ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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ミッションの内容を確認するわ。

ターゲットはサラマンダー部隊全員の殲滅よ。妖精の支援を受けながら殺して。

なお、投降し情報を吐いた者は逃がせとのお達しよ。企業の連中、簡単に言ってくれるわね。……まぁ、【人類種の天敵】であり、【黒い鳥】の片割れのあなたなら楽勝だと思うわ。

いってらっしゃい。例えあなたが妖精になったとしても、ここが、この戦場こそがあなたの魂の場所よ。いつでも帰ってきて。私達はあなたを歓迎するわ。


7.蜥蜴美味しいかの穴(殲滅)

 とあるMMOの記事を書いている男性は、VRMMOの中でも恐ろしい人気を誇っている《ARMORED CORE BIRTH OF NEW WAR 》で誰もが口々に言う【人類種の天敵】と呼ばれるAC乗りについて探っていた。

 

 曰く、何もかもを黒く焼き尽くす【黒い鳥】の片割れである。

 

 曰く、大規模な防衛ミッションにおいて、集った企業所属のAC乗りや傭兵団のAC乗り、無所属の傭兵────合計三十機全てを相手取り、食い散らかしていった怪物。

 

 曰く、曰く、曰く────────眉唾物だとしか思えないようなことばかりが噂されている。

 

 真相を知りたがっていた男に、とある男性プレイヤーが接触してきた。

 

「【人類種の天敵】、そう呼ばれたAC乗り。その戦い方ってのは……狂ってるよ」

 

 酷く楽しそうに、畏敬の念すら感じているかのように、男は続ける。

 

「『遊ぶ』のさ。ありとあらゆる状況でな」

 

 ────それは、ゲームを楽しんでいるのではなく? 

 

「いいや。そんな生易しいもんじゃねぇさ。何もかもを滅茶苦茶にするその瞬間を、自身が死ぬかもしれない状況を、どんな時も楽しんでいるのさ」

 

「どんな状況であっても楽しむ。だから……殲滅という結果を、可能性を存在させるのさ……」

 

 その後、プレイヤーは震える体を押さえつけるようにして、【人類種の天敵】について話していく。

 

「俺は……俺は、それを例のカーパルスで見たんだ……! 月光を振りかざし、何機ものACを切り刻んでいくあいつの姿を……!」

 

「所詮、ゲームなんて言えるわけがない。あの恐ろしさを知ってしまったら、あの世界を偽物とは言えない!」

 

 男性プレイヤーは狂いそうな精神を宥めるように、水を飲んでから続けた。

 

「何よりも……あいつは、楽しそうだったんだ。イカレてたんだよ、あいつは……」

 

 ────彼の前に立ったと聞いていますが、その時、あなたはどう感じながら立っていたのですか? 

 

「恐怖さ。戦えるわけもない、ましてや逃げることもできない。あんた知ってるか? 人間は本当に恐ろしいものと相対した時、笑えも泣けもしないんだ。虚無さ……何も感じることもできず、終わる」

 

「それすら、やつにとっての『愉しみ』になる。遊び、楽しみ、弄ぶ……何もかもが、やつにとっての口実になるんだ」

 

 ────もし、【人類種の天敵】と戦おうとする者がいたとしたら……仮に、いたとしたらですよ? あなたはどのようなアドバイスをしますか? 

 

「そいつが人の形をしていて、人の言葉を話せるなら……目を閉じて、耳を塞ぎ、蹲れと伝えるね。何も見ず、何も聞かず、何もしないように」

 

「そうすればやつも萎えて、多少は長生きできるだろうよ。まぁ、なんだ……やつと戦う命知らずがいるなら……アレの恐ろしさを知っている連中なら、口を揃えてこう言うだろうよ」

 

 男性プレイヤーはまるで挑む者へと祈るように、こう締め括った。

 

「ご愁傷様、ってな」

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 気合一閃。トーマスは左足を一歩踏み出し、溶岩のように赤熱した刃を迫っていた三人の重戦士サラマンダーに叩きつける。空間が歪むような一撃が炸裂した。

 

 アスナ、ミト、クライン、リーファ……四人が見た中で最大級の威力を孕んだ斬撃だった。しかし。

 

「……へぇ」

 

 サラマンダーの三人は武器を構えずに密集し、盾を構えたのだ。

 ジュウッ!! という金属が勢いよく融解する音が響き、トーマスの刃がタワーシールドの表面を焼き切った。それと同時に耳を塞ぎたくなるような音が轟く。

 

