脳内ゴドフリー   作:ブロx

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第二層→第三層

 

 

 

ユナとノーチラスのレベリングは順調is順調の一言だった。

 

「これは『剣舞』という戦技。君は短剣がメインの、あくまで非戦闘職なわけだが、これは足の動かし方と剣の振り方に妙がある。君に向いてる」

 

このように、ユナには速度が売りの『力』を教え、

 

「おいノーチラス。継戦能力とは俺が教えた戦技だけでなく、君自身の経験でありHPであり防御力であり敏捷力といった総合的な物だ。

向上させる方法は一つ。もっともっと周りを見ろ」

 

 エーくんには戦いにおける基礎を教えていく。『えるで』で培った物のほんの一部を。

 

そしてついに、アインクラッド第二層攻略の日が決まった。

 

「ドウモ、初めましてゴドフリーさん。ちょっとイイかい?」

 

「君はたしか情報屋さん?」

 

「モチさ。流石は拳一筋の益荒男殿。情報収集にも余念がないようで安心しタ」

 

 これからユナと一緒に二層最後のレベリング講座としゃれこもう。と思って宿でホットミルクを飲んでいると、コンコンコン。

 優雅なノック音につられて扉を開けると、そこには鼠のアルゴさんだったかな? 優雅な一礼と共に小柄なフード。アインクラッド一の情報通が立っていた。

 

「明日。第二層のボス攻略が始まる。知っていたカ?」  

 

「そうなのか?知らなかったよ」

 

「やっぱりナ。…ディアベルの奴」

 

「彼と俺は袂を分かった。だから別に変な事じゃないでしょう?

そして、そんな俺に君は情報を伝えに来た。何が目的かな?情報屋さん」

 

「オレっちはアルゴってもんだ。砕けた喋り方は気にしないでくれよ?案外これが気楽でネ」

 

「そうかい?じゃあ俺もそれに倣わしてもらうよ」

 

「ドーゾドーゾ」

 

コトリと。俺はアルゴさんにホットミルクを促した。

 

「第一層攻略の立役者ゴドフリー。体術スキルだけでコボルド・ロードを散々打ちのめした変態殿。それが現攻略組プレイヤー達が抱いていル密かで素直な感想ダ」

 

「事実確認の為に来たのか?だったら冷める前にそれ飲んで帰ってくれ。答えは全部イエスだから」

 

「君がこの層でシカ手に入らない体術スキルを第一層時点で持っていた事がグリッチによるものだという事もカ?」

 

「・・・」

 

ミルクを飲む。沈黙は肯定である。演出、とも言う。

 

「――ボス攻略は」

 

「!」

 

「明日の何時開始だ?俺も参加しよう」

 

「………」

 

「?どうした?」

 

アルゴさんは絶句している。何故だろう?楽しいボス戦だというのに。

 

「そのメ、止してくれ」

 

「眼?」

 

「…綺麗すぎる。正邪どころか善悪もない。オレっちには眼の毒ダ」

 

「そうか?まあ、個性だからな。嫌なら見るな」

 

笑う。アルゴさんは頂きますと言ってホットミルクを一気に飲み干した。

 

「スマン、話が逸れたナ。ボス攻略は明朝9時、ボス部屋前に集合ダ」

 

「了解。情報感謝する。幾らだい?」

 

「礼は要らなイ。というより、もう頂いたからナ」

 

「さっきの事実確認がか?」

 

「ああ。キミの情報を欲しがってるプレイヤーは存外多いってことサ」

 

「へえ~。もし君もその一人っていうんなら、もう少しサービスするけど?」

 

「いやいや結構。それはちゃあんとしかるべき時ニしかるべき言葉で頼むサ。――王様?」

 

「・・・!」

 

聞かれていた。いつの間に。

 

「武勇伝、またの機会に聞かせてもらうヨ!アデュ~」

 

 手を振る。昔見た原作以上に食えないそのキャラクターを肴にホットミルクを飲みながら。そして戦いが俺を待っている事に喜んで。

 

