閃光のように恐ろしく速い刃。それが俺の首を斬る為に走る。
「やるぅ!初見殺しとは恐れ入ったぜ剣士殿!」
『閃打』を発動。まさに間一髪、この拳を敵の刃にぶつけていなければ真っ二つになっていただろう。
「……!?」
体術スキルでもって敵の刀刃を防ぐ。
繋がっている自分の首と生きている幸運に感謝し、俺は啖呵を更にきる。
「だが狭間の地においては初見で殺しに来る奴なんざ、ごまんといたぜ剣士殿ぉ!!!」
この程度の殺意で退く俺ではない。ので、突っ込む。拳で以って雌雄を決する為に。この手で相手に勝つ為に。
「……!!ッ!」
「なるほど!刃ではなく柄が伸びる剣ってわけか。中々面白い!!」
剣と拳が空中で打ち合い、しかし時より大きく間合いをとる。
インファイトは好きだが、この剣士は全くと言っていいほど隙がない。・・・間合いを操作できる短剣士。黒き刃の刺客を思い出す。
「手堅いな。あなたも彼女ら同様剣豪というわけか。
だがしかしっ!!うおおおおお!!!!」
「ッ!!!」
相手の覆面の下から呼気が強く吹き出る。俺もまた同様に強く息を吐く。
この剣士相手に我が大槌では分が悪い。手数が相手の強みならばこちらも拳という手数の多さで以って勝つ。
――そうして俺達はずっと戦い戦い、戦い続けていた。陽が暮れるまで。
「ぜぇ、・・・タフだな」
「そちらこそ」
疲労を感じてきた。つまりそろそろ俺やばいかも。そう思いながら声を出すと、なんと眼前の剣士は言葉を返してきた。
鈴が鳴るような声。メリナには負けるが、わりと綺麗だ。
「疲れてきたし何なら発端となったエシス殿への言葉は妄言であったと撤回するし、・・・もう止めにしませんか?」
「断る」
剣士は殺気を一ミリも濁さずに言った。
「我らが村の長を。―――我が妹を愚弄する事は誰であれ許さん。死で償え」
「ならば死にたくないので全力で抵抗しよう。『えるでの王』の名に懸けて」
「お前は戦うことが本当に好きなようだな」
王として名乗りを上げた俺に侮蔑の声が掛かる。
戦好きなどに碌な奴はいないと。そう、まるで自分は違うと伝えるように。嘘ばっかり。
「好きだろ?君も」
潔く強く、踏み込む足がその答えだった。――って、踏み込み?
「あっぶね!でも当たらなきゃ後隙がデカイだけだぜ剣士殿ォ!!」
踏み込んだ足を軸に回転、薙ぎ払い。俺は地べたまでしゃがんでそれを躱して、軸脚を殴ろうとする。しかし相手は遠心力の力を利用しそのまま跳躍、いかなる軽業か空中で方向を転換し俺に向けて刃を振り下ろしてきた。
「面白え!!!!」
空中での連続回転切り。
その緩急は凄まじく、しかも短剣の柄が融通無碍と言わんばかりに伸びては縮み、こちらが捕捉すべき間合いを幻惑ときている。
――かっこいい、そして怖い。まるでマリケスのように。
「ならば攻めあるのみ!!!こういう時は前へ前へ、ひたすら前へ!!!!」
来い来い来い来い。
「――捉えたぞ!!」
「!」
近付いてインファイト。それしか知らない俺の拳が剣士の顔面をついに殴る。クリーンヒットだ。いつだってコツは前へ、敵へ。勇気の前ロリ。どんな時も困った時も。
「――ッ」
「ふらついてるな。お互い、次でケリと行こうぜ剣士殿!」
「そうだな」
その時ハラリと、帽子が取れる。剣士の顔面を覆っている覆面のような何かが。その下には端正な顔があり、しかし視線だけは類稀なる闘士のそれ。
俺はすぐさま殴りかかった。
男だろうが女だろうが今の俺達は戦士。戦いの決着のみが雌雄を分かつ。
刃が迫る。それを左手で握り込む。
得物を封じたぞ。その綺麗なツラぶん殴ってや、る?
