月の薬師は魔法使いの夢を見るか? 作:十六夜××
サクヤがホグワーツへ入学する日がやってきた。
玄関には孤児院の子供たちが集まっており、協力してサクヤの荷物を車のトランクに積み込んでいる。
「院長、もうお歳なのですから車の運転は私に任せていただいても……」
「なに、心配いらないさ。昼には戻る」
院長はトランクが閉まっていることを確認すると、運転席に乗り込む。
私はサクヤの肩を軽く叩き、その後そっと抱きしめた。
「体には気をつけてね」
「もう、心配しすぎですよ。セシリア先生」
サクヤはむず痒そうに体を捩り、私の腕の中から逃げ出す。
そして、助手席の扉を開けると、こちらに小さく頭を下げてから車内に乗り込んだ。
サクヤを乗せた車が孤児院を離れ、次第に小さくなっていく。
私は車が見えなくなるまで見送ると子供たちと共に孤児院の中へと戻った。
「サクヤのことはダンブルドアに任せておけばまず間違いないはず」
孤児院での家事を一通り済ませた私は、自分の部屋の椅子に腰掛け一息つく。
机の上にある日刊予言者新聞には、魔法界の新たな英雄、生き残った男の子であるハリー・ポッターがホグワーツに入学するという記事が掲載されていた。
「サクヤの記憶を読む限り、学用品の買い出しでハリー・ポッターと一緒になったらしいけど……」
きっとハリー・ポッターはグリフィンドールに組み分けされる。
サクヤは……まず間違いなくスリザリンだ。
ブラック家の長女である私とトムの間に生まれた子供が、スリザリンでなかったら誰がスリザリンに組分けされるというのだ。
「今年だとマルフォイのところとかが同じ時期だったかしら。うふふ、彼氏としてマルフォイのところのボンボン連れてきたらどうしましょう」
まあ、サクヤに関してはホグワーツを卒業してダンブルドアの手を離れたと同時に血を入れ替える予定だ。
私の血とサクヤの血は完全に同じものではないので双方共に拒絶反応を起こす可能性はあるが、その辺は治癒魔法でなんとでもなる。
サクヤと血を入れ替えれば、私は一時的に時間操作の能力を得ることができる。
私は、私一人の力で蓬莱の薬を完成させるのだ。
「そしたら、サクヤと二人で蓬莱の薬で乾杯でもしようかしらね。うふふ。孤児院の職員さんが実は母親だったって知ったらあの子どんな顔するかしら。不老不死になったら親子二人で旅に出るのもいいわね。お師匠さまは絶対地球上のどこかにいるだろうし、きっとそこに輝夜もいるはず。お師匠さま絶対びっくりするわ」
戦争は十年以上前に終わった。
当時死喰い人だった魔法使いも、当時のことなどすっかり忘れてそれぞれの人生を謳歌している。
イギリス魔法界は平和そのものだ。
きっと、サクヤはホグワーツですくすくと心身ともに大きく成長するだろう。
「ふふ、楽しみね」
私は大きくなったサクヤと肩を並べて世界中を旅する自分の姿を想像し、自室で一人クスリと笑った。
『P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?』に続く。
情報開示
この物語は、『P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?』の前日譚です。物語の続きは、『P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?』を読んでいただけたらと思います。
『P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?』
https://syosetu.org/novel/247370/