『我々は生まれた意味を知るべきなのだ。子供たちよ。いつか琥珀色の光に、見えるために』
天を見上げて、父は私達にそう言った。
なので頭を上げて、大柄な父越しにその天井を見上げる。
空なんてものは生まれてこのかた一度も見たことがなかった。
「お姉ちゃん。あの人はいったいなにを言っているんだろう?」
「もうげんというたぐいの言葉かもしれない。あまりふかくかんがえないほうがいい。アステリア」
「でも生まれた意味を知りたいとおもうのは悪くない。知るというのは、つまりはそういうことなんじゃないのかな。お姉ちゃん」
「かもしれない。なら、めざしてみるのも悪くない」
いつか。きっといつかはと、私たちはこの穴の中から天井を見上げていた。
平べったい天はどこもかしこも変わりなかったが、私たちは『知』というものを欲していたのだ。
見たことがないを、見たことがあるに変えるため。
しかしそんなある日。
「お姉ちゃん。私たち、浮いてる」
「じょうだんはよしなさいアステリア。私たちはまだ浮けない。父のようには」
「そうじゃないよお姉ちゃん。この土地ごと私たちは浮いているんだよ」
「………」
――大地が切断され、空を舞う。
父はそう言って笑った。そして頭がもっとおかしくなり、私たちに呪いをかけた。
『お前たちは父に危害を加えることができない。星も空も光も見ることはできない。そんなことは許されない。だってこの父も、無理だったのだから』
それが父の最期の言葉だった。
娘を呪うなんてあんまりだと思ったが、逆に言えばそれ以外の全てが自由になった私たちは早速穴の外に出た。
「暗い」
「これが夜…」
「夜ヒトらしく歩いていこうアステリア。私たちの『知』のために」
「うんお姉ちゃん」
―――そうして。どれくらいの月日が流れたのかすら二人して忘れたころ、私たちは彼と出会った。
「俺はゴドフリー。君は?」
◆
ボッコボコにしているしされてもいる二人を見ながら、私たちは息を止めていた。
「…おとうさん」
「…あの人。すごいね」
戦士が父をぶん殴り、父が戦士を叩っ切る。
尻込みすら余計な児戯だとばかりに肉薄する両者は常に前へ前へ。一寸先は闇であるはずの領域へ進撃する。
「戦士って、こうなんだね。お姉ちゃん」
「旅人でもあるよアステリア。この人は、戦士で旅人」
「……旅人」
私たちと同じ。『知』を探す旅人。……いや、違う。似てはいるが確実に違うと私は思った。
「戦ってはいなかったかもしれない。私たちは」
そうこうしている内に父が倒れる。
綺麗な足という名の三日月に蹴り倒され、存在ごと、ついに物言わぬ躯へ。でも私たちはずっと、父を倒したこの人を見ていた。そして更にはその奥へと。
「冥途の土産の自己紹介だ、黒鉄の戦士。俺は『えるでの王』だ。――よき戦いだった」
かつての住処だったこの場所。そこに開けられた風穴を見る。
空気の流れが香しい何かを運び、私たちは何だろうと思いながらそこを見続ける。そこには見たことのない光があった。
若造どもが作った街の灯ではない、純粋なる光の粒。
「星の光」
戦士(勝者)の瞳に煌々と灯っているものと、同じ色の。まるで理不尽な、王の故だった。
「終わったぜ、お二人さん。これで君らはどうする?」
それはたしかに。私と妹には見たことがないが、見たことがあるに変わった瞬間であり。
私達の『次』が私達の背中を押した瞬間だった。
「アステリア」
「アステリお姉ちゃん」
好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく。
理不尽な、王のように。
「次はこの星の海を見にいこう」
―――これは地底に居た私達の始まりと終わりの追憶。
この人に逢った日から、戦いが、本当の旅が私達を待っていたのだった。