ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい 作:エヴォルヴ
ムスペルヘイムの炎を使った特別な分厚い刃。何かの残骸を使っている。
マニ・レムナント
ニヴルヘイムの氷を使った特別な分厚い刃。何かの残骸を使っている。
三頭の狼犬を連れて散歩に行くと、多方面から視線が向けられる。そもそもフェンリーもスコルもハティも巨大なのだ。大きなものに目が行くというのは男女平等らしい。
それはいいが、問題が一つある。
「……」
「フェンリー、帰ったらジャーキー食べる?」
フェンリーが人の視線に敏感で、イライラし始めるのだ。スコルとハティも結構視線に敏感ではあるものの、フェンリーは輪をかけて敏感だ。父さんと母さんが連れてきた時からそうらしいが、過去に何があったのやら。
「どうする、帰る?」
「……」
「ワフ」
「ガウ」
ああ、帰りたいんだ。うーむ……次からもっと早く行くか、夜中の散歩に切り替えた方がいいかなぁ。深夜帯なら多分人目を気にせず歩けるだろうし。
「フェンリー、スコル、ハティ。今度から散歩は夜にしようか」
「「「バウ」」」
「ん、じゃあ夜に散歩ね」
この三頭は人の言葉を理解しているのだろう。賢い。
「お、瑞理」
「ん、おお、和人」
朝のランニング中だったのか、発汗ウェアを着ている和人に出くわす。どうやら鍛えることの楽しさに目覚めてしまったようで、毎日欠かさずトレーニングをしているようだ。
「フェンリー達の散歩か?」
「うん。ただ、三頭とも視線に敏感でね。これからは深夜帯に散歩かなって」
フェンリー達を見て、ふうん、と呟いた和人は思い出したようにプロトオーグマーを駆使してデータを見せてきた。
「多分これ、お前のことだろ?」
「ん? どれどれ……」
記事の出所はMMOトゥデイ。両親の影響で料理雑誌や歴史論文とかを読み漁っている俺はあまり閲覧しないタイプの記事だ。
見出しは『隻腕のプーカ、シルフ領にて大暴れ』? ……ああ、そういえばやりましたね。喧嘩売られたので。
「何があったんだ?」
「ん? なんか偉そうなやつとその取り巻きに、片腕のくせにVRMMOなんかやってんじゃねぇよって言われたんで殺しまくっただけ」
一人目は下顎を足で押さえつけた後、全力で上顎を片腕で引きちぎった。その次は急所を蹴り上げて、頭が潰れるまで踏みつけてキル。その後は面倒になって、武器を使ったけどやっぱりリーチがネックだったと記憶している。
「うわ……大丈夫だったか?」
「うん。ただ、シルフを殺しまくったせいで領主様が出てきたけど」
「サクヤさんが?」
「うん。あと……悠那お姉ちゃんと鋭二さん」
「は? 悠那さんALOにいんの!? 後沢さんも!?」
あれはビックリしたね。だって、シルフ殺しまくったらエルフの領主だけじゃなくて、プーカの領主になってた悠那お姉ちゃんことユナと、その護衛の後沢鋭二さんことノーチラスも現れたのだから。
悠那お姉ちゃんはリアルでもVRシンガーユナとして人気を博している。専属マネージャーは鋭二さん。悠那お姉ちゃんのファン第三号。一号は重村伯父さんで、二号が重村伯母さんで、四号が俺だ。が、しかし。ファンクラブ会員ナンバー000は俺である。残念だったな。
「それで、事情を話したらサクヤさんが青ざめて頭を下げてくれたよ。あれでシルフは風の氏族じゃないって認識したね」
「お前オーロラに恨み持ちすぎじゃね?」
頭オーロラかよってパワーワードが生まれるくらいには恨まれてると思うよ、オーロラ。
「まぁいいや。とにかく大丈夫だったならいいんだよ」
「? 何か心配することあった?」
「誹謗中傷でゲーム止めるやつもいるからさ。お前がALO止めたらACの世界に籠りきりになるだろ?」
「そりゃもちろん。何を当たり前のことを」
向こうのプレイヤーはいい人達ばかりだからね。定期的に行われる正体不明機襲撃ミッションとか、大規模侵略防衛ミッションとかでニュービーが来ても「よく来たな」、「面白い素材と聞いている。期待しているぞ」とか、「ニュービーだから弱い? あ、そうなんだ。……で、それが何か問題?」とか言って暖かく迎えてくれるのだ。
強がりで援護不要と言ったら「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」と援護してくれるぞ。当たらないように躱してくれ。
死んだら死んだで「ニュービーが墜ちた!」、「回収班! あいつの機体を回収しろ! 先駆けだ、丁重に扱え!」と手厚い看護もいただける。だから皆も飛び込め。そしてコジマに汚染されろ。そして闘争を求める体に悩まされるがいいわ!
