古より一定の確率で生まれる双子。それが私達だった。
『双子だ双子だ』
『吉兆だ!!』
『外れたとはいえ、古来より我らエルフにとって双子は幸福の兆し。ノルツァー閣下もお喜びになるというもの』
『特に妹は良い。これは良い』
…お前は選ばれた者なのだ。そう言われ、私は育ってきた。
『名前はエシスとしよう。当然だ。その方が都合が良い』
そう、エシス。そこのお前という意味だ。
『姉の方は?』
『適当に付けてやれ』
『妹の前だからな。ヴェス(夕暮れ)としようか』
私達の前も、そのまた前も双子は吉兆。何故なら仮に片方がいなくなっても代わりがいるから。
「――だからヴェス。分かっていますね?」
「はい」
「あの人族。私達の計画の邪魔になるようならば」
「殺します」
計画。そう、私達が自由になる為の計画だ。その為に私達の生は有る。なのにヴェスは、姉は、突拍子もない事をある日言い出した。
「大丈夫かと」
「―――え?」
「この人族は。大丈夫かと」
「………」
戦士然としたその顔。私と同じく見えないように帽子で隠しても無駄なその表情。姉妹にとっては無意味なそれを見て、私は浮かぶ笑みを止められなかった。
いつの間にか姉は生きる指針を見つけてしまっていたのだ。戦いの中でこそ己は輝くと。
「おはようございます、エシス村長」
「おや。おはようございます。同胞ゴドフリー」
「今日は少しお話したいことがありましてね、お時間よろしいですか?」
――人生の指針が見つかる。それを羨ましくないと言えば嘘になる。
「今は少し忙しいので、そうですね。今日の夕方であれば大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。では夕方に」
「はい」
…たとえ首尾よく計画が成就したとしても。私にもそれが生まれるかは分からないからだ。
「どうもすいません、お時間取って頂いて」
「いえいえ。丁度この時間は暇なのです。なので相談でも何でもおっしゃってくれていいですよ?」
「あ、そうなんですね。助かりますー。
実は先日、この隠村の有り様を同胞から聞きましてな。―――フォールンエルフの将・ノルツァー閣下。この村ではその御方へ女性を見繕うのだとか」
「はい。そうです」
「次は誰なのですか?」
「私です」
ニコリと微笑む。他人が定めた己の定めを笑って話す。どうせ見えはしないだろうが。
「・・・・ははぁ、成る程。では次の村長はヴェス殿が?」
「ええ、そうです。私達は双子として生まれまして。だからこそなのです」
「ほっほー、双子ですか懐かしい―――」
人族が言葉を繋ぐ。心底面倒くさい会話をする。
こういうのはあまり好きじゃない。なので私は練習した雰囲気作りでもって先を促すだけ。どいつもこいつも、姉以外はみんな気色が悪いから。
「でも貴女、戦士ですよね?」
「………え?」
だからこんな事はありえないのだ。
「その上で本題を申しますが。私が連れ出してあげましょうか?村の外へ」
獰猛な戦士の笑みが、合わせ鏡のように。互いに浮かべて見つめるなど。
「貴女に敵対などしませんよ。ヴェス殿との約束ですし。
――ではもし、もしもです。ここのフォールンエルフ共が貴女方姉妹以外いなくなってしまったら、村長はどうするんで?」
願っても無い事を、事も無げに言ってくれる人が居るなどと。
◆
妹はいつも笑っていた。
「ヴェス。今日も頼みますよ?」
…顔を隠していても。いつもいつもいつも、いつもだ。
「はい。村長」
妹の計画に賛同したのは単純に計算したからだった。
この村にいたのでは老い先は短く、離れれば少しは長くなる。どちらを取るか?私は足りない頭で考え、後者を取った。
「ヴェス。尋ねてもいいですか?」
「はい。村長」
「貴女、戦いが好きになったの?」
「いいえ。村長」
「そう?」
「はい。村長」
妹は偶にこんなことを聞いてくる。よく意味が分からなかった。
戦いなど楽しくもなければ好きにもなれない。それは当然の事だ。私はそうであるべきなのだ。
「では今度は何を造っているの?ヴェス」
「はい。村長。これは仕掛け武器です。見てくれは少々湾曲した短剣ですが、柄が伸びるようになっています。これで中距離近距離が私の間合い、村長を手助けしやすくなります」
「…、そうですか」
武器は妹を守る為にある。戦う為ではない。だから戦いを求めてはならない。私はそう信仰していた。
アイツに逢うまでは。
「うおらああああああ!!!!」
「―――ッッ!」
鮮明に思い出しても、あれはよく分からない感覚だった。
