その場所は狭間で最も高い場所。山嶺の頂に、いつも彼女は待っていた。
『黄金樹よ、燃えるがよい』
いつも、いつもいつもいつもだ。
『新しい王のために』
時々話す程度の間柄だった。それが今やどうだ、かけがえのない人になっていた。
『…ありがとう。私を連れてきてくれて』
大切なのは一緒に居た時間の長さよりも中身の濃さ。
あの狭間の世界は濃密なんて言葉が薄っぺらくなるほどの広さと深さだった。たとえゲームであっても遊びじゃなかった。
『炎と共に歩む者』
100度クリアすれば何かフラグが立って、彼女と共に『えるでのわ』を掲げられると信じた。共に炎を歩めると思って、只々挑み続けた。
害獣だって黄金律だって黒き剣だってミケラの刃だって、怖くなかった。代わりにシャブリリが犠牲になってくれるって思ってた。
『いつか、運命の死に見えん』
・・・君にそんな物は似合わない。あっちゃならない。
『さようなら』
待ってくれ待ってくれ。何度聞いたと思ってるんだその台詞。後生だから待ってくれ。俺でも君でもないルートが、歩みがきっと何処かにあるんだよ今もだから。
・・・戦い続ければ見つかると。そう、今もそう信じている。
◆
『脳内会議を始める。これより俺はこの場にいる森エルフ共を皆殺しにする。彼女(黒エルフ)を助ける為に。異論あるものは黙れ』
『お待ち下さい父上』モーゴット
『左様。これは罠である可能性がありまする父上』ゴッドウィン
『・・・・・』
『いかんな、これは』ラダーン
『ああ』ライカード
『お待ちを、義父上。この剣の世界はプレイヤーの記憶をスキャンし、そして同時に脳内へ投影して現れている物(ゲーム)。つまりはプレイヤーの数だけNPCの顔があり、見知った顔など星の数ほど現れるという事』ラニ
『そうそう、どいつもこいつもみおぼえがあってしかるべきー』ミケラ
『アイアムマレニアブレイドオブミケラ』
『ミケラぁ』モーグ
『・・・・・。なるほど』
『つまりは全て見覚えがあるだけで赤の他人。想い出を共にした、経験したのは父祖だけであって相手方にはそれが無いのです!
そしてこのクエストは鞍替え不可!ここで森エルフの蛮族共に反旗を翻しては、結果!森と黒の双方から排斥される展開になりえますぞ!それで本当によろしいか父祖よ!!』ゴドリック
『―――なるほど。つまり俺に歯向かってくる奴らの愚かな墓標に、俺は刻めばいいってわけだな?彼女の名を』
『・・・・父上』
『――あなた』マリカ
『いくぞ皆』
征く。今度こそと、幻影を抱いて。
『王となれ、あなた。我が戦士よ』
第六回脳内会議終了。よい、戦いを始めよう。
◇
その人に向かう多数の剣。森エルフ達の剣を、拳で俺は彼女を護る為全てパリィしていた。
「?人族、何の真似だ」
「・・・・・」
そして口を開く。こいつらが今やろうとした事を全て否定する為に。
「駄目だ」
「なに?」
「駄目だ」
二度言う。視線がかち合う。そこには不思議なモノを見る眼があった。本当にNPCか?と逆にこちらが思うほど。
「気狂いか。人族とは、これだから」
納得したエルフが迫る。
白色の顔を怒気で染め、俺ごと後ろの彼女ごと叩き切らんと振り下ろす剛剣を拳で殴って脇に逸らせると、それを待ってたんだと言わんばかりにエルフは切り返してきた。
俺はその刀剣の根元を素早く掴んで万力を込める。速度が完全に止まった得物を見て、敵はついに俺を気狂いの類ではなく害敵と認識した。
「な、・・・なんだと?」
「――ッッ!!」
隙あり。ぶん殴る。
顔面が凹み、怯んだ敵の脚を握りしめて今度はブンブン振り回す。えるでの戦技『乱撃』の要領で周囲を蹴散らすと、最後はボウリングの球みたいに遠くへぶん投げた。
「ぐあっ!! き、貴様ア!!!」
「その膂力、本当に人族か?」
「騎士長へ伝令!」