「せっかく来てくれたんだ。楽しんでもらいたいんだよ、俺は」
「そっか」
いいやつだな、和人は。フェンリー達には懐かれてないけど、害のないやつ判定されているだけはある。
「楽しんでもらいたいついでに、お前に提案があるんだが……」
「ん、何?」
「グランドクエストに、興味はないか?」
「聞こう」
この時の俺達はお互いに、悪い笑みを浮かべていたのだろう。フェンリーもスコルもハティも呆れたように小さく鳴いた。悪いなぁお前達。楽しそうなことに笑みが浮かぶ……こればっかりは直せないんだよ。
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スイルベーンの宿で目を開けた俺は、待ち合わせの時間までの時間潰しのために装備を探しに街を歩いていた。
初期装備はどうにかしたいし、武器も使いやすいものがほしい。その思いで武器屋を巡ったのだが……目ぼしいものが見つからなかった。なんでも、鞭カテゴリの武器はあるにはあるが、素材を多く使うわりには、そこまで強くないという残念な武器なんだそうで、誰も作ろうとも思わないんだそうで。
防具は手に入ったというのに、武器を手に入れることができないとは……
「鉈もないらしいしなぁ……」
マチェットじゃない、鉈が欲しいんだよ、俺は。
「でもないなら仕方ないなぁ……」
別の武器を探そう。ユナやノーチラスには小型ハンマーなんかがいいんじゃないかと言われたが、あまり好みじゃない。だったらハンドアックスとかがいい。リアルで使ったことあるし。
「どうするかなぁ……」
「おや? そこの妖精君、お困りかな?」
「おん?」
軽薄そうな声が聞こえた方向に顔を向けると、羽のない人間がいた。……あ、人間じゃない。こいつ、NPCだ。
「やぁ、妖精君。困っているようだから声をかけさせてもらったぜ」
「……何かやってほしいことでも?」
「お、察しがいいね。でも、それは後。こうして声をかけたのは単なる興味と善意さ」
「……」
うわぁ……凄く胡散臭いぞこのNPC……てか会話が流暢だな。ALOのNPCってのは皆そうなんだろうか? でも、ACのNPCもこんな感じだったし……今の技術って、凄い。
「おっと、いなくなられる前に話をするとしようか。妖精君、君は、世界樹の秘密を知っているかい?」
「世界樹の秘密?」
顔を隠した胡散臭い男のNPCは俺の言葉に頷いて続ける。
「ああ、そうだ。世界樹はまだ成長途中なんだ」
「へー……」
それがなんだと言うのだ。さっさと結論を言って欲しいぜ。
「それを邪魔してるやつがいる。妖精君にはそれを倒してほしいんだ」
「はぁ……?」
「もちろんタダで、とは言わないさ! 報酬も出すよ」
その言葉が出て、ようやくクエスト受領のYES or NOの表示が現れる。クエストは三つあり、一つは『世界樹の根を断つ剣』、もう一つは『世界を喰らう蛇』、そして最後に『枝に破滅をもたらす者』……うーん、嫌な予感しかしないクエストだ。
だが、それに挑むのもまた、ゲーマーである。迷うことなく受注すると、胡散臭い男はニヤリと笑う。
「ま、今の君では難しいだろうから、力を付けてから挑んでくれよ」
「んー、まぁ、そうする」
「是非そうしてくれ。じゃ、僕はそろそろお暇しようかな。どこに目があるか、分からないからね」
そう言って胡散臭い男は路地裏に消えていく。……なんだったんだあいつ、と思っていたら、消えていったはずの男が戻ってきた。何がしたいんだこいつ。
「……ああ、そうだ。これは報酬の前払いだ。受け取ってくれよ」
「うわっとと……! これ……マチェット?」
渡されたのは二振りの刃。短剣と言うには長く、ロングソードと言うには短い。かといってマチェットよりも刃渡りが短く、分厚い刃。錆が目立つものの、他の武器とは一線を画す特別な何かを感じる。
「ムスペルヘイムの炎とニヴルヘイムの氷を使った武器さ。大事に使ってくれ」
「あー……うん、ありがとう」
腕がないから一々交換しないといけないが、これは中々どうしていい武器だ。
つまらないものは、それだけでよい武器ではありえない。使い方は誤っているだろうが、これはきっと、よい武器。
「じゃ、今度こそ僕はお暇するかな。また会える日を楽しみにしてるよ、妖精君」
「あんたそもそも誰だよ」
「僕かい? 僕は……そうだなぁ、ロプト。そう呼んでくれよ」
俺に武器をくれたロプトは影に消えていった。……本当に、なんだったんだろう、ロプトを名乗る不思議なNPCは。
まぁ、また会いそうな気がするし、その際に色々と聞いてみよう。聞いて答えてくれるかは別として。
「ありがたく使わせてもらいますよ、ロプト」
二振りの刃を装備品にセットして、感触を確かめる。うん、両腕あればいい感じだ。いつか左腕が復活することを祈って、俺は待ち合わせ場所として指定されている風の塔へ向かう。
「……お?」
風の塔の遠くに見えるシルフ領主館に上がっていた旗が揚がっていない。昨日まで揚がっていたような気がするが……そういえば領主がいないと紋章旗が揚がらないのだったか。ユナとノーチラスにそう説明されたっけ。
まぁ、プーカの俺が気にすることもあるまい。プーカはプーカらしく、歌いながら行くとしますかねぇ。
「────────」
口ずさむ歌に魔力が乗る。MPが持っていかれているが、魔法を使うビルドでもないので、無視してもいいだろう。ユナこと悠那お姉ちゃんに「いつか、私と歌おうね!」と躾────調教────オッホン。教えてもらった歌を歌いながら歩けば、自然と視線が集まっていく。聞こえてくる声にはユナの歌、という単語が混ざっているため、ユナはきっとこの世界でも有名なのだろう。
歌いながら歩いて数分、俺の眼前に聳え立つ翡翠の塔が現れた。……タワーかぁ……未確認兵器とか現れないよね? コジマをばら撒き続ける黒いACとか出てこないよね?
