ルーカスがテーブルの上に置いたのは様々な絵柄が描かれたカードであった。
「こいつは『ごきぶりポーカー』っつう楽しいカードゲームだぜ」
ごきぶりポーカーという名に抵抗感があったゾイとエヴリン。だがその絵柄はどれも愛嬌のあるゴキブリたち。
いや、ゴキブリだけではない。ハエやサソリにクモにカメムシ。ネズミやカエル、コウモリといった絵が描かれている。
「かわいい絵だね」
「どれも嫌われ者って感じだね。ルーカスみたい」
「うるせぇゾイ。クモ様をナメるな。嫌な虫を掃除してくれる益虫だぞ」
口喧嘩ではない。冗談交じりは仲の良い証拠。エヴリンはニコニコしながら兄妹の戯れに耳を傾けた。
口も動かし手も動かす。ルーカスはカードを何枚か手札のようにして並べた。
「これはな、相手が嘘を言っているか本当の事を言っているかを当てるゲームだ。手札を1枚裏向きのまま出して、こん時に相手を指名する。『ゾイ、このカードは○○だぞ』ってな。指名された相手はそのカードが本当に○○なのかを当てる」
「なるほど。当たったら相手のポイント。外れたらこっちのポイントってことね」
「逆だ。勝負はその通りだがポイント制じゃない。そのカードを負けた方がもらうことになる。例えばエヴリン、俺が今から出すカードを『そうだよ』って言ってくれ」
そう言ってルーカスはエヴリンに向かってカードを1枚出した。
「エヴリン、これはゴキブリだぞ」
「えっと。そうだよ。これはゴキブリだよ」
エヴリンの答えを待ってから、ルーカスはカードを表にした。そこに描かれていたのはゴキブリであった。
「あ~俺の負けだ。このゴキブリは俺のカードになっちまったってことだ」
「じゃあ、もしルーカスが『これはネズミだ』って言ってゴキブリを出して、エヴリンが『これはネズミだよ』って答えたら」
「ハズレだからエヴリンの負けだな。ゴキブリがエヴリンのカードになる」
そう言ってゴキブリをエヴリンの前に並べるルーカス。エヴリンは「わかったよ」とルールを理解した。
「こうやって何回も勝負をしていく。しばらくするとゴキブリやネズミが何枚も並んでいくよな? 負けの条件は3つだ」
そう言って指を3本立てるルーカス。
「1つは『同じカードが4枚揃う』だ。ゴキブリ4枚とかな。わかるか?」
「嫌だなぁ。ゴキブリが4匹も出てきたら」
「大丈夫。エヴリンの部屋に出てきたらお姉ちゃんがやっつけてあげる」
そう言ってルーカスの頭にチョップをするゾイ。
「じゃあ2つ目は『8種類全部揃う』だ。これも分かるよな?」
「うわぁ」
「そん時はルーカスにどうにかしてもらおうね」
仲睦まじく笑い合うエヴリンとゾイ。ルーカスも笑いながら3つ目の指を動かした。
「3つ目は『手札が全部なくなる』だ。まぁあんまり気にしなくていい。大抵そうなるまでに勝負がつくからな。これでルールは全部だ。分かったか? 大丈夫か?」
「うん分かったよ」
「もし分からなくなったらいつでも言いな。それじゃ神様に祈り終わったら、とっとと始めるぞ」
そう言ってカードを配るルーカス。もらった手札を他の兄姉妹に見られないように3人は手の中で並べた。
「ゲーム・スタート!」
こうして始まったごきぶりポーカー。最初の手番はレディーファーストということでエヴリンからだ。
「じゃあ、お兄ちゃん。これはサソリです」
そう言ってカードをルーカスの前に出すエヴリン。
「まぁ最初のうちは考えなしにいっても問題ねぇからな。とりあえず妹を信用して、こいつはサソリだ」
ルーカスが表にしたカードに描かれていたのはサソリであった。
エヴリンの負け。サソリはエヴリンの1枚目のカードになった。
「あ~あ、ルーカスがイジメた」
「俺が!?」
「でも私はお兄ちゃんに嘘つかなかったし、お兄ちゃんも私の事を信じてくれたんだから。私は嬉しいよ」
エヴリンの好意的解釈に涙目っぽく目を潤ませるゾイとルーカス。
