「この階層の地下墓地エリアで逸れたのか。妹さん、そりゃ心細いだろうな」
「うんうん。そう。妹はとてもこわがりだから。くらいよーこわいよーって」
「君は平気なのか。お姉ちゃんだな」
「まあね」
お姉ちゃん風をふかしているアステリはえっへん。胸を張って俺の後ろをついてきていた。
「お、レイス(アストラル系モンスター)発見。早速本格的にレベル上げ開始といこうか!」
「キュイー(これが所謂ゴーストってやつなのかい。思っていたより、見にくいな)」
「だが気配的な要素はしっかりあるぜ友達!それを辿って殲滅だ!」
「キュインドウ(臭いでも嗅ぐとするよ)」
「ああ!」
ボコボコぶん殴り、HPを減らしていく我々である。しかしながらなんてHPの多さだ。・・・レイスなのに体力(HP)多いっておかしくない?いや、だからこそなのか?
「『水月』!!」
第四層で手に入れた、ヴェス殿直伝の蹴りを放つ。お、クリティカルヒットだ。汎用性と威力高すぎ問題。もちろん良い意味で。
「なんか補正でも入ってんのか?結構いいダメージ叩き出してくれるぜ!」
「みずにうつるつき。そしてゆうれい。どちらもじったいがないものだからだから?」
「キュイ~キュイ(相性抜群じゃんね)」
「それっぽい解説どうもアステリ!」
敵を倒しながら奥へと下へと進むと、アステリそっくり体育座りしているチビっ子発見。ついに俺達は逸れた妹ちゃんを見つけたのだった。
「アステリア。こんなところにいたの。さがした」
「お姉ちゃん」
「くらかったでしょう、こわかったでしょう? とてもわかる、とてもわかるよ」
「べつに。なにも」
「え―――?」
「くらいところはきらいじゃないから。忘れたの?お姉ちゃん」
「いけんのそうい、あるいはふいっち。お姉ちゃんは、びっくりしている。だからアステリアあなたは、」
「おっとぉ。いつだろうが何処だろうが独りぼっちはさみしいもんだ。なあ、お二人さん?」
割り込んで発言。なんだか不穏な空気だったので場を和ませてやる。『えるでの王』は空気も読めるのだ。
「? お姉ちゃんがへんなのをつれてきた。そして鳥さんも」
「キュイキュッキュ(お初だね。ディーネだよ、よろしくね)」
「鳥もきらいじゃない。けれど、けれどね。あなたはきらい」
「おっとチビっ子から容赦のない罵倒~。お強い妹さんだ」
そう言うと、アステリは否定も肯定もせずに妹の手をしっかりとその手で取る。頼もしいお姉ちゃんだ。
「アステリア、この人はわたしをたすけてくれたの」
「じょうだんはよしてほしい。そんなヒトいるわけない」
「でもここにいる」
「つまりコイツはお姉ちゃんをたぶらかした。ゆるしてはおけない」
「誤解が誤解を呼んでるぜ、妹さん。俺の目的はこの城、剣の世界の上層へと進みたいだけだ。君も、君の姉さんも誑かしてる暇なんてない」
「………」
アステリアと呼ばれた妹さんはジッと金色の瞳を俺に向け続けている。――姉妹そろって同じ色の輝きだ。綺麗なもんだが、ていうか最近姉妹ってやつによく絡まれるなあ。
・・・・いや?絡みに行ってるの間違いかな?
「キュイキュイ(その通りだと思うよ)」
「よせやい。照れる」
「―――だったら」
向き直る。アステリアは玲瓏な眼差しのまま言った。
「このちかの最奥までついてきて欲しい。わたしもお姉ちゃんも、そこに用がある」
「いいよ。ちなみに何があるんだ?」
「もとにんげん。あるいは故人」
「死んだ奴に何しようっていうんだ?お墓参りか?」
「おれいまいり」
「不毛だな、――だが気に入った」
「ごめんねごめんね。妹はいつもこうなんだ」
アステリの眼差しが少し陰っている。お姉ちゃんは大変みたいだ。
「でもだからこそ好い。だろ?アステリ」
「だからこそ好い」
僅かに笑う。その表情は年上の貫禄が少し出ていた。なんだよ、かっこいいじゃんチビっ子よ。
「さっさとして。お姉ちゃんもはやくする」
「こくこく」
「あいよ」
◇
「しっかし地下墓なんて久しぶりだ。うずうずしてくる」
薄暗いフィールド。今にも戦車が突っ込んできそうな坂道を歩きながら、俺は言った。
「そうなのそうなの?」
「……」
「ああ。印象にあるのは特にザミェルの騎士達だな、古の英雄達。マジで強かった。あとは車輪と坩堝の二人、別名クソだ」
「…るつぼ?」
「お?興味がおありかな小さなレディ(妹さん)。
何でもかつて、生命は混じり合っていたらしくてな、生からまた命が芽吹き、死から芽吹く命すらあったようだ。よく分かんないがそうした生命の有り様は、何でもかんでも坩堝って俺は呼んでてな。人に羽が生えたり炎を吐いたり角とか尻尾とか生やしたり。いやぁ、坩堝の騎士共は強敵だった」
パリィすれば只の雑魚だがね。まあそれもサシであればの話。二人だなんて聞いてねえよオルドビス。
「星は?」
「うん?」
「空にある筈の星は、あった?」
妹さんが訊いてくる。心なしか詰問っぽく。妙だな?
