エヴリン。今からちょっとしたゲームをやろう   作:三柱 努

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あいうえおバトル

ミア・ウィンターズ。

彼女は見知らぬトレーラーハウスで目を覚ました。寝ぼけているのか頭がハッキリとしていない。おぼろげな記憶を辿るが、どこか重要な点が抜け落ちているように要領を得ない考えばかりが頭をよぎっていた。

「ここは?」

昨夜、嵐の中でとある一家に保護されたことは覚えている。ベイカーと名乗っていたことも。

「思い出せない。けどお礼を言いにいかなきゃ」

良識に照らしても社会人として、人間として常識だ。助けてもらったらお礼をするべき。

ミアはハウスを出てベイカー邸へと足を踏み入れた。

沼地にポツンと佇む大きな家。こんな家を見たことがないミアだったが、この家にはどこか懐かしさとアットホームな雰囲気を感じていた。

「失礼します。ベイカーさん」

「は~い」

玄関のチャイムを鳴らすミア。するとすぐに元気のいい女の子の声が返ってきた。

「あれ? ママじゃん」

扉が開き、目に入った光景にミアの思考は一瞬固まった。

そこにいたのは10歳くらいの女の子。名前はエヴリン。ミアはその子の名前を知っていた。ベイカー家の一員ではないことも知っていた。ずっと昔から知っていた。

「そうよエヴリン。私はあなたのママ」

何の疑問にも思わなかった。そもそも疑問に思うという考え自体が疑問モノだ。

ずっと前から母の子供のエヴリン。そう、私はママだ。

 

「あらミア、いらっしゃい」

「ようやく起きたの寝ぼすけさん。昼食の時間だよ」

「よかったなエヴリン。昼飯食ったらママと一緒に遊べるぜ」

ベイカー一家は当たり前のようにミアを迎え入れた。ベイカー家の末娘にしてミアの娘のエヴリン。ミアの一人娘でありルーカスとゾイの妹であるエヴリン。この矛盾を誰も何の不思議にも思わない。

 

「じゃあよぉエヴリン。ダブルママと4人でゲームをしようぜ」

「そりゃいい。楽しみだねエヴリン」

「うん」

ミアとエヴリン、そしてマーガレットが座るリビング。ルーカスが持ってきたのは文字の表と小さなカード立て、そしてペンであった。

「あいうえおバトルっていうゲームだ。ひらがなは全部書けるよな?」

「分かるのエヴリン?」

「うん。大丈夫だよ」

ひらがな。日本語の文字である。

ちなみにここはルイジアナ州。だが誰も疑問にも思わない。

「お題に対して7文字以内で言葉を決めるんだ。例えば『甘いもの』ってお題に『チョコレート』みたいにな。その言葉を1文字ずつカードにひらがなで書いて、そいつを相手に見えないようにしながら順番に並べる。余った分もそのまま並べる。チョコレートなら『ちょこれーと□』ってな具合にな」

ルーカスは説明しながらカード立てに1文字ずつひらがなを書いていった。

そして4人の間にひらがなの50音順の表を置いた。このあたりからエヴリンたちもルールを察し始める。

「それぞれの手番に1文字ずつ指名するんだ。指名された文字が自分の言葉の中に入っていたらカードを表にして相手に見えるようにする。『と』を指名されたら『□□□□□と□』、次に『よ』を指名されたら『□ょ□□□と□』ってな。濁点とか小さい文字もこんな感じだ。ちょっとずつ言葉が穴抜けに見えてくるだろ? 全部の文字をオープンさせられたら負け。最後まで残ったやつが優勝だ」

「なるほどね。文字が少なくてもカードが7枚だから、相手の答えが2文字なのか7文字なのかも考えなきゃいけないんだね」

マーガレットの指摘にルーカスは「さすがお袋」と指をパチンと鳴らした。

「あんまり難しい言葉にしないでね。エヴリンが分からないと可哀想でしょ。みんなが知ってる名前にしないと」

「大丈夫だよママ。わたし物知りだから」

「そうだな。エヴリンは下手なゾイよりか博識だ。それじゃあ始めようぜ」

 