「了解!!」
「あ、あの――?」
「行け」
後ろに居る黒エルフに声を掛ける。生きてほしいと願いながら。
・・・きっと呆気に取られているだろう。さっきまで散々黒エルフに喧嘩売ってしかもぶん殴っておきながらこの始末。俺が彼女だったら後ろから刺してる絶対。
けれど、けれどね。
「貴女の無事を祈っている。大樹と共に歩む者」
「………!」
たとえ妄想だとしてもエゴだとしても。たとえ、この彼女が俺の脳内が見せる夢だとしても。
「一身上の都合により、裏切り御免。森エルフの戦士達よ。俺の眼の前で彼女は決して死なせない」
――ヘイトを集めさせる為に啖呵をきる。すると、やはりといった顔で森エルフの鷹使いが顎をしゃくった。
同時に鷹が空高く飛ぶ。その為の合図だろう。
「あらら、これはこれは。まぁ所詮こんなモンですかねえ」
背中の気配が素早い足音と共に消える。ほっと一息、しようと思いきや森エルフ達のアイコンが一斉に赤くなった。
周囲皆敵。森も黒も騎士も鷹も。
「最初からこれが目的か。・・・薄汚い人族め」
怒れる騎士長が大上段に剣を構える。
「?目的?」
「我らの剣をその身に受けて死ぬ。自殺が趣味とはつくづく理解しかねるな」
この表情。俺をこの作戦に参加させた彼の面目丸つぶれといった所。・・・まあ、許してくれとは言わないが。
「?死?」
「運命の死だ、卑俗な劣等種め。それとも我ら全員を相手にして生き残れる自信があるのか?」
「自信?・・・自信? アッハハハハ」
笑う。だって心底おかしい。ここはとっくに戦場で俺達はもう戦士同士なのに。――なので俺は力強く左足を踏み下ろした。
「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
発動条件クリア。スキル・闘士の咆哮発動。
「彼女は決して死なせない。彼女の運命の死は―――ここじゃない!」
――否定と共に、跳躍。すると一斉に森エルフ達も跳んだ。
剣が踊る。踊るように迫る。それらを腕と拳でパリィしながら、俺は敵二人の鎖骨部位をぶん殴った。軽装であろうと重装であろうと、ヒト型であるならこの辺りはすぐ骨に響く筈。
二足歩行というなら骨格の設定は有るだろう。問題は俺のパワーだが。
「ルゥおおおおおおおオオオオオアア!!!!」
『閃打』『弦月』『閃打』『閃打』。確実に拳と蹴りをブチ込み、倒れる敵共の顔面を踏みつけて、俺は次の敵へと向かった。
「人族如きが!!!」
「力押ししか出来んか貴様!!」
「応とも!!!!」
新手に是と返しながら鎧を殴って凹ませ、さらにもう一発。陥没させたが全然痛がってない。ダメージが通らなかったか?ならば無防備になった鎖骨と第2肋骨を握って潰す。
お、部位欠損エフェクト。手の中には何もないが設定は確定。これはいい、これがいい。
「力こそ、王の故よ!!!!」
「ほざけッ!!!」
「囲んで切り潰せ!叩けッ!!」
切られた。殴れた。ぶっ叩かれた。肘を潰せた。
現実なら肩甲骨があるだろう俺の身体の部位に剣が刺さった。敵の胸骨柄を殴り潰した。
剣で左足を刺し貫かれた。右足を足で踏まれた。なので頚椎を7本砕こうと思って指先を敵の顎下に突き入れ、捩じり上げた。
「ぬぅ!?・・・ォおおおお!!!!」
叫ばれる。それを打ち消す。
「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
一瞬でも耐えられたのが癪だったので全力でやったら今度は俺が勝った。
フルスイング。頚を起点にボロボロと縦回転する森エルフを尻目に剣を抜き取り、左足で大地を踏みつける。すると、
「これは、・・・風!?」
「馬鹿な!人族が嵐を纏えるとでも!?!」
「しかしこれは?!」
敵が全員たたらを踏む。怯んだぞ、怯んだな?