「よし、明日が愉しみになってきたぞ!」

 

俺の瞳はランランと輝くのだった。

 

 

 

 

「というわけで、ユナ。明日でボスは撃破されるから俺達はもう別行動だ」

 

「別行動??」

 

「君のレベルは上がってきているが、まだ安全圏じゃあない。つまり第三層にはまだ上がるべきじゃないって事。でも俺は明日から第三層でモンスターをぶっ殺す仕事があるから、今夜でお別れだ」

 

「そっか、仕方のない事なんだね?」

 

「こればっかりはな。けどノーチラスは大分仕上がっている。これからは彼と一緒にレベリングなり頑張っていけば良い。きっと、君たち二人は最高のコンビになれる。生き残れる。

 困ったら攻略組のディアベルさんを訪ねるんだ。俺から迷惑を被ったと言えば、悪いようにはしない筈」

 

「そっか」

 

「ああ」

 

「だってさ。 ノーくん?」

 

「・・・・え?」

 

振り返る。するとそこの木の陰からは、一人の男性が。

 

「ノーチラス。気付いてたのか」

 

「ゴドフリー」

 

 ユナは彼の全てだ。切られるかも。・・・そんな俺の思考は、勢いよく頭を下げるエーくんによって霧消した。

 

「ありがとう。俺にはこんな事出来なかった」

 

「・・・こんな事?」

 

「ユナを鍛える事。ユナに『力』を教える事だ」

 

「怒らないのか?君の大切な人を、戦場に連れ回した事を。何より黙っていた事を」

 

「それに対しては文句の2つ3つあるが。ユナが望んだ事だから、いい。重要なのはゴドフリー」

 

「あ、ああ」

 

「―――もうお別れなのか」

 

『炎と共に歩む者。――さようなら』

 

「・・・。元々取引でつるんでただけだろう?ずっと一緒だ何だと誓ったわけじゃない。それに、生きてりゃひょっこり何処かで逢える筈だ。そうだろう?」

 

メリナとは永別したわけだが。まあ、いいや。

 

「そうか。・・・君とのレベリングはビックリの連続だったが。また、いつか会えるかな」

 

「望みは必ず叶う、なんて不謹慎は言わないが。今は只レベリングをしよう。生きてりゃ因果の交叉路でってね」

 

「? 何だ?それ?」

 

「よっしゃ行くぞオラァ!!!」

 

この層最後のレベリングは、とても楽しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 日付が変わって第二層ボス部屋。

ボスであるバラン・ザ・ジェネラルトーラスはまあまあの手合いだった。まあ当然だが。

 

「ジェネラルだとゴラァ!!!!!テメエのどこが将軍だ?ジェネラルラダーン来いよオラアアアアアア!!!!」

 

ウォークライ。俺はボコボコ殴る。戦場で叫ぶ。

 

「駄目駄目駄目駄目!!!!おい取り巻きのナト大佐くん、教えてやる!ジェネラルってのはなぁ、てめえみたいな惰弱な配下は居ねえんだよ!!!!!」

 

 得物をぶっ壊す。殴ってぶっ壊す。俺の『閃打』が敵下半身五箇所を同時に突く。

 赤獅子になって出直せよ。なんて、変な事を考えながら。

 

「未だに変わってへんのか。そのスタイル」

 

「キバオウさん」

 

「お前抜きでも戦こうたるってコッチは気合入れて来とんのに。一体誰が今日の情報をお前に教えたんや?」

 

「無駄口は止めな。来るぜ」

 

「来る・・・・?ジェネラルはもう少しで―――」

 

 降臨。それは正にそう呼ぶに相応しい光景だった。巨大なトーラス・モンスターが不意に現れ、俺達プレイヤーをジェネラルと共に挟み撃ちにする形で陣形を形成する。

 

――最初からこうするのが目的。敵を倒す為に。実に巧妙。

 

「実に弱者!!!」

 