「どッわ・・・ッ!」
「―――」
食いしばる。むき出しの闘志と歯並び。思いっきり先に殴られた俺は同じく、剣士の顔面を右手でぶん殴り返した。
「オラアア!!来いよオラアア!!!」
殴り合う。ていうか重ッてえ。こいつ良い拳持ってるよすげえこれ。
・・・拳と瞳。ぶつかり重なり合う俺と彼女の二つの感覚器官は閃光のように互いを行き交っていた。
やっぱり戦いこそ分かり合う為のツールだ。それはゲームの中だからこそなのか。
「『閃打』!!!」
そして俺達の瞳に映るのは勝者と敗者。そのどちらかだけなのだと。
「≪水月≫」
瞬間、腹が凹む。思いっきり。
その名の通り俺の正中線を射貫くように彼女の蹴りが、深く深く突き刺さる。
・・・なんつー技の冴え。遺憾だが今の俺ではコイツに、剣士ヴェス殿には勝てないらしい。
「・・・ッッっごっは」
その証拠に彼女の表情は。
俺以上に何とも活き活きとした闘士の顔であったから。
「参った」
「ああ。私の勝ちだ」
ヴェス殿はゆっくりと腰の鞘に剣を納めて言いきった。
◇
「キューキューシャ(なんともまあ良い死闘だったね。ボクも混ざりたかったよ)」
「・・・ああ」
「キュルキュ、ルゥー?(手出し無用とはいえ滾るものはしょうがないよね。次はボクも参加するよ?異論は認めない)」
「・・・ああ」
「お前は一体なんだ?」
「・・・え?」
「――キュ?」
ディーネと悔しさ満点の俺は一斉に訊き返していた。
「何を企んでいる。エシス村長をどうするつもりだ」
「どうするって・・・・」
「キュ~~?(別に?何も)」
「そう。どうもしねえよ?何も」
「どうも――、しない?」
「いいものも見れたし、良い戦いが出来ればそれでよかったからな。そしてまだ俺は生きている。次は勝つぜ、ヴェス殿。首洗って待ってろよ」
「………」
「キュールックキューブ(同情するよ、堕ちたエルフ族。戦士は狩りではなく死闘こそ求める。君、マークされたよ。分かってるんだろうけど)」
「………」
「キューマードコア(君も楽しかっただろう?さっきの戦い。とぼけたって無駄さ)」
ディーネが嬉しそうに俺達の周りを飛ぶ。しかし知らないふりをするように、ヴェス殿は帽子を被り直した。
「俺は貴女方に危害を加えないことを約束しよう。負けたのだからそれくらいはする」
「………帰るぞ。村長には近付くな」
「貴女の妹君には勿論手を出さないよ。黄金樹に誓って」
「妹と呼ぶな。村長は村長だ」
「了解。あ、けど後でその体術教えてほしいんだけどもいい?」
「暇なときにな」
友好を結んだ俺達は仲良く村に帰還するのだった。
◇
「おかえりなさい。お二人とも、首尾は如何でしたか?」
「バッチリです。見て下さい、この大量の食糧を」
「なんとこれは素晴らしいですね。―――ヴェス?貴女の方は?」
「………」
コクリと頷き、ヴェス殿が背中の籠を彼女に見せる。静かに、丁寧に。まるで意地悪なんてしない出来た姉が可愛い妹にするかのように。――って姉だったわ。
「……大丈夫かと」
「――え?」
「この人族の戦士は。大丈夫かと」
エシス村長がしばし佇む。長年聞いてこなかった姉妹の声を、あたかも初めて耳にしたのだろうか?そんな雰囲気を俺は感じ取った。
「では失敬」
なので会釈をしてクールにこの場を去ろうとする。しかしその瞬間をこの俺は見逃さなかった。
――薄く笑みを浮かべるエシス村長が、やっと応えてくれた姉に対する柔らかな笑顔ではなく、大願成就に一手近付いた戦士のような野心を秘めた表情を、一瞬だが俺に向けた事に。
・・・この村、やっぱり何かある。
俺はちょいと情報収集に勤しんでみるのだった。
「おやご友人。どうですか食糧調達の首尾は」
「上々だね。たっぷり集めてきたよ」
「素敵だあ」
「お見事ですご友人」
「お褒めにあずかり光栄だよ。ところでこの村は何故この場所に?何か意味や狙いでもあるのかい?」
「御慧眼ですご友人。この村は我らフォールンエルフ、その将であるノルツァー様に捧げるモノを見繕っているのです」
「常道を外れたとはいえ我らはエルフ。長き時を生きる上では切っても切れないモノ。その為に」
「へ~、そうなんだあ。それって食糧とか?」
「ええ。それもですね」
「それも? あ、おっと言わないでくれ? 全部当ててみせるから。食糧と・・・・あとは娯楽かな?」
「おお、流石ですご友人。全問正解です」
「やったぜ!!」
「素敵だあ!」
「遠くから新しい人族が訪ねてくる。そうして我らと志を共にする」
「ようこそ、新しいご友人」
俺と村人とディーネは仲良くハイタッチした。
「ちなみにだけど娯楽って何なの?」
「若い女のエルフですよ」
「あ~・・・何か聞いた事あるソレ妻として差し出す~ってやつ?」
「妻!?!まさかご友人、それこそまさかですご友人。娯楽ですよ娯楽」
「・・・・はい?」
「ノルツァー将軍は我らフォールンエルフ全ての長。すなわち我らはあの御方のモノ。それは男も女も老人も若人も関係ありません」
「あの御方を慰撫できるならば何でも差し出す。何でも行う。そのうちの一つが、女という贈り物を差し上げ続ける事がこの隠村のお役目なのです。
素敵だとは思いませんか?」
「ご友人」
「ご友人」
「甘美なるご友人」
「素敵だあ!!」
こいつら頭おかしい(笑) マジで。
謎が一つ判明し、ディーネが虫か何か汚物を見るような眼を俺に寄こす。
どうする?と訊いてくるので、俺は待てと眼で伝えた。もう少しここに居る必要がある。
俺は寝床に向かって静かに、彼らがこちらを絶対に敵だと思わせないよう自然に歩いていった。明日は村長さんに少し話を聞いてみよう。