「お、来た来た。よう、トーマス!」
塔の近くにいた黒い直剣を携えるスプリガン、キリトが歩いてくる。その後ろには、アスナとミトと……? 誰だそちらのシルフとサラマンダーは。
「やぁキリト。……アスナとミトは分かるけど……そちらの金髪シルフと流浪の侍めいたサラマンダーはどちら様?」
「ちょっと、私昨日君に倒されたんだけどな!?」
「え? …………ああ! 謝罪しながらもデュエルはやったエルフの人!」
えーと、確か名前は……
「リーフストーム(威力140)さん?」
「リーファよ!」
「しかもそれ第五世代までだぞトーマス」
「今は威力130ね」
あ、そうだっけ? シャンデラのエナジーボールが脅威だったことしか覚えてないや。……シャンデラって第何世代だ?
「全く……お兄ちゃ────キリト君よりネジが外れてるわね」
「それが俺の取り柄なので。改めて、トーマス。よろしくリーファ」
「リーファよ。よろしくね、トーマス」
それはそれとして、という感じで握手を交わした後、侍サラマンダーに体を向ける。
「動画越しに見てたトーの字と変わんねぇんだな」
「お? サラマンダーさんはもしや、うちのリスナーさんです?」
「おうよ、俺はクライン。よろしくなトーの字。あ、敬語はいらねぇぞ」
「トーマス。よろしく、クライン」
多分社会人のクラインさん……だよな。うん、多分そうだ。
「サラマンダーとエルフってバチバチにやり合ってるんじゃないの?」
「俺とかギルドの連中は例外なんだよ。そもそも、ゲームなんだ。楽しくやりたいだろ?」
「ふーん……」
「色々聞きたいことはあるだろうけど、とりあえず行こうぜ。目指せ世界樹」
キリトの言葉に賛成し、シルフのプレイヤー達の視線を浴びながら、昇降機に乗る。普通にとんでも技術だよな、これ。
「ところでトーマス、その武器どうしたんだ?」
「え? 貰った」
「貰ったぁ?」
昇降機に乗り、キョロキョロとデザインを鑑賞していると、キリトが俺の腰に装備された武器について聞いてきたので答える。
「ロプトっていうNPCに貰ったよ。クエスト報酬の前払いだって」
「ロプト? そんなNPCいたかな……」
あら、ヘビーゲーマーのキリトも知らないのか。ということは俺が初めて会う感じかぁ。
話を聞いていたメンバーも首をかしげている……本当に俺しか会ったことがないようだ。
「で、クエスト三つ貰った」
「へぇ?」
「ほい」
クエストを見せてやると、キリトの後ろからアスナやミト、リーファにクラインが覗き込む。
「全部未確認クエストだ……」
「世界樹の根を断つ剣……って、ニヴルヘイムに何かあんのか?」
「うーん……世界樹の真下……に何かあるっては噂されてるけど……」
「枝に破滅をもたらす者……? ニヴルヘイムにそんな邪神いたかなぁ……」
全員が知らないとなると、情報が手に入るかも分からないな。
「ま、とりあえずこのクエストは置いておいて……世界樹に行こうよ。キリト、道案内お願いね」
「────了解。夜までには洞窟を抜けるぞ」
「はいよ。……ところで速度は?」
「安全運転な」
そっかぁ……
ちょっと残念に思いながら、俺達は朝の太陽に照らされながら快適な空の旅へと身を投げ出した。