「ヘンテコなゴーレムをぶっ倒しにいこう」
散歩に行くみたいに俺は言う。
「キュイーム?(ゴーレム?)」
「この層のボスモンスターさ。俺のカンがそう言ってる。ぶちのめすに足るやつだ」
「ギュルキュル(それはいいね)」
ディーネが羽ばたいて喜びを示したところで。俺達は第五層・迷宮区へと突っ込んでいた。
「さあ来いさあ来い!そしてもっとちょうだいちょうだい!!全員ぶちのめしてこれから来るだろう攻略組をアシストしてやるぜ!」
「もう来てるよ。遅かったなゴドフリー」
「あれれっ、と。お早いな、ディアベルさん」
先遣隊だろう、ディアベルさんを含め10人の戦士達が既に戦端を開いていた。
「そろそろ君も来ると思っていたさ。レベル上げだろう?効率よく助け合いといこうじゃないか」
「ディアベルさんにも付き合いがあるだろう?そして人数が多くなれば、それだけ派閥も多くなる。それでもいいのかい?」
「もちろんだ。君だってその一人だから」
「じゃあお言葉に甘えて。束の間だがまた一緒にレベリングといこうじゃないか」
懐かしい協力体制の復活である。たまにはこういうのも良いよね。
「――スイッチ!」
「応!!」
「やはり魅せてくれますね。ゴドフリーさん。相も変わらず」
「君は・・・?」
「失敬。リーテンと申します。お見知りおきを」
「!・・・リーテンさんか」
フルプレートアーマー。そしてむりやり低い声。の中身は超絶美少女で彼氏持ちである。推しカプしかいねえよ最高だなこの世界。
「よろしく。シヴァタさん元気?」
「……ゑ」
「皆集まってくれ!ボス部屋を発見した!!」
「早いな。勢い余ってというか何というか」
「…こほん。ディアベルさん、他のメンバーを集めますか?」
「そうしてくれ」
「おっと待て待て。今から突撃するつもりかい?皆の衆。もっと情報を集めてからでも」
「臆病者はついてこなくてもいいぜ」
「そうだそうだ!」
「おいおい。臆病じゃなきゃこのデスゲームを死者なしで踏破なんざできねえだろうが違うかぁ?」
大勢は強いに決まってるが、いかんせんこういう身の程知らずも増えてくるのが玉に瑕だ。
「まあ落ち着いてくれ、ゴドフリー。早期攻略の理由は二つある。一つはこのボスを倒すことでゲットできるだろうギルドフラッグの存在。そして敵の気配だ」
「・・・・敵?」
「ある筋からの情報なんだが、どうやらきな臭い連中が勃興しはじめてきているようなんだ」
「まさか新たな攻略組ギルドか?それともディアベルさん陣営の反対勢力か。それともPK関連、とか?」
「ご明察だな。その通りだ」
この頃辺りから始まるんだったか。ラフコフというかPoHさんというか笑う棺桶というか。くだらない連中共の横行と邪魔は。
「俺達は一手先を常に行きたいんだ。奴らよりも。 分かるよな、ゴドフリー?」
「この世界は死んだら終わりだからな。当然だ」
『えるで』だったら別だけど。むしろ死んでからが始まりだけど。
「ディアベルはん。お待たせや」
「ゴドフリーさんまで一緒ですか。そいつは頼もしい」
「こんにちは。ゴドフリーさん」
「・・・」
「やあ、皆さん。元気そうでなにより」
わらわらと集う強者ども。それにアスナさんとキリトさんまでご到着だ。こいつはダサい姿を見せられねえな。
「揃ってるみたいだな。―――各員、持ち物の最終チェック!準備が出来次第ボス部屋に挑むぞ!!」
「応!!!」
◇
「うおらあああああ!!!!」
「ゴーレムか!ぶちのめしてやる!!!」
「まずは観察だ!何か目立つ所や弱点を探せ!!」
「こんなデカブツの弱点なんざ古今東西一つに決まってらア!手と脚しかねえだろうが!!!ついでに火の巨人も連れてくるかゴラァア!!!」
ボス部屋の中を所狭しと走るラインが、誇示するように光る。遜色なく。何故ならこの部屋全体がこの層のボス『フスクス・ザ・ヴェイカントコロッサス』だからだ。
そして紋章だかマークだかがたしか弱点だったかな?