形容できない不可思議な気持ちがそこに有り、私とアイツは拳と刃を交わしている。
…ついに私の時間が停まったのだろうか。そう思った。
「閃打!!」
「水月」
それを待っていた。
アイツの拳(攻撃)が唸るその瞬間、あるいはゼロ地点に重ねるように蹴りを放つ。
リーチと威力と間合い。全てがヤツを凌駕した私は勝利という名の刹那に浸る。
「……ッはあ…」
良き戦い、好き戦いがここにはあった。ゆえにこそ勝敗は紙一重。今回は偶々私の蹴りがコイツの拳打よりも速かっただけ。次があればきっと私は――。
「………」
視線が交わる。楽しいと、彼の顔にはそう記してあった。お前もだぞと、そう書いてもあった。
◇
「おーい、ヴェス殿ぉー。俺を蹴ってくれやがった戦技、じゃなかった体術スキルを教えておくれよ~約束通り」
「――耳が遠くなったな。もう一回ほざいてくれるか?」
「俺を蹴ってくれ」
おもむろに両手を開いて腰を落としている怖気走る人族を、望み通り私は蹴っていた。
「変態が。近付くな」
「そんなんじゃねえだろ!!!」
コイツはやばい奴だ。私はそう思い直していた。
「こんなもんじゃねえ!!!俺が求めた体術(武)の極みは!!!ちょうだいちょうだい!モット頂戴モット頂戴MOTTO!!!」
「人族には、誇りもないのか。生き易いものだな羨ましいよ」
果たして。何故か私はこんな奴に本音をしゃべってしまっていた。
そんな自分が許せなくて、私は蹴技をコイツに教えている。何でこうなったのだろうなあと、少し気落ちしながら。
「…、これは≪水月≫という体術でな」
「応!」
「敵を水平に蹴るだけなのだが、問題はタイミングだ。遅くてもいけないし早すぎてもいけない。確実に入る、というタイミングで蹴るのだ」
「応!!」
「あとはそうだな、同じ要領で私がよく使う前蹴りの技がある。それも教えよう」
「応!!!」
返事は鋭く、そして繰り返す度に技の鋭さも増す。
…ここの村人とは違う、何でも吸収する思考と身体。コイツを見てから私はまるでずっと混乱してきているようだった。
「貴女のような戦士が居てこの村とエシス村長は幸せだろうなあ!」
「………。何?」
「でしょうが。これほどの実力、生半可の鍛錬とレベリングで手に入る筈ないし、それに――」
「妹を犠牲にする事しか考えていないこんな村など滅んでしまえばいい」
「――へ?」
口走り、だが止まらない。
「何が幸せだ。何が永遠だ、何が双子だ特別だ?黒でも森でもない、只の堕ちたエルフであるだけだろうが何が見繕うだ!!」
止まるわけにはいかない。
「ヴェス殿」
「教えてやる。ここは死すべき吹き溜まりだ。妹以外の誰も彼も私もお前も。だから妹の為だけに、消費されうるべきなんだ私もここもお前であっても」
「ゆえに滅べと。そう言うんだな?」
――だから選んだ、賛同した。
「妹以外の何もかもがな」
どうして私が妹ではなく姉なのだと。燻らせずにはいられなかった。
「悪いがアンタに同意するわけにはいかない。俺にも目的があるんでね」
「目的…?」
「ああ。炎みたいな、目的がね」
炎と共に歩む者。この時の私には何故かそんな言葉が浮かんでいた。
◇◆
事が始まった時、妹と私は只立っていた。歓声が木霊し、何かが砕ける音と崩れる音が重なる。そこへ参加したくてうずうずしてる私が一歩歩くと、妹もまた付いてきた。
…肩を並べて、互いに同じ先を見る。
今までこんな日があっただろうか。生まれた時から双子だった私達に。
「鳥と一緒に潰している。この村を」
「はい」
「潰し回って楽しげに。まるで昔話に出てくる運命の死のように」
――炎のように。妹はそう続けた。
「炎のように」
言葉を重ねる。帽子を外す。互いに、素顔が露わになる。もっと見ていたくて。
「イグニス」
「……え?」
焼き付けていたくて。
「私の名前よ、今日この時から。姉さん、私はこの日を忘れないわ。私が始まったこの光景を」
妹の手足が先を促す。ならばと私は、いつだって炎と共に私は歩もう。
「……これがお前の目的か」
「まあまあだったけどな。けれどもこれでアンタ達は自由だ。もちろん仇討ちしてくれてもいいぜ?」
心底楽しい戦士の素顔が笑う。燃え滾るそれは今の私達に必要なモノであり、まるで祝福のように導くように。
好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく。
理不尽な、王の故だった。
―――これは私達の始まりと終わりの追憶。
この人に出逢った日から、戦いが、私の人生が、ついに幕を開けたのだった。