「星・・・・、星を生み出す坩堝はいなかったなそういえば。流石に宇宙だから専門外だろ。 ていうか何だ、アステリアは星が見たいのか?」
「…うん」
「わたしもみたいな」
「おっとアステリも?」
「みてみたいんだ。今までみたことの、ないものを」
「まあ協力してやるのはいいけどよ。俺達空じゃなくて地下に向かってるんだが・・・?」
「そこにあるんだよ」
「空が?」
「うんうん」
宇宙は空にあるはずでは? 俺は訝しんだ。
◇
そうこうして到着した地下の更に地下。そこは最も真っ暗な場所で、しかし俺には懐かしさすら感じる場所だった。
闇の中に、何かが居る。この息遣いこの空気、それは幾度となく見聞きしてきた『強ボス』の肌触りだ。
「あれは・・・・ボスエネミーか?」
「キュッキュー!(戦い甲斐がありそうだねえ!)」
「このかいそうの守護者を造った王さまだよ。そしてわたしたちの、」
「…ちちおや」
「父親?」
黒鉄色の甲冑と頭冠で身を包み、『えるで』でいうところの両刃剣みたいなヘンテコな大剣を持つエネミーがそこにいた。
すると炎が俺達を照らすように生まれ出で、雰囲気を盛り上げる。構える、見る、敵が、金色に光る瞳で以て。
「あの人にわたしたち、しばられてるんだ。だからこのかいそうから出ることすらできない」
「てを出すことも、…できない」
「なるほど。つまりあの『王』をぶちのめせばいいんだな?」
「うん。いい」
「もういいから。…おねがいしたい」
アステリはともかくアステリアすら殊勝な態度をとってくる。つまりマジで困ってるってわけだ。なので俺は笑みを浮かべた。
「じゃあ戦いだ。行儀のいい振りは必要ない。力と力のぶつかり合い、――テメエに『王』の故を見せてやるぜ!!!!」
左足を思い切り踏みしめる。地下が震えて、空洞が軋む。見据える敵の名はゴライアス・ラストオブオールキングス。と云うらしい。
「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
体術スキル・闘士の咆哮を発動。そして俺は駆け出す。同様に駆ける、敵に向かって。
「『閃打』!!!!」
武器にぶち当てる。すると黒鉄の王は打撃の勢いを利して大剣を振り回してきた。
「見事なカウンターだ!ガードカウンターってやつだな、だが知っているぞ!!!大抵そういうのは威力だけでなく隙もでけえってことをなア!!!」
前ロリみたいな行動でもって躱した俺は。またも『閃打』を繰り出した。
「うッしゃおラァ!!しゃイッやおらアアッ!!!!!」
鉄と拳の不協和音。いい甲冑だ、こちらの力が足りねえ。
「だから蹴りも使うぜ!!拳のための蹴り、蹴りのための拳だアッ!!!!!」
「キュイキュイ!!!(いいね!素敵だ!!そう、硬い敵にはそれなりのやり方ってもんがあるのさ!)」
ディーネがタイミングよく割って入り、敵にダメージを与える。お前コンビネーションの王様みてえだな当然か?