「なるほど、この光るラインを踏むと手脚が出てきて、それを攻撃すればいいのか。A隊!B隊にスイッチ!!B隊は俺と一緒にラインを踏み、ボスを攻撃!!」
「了解!!!」
「俺はカバーに徹するぜ、ディアベルさん!」
「頼んだゴドフリー!」
しかし手と脚って普通二本ずつだよね? このゲームではそんなわけがないので俺は味方の援護みたいな事をし始めた。
――勝負は奴が。ボスゴーレムが大地に立ってからだ。
「ボスの形態が変化したぞ!!? シヴァタ!あぶねえ!!」
「シバ!!」
「おっとぉお!!!!こんなところでくたばってちゃ勿体ねえよシヴァタさんよお!」
「ゴドフリーさん・・・!」
いつの間にやら敵ボスの口に変化した床がシヴァタさんを噛み千切ろうと牙をむく。そこで俺はお隣失礼しマース!シヴァタさんと共にボスに噛みつかれていた。
「すまない・・・ッ、ドジった」
「何言ってる!!ドジったってのはな、落下死した時とか落下死した時とかに言うもんだまだ死んじゃいねえ!!」
「――死なせてたまるかあ!!!!!」
「リッちゃ、リーテン!?」
咆哮し、リーテンさんが吶喊する。俺の隣のシヴァタさんのまた隣に、つまりは口に入り、
「絶対……助ける!!!殺させて…たまるかああぁぁぁ―――ッ!!!!!!」
叫び。それは無心の叫び。かつて原作を見た時に、これは推しカプだと決めたシーンが俺の脳内に甦る。ならば俺も見せよう、力を。
「応とも!!!『えるでの王』の力、見せてやろう!!!!!」
俺は左足でボスの口腔を踏みつけた。デスゲームの中で進展してるお熱い仲(シバとリーテンさん)を、ゴーレム如きに邪魔させてたまるかよ。
「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! 力こそ、王の故だしゃいッやおらあああああ!!!!!!」
「ぅおああああああああ―――ッッ!!!!!」
口の中で三人が叫ぶ。すると敵の噛みしめの勢いが緩む。それは何故か。多分恐らくきっと『力』が足りなかったのだ間違いない。
「紋章発見!!」
「攻撃ッ!!!三人を死なせるな!!!」
「――――っ」
弱点である紋章を攻撃されたボスは居ても立ってもいられないのか俺達を開放する。そして声にならない声を上げる。
つまりはチャンスだ。俺は新しく入手した体術スキルを発動した。
「『三日月』!!!」
「―――っ、!!」
HPバーが大きく減り、ラスト1ゲージを切る。と同時にボスが俺を見た。いや、睨む。強く強く。
強く、大地に立つ。その五体と顔が俺を睨んで、
「―――王」
親の仇のように射抜いてくる。
「立ち上がったぞ!タンク隊、円陣防御ォ!」
「お前よく見ると英雄のガーゴイルみてえだな。その口、毒でも吐くのかなあ!!!!!!」
さあ勝負という名の戦いのスタートだ。
待ちかねた。俺はつるはしを右手に顕現。ディーネに援護を要請した。
「ディーネ!やるぞ!!!」
「キュイ!!(やるんだな、今ここで!!!)」
「ああ!!」
最上の勝負はここからだ。
「うおおおおおお!!!!!」
「――――っ!!!」
敵の拳が風を貫く。空(くう)を裂く。巨体のパンチ。大地を踏みしめながらのそれは右と左の二方向。
右をリーテンさんとシヴァタさんが盾で以て防ぎ、俺は左をつるはしで以て食い留めた。
「足りないなあ。足りねえぞそんなんじゃ!!火守りたる小さき巨人にすら劣るぞいいのかこんなもんで!!!!」
左右の巨拳が上空へと跳ね上がる。リーテンさんとシヴァタさんの息ぴったりナイスコンビネーションの為せる業だ。
・・・あれ?ていうかこの二人ってデスゲーム生き残ったんだっけ?忘れたけど多分大丈夫だろここにはディアベルさんがいるし。
そんなことを片手間に、俺はゴーレムへと肉薄した。
「もっともっと力を見せろお!!!!!俺も見せてやるからさァあ!!!!」
つるはしを敵のどたま(頭部)にぶん投げる。宣言し、クラウチングスタート。殴り合いをおっ始める。
「ゴドフリー!?」
「だって力こそ、王の故だからなァあ!!!!」
拳がぶつかる。俺のHPが減る。蹴りが勢いを殺す。敵のHPが減る。
「―――!!!!!!」
「らぁああああアッ!!!」
『三日月』を発動。すると敵は大きくのけ反った。
「今だ!!!スイッチ!!!」
ディアベルさんの声と同時。キリトさんとアスナさんの剣がボスの喉笛を貫くと。
CONGRATULATIONS. その表示が俺達の前に現れていた。
「やったああああああー!!!!」
「犠牲者はいないな?!」
「回復ポーションがなくなった者はこっちへ!・・・祝うのはその後でも遅くないだろう?」
「いよっしゃあああああ!!!!」
