ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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キリトーマスチャンネル

二百人以上のチャンネル登録者のいる動画チャンネル。突拍子もない動画や、人間とは思えない鬼畜な企画を成し遂げる中学生二人組にファンが多い。

最近、ナーヴギア焼き芋祭りでチャンネル登録者数がぐんぐん伸びた。二人は戦慄している。

一番人気の動画は『二十四時間、ダンス踊ってみた』。鬼畜な企画だったが、それゆえに人気。

二番人気は件の焼き芋動画。実は結構視聴数を稼いでいる。カヤバーン、見てるか? これがお前が心血を注いで作ったナーヴギアの末路だ。目に焼き付けるがいい。


4.上手にドヒャドヒャできるかな

 拝啓、ギリシャにいるお父様お母様、最近温暖化の影響か春なのに暑くなるらしいですが、いかがお過ごしでしょうか。俺は元気です。元気が有り余って、現在────

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

 

 親友のキリトと一緒に体術スキルの熟練度上げに勤しんでいます。いやぁ、ラッシュがぶつかる音がとんでもないですわねこれ。俺は腕が一本足りないので、空中に浮かびながら脚でラッシュして、キリトは普通に拳でラッシュをしている。

 

「もうおそい! 脱出不可能よッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ────────ッ!!」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ────────ッ!!」

 

「WRYYYYYYYYYY!! ぶっつぶれろよォォッ」

 

 画風が変わるレベルでラッシュを繰り返し、勝ったのは俺。時間停止ができないキリちゃんなど、恐れるに足らず。

 

「っだぁっ! 勝てないかぁ!!」

 

「ふっ、俺の脚は猪の頭蓋を砕く……!」

 

「リアルなパワー見せつけてくるの止めろよ。俺貧弱なんだぞ?」

 

「鍛えるのです。……筋肉です、筋肉ですよキリト」

 

「ぶっ!? くくっ、そんな黎明卿やだわ……!」

 

 黎明卿じゃなくて筋肉卿、新しきトレーニングのボンドルドになった俺にキリトが笑う。あ、俺達はサラマンダー領付近の森から撤退して、ちょっとした平野に来ている。一緒にアスナとミトも来てるぞ。

 

「二人とも凄いね……どうやったらそんな動きができるの?」

 

「「え? 二十四時間ダンシングオールナイトと山籠りキャンプ飯生活してたらできた」」

 

「「待って?」」

 

 二十四時間ダンシングオールナイトと山籠りキャンプ飯。俺とキリトの経験した中でも一、二を争うほど辛かったイベントだ。山籠りと言っても、三日に一回は大人の人が様子を見に来ていたし、猟師さんもいたから問題はなかったけど。

 お蔭様で山の生き物について詳しくなったし、キノコの専門家とも縁ができた。

 

「山籠りはあとで動画にするから見てね!」

 

「トーマスの超人的な身体能力が発揮されるぜ。素でフィジカルモンスターなんだよな、こいつ」

 

「キリトは拠点製作頑張ってたよ。細マッチョへの道を歩み始めたインテリめ」

 

 動画の告知も忘れないあたり、俺達は大分染まってきたなぁ。俺は元々こんな感じだけどね。

 

「って、まぁ、そんなことよりも……アスナとミトはあの飛び方を知りたいんだったか」

 

「あ、うん。そう。あの飛び方……ってうるさっ!?」

 

「ジェネレータ出力再上昇、オペレーティングシステムパターン2」

 

「かつて世界を破滅させた力。その一つがこの機体」

 

 ギュイイイイイイ! と音を鳴らす羽は、まるでネクストのエンジン。コジマ粒子が放出されていないのが残念だが、ここは妖精の国だ。コジマ粒子を放出したら大惨事…………いや、あの妖精共を殺すならネクストを連れてきたらいいのでは? 