「ルゥおおおおおおおオオオオオアア!!!!」
再度チャンス到来。敵の腕を掴み、武器のように振り回しながら呼吸を整える。
良い事実を知ったぞ。スキル『ストームストンプ』はとても良い体術スキルであるらしい。多用しては恐らく対応されるだろうが、初見であればこんなにも良い目くらましになるとは。
ならば次の攻撃で森エルフ共の脚を全て砕いてみてそして―――、
「ハァイ。人族さあん?」
「ッッ!?」
「獣みたいなマネぇ。止してくださいよ気持ち悪いじゃ、ないですかあ?」
それは完全に意識の外からの一撃だった。左腕の感覚がなくなると同時に見える聞こえる敵の声と白刃。
鷹使いの糸目が俺を捉える。
整えていたこちらの呼吸=勝つ為の算段はしかし、同時に俺の脳内から防御の『ぼ』の字が無くなった瞬間でもあった。それを余さず逃さずヤツは剣を奔らせていたのだ。
・・・流石としか言いようがなく、そして天晴。
「全く。ケダモノの処理は騎士様たちにお願いしますよ?汚くて触れたくもない」
「言われなくても了解だ」
鷹使いがヒラヒラと手を振ると同時に感じる死。慣れ親しんだ死。
でも俺はそんなの運命ではないと訳も無く思ったのでパリイしようと右腕を振るう。
「そのパターンは知っている」
その腕が空を切る。フェイントで迫る殺意の刃と死の刃。俺は足を動かし前回り受け身をして躱すが、
「それも知っている」
激痛のライトエフェクト。腰部を斬られる。
まずい、左腕を部位欠損しただけでこれとは。身体の自由がきかない。つまり今は背中を守らなくては上手くない。
辺りを見渡すと小屋があったので俺は素早く近付き背を壁に預けた。
「・・・中々やるな、森エルフ諸君」
「抜かすな。手こずらせおって、だがこれで最期だ」
騎士長(ハロウドナイト)の言葉と剣が光るような殺気を放つ。・・・・困った、脚に力が入らない。尻餅ついて時間を稼いでおこう。稼げるかは敵次第だが。
「何か言い残す事はあるか。人族の戦士」
「そんなもの聞く必要はない。息の根を止めよ、根絶やせ」
―――ここまでか。
そう思って残った敵を視界に収め直すと、エルフの戦士達は僅かに畏怖の表情で俺を見つめていた。
・・・怖いのか?それとも俺の首という満足感の前兆か?NPCなのに?
いいや、戦士なのだ。英雄なのだ。NPCだろうがなんだろうが。
SAOのキャラクターとは狭間を知らずとも怖れを知れる。英雄とはそういうものだ。マリケスを恐れた彼らのように。
・・・何かないか、この状況を打破できる何か。
もっともっと戦いたい俺に今必要な何か。必要な武器を今どうか―――、
「・・・・は?」
ひんやりと。
指先に感触がある。無我夢中で小屋の中につっこんだ手。そこに棒っぽいモノがある。それが分かる。
何だ、大剣の柄?槍の石突?はたまた斧?曲剣か刺剣か槌か両刃か斧槍か刀か特大?
えいやと、それを握って。俺は思いっきり前に突き出した。
「?」
「何だ・・・それは・・・?」
―――困惑と王の言葉が、戦場に零れ出た瞬間だった。
「好きな武器を使い、好きな祈祷を使い、好きな魔術を使い、」
「武器か。 それが?」
「好きなアイテム好きな盾を使い、好きな衣服を使い、好きなように生き、好きなように死ぬ」
得物が見える。見せつける。困惑を吹き飛ばすように。
「それが、俺達(えるでの王)のやり方だ。誰のためでもなく」
「・・・・・っ!!」
俺を殺す運命の刃が迫って。しかし刺突に適した俺の得物の先端が、死を粉々に砕いていた。
「打撃属性じゃないからコレあまり使った事なかったが」
鋭利な切っ先は鎧など易々と貫く威力があり、曰く、これは木ではなく岩盤を砕く為の物だという。
「まあ、いいや。好きか嫌いかで言ったら好きだし」
思い返せば100周のうち2周くらいしか使わなかったなあ。ていうかコレ本来武器ではないって書いてあったし。
大槌のくせに刺突属性オンリー。そんなユニークな得物を肩に担いで、俺は盛大に笑うのだった。
「Axeって、書いてあったし!」
Great hammer(大槌)・つるはし。俺の得物が決まった瞬間を祝して。