 慌てるようにリーファ達がサラマンダー達のHPバーを確認する。タワーシールドを構えていたサラマンダーは揃って一割以上減少していた。

 だがそれも束の間、次の瞬間戦士達のHPバーがフル回復する。後方に待機していた魔導師が回復させたのだ。

 

「回復するよね? ああ、そして遠距離攻撃を撃つ。セオリーだよねぇ。だから……」

 

「なっ、あっ……!?」

 

 跳び跳ねるようにしてサラマンダーの後ろにやってきたトーマスは、氷の刃を一人に突き立てて持ち上げる。重装備を持ち上げるフィジカルを見せつけられた誰もが驚愕する中、持ち上げられたサラマンダーは自分がどんな目に遭うのか察してしまった。

 

「ま、まさか……!」

 

「お、察しがいい。正解」

 

「や、やめ……!!?」

 

 言葉を言い切る前に、火球がトーマスに炸裂する。正確にはトーマスが持ち上げたサラマンダーに、だが。上位魔法だったのか、火球が炸裂したサラマンダーのプレイヤーはそのHPを削り取る。

 

 ミリ単位で残っていたHPバーも、引き抜いた刃を用いて首を切断した時点で消し飛んだ。

 

「あーあ、仲間を焼いちゃったねぇ? ハハハッ、アハハハハハハハ!!」

 

 狂気的な笑い声を響かせながら、戦闘を継続するトーマスに盾を持ったサラマンダーは戦慄する。

 

「な、なんなんだ、こいつ……!?」

 

「隙だら────」

 

「その程度、想定の範囲内だよォ! ハハハハッ!!」

 

 体幹がぶれ、蹴り飛ばされた一人は重装備ゆえに咄嗟に動くことができずによろめき、トーマスの追撃が炸裂した。マニ・レムナントから換装したソル・レムナントで鎧を切り裂かれた彼は、その動揺によってさらに隙を晒してしまう。

 

 それを見逃すほど、トーマスは甘くない。鎧の関節部分、がら空きになっている箇所を高速で切り裂き、切り離す。それだけでサラマンダーは動けなくなった。

 

「ひ、怯むな! 相手はたかがプーカの────」

 

 指揮官らしき男の言葉が最後まで続くことはなかった。高速で装備を弓に切り替えたトーマスが、魔法の詠唱で強化した矢を頭目掛けて放ったのだ。曲芸じみた動きにはその場にいる誰もが驚愕する。

 

「舐めるなぁ!!」

 

「お? 君はタフだねぇ。さすが重戦士。だ、け、ど……届かないんだなぁ、これが」

 

 直剣を振り降ろした重戦士を弄ぶようにステップを踏んだトーマスは、サラマンダーの足を払い、マニ・レムナントで首を刈り取った。

 

「これで四人目……ああ、怖がらないで。死ぬ時間が来ただけだよ」

 

「ヒッ……」

 

 その悲鳴は、どちらから聞こえた声だったのか。サラマンダーからだったかもしれないし、ベールの下の凄惨な笑みを見てしまったアスナやミトやリーファの悲鳴だったのかもしれない。

 

 まぁ、トーマスにそんなものは関係ない。敵対してきた者を全て食い散らかすことしか考えていないのだから。

 

「ねぇ、本当にあれ……トーマス君なの……?」

 

「あれじゃあまるで……」

 

 獣のようだ。化け物のような、何もかもを黒く焼き尽くす悪夢のような姿。サラマンダーのエンドフレイムが血のようにも、炎のようにも見える中で、トーマスは獲物を食い荒らす。 

 

「【人類種の天敵】」

 

「なんだ、そりゃ……キリの字……?」

 

 サラマンダーから絶叫が響き渡る中、キリトの呟きにクラインが問いかけた。

 

「別の世界でのあいつの異名だよ。何もかもを食い荒らす、人類史始まって以来の大災害。世界の維持でもなく、革命でもなく……破滅をもたらす最悪最恐の狂鳥」

 

 誰もが挑み、食い荒らされて散っていった。逃げ惑う者もいたが、それすらも食い荒らして、トーマスは最恐の名を手に入れたのである。食い荒らして、食い荒らして、食い荒らして、何もかも、跡形もなく食い荒らして……最後に残ったのがトーマスだったのだ。

 

「あれを止められたのは、あの世界では俺の他に、もう一人だけ」

 

「じゃあ、トーマス君って……」

 

 リーファの察した呟きに、キリトは頷く。

 

「ああ。現状、あいつより強いプレイヤーを俺は見たことがない」

 

