黒エルフの戦士たちは皆重装甲。得物は直剣。人数は5人。
「薄汚い人族め。仇をとるぞ、総員かかれ!」
「かかってこいッ!」
レベル差はさほどないが、こんなところで全員とやりあうなんて自殺行為だ。正面戦闘の基本は敵を複数同時に相手にはしない事。
俺は気迫を発しながら駆け出した。
「逃げだと?」
「ふざけた真似をッ」
「逃がすな!」
「追え!油断せず!」
「かかってこい!!」
挑発の言葉を口にする俺。ここら一帯は山岳地帯なので、隘路といった狭い道幅を利用することにしよう。
「『閃打』!!」
「ぐぬっ、なんだこの重さ」
「こいつ本当に人族か?!」
「ひるむな!何であれ敵だ!討ち滅ぼせ!」
「『三日月』!!」
「!?」
俺の蹴りが敵の肘に直撃。剣をとりこぼす。その隙を、敵ごと、俺のつるはしでもって粉砕する。
「あれは・・・・なんだ?」
「農具、か?」
戦場に似つかわしくないとでも思っているだろう。黒エルフたちが呆然として、俺の得物を見る。
そして恐怖が訪れる。
「見たまえよ、石堀りの得物だ。硬い硬い、古竜のウロコすらも貫く、なあ!!!!」
両手持ちでブンブン振り回す。鋭利な先端が超スピードで振るわれれば流石のエルフもビビるってもんだ。
「くそ!退け退け!場所が悪い!」
「させるかあッ!!逃がすなディーネ!!」
キュイっと鳴き、その大きな翼と体躯で退路を塞いだディーネも戦いを始めた。
「キュオオオ!(さあ始めようか!)」
「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
スキル・闘士の咆哮発動。地の利もオッケー。
「この地形ならサシで戦わざるをえないなあ、黒エルフの戦士たち。かかってこいよ、力こそ王の故だぞ」
「ぬうおおおお!!!!」
黒エルフたちは悟ったのだろう。自分たちが背水の陣なのだと。だがそれは俺も同じこと。己の力でこじ開けるしかない。
これが好い。これだから好い。これだからやめられない。
楽しい楽しい戦いだ。スキルを使い、腕を競い合うように武器と拳が戦場を飛び交う。
「やっぱ愉しいなあ!!」
「狂人め!!」
おっとそれは誉め言葉だぜ。俺達『えるで』の王にとってはな。
「キュイック!!!(まずい!回避してくれ!!!)」
「は?何?」
瞬間、相棒が叫び声を上げる。自身が負けそうだからとかそんなものじゃあない。もっと鬼気迫る声量と雰囲気だ。
「おいどうしたディー、ネ?」
「!あれは、・・・まずい!!防御だ!!総員防御オ!!!」
俺と戦っているにも関わらず黒エルフたちは防御の体制をとった。
何かが迫っている、と俺は咄嗟に体術スキル・クイックを使用。何か感じたら即座に回避(ローリング)が基本だからだ。
そうして振り向く。そいつの鋭い牙と瞳を見る為に。
「何だ?お前」
それは犬のような体躯で、それでいて凶悪にすぎる牙をもつ大型肉食獣だった。
「アンフィキオンだ!!」
「まずいぞ!総員全力で撤退しろ!!」
「あんふぃき、おん? ていうかちょっと俺との戦いはどうしたよお?!!?」
「ウォウッ!!!!!」
「フン!!!邪魔すんなこのクソ犬!!!」
突如現れたこのアンフィキオンは第七層最強クラスのモブモンスター。・・・だったかな?犬みてえな体躯をしてるので嫌悪しか感じないが。
「退け退け!!」
そう、俺は犬が嫌いだ。なので俺はコイツに向かって『閃打』を叩き込んだ。
「ウォウーーーーゥッ!!!!」
吼える。その威圧感と気持ちの悪さ。やはりコイツはどんなゲームでも敵だ。怨敵だ。
「現実ならともかく、こういうゲームに出てくる犬は嫌いなんだ。視界に入ったらすぐぶっ殺すくらいにはなあ!!!」
「ウォウウォウウォウ!!ウォウ!!」
執拗な咬みつき攻撃。素早すぎて俺のつるはしでは対処しずらい。が、拳と脚でならばどうだ!
「ウォウ!!!!」
「いて!」
俺の打撃を躱し、咬みつくアンフィキオン。当然のように貯まり始める毒ゲージ。いや出血ゲージか?
とにかくあと一撃くらったら確実に状態異常発動になるって寸法だ。
「だから犬は嫌いなんだ。いつもどこにでもいるテメエらがなあ!!!」
「ウォオオオウ!!!!!!」
犬だから仲間を呼ぶかも分からんので速攻で殺す必要ありと判断した俺は、つるはしを両手で持ち直して高々と掲げた。それを隙だらけと見た犬が迫る。肉薄する。
――馬鹿な獲物だと、その瞳には書いてあった。
つるはしの一撃よりもこの牙は速く届く。満々の自信だ。誇りだ。その牙と顎が、俺の大腿部目掛けて。
「ふん!」
なのでその前に、俺は犬目掛けてこのつるはしをぶん投げた。
「ギャウ!?」
面食らうと同時。『クイック』で背後をとった俺は『閃打』を連撃。終いに『三日月』を何度も何度もぶちこむ。
「本当なら、弓か特大武器でぶっ殺して、やりたいんだがよ。これで満足してくれや―――クソ犬!!!!!」
殴る蹴る。攻撃の余波で空中に浮かぶモンスター・アンフィキオンを俺は攻撃し続け、ついには粉々に砕かれていったのだった。
「しゃああああああッ!!!気持ち悪かったけど良い戦いだったな!」
「きゅ~!(おつかれ!)」
「ディーネもな。俺にバフをかけてくれて助かった」
ディーネの咆哮は俺たちプレイヤーにだけ効果が及ぶバフがある。
スピードボーナスがかかっていた俺のつるはし投げは間一髪、敵よりも速く間に合ったというわけだ。
「黒エルフは・・・逃げたか。戦士のくせに」
「キュレム(無理もないよ。アンフィキオンは骨が折れるからね)」
「油断せずに進んで行こう。また出てくるかもしれねえし」
そう言って俺は目標である山の向こう、迷宮区タワーへと顔と眼を動かした。・・・激戦の後だからか、周囲には誰もいない。俺達という勝者しかいない中で、そいつは俺達と眼が合った。
「!」
「!」
――感じる危険の二文字。それを纏って、古い竜がこちらを見ていた。
そいつは血のような赤い眼をしていた。ギラギラとこちらを直視して、やるじゃないかお前と、俺を品定めしているようだった。
・・・憶えのあるこの感覚。それは狭間の地で何度も何度も体感してきた、正に竜の威容だった。
「――次はお前だ。待ってろよ、古竜」
そう言うと、不合格なのか若しくはそれでこそと思ったのかは分からないが、俺から視線を外した赤竜アギエラは翼を伸ばして、ゆっくりと迷宮区の奥へと飛び去っていった。
その有様はとても嬉しそうだったと。お互いに、俺は思った。