シヴァタさんがリーテンさんと一緒に喜び、労う。抱きかかえてすらいる。こういうのって、本当に良いものだよね。
「ゴドフリー。お疲れ様」
「ディアベルさんも。良い戦いぶりだった。ところでフラッグの方は?」
「キリトさんとアスナさんに確認中だ。あの二人の事だ、快く譲渡してくれるだろう」
「違いない」
「PK集団の動向は気になるが、これで俺達は奴らの一手先を行けた筈だ。そして俺達は宴を終え次第、第六層へ行く。・・・一緒に来ないか?また」
「悪いね。嬉しいが、俺は俺のやり方で貢献させてもらおう」
「・・・そうか。まあ、気長に待つ事にするよ」
ディベルさんが掌を掲げる。俺もそれに倣うと、戦士二人の間にはパチンと勝鬨が響いていた。
◆
「キュイッキュイ??(今回も良い戦いが出来て満足だよ親友。ところで次の階層には行かないのかい?いつもならイの一番に突入してた筈だけど?)」
「ああ」
第五層主街区・カルルイン。俺はディアベルさんたちが貸し切っている宴のフロアとは違う場所でドリンクを飲んでいた。
聖杯瓶を思い出すような赤と青が混じったドリンクには夜空の星が映っている。
冥き夕闇のスケルツォ。それがドリンクの名前だ。
「ディーネ。少し外してくれないか」
「きゅい…?(うん?いいけど)」
バサバサっと、綺麗な羽音と共にディーネが夜空へ飛ぶ。俺は飲み干したドリンク・グラスをテーブルに置いて、少し歩くことにして、
「イッツ・ショーウ・タァーイム」
背中にチクリと。ナイフだろう切っ先が触れていた。
「―――。誰かな?」
「おっとと、じっとしてなよ。動いたら、ナイフがずぶりだぜ」
感動も感慨も何もないまま、俺は口を開く。
「ここは圏内だ。そんなの何の脅しにもならないぞ」
「おいおい、しっかりしてくれよ『えるで』の王様。圏内なのは前庭までで、ここはダンジョン扱いだぜ?」
せっかくだし少しお話しようぜ兄弟(ブロ)。 背中から聞こえる声に俺は頷いた。
「いいけどその前に訊きたい。アンタの目的は何だ?」
「決まってるだろ。王様と同じさ、面白いことだよ。面白いからだよ。せっかくのビッグ・ステージを、俺は楽しみたいんだよ」
「その為に色々仕込んで盛り上げてって所かな? まさにイッツ・ショーウ・タイム」
「流石だぜ兄弟(ブロ)」
そう言いながら歩く。諸々を我慢して。
「じゃあ次は少し俺の話を聞いてくれないかな?」
「勿論。お話は大好きだぜ?」
「ありがとう。実は昔さ、マルチをやってた頃にこういう伝説を聞いた事があってさ。
――サリ裏って知ってるかな?赤や白や青や黄色や紫諸々が入り混じり、文字通り死闘を繰り広げてるっていう聖域の伝説を」
「へえー」
「『えるで』だとさあ、そういったのは他プレイヤーを呼ばないと出来ないらしくてさあ。まあ何が言いたいかっていうと要はさあ、」
「要は?」
くるりと振り返る。ナイフを握ったその手を取って。
「ちゃんと刺せよ。お前、俺の世界に侵入してきたんだろう?」
グッと引き寄せる。敵が逃げを打つ前に。
「ヒュー!みつけたぜ!」
コイツの狙い通り、俺達は圏外へと移動したのだ。だからこそ、ずぶりと刺さったナイフが俺のHPを削る。それ以外のステータス異常はない。
「『閃打』」
「こんな所にあるのかよ――現実に無いわけだぜ」
体術スキルのクリティカル・ヒットによるノックバック発動。得物である『つるはし』を顕現し、俺はその切っ先を敵の脳天へと叩き込む。
「愛ってやつはなあ!!」
「生まれ変わったらサリ裏へ往って勉強したらどうだい。伝説じゃあまだ繁盛してるらしいぜ?PoHさん」
HP全損を見届けて。今も俺のHPを減らし続けてるナイフが遺留品になった事を見納めて。俺はその遺留品を遺失物にしてこの場を後にするのだった。
◆
「てな感じで侵入の風上にもおけねえ奴だったよ」
「キュイッキュイ(ふふーん?)」
「歴史とか変わるかもしれないけど大筋は変わらないだろうって信じてるよ。まずもってディアベルさん生きてるし、死なせねえし」
「キューシューコッテリ(だから先に刺させたってわけかい。わざわざボクを遠のかせてまでして、PKKなんてね)」
「先に俺に一撃入れてくれなきゃオレンジになっちゃうからな。でも読みが当たってよかったよ。
このゲームはオレンジになったプレイヤーを攻撃しても、デメリットはない。これで大手を振って俺達は第六層に行けるってもんだ」
「キュアー(分の悪い賭けであった事は間違いないと思うけどね。嫌いじゃないけど)」
「よせやい」
転位門をくぐる。第六層が見えてくる。熱い太陽が俺達を出迎え、原作を思い出しながら俺は声を出した。
「良いね。まさに黄金律」
我が友の背中のような景色が、俺達を歓迎していた。