エヴリン。今からちょっとしたゲームをやろう   作:三柱 努

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はらぺこバハムート

その日、ベイカー邸には来訪者があった。

背丈や体格は普通だろう。だが身に着けているものが厚めのアーリージャケット。迷彩柄で服の下に何かを仕込んでいるような気配もある。

田舎町の人間には似つかわしくない仰々しい重装備。

だがこの町ではよくある光景だ。何かの通信機がピーガーうるさく鳴っているけれども、それを無視してゲームに興じる。よくある住民の光景だ。

「おや? アランじゃないか、久しぶりだな」

「パパだぁ」

その男、アラン・ドロニィも例に漏れない。その胸に何かビデオカメラのレンズのようなものが光り、服の下から何かの配線が露骨に伸びている。

「よぉエヴリン久しぶり。すみません、ちょっと出張先でゴタゴタが続いてしまいまして」

「構わんよ。今日はちょうどニアも帰ってくる日だ。今、イーサンが迎えに行っているよ」

ジャックとエヴリンに笑顔で迎え入れられ、アランは微笑みながら家の中へと入っていった。

「よぉアラン兄ぃ。おひさ」

「よぉルーカス」

そう言って拳を合わせるルーカスとアラン。ゾイもマーガレットもアランを温かく迎え入れた。

「それじゃあエヴリンのママとパパたちが帰ってくるまで。『はらぺこバハムート』でもやろうぜ」

「そうだな。やろうやろう」

「わーい」

机を囲むルーカスとエヴリンとアラン。そのアランの胸でレンズが怪しく光を放っている。

 

「はらぺこバハムート。簡単に言えば遊戯王みたいなカードゲームだ」

目をキラキラさせるルーカスに、エヴリンは「また?」とジトーッとした視線を送る。

とはいえエヴリンのこのリアクションは演技。対戦型カードゲームはエヴリンの大好物だ。そもそも嫌いなジャンルのゲームというものが彼女には存在しない。

「カードの枚数は少ないが、モンスターや魔法カードを使って相手のライフをゼロにしたら勝ちだ」

そう言ってカードを何枚か広げて見せるルーカス。そこには可愛らしい絵が描かれ、「はらぺこバハムート」や「オワカーレ」と、どこか可愛らしさのあるネーミングと共にカード効果の説明が書かれていた。

「例えばコイツは『はらぺこバハムート』呪文カードの効果でのみ召喚できて、召喚された次のターンに相手のライフをゼロにできる」

「それ召喚したら勝ち確じゃねぇか?」

アランの指摘にルーカスは指をチッチと振ってみせた。

「だが『オワカーレ』は場のモンスターを墓地に送る効果がある。他にもカードには色んな効果があるぜ。デッキからカードを3枚引いて2枚捨てる、とか。カード名を宣言してそのカードが相手の手札にあったら奪う、とかな」

「へぇ、面白そう」

エヴリンの反応以上に、ルーカスは目を輝かせて説明した。

「あとはちょっと本家と違うのが、1ターンにプレイできるカードは2枚まで。デッキと墓地は共有。デッキが無くなったら墓地のカードをシャッフルして全てデッキに戻す。あと、大事なルールがあるぜ」

そう言ってルーカスは小さなチップを取り出した。

「このゲーム、好きな時に神の宣告が使える。しかも2枚」

エヴリンが「神の宣告?」と首をかしげると、アランは「相手のカード効果の発動を無効化できるんだよ」と教えた。

「その通り。ようは好きなタイミングで相手のカードを邪魔できるのさ。ただしこの神宣は2回まで。そして相手の神宣を自分の神宣2枚で防ぐことができる」

「神宣返し、か」と呟くアラン。エヴリンは少し首を傾げながらも、大体のルールを理解した。

 

「っつうことでゲーム開始だ。最初の決闘はエヴリンとアランパパ。だいたい5分もしないうちに決着がつくからな、負けた方が次に俺と交代な」

そう言ってカードを配るルーカス。エヴリンとアランは向かい合って座り、ワクワクしながらカードを受け取った。

 

だがその時

アランの胸で光るレンズの向こう側でエヴリンたちの耳に届かない密話が交わされていた。

 

 

【今だ】

 

 

その瞬間

アランの上半身が弾けたことを

エヴリンが知覚する前に

彼女の身体に無数の銃弾が撃ち込まれた

その一発一発は小さな注射器

アランの意思ではない。彼の知らない機器による遠隔操作。機械的。非生物的故に、特異菌の保護機能が間に合うことなく

 

「あ゛あああああああああああああああああああああ」

 

脳を刺すほどの激痛がエヴリンの体を走った。

喉の奥から悲鳴が上がるも、意識を保つことすらできない。

だが彼女の急変を心配する家族はいない。

ルーカスもまた意識が途絶し、糸が切れた人形のように机に倒れ込んでいた。

ゾイも。ジャックも。マーガレットも。

そしてそれは同時に、町の人々も。

エヴリンを家族として想う人々の全てが・・・

 

 

「ほぉ、これは想定外の結果だ。被検体の細胞を死滅させるものと思っていたが」

「特異菌の反応は消失している。本体の細胞を優先して守り、人形として残したか」

「息はあるようだな。そして見ろ、爆破させたサンプルAの体を」

「再生しているな。サンプルの脳に埋め込んだセンサーが生きているな。バイタルは精神支配を脱している数値を示している」

「お優しいな。消失する前に種を守ったか」

「失敗作だと思っていたが利用価値も見いだせる」

「部隊に急いで追加命令を出せ。被検体Eの生体サンプルを確保せよ」

「サンプル群Bの保存状態は可能な限り現状維持で確保だ」

 

 

 

5分後、爆音と共に3機の輸送機がルイジアナ州ダルウェイの空を切り裂いた。

 

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