴らしている瑞理をチラリと見た天音と凛は、ほぼ同時に口を開く。
「その子、高校見学来てた子だよね?」
「……おねショタ……実在したのか」
おねショタ……? 確かに瑞理は四歳下で私の方がお姉さんだけど、ショタってくらいかなぁ? 背丈もわりとあるし、高校生になるんだからショタじゃないと思う。
「……少年、名は?」
「遠間瑞理」
「馴れ初めは?」
「小さい頃のクリスマス、教会」
「口説き文句は?」
「口説いてはいないけど
二人共、根掘り葉掘り聞きすぎだ。さっきまで機嫌が良かった瑞理も、なんだか不機嫌になり始めている。……ぶっちゃけると、そろそろ解放してほしい。デートの時間が無くなってしまうから。
「あの、もう行ってもいい?」
「あ、うん。引き留めてごめんね、ルナ」
「あとで話を聞かせて」
「機会があればね。じゃ、行こっか瑞理」
のらりくらりと躱すつもりで返答した私は、瑞理の手を引いて人集りを抜ける。視線がたくさんあったけど、瑞理も気にしてなさそうだからいいや。
「ルナさん」
「何?」
「俺、ルナさんと釣り合ってますか?」
大学を出て、いつもの帰り道を歩いている中、そんな問いかけをされて思考が止まった。少し失礼かもしれないけど、瑞理が考えるようなことではなかったから。
「急にどうしたの?」
「あ、いや……その……ごめんなさい。忘れて」
「武術サークルの人達に何か言われた?」
だとしたら絶対に許さない。「力の前には皆が平等。文句があるなら力を見せろ」なんて言う有屋先輩が言うわけがないから、サークルに所属している人の誰かに言われたのかもしれない。
「言われてないよ。ただ……」
「ただ?」
「大学の人達……ルナさんのこと変な目で見てたから……」
「? そうかな?」
確かに見られていたけど、瑞理が気にする程じゃないと思うけどなぁ。
「珍しいだけだよ。そのうち────」
「ルナさんが変な目で見られるの、嫌だよ俺」
言葉を被せるように言い切った彼は……本当に、よく見ないと分からないくらい、ほんの少しだけ泣きそうな表情を浮かべている。
彼は自分のことを言われたくらいで泣くような人ではないから、私が嫌な思いをするんじゃないかと思ったのだろう。本当に優しい人だ。今の私ができるのは瑞理を慰めるのではなく、落ち着かせて、安心させてあげることだ。
「大丈夫だよ。変な目で見られたとしても、私の友達も、瑞理もそんな目で見ないでしょ?」
「それは当たり前でしょ」
「うん。だから大丈夫。それにさ、あの大学で私だけが君のカッコいいところを知ってるっていうのも、結構嬉しいんだ」
なんて言えば伝わるかな……不良────は瑞理じゃないし……うーん…………
しばらく考えた後、思い付いた言葉を彼に向けて放つ。
「瑞理がカッコいいのは、私だけが知ってればいいんだ。他の誰が何を言おうと、瑞理は私の恋人で、私だけのヒーローだよ」
あの日からずっと、瑞理は私のヒーローだから。何度も助けてくれた瑞理に笑顔を向けると、彼は少しだけ考える素振りを見せた後、小さく微笑んだ。
「ありがとう、ルナさん」
「ふふ、どういたしまして」
「でも、ルナさんが変な目で見られるのが嫌なのは本当だからね? 何かあったら、すぐに────」
「大丈夫だってば。心配性だなぁ、瑞理は」
「わぷっ……」
いつもは人の往来がある道だが、今日は人がいないので、瑞理を抱き締めても問題なし。人目がある時の瑞理は凄く警戒心が高いから、抱き締めようとしても逃げられてしまう。前になぜかと聞いたら、「頭の中で、赤い文字で危、って見えるから」と言われたけど……どういう意味なのかな?
「いいのか、気絶するぞ?」
「凄くカッコ悪い脅し文句だよそれ。気絶したら、それはそれで都合がいいんだけど」
「……何するつもり?」
「さぁ、なんだろうね? 当ててみたら?」
抜け出した瑞理の腕を、私の腕で絡め取って逃がさない。チロリと舌を出してみせると、可愛くてかっこいい私の彼氏は、チワワみたいに震え始めた。
ここで攻めてもいいんだけど、約束の日まであと数ヶ月。四月一日になれば、瑞理は逃げられないのだ。それまで我慢我慢。彼の両親からは許可を貰っている。あとは待つだけ……ふふ、楽しみだなぁ。