ルーカス、エヴリン、ミア、マーガレットは各々にペンを手にした。

「お題は・・・『暑いところ』だ」

ペンとカード立てを手にシンキングタイムに入る4人。

「暑いところ暑いところ」

「エヴリンも知ってる暑いところかぁ」

「大喜利みたいに捻った答えはひんしゅくものだからね。あんまり変なことを書くんじゃないよルーカス」

「わかってるよお袋」

それぞれのタイミングで「これだ」とペンを走らせていく。最後のマーガレットが書き終わり、いよいよスタートだ。

「じゃあまずはエヴリンからな」

「うん。じゃあママの『ま』から」

ま。だがその文字に誰もカードを反転させなかった。

「ハズレだな。惜しいな。じゃあ次は俺。文字っつうのは頻出度ってのがあるんだよ。よく使われる文字。『い』だ」

い。この言葉にマーガレットとミアが「あ~あ」と言いカードを反転させた。

 マーガレット:□□い□□□□

 ミア:□い□□□□□

「ちなみに正解したらもう一文字いけるぜ。『は』だ」

ルーカスの指名に苦い顔をするマーガレット。

 マーガレット:は□い□□□□

「まったくルーカスったら。でも私には分かるよ。ルーカスがやりそうな手口。ちょっと捻って『つ』でしょ。小さい『っ』を入れそう」

「うぅ、アタリだよ」

そう言ってルーカスもカードを反転させた。ガッツポーズを見せるマーガレット。

 ルーカス:□□□つ□□□

「やったわ。次も『と』」

マーガレットの追撃。そこにルーカスだけでなくミアも「あー」と唸った。

 ルーカス:□□□つと□□

 ミア:□いと□□□□

「次は私ね。う~ん、エヴリンに誤爆したくないなぁ。『う』で」

ミアの指名には誰も反応しなかった。残念がりながらもエヴリンの無事を喜ぶミア。

「私の2回目だね。じゃあママの『み』だよ」

エヴリンの指名に「かわいいな」とトロける3人。そんな中、ルーカスが「って、あ!」と遅れて気付いてカードを反転させた。

 ルーカス:□□みつと□□

「□□みつと□□? なんだろうね」

「へっへ~、分かるかな。だが俺ばっか当てられるのはキツいぜ。そろそろエヴリンにも一撃。入れねぇと」

「でもまだ私の番だよ。次は『ろ』」

ろ。その指名にミアが「まぁ」とカードを反転させる。「やったー」と喜ぶエヴリンだが、少しして気付いて自分のカードも反転させた。自爆である。

 ミア:□いと□ろ□□

 エヴリン:□□ろ□□□□

「あ~あ」

「ルーカスのせいで」

「まったくだよ馬鹿息子」

「俺のせい!? んなこと言う悪い口どもは封印してやるぜ。『た』だ!」

ルーカスの指名に項垂れるミア。

 ミア:たいと□ろ□□

「俺には分かってるんだぜ。やられる前にやれ。鉄則だな。『こ』だ!」

ミアは「うわぁ」と言いながら全てのカード立てを反転させた。残るマスは空欄で

「だいどころ。台所よ。お料理してると暑いのよね」

「よっしゃ!」

「ミアの仇は私が討つよ。といってもルーカスの文字が全然わからないわね」

「何だろうね」

「俺はお袋の、なんとなく分かるけどな」

「う~ん。じゃあ『お』よ」

勢いのまま指名したマーガレット。だが無情にも反転するのはエヴリンのカード。

 エヴリン:お□ろ□□□□

「ごっめんなさい!」

「いいよ」

「はっは~。まだお袋のターンだぜ」

「え、そうだね。エヴリンのはなんとなく分かっちゃったし。ルーカスの、ルーカスの。とりあえず『ら』!」

正解。ルーカスのカードが反転された。

 ルーカス:□らみつと□□

「あ」

「あ」

「え?」

「ダブルママは気付いたようだな。だけど答えを教えちゃダメだぜ。さぁエヴリン。次はお前の番だ」

ルーカスの促しに頭を抱えるエヴリン。

「え、何を選べばいいんだろう。『は』?」

マーガレットのカードが反転してしまった。

「はわい。常夏のハワイ。一度でいいから行ってみたいね」

「わざわざ観光で暑いところに行くやつの気がしれねぇぜ」

観光。この一言にマーガレットは気付いた。口を大きく横に開けてエヴリンに口パクでヒントを与えようとする。ミアはマーガレットとエヴリンを指さしてヒントを与えようとする。

「おいおいダブルママ。反則ギリギリだぞ」

「え? え?」

だがエヴリンには通じない。

「何だろう。‥らみつと‥‥。『く』!」

残念。ハズレ。ルーカスのターンになり、彼は『ふ』と宣言した。

「おふろ。いいよねお風呂」

「ちなみに俺の最後の文字は『ひ』な。ピラミッド」

「ルーカス。それは微妙じゃないの?」

負けてブーと頬を膨らませるマーガレット。エヴリンは首を傾げながらミアに尋ねた。

「ピラミッドって?」

「エジプトっていう砂漠の国にある世界遺産よ。大きなお墓で・・・遺産? ・・いさん」

突然、呆然と手を止めたミア。

小さく呟き始めたかと思うと、ハッとなったように顔を上げた。

 

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