 

「ここが、この戦場こそが私の魂の場所よ!」

 

「Jなのかマギーなのかはっきりしろ」

 

「ドヒャア! って聞こえたんだけど!?」

 

 そりゃあ、ドヒャドヒャするためにレイヴンやリンクスが積み上げてきた基本テクニックだからな。ドヒャアとも鳴るでしょう。

 

「んじゃ解説な。全力で羽を超高速で震わせます。ここでできるだけ小さく、スマートに震わせるのがミソです」

 

 雑にやると明後日の方向に体が放り出されるので注意されたし。丁寧にドヒャればドヒャるほど、「あ、こいつ分かってんな」と一目置かれるリンクスになれる。

 

 分かったか、お前に言ってるんだぞ、毒鳥銀行。カップル揃って操作弱者め。ガンゲイルなんちゃらが本職ならそっちでずっとやってなさいよ。何回も喧嘩売って来やがって。そのうちリンクス達から毒鳥銀行なんて呼ばれるようになってたんだぞお前。

 

「あとは障害物すら軌道修正の道具にしてしまえば、あなたも立派な傭兵です、ってな。ほら、説明はしたしやってみろよ」

 

「「今のが説明!?」」

 

「ああ。トーマスも実演してくれてるだろ? やれるやれる」

 

「「あれは人間の動きじゃない!」」

 

 そりゃあそうよ。だって本当ならこれ、ACの機体でやることを人間の体で再現してるんだもの。ドヒャれるのは、AMSから光が逆流して死ぬ覚悟があるやつだけだ。好きに生きて、理不尽に死ぬ。それが俺達だ。肉体の有無ではない。

 

「────よっと。キリト、無理って言ってるなら無理だろ。コジマに染まっていない彼女らには酷だって」

 

「そうかなぁ……」

 

「良く言えばまとも。悪く言えば染まりきれないやつには無理なのだ……」

 

 おや? なぜアスナとミトは安心した顔をしているんだ? 

 

「キリト、キリト、あの二人もしかして……」

 

「ああ、間違いない……ネジを外すことを躊躇っている人間なんだ!」

 

「「それが普通なんだよ?」」

 

「「なん……だと……!?」」

 

 そんな馬鹿な! たまにネジを外して楽しまないと、人間はストレス社会に押し潰されてしまうというのに。普段常識人を騙るキリトですらネジを外す時はとことん外すぞ? 

 

「まぁ、真面目な話……ACやってきてくださいとしか言えないなぁ」

 

「確かになぁ」

 

 バリボリと頭を掻きながら呟いたキリトに頷いた俺はふと、時計を見て口を開く。

 

「キリトや、時間はいいのかね? そろそろいい時間だろ?」

 

「あっ……忘れてた……! 不味いぞ……明日はカレー当番なんだ!」

 

「おっと、それは不味いな」

 

 桐ヶ谷家のカレーは激辛に設定されている。キリトが作れるカレーが激辛だというのもあるが、キリトのカレーは美味い。なんでも前日から仕込むんだそう。豚バラ肉の塊を一日浸けたり、飴色玉葱を大量生産したりするとか狂気の所業だ。キリトは辛くて美味しいもののためなら苦労を苦労と思わないやつだからね、凄いよね。

 

「悪いトーマス! 本当なら街とか案内したかったんだけど……!」

 

「ああ、いいよ。元はと言えば俺が悪いんだし」

 

 もっと言えば光を逆流させた運営が悪い。あとで運営にバグの報告をせねば。

 

「超特急で街に行ってログアウトする!」

 

「え、ここじゃダメなんだ」

 

 ログアウトボタンを押すと、安全フィールドではないためアバターが残ります云々と説明される。

 まぁ、危なくなったらログアウト、なんて悪用されそうだし、ホームタウンみたいな場所の需要という点でも正解……か。ゲームを作るって難しい。

 

「じゃ、また今度!」

 

「いってらっしゃーい」

 

 その言葉を最後に、キリトは一陣の風になった。いやー、速いなぁ……目が慣れてるせいか追えるけど、とんでもなく速い。

 あ、どうでもいい話だが、俺は【人類種の天敵】の称号を獲得している。キリトは【山猫の英雄】って称号持ちだ。二人での称号なら【黒い鳥】。その日からマギーコスしていたプレイヤーとか、トップランカーとかに狙われるようになったが、それはそれで楽しかった。……一番の思い出はあれだな。ACに乗らずに、ノーマル部隊と歩兵部隊のみでACに挑んできた連中との戦い。なんだったんだあいつら……

 

 キリトが去った方向をあくびをして見ていると、アスナとミトの視線が突き刺さる。

 

「んん……? 何?」

 

「いや……なんでもない」

 