「良い妹を持ったぜ俺は。じゃあ負けた奴がそのまま次の手番だぜエヴリン」
「じゃあ今度はお姉ちゃん。これはサソリです」
目の前に出されたカードにゾイは悩んだ。この流れ、ここでルーカスと同じように答えてしまえば先程の二の舞。エヴリンを負かせてしまう。かといって信頼しないという話にもなるのは・・・
「悩んでるようだなゾイ。そんなお前に朗報だ。この勝負、エヴリンとの一騎打ちを放棄できるぞ」
「放棄?」
「放棄っつうか、俺との勝負に切り替えるんだ。今エヴリンが出したカードを確認していい。確認した上で俺に対して『このカードは○○だ』って言っていい。ちなみにエヴリンが宣言したのと別のカードだって言ってもいいぜ。『このカードは△△だ』ってな」
ルーカスの説明にゾイは少しの間考え込んだ。そして静かにエヴリンから貰ったカードを自分だけが見えるようにめくって確認し、ルーカスの前に裏向きで出した。
「ルーカス、このカードは・・・ネズミよ」
「馬鹿だなお前。エヴリンが嘘つくわけねぇだろ? このカードはネズミじゃねぇ」
即答したルーカスは迷わずカードを表にした。カードはサソリだった。
「うぅ。サソリが来た」
「お姉ちゃん、それだと私が嘘つきだってことになっちゃうよ」
「あっ」
「馬~鹿」
こうして勝負は進んでいき、いよいよ終盤。
ルーカス:ゴキブリ3枚、ネズミ1枚、サソリ2枚、ハエ1枚、カメムシ2枚、カエル3枚
ゾイ:ゴキブリ1枚、サソリ1枚、ハエ1枚、クモ3枚、カメムシ2枚、カエル2枚
エヴリン:ネズミ1枚、サソリ3枚、クモ3枚、カメムシ1枚、カエル1枚、コウモリ2枚
この状況で次はエヴリンの手番となった。
「え~っと。お兄ちゃん、これは・・・カエルです」
この場合、もし中身がカエルでルーカスが負ければ、ルーカスのカエルが4枚となりルーカスの負けが決まる。
「へ~、そうかい」
遠慮がちにエヴリンが提出したカードを、ルーカスはニヤニヤしながら受け取った。
そしてルーカスは迷わずカードをめくり確認してからゾイの前に出した。
「ゾイ。こいつはカエルだ」
いやにニヤニヤするルーカスにゾイは手を止めた。
『エヴリンがカエルって言った。その通りならルーカスは負け。だけど実は他のだった? でも今のところエヴリンのことを信じるって言ってきてるしやっぱりカエル? どっちにしてもすぐに負けるわけじゃない。ここはカエルだった可能性に賭けてルーカスを負かせるのが正解かな』
熟考した結果、ゾイの結論は「それはカエルね」。そして開いて表にしたカードに描かれていたのは・・・
「へぇ、クモ・・・ってクモ!?」
ゾイの負け。クモがゾイの元に。そしてゾイのクモが4枚目に到達した。
「このゲームに負けたのは ゾイ~!!」
ルーカスの高らかな宣言にエヴリンが拍手を送る。そんな光景にゾイは「待った!おかしいでしょ」と異論を唱えた。
「だっ、だって、え? クモ? それがどうしてカエル?」
ゾイの疑問は尤もだ。このクモのカードを出したのはエヴリンであり、彼女もまたクモのカードで負ける可能性があった。そのリスクを負ってまでブラフを張る高等テクを繰り広げたことになる。
が、ルーカスはわかっていた。
「馬鹿だなゾイ。エヴリンは初心者だぜ? そんな駆け引きできるかよ」
「うん。どうすればいいか分からないからテキトーに出したの」
「だ、だからって。それにしてもルーカス、よく気付いたわねその機転に」
「ゾイ。こいつは遊びだぜ? 読み合いとか言ってる時点でズレてんだよ。遊んだ奴が勝つんだよ」
つまりルーカスもテキトーだったのだ。
「どうだったエヴリン?」
「おもしろかったよ」
「サイコーのゲームだったな。またやろうぜ」
こうして、ごきぶりポーカーをエンジョイしたエヴリンたち。
だが彼女たちは知らなかった。
ベイカー一家に迫る足音があることに。
それは家の外。近くにあるトレーラーハウスから迫っていた。