「! 待てディーネ!やっこさん形態変化(第二段階)だ!!!」
「キューイ?(え?何それお約束?)」
「ああ!」
距離をとる、距離をとらせる。
すると敵の黒鉄甲冑が光りだし、地下バトルフィールド内に転がってる石が浮いては舞い始めた。雨のように。そして敵の背中から頭にかけて激しく閃光が迸り、花火のように落雷のように勢いよく降り出した。
「お前それ宴会芸みてえだな」
「キュイッキュルー(あの光、くらうとまずいね。こっちまで飛んでくるし。これで近中遠距離隙がないよ)」
「だが――それでこそだ!!」
まるで夜空。それをこの地底に生み出す敵の攻撃を躱しながら、俺はタイミングを図り続ける。――遅すぎてもいけないし、早すぎてもいけないと。
彼女に教わった事を反芻する。
「オラア!!!ッてグエ」
敵のカウンター。そしてビカビカ夜光攻撃。めっちゃくちゃHP減ったしやべえこれ。
「ふんッぬ!!!」
『水月』を放つ。しかしタイミングがずれた。クリティカルヒットせず。つまりピンチだ。
「…」
「…」
チビっ子姉妹が俺を見る。それしか出来ないからだ。地底の夜空という怪奇には目を向けず、只それだけしか。
だから考えろ。間合いを図れ。
―――問題はタイミングだ。遅くてもいけないし早すぎてもいけない。確実に入る、というタイミングで蹴るのだ。
「…キュイ!?(…貴公!!?)」
敵の大剣が片手持ちになり、間合いが変化。その切っ先が鋭く俺に向かってくる。
「―――しゃあ!!!」
それを待ってた。 俺はその攻撃を片手でパリィし、敵が光を放つその前に片足を思いっきり上げる。
「今―――蹴ってやるぜ!!!」
夜空に浮かぶ三日月のような軌跡。俺はヴェス殿に教わった体術スキル=前蹴りを放っていた。
「!!!」
首から顎にクリーンヒット。 更に生じる余波は黒鉄の王に二の足を踏ませ、その隙に俺はつるはし(得物)を出現、両手持ち。彗星のように脳天へとぶちこんだ。
「!!――・・・・・、」
敵HPバー全損。うめき声をやっと上げた黒鉄の王はドサリと前のめりに倒れ伏していた。
「冥途の土産の自己紹介だ、黒鉄の戦士。俺は『えるでの王』だ。――よき戦いだった」
本当にそう思う。娘達への所業は抜きにして。
「終わったぜ、お二人さん。これで君らはどうする、・・・?」
振り向くと、そこにいる小さな姉妹は明後日の方向に眼をやっていた。その先を俺も見ると、地下の岩盤が一部分だけくりぬかれ壊れており、この浮遊城アインクラッドの外、大空が臨めるようになっていた。先程の戦いの余波だろう。
「・・・?」
――それは別に珍しくもない風景だった。
だってこちとら第一から第五層まで戦い抜いているのだ、広がる空も風も空気も、最早見慣れている。
だがそうではない奴もいるらしく。
「きれい」
「…これが、よぞら?」
「うん」
「ほんとうの、よぞら」
「星空」
丁度夜であったのか、空にきらりと光る星々が絵画のように姉妹を迎える。
果たしてそれは心の琴線か、そういう類のプログラムか、偶然か。食い入るように見つめる姉妹は涙を流していた。
「月はどこかな」
「ない。見えない」
「でも、それでも」
「さっきは見れた」
「うん。きれいな月を」
「すごい三日月を」
「わたしたちは見ることが出来た」
―――サブクエスト『Crescent Locus』を達成しました。
―――体術スキル・前蹴りが『三日月』に進化しました。
「感謝する、ゴドフリー」
「だれも見たことのないものを見ること。それがわたしたちの願いだった」
「そりゃ良かった。だがこの世にはもっとやべえ、見たことのないものがたくさんある。終わりはない、探求こそ全てだ」
金色の瞳を見る。無機質なようでいて万感が籠っている、その瞳らを。
「あなたの月は石もゴーレムも従う。だからあなたの技はこの階層の守護者の真反対」
「?え?」
「つまり勝てるよ。えるでの王」
「・・・え?そうなの? 解説サンキュー」
・・・たしかこの五層のボスは巨大なゴーレムだったっけ。そういうことかな?
そう思って思わず感謝を述べると、姉妹はペコリとお辞儀した。
「貴方の戦いに、常に星光がある事を」
「感謝と共に祈ってる」
「おいおい急に流暢だな。なんだ?これってつまりサヨナラっぽい言葉かい?」
「ううん、違う」
「私達も旅をするって事。だから多分また逢える」
「そうかい。では幸運を祈ってるぜ、お二人さん。仲良くな」
ふりふり手を振るチビっ子にブンブン手を振って一時の別れを告げる。
だって楽しい時間は待ってくれない。次はもう始まっているのだ。
俺はこの階層の迷宮区、ボス部屋を探すためにこの場を後にし、
二人揃って琥珀色となった姉妹の瞳には星光が宿り、俺とディーネをいつまでも見続けていた。