「ああ、この腕? 昔の事故で肉から骨まで見事に千切れちゃった」

 

 あの時、痛みより先に俺の腕がなくなっちゃったなぁ、ていう思考が先行した。病院で目が覚めた時に痛みがやってきて、泣くことすらできなかったと記憶している。

 

「別に気にしなくていいよ。弓使いにくいからさっさと武器変えたいなぁっとは思ってるけど」

 

「普通気にするんじゃないの?」

 

「いやいや、もう何年も前だし……ってああ、そうだ。プーカのホームタウンってどこ?」

 

 先程バグ報告をしたら、GMがなんともご丁寧に謝罪文と今後の対策を伝えてくれたが、プーカのホームタウンまで送ってはくれなかった。そこまではやってくれたら逆に怖いので、これくらいで満足です。

 

「ここからプーカ領かぁ……結構遠いよ?」

 

「マジか。……あれ? スプリガン領は?」

 

「そっちも遠いから、多分スイルベーンに行ったんじゃないかな」

 

 シルフかぁ……風妖精……風……妖精……氏族……風の、氏族……オーロラ……妖精國アヴァロン・ル・フェ……

 

「大丈夫? 頭オーロラな人ばっかじゃない?」

 

「あ、頭オーロラ……?」

 

「あんなのはいないから安心して」

 

 お、ミトはこっちもいける口か。こいつ、できる……! 

 

「すぐ装備を変えたいなら、スイルベーンに行ってもいいんだけど……」

 

「けど?」

 

「私達はシルフじゃないから、PKされてもおかしくない」

 

 うん? ……ああ、そういえば、このゲームってPK推奨ゲーだったっけ。他種族は殺せて、同じ種族は殺せない……設定ではなく、同じ種族も一応殺せるけど、ペナルティが入る感じなのかな。よく知らんけど。

 

「殺られる前に殺るってのはあり?」

 

「そもそも殺せないのよ。圏内じゃ」

 

「ダメだよ!? キリト君じゃないんだから」

 

 あら、キリト……やらかしたのね。もう、俺もそれに乗ずるしかないだろう。あ、ダメですか。そうですか……残念だ。

 

「ちなみにキリトは何をやらかしたの?」

 

「えーと……スイルベーンでとあるプレイヤーに絡まれて、連戦決闘で倒した……かな。トーマス君、絶対やめてね?」

 

「保証はできないなぁ。喧嘩売られたら殺るよきっと」

 

 俺はそこまでプレイヤーを狩ることに抵抗はない。初めてやったVRゲームがACだったことも起因しているのかもしれないが、一番は多分……倫理という点において頭のネジが外れているからだと思う。生まれつきではないんだけどなぁ、これ。どこで外れてしまったのやら。

 

「血の気が多いなぁ……というかトーマス、サラマンダーから武器掻っ払ったんだよね? それ使ったら?」

 

「太刀は片手じゃ振りにくい、ランスは斬るのが難しい。大剣を振り回すには技術が足りない」

 

「技術?」

 

「そう、技術。アスナもミトも、武器に慣れるために結構練習したでしょ?」

 

「それは、まぁ、練習したね」

 

 うんうん。特に本来なら儀式や決闘に使われてきた細剣や、命を刈り取る形をしている大きな鎌といった変な……オッホン。変わった武器を使うなら、練習は必須となる。

 システムのアシストがないこの世界において、武器の熟練度は確実なアドバンテージとなるだろう。

 

「俺は腕が片方ないから、二人を超えるとすると、武器構成も考えなくちゃいけない。重すぎてもダメ、軽すぎてもダメ。リーチが長すぎても、短すぎてもダメ」

 

「全部ダメだ、って聞こえるんだけど……」

 

「そう、そのダメダメ尽くしの中で、俺は一番合う装備を選ばなくちゃいけないんだよ」

 

 両腕がある人と、隻腕の人では重心が全く異なる。……いや、全くは言いすぎかもだけど、戦い方はちょっとこだわらないといけないのだ。今のところ、鉈とか鞭がいいかなぁと思っているが、そもそもあるのだろうか、鉈と鞭。あ、セスタスでもいいな。

 

「ま、それは追々詰めるとして、スイルベーンに行きたいです。案内してくださいお願いします」

 

「あ、うん。分かった。じゃあ、ついてきて!」

 

「はいな」

 

 ミトの声に頷いた俺は、インプとウンディーネの背中を追いかける。……あれ、意外と遅いけど、気を遣っているんだろうか? 