 爆炎と吹雪を纏う最恐は、最後に残ったメイジを何の感慨もなく踏み潰し、パッとスッキリしたような笑顔で武器を腰に戻す。

 

「いやー、スッキリした! 暴れた暴れたぁ!」

 

 ケタケタと笑う姿は、先程までの狂気に呑まれた怪物のようなトーマスではなく、いつも通りのネジが外れた暴走機関車トーマスだった。

 

 そのギャップに脳内の処理が追い付かないのか、キリト以外のメンバーは全員硬直している。

 

 唯一フリーズしていないキリトは笑みを浮かべて、右手を軽く上げてトーマスを出迎えた。

 

「ナイスファイト、トーマス」

 

「ん、お疲れ。サポートどうも」

 

 ハイタッチを交わしたトーマスは脳を焼かれたような表情のアスナ、ミト、リーファ、クラインに首をかしげて、何か納得したように手を合わせる。

 

「あれね、キャラ作り! いい感じだったでしょ?」

 

 誰もが嘘だと思うが、キリトは知っている。トーマスのあれはキャラ作りで、こっちの暴走機関車トーマスが素の状態であるということを。もちろん戦いを楽しんでいるのは本心からなのだが、トーマスの演じる能力はとんでもなく高いのだ。

 

「信じられないかもだけど、トーマスの言ってることは事実だぜ」

 

「「「「嘘だぁ!?」」」」

 

「「本当なんだよなぁ……」」

 

 否定の叫びが響き、事実であることを主張する二人の声が続いた。

 

「ま、とにかく行こうぜ、街に。ストレージを圧迫しているアイテムも売りたいしさ」

 

 トーマスの言葉に頷いたメンバーは、《鉱山都市ルグルー》へと足を踏み入れた。

 

 大きな城門をくぐると、NPCの楽団が奏でる陽気な演奏と、槌の音がトーマス達を出迎えた。

 

 ルグルーの規模はそこまで大きいというわけではない。しかしながら、中央の目抜通りを挟むように聳え立つ岩壁に、武具や素材、酒や料理などの商いのための店やら工房が積層構造で密集しており、中々に迫力がある。

 

 プレイヤーもトーマス達の想像以上に多く、あまり見ることのないプーカやレプラコーンなどのパーティーが談笑しながら行き交っている。

 

「おお……なんだろう、このACの市場とはまた違った感じのワクワク感」

 

「なんかこう……職人と商人の街って感じだよな」

 

「初めて来たけどよ、ロマンってやつを感じるなぁ」

 

 男心を擽る構造に目を輝かせる男三人と、物色を始める女性三人。集合時間を決めて解散した六人は、それぞれ見たいものを見に向かう。キリトと行動を共にすることにしたトーマスは、キリトの動きに倣って武器の陳列棚を見た。

 

「そういえばさぁ」

 

「ん?」

 

「なんでサラマンダーは俺達を狙ったんだろうね?」

 

「ああ、それな。それは……分からないけど……」

 

「キー坊とリーちゃん、あとトー坊を狙っての行動だヨ」

 

「おおうっ!?」

 

 キリトが驚いて飛び上がり、トーマスは不思議そうに声がした方向を見る。するとそこにはフードを被ったケットシーの少女がいた。

 

「ニャハハハ! やっぱりキー坊は反応がいいナ! それに比べて……【人類種の天敵】様は驚きもしないとはネ」

 

「あら、それはそれは。その程度の驚かしはフェンリー達から受けてるから全然なの。ごめんなさいね、ハーフさん」

 

「へぇ? なんでオイラがハーフだって思うんダ?」

 

「外国人特有の訛り方があるから。ま、片言とか演技の可能性はあるけど」

 

「中々鋭いけど……おねーさんの個人情報はあげられないナー?」

 

「ハッ、同年代のくせにお姉さんとは笑わせる」

 

 トーマス、ケットシーの少女────アルゴを停止させることに成功する。

 

「と、とりあえず……アルゴ、なんで俺とリーファとトーマスが狙われてるんだ?」

 

「んんっ! キー坊とリーちゃん……あとトー坊。リーちゃんはともかく、二人は心当たりがあるんじゃないのカ?」

 

「「ない」」

 

「いやあるだロ!?」

 

「「ないものはない」」

 

「ンニャアアアア!! この馬鹿コンビィ!!」

 

 鉱山都市ルグルーに、情報屋アルゴの叫びが響き渡った。

 

 

 

 




今回は三人称視点。次回からはトーマス視点に戻ります。
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