「アステリオス・ザ・トーラスキング!?」

 

「新手だ!!!タンク隊!!!陣形再編!!」

 

「――ゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

「ゴドフリー!?待て!!いくら君でも・・・!!」

 

王だ。キングだ。敵はトーラスの王様だ。

 

「テメエキングかあアアアアア!!!!!!」

 

――が、俺はえるでの王だ。

 

「『閃打』!!」

 

その俺の拳が、トーラスキングの手刀によってピンポイントで防がれた。

 

「・・・!?」

 

――硬。

 

「ブモオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

敵のウォークライ。ブレスの用意。足を動かし、躱して後ろを取る。

 

「ゥオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

「ブモォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 殴り合う。力と力、その比べ合いによって『王』となった者同士が、今この場で宣言するように。

 そして眼と眼が合い、敵は笑って俺を見た。これは俺とお前の喧嘩、とことんやんぞと言うように。示すように。

 

「―――」

 

「―――」

 

だって力こそ、王の故だろう?

 

「前言を撤回する。お前は強い」

 

「ブッモオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

「俺の『力』、お見せしよう」

 

 地面を両手で殴って抉り、俺は岩石を強く握り締めた。えるでの『岩石剣』みたいなもので、そのまま姿勢を低く沈め、間合を図る。

 そして体を固めて一歩踏み込み、そのまま一気に下から敵の膝を殴り飛び上がり胴体を突き上げた。

 

「昇龍拳!!?」

 

「あれも体術スキルか?!」

 

いや、只の『巨人狩り』の真似事。

 

「ゥオオラオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 なので万感を込めて、叫んで誤魔化す。怯んだトーラスキングは只々俺を見詰めていた。

 

 変かな?こんな手を使うのは。トーラスキング。顔にそう書いてあるぞ?

だが勝つ為にはどんな手でも使うのが我々『えるでのわ』をプレイしたプレイヤー。敵を凍結させようが出血させようが腐敗塗れにさせようが毒らせようが眠らせようが、どんな武器戦技を使ってでも勝つ。対応する。それが『えるでの王の力』の一端だ。

 

―――体術スキル・闘士の咆哮を獲得しました。

 

「行くぞオラアアアアアア!!!!!ウォオーリアアアアアアアアアア!!!」

 

「B隊スイッチ!!俺達も遅れを取るなあ!!!」

 

「ヴォロロルルヴァラオオアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「いやあ、たのしかった」

 

 特筆する事もなく、その後は死者も出す事無くトーラスの王は撃破された。閃光のようなフェンサーさんやら投剣スキルを使う勇者さんやらが来たから、王と王の勝負はこのゲーム特有のレイド戦へと移行。俺もそれに倣って、ラストアタックはブラッキー(キリト)さんかアスナさんのどちらかが取った。

 

 周囲の歓声が聞こえる。しかしその後に起きる鍛冶スキル事件関連の制裁は別に見る事もないので、俺はさっさと三層へと向かっている。

 まあ、大丈夫でしょ。だって勇者は根性だし。

 

「たのしかった」

 

 トーラスキングとの戦いは良いものだった。

そして課題も見えた。そろそろ拳以外の武器や装備を手に入れていくべきだろう事。彼は俺にそれを示してくれた。キングの名は伊達ではなかったらしい。

 

「もっともっと、俺に見せてくれ」

 

 思い出は良い。だってこの余韻が、あと98以上続くんだから。浸るのも振り切るのも俺の自由。俺だけの愉しみ。俺だけの戦い。

 第三層への扉を余韻と共に開ける。広がる森と大樹が眼に映り、そこで俺はついに盛大に笑い転げた。

 

「―――ただいま!」

 

 幻覚がそう言わせる。だってそこにはまるで黄金のような古い樹木。今まで幾度も見たあの光景、幻影幻覚が俺の脳裏に映ったから。

 

「リムグレイブ―――!」

 

 

 

 

 

 


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