 

「ガンガン飛ばしていいよ。ちゃんとついてくから」

 

「お、言ったね?」

 

「ミト、トーマス君もキリト君みたいな飛び方できるの忘れてな────って、聞いてないかぁ」

 

 ミトはわりと熱くなれる人なのか。アスナは楽しむことはできるけど、自制心は忘れないって感じ? 

 加速し始めたミトとアスナの横に付くようにして、俺は空を飛ぶ。……ああ、この世界は綺麗だな……コジマとかに汚染されてないから、こんなにも空が澄んで星が見える。そういえば最近、星空を見ていない。今度、展望台まで行ってみよう。

 

「トーマス、そろそろつくよ! 減速……というかランディングって、できる?」

 

「……ん? ああ、減速? 多分……こうか」

 

 四枚ある羽を排熱システムを開くイメージで広げれば、ぐんぐん速度が落ちていく。……が、しかし、減速はまだ足りず、見えてきた大きな塔が迫ってくる。

 

「……うーん、ぶつかるなぁ、これ」

 

 その言葉を最後に、俺は受け身の体勢を取った。その数秒後、ガンッ、という音が耳の奥に響いた。

 

 

 ─────────────────────────────────

 

 

 あの後宿を取ってログアウトした俺は、コツコツとアミュスフィアをつつく音を聞き取った。薄暗い部屋で明かりを付けると、そこにいたのは巨大な影。

 

「……」

 

「や、おはよう、フェンリー」

 

 無言で俺を見つめている大きな影、フェンリー。母さんが言うには、狼犬? だそうで、ペットである。毎度思うけど、巨大だなぁ、こいつ。父さんと母さんが保護したらしく、俺が小さい頃からいるんだが、俺を仲間……? と認識している。

 

「……」

 

「ああ、フェンリーとスコルとハティのご飯か。待ってて。今用意する」

 

 うちにいる狼犬は三頭。目の前にいる灰色のフェンリー、綺麗な白のスコル、これまた綺麗な黒のハティ。フェンリーはスコルとハティの母親だ。母さん曰く、北欧神話に準えた名前らしい。

 俺が立ち上がると、フェンリーは俺の隣に付くようにして歩き出す。……にしても大きい。座ると俺の顎下くらいになる彼女は、果たして本当にただの狼犬なんだろうか? 

 

「ワォン」

 

「ガウ」

 

「ぶべらっ!?」

 

 そんな疑問を頭の隅に置いて、自室からリビングに出ると、フェンリーと同じくらいの大きな狼犬が飛び付いてきた。スコルとハティである。

 

「スコル、ハティ、ステイ。ご飯用意するから」

 

「「ヘッヘッヘッヘッ」」

 

「ステイ! ステイだってば! ご飯食べないの!?」

 

 遊んでほしいのか、一向に退いてくれないスコルとハティ。これはもう、母親のフェンリーに頼むしかない。

 

「フェンリー、スコルとハティ退かしてってわぁああああ!?」

 

 フェンリーまで参戦。大◯闘ス◯ッ◯ュ◯ラザーズかよ。

 

「……キューン」

 

「可愛く鳴いてもダメ! 離れなさい」

 

 が、しかし。この三頭は言うことを聞かない。うーむ……家族サービスが足りなかったとでも言うのか……? 毎日散歩にも行くし、ご飯だって用意してる。遊びにも付き合ったりしてるのに……ってもしや、VRゲームやって三頭に構う時間がちょっと減ったから? ははっ、こいつらめ。

 

「今度からはもっと皆に構うから。今は退こうか」

 

 ワシャワシャと痒くなりやすい首輪の部分を掻いてやると、気持ち良さそうにする三頭。

 

 しばらくしてやっと退いてくれた三頭の頭を撫でた後、冷蔵庫に入った肉を食べやすいように切り分ける。計量器で適量を計った後、三頭の前にそれを出した。

 

 ガツガツ食べる三頭を一瞥してから、夕飯の準備に取りかかる。……さて、何を食べよう。……カレーでいいや。簡単だし、ゴールデンなやつが残ってたし。

 

 

 

 

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