エヴリン。今からちょっとしたゲームをやろう   作:三柱 努

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ワーリングウィッチクラフト

「まったく。マザーミランダの命令とはいえ、どうして私がこんなアメリカの田舎に行かなければならないなんて・・・チョー楽しみ♡」

長身の女性がスキップしながらルイジアナ州ダルウェイの森に続く道を進んでいた。

夜は深くないとはいえ、街頭の無い道の中は危険と隣り合わせである。

だが野生の動物たちは本能で察知していた。この女性のほうが危険であると。

森の闇に溶け込む真っ白なドレスと帽子。動きにくい服装に似つかわしくない軽やかさで木々をかき分けていく女性。

豊満なボディだが、その身長は身長290cm。サイズ感がバグっている。

手にした飲みものをゴクゴク飲みながら。そこには、若い男の体液を連想させる名前が書かれていた。

そう。体液。汗。スエット。

ポカリスエットである。

「さ~て着いたわね」

森の館にたどり着いた女性は細長い爪で器用にチャイムを鳴らした。

家の中から出迎えた少女に、女性は元気よく挨拶した。

「あらエヴリン。こんドミ~」

「こんばんは。いらっしゃいドミトお姉さん」

彼女の名はオルチーナ・ドミトレスク。ヨーロッパの地方にある立派な城の城主であり、とある用事でベイカー邸に訪れていた。

無論、ボードゲームで遊ぶためである。そうに違いない。彼女自身も心から確信していた。

 

 

「じゃあ今日はドミトお姉さんを入れて3人でコイツをやっていくぜ。その名もワーリングウィッチクラフト」

そう言ってルーカスは別館の大広間にゲームを並べていった。

各プレイヤー用のプレイマット。魔女の鍋のような小皿。赤青緑に白黒、5色の小さな木のチップ。そして何種類かのカード。

「お兄ちゃん、これってどんなゲームなの?」

「ウィッチクラフトってことは、魔女が何か調合するのかしら?」

「その通り。こいつは自分の手元の材料を調合して別の材料に変えて、その出来上がった材料を相手に渡していくゲームさ」

「緑と青を混ぜると毒が治るとか?」

「治らない」

「緑と赤と青のおハーブを混ぜると」

「混ぜんな。っつうかハーブじゃねえよ。話の腰を折らねぇでくれよドミト姉さん。そこに5種類の材料があるだろ? そいつを調合カードで色んな素材に変換していくんだ。例えば赤1個が青2個になったり、赤2個が青1個になったり」

そう言って調合カードを見せるルーカス。そこには上下の段に矢印が描かれ、その上下に赤と青の絵が描かれていた。

「1個を2個に増やすのはわかるけど、2個を1個に減らすのって意味あるの?」

「勿論だぜ。手元にどんどん材料が残っていって、溢れたら負けだからな。敵に渡すために1つの材料を2つにしてもよし。逆に敵から貰いすぎた材料を減らすために2つの材料を1つに減らすのも大事なんだ」

そう言って調合カードを4枚ずつ配るルーカス。

「基本的に調合カードは手札だ。4枚の内1枚の調合カードを出して、次のターンに相手に渡す。相手は貰った3枚の手札に、山札から1枚追加して4枚にして自分のターンを迎えることになる」

「ってことは相手が次に何を出してくるか予想しながら遊ぶんだね」

「そういうこと。さすがエヴリン、理解が早いぜ」

そう言ってエヴリンの頭を撫でるルーカス。

「ちなみに調合カードは出したらずっと有効だぜ。次のターンも同じ調合ができて、追加で別の調合ができるようになる。どんどん色んな調合ができるようになる」

そしてルーカスは最後に役職カードを配った。

「今配ったカードに、お前らの特殊能力が書かれている。一人一人違う能力だ。例えば『フェイに祝福されし者』は何も無いところから白と緑を1個ずつ調合できたり。他のカードにも色々な能力がある」

「ライターが使えたり?」

「使わない」

「鍵を開けたり?」

「開けない」

話の腰を折られても何度でも立ち上がる男ルーカス。何度でも折る少女エヴリンと老・・・ゲフンゲフン、淑女ドミトレスク。

「まぁこういう感じで、素材を上手く動かして魔法を唱えて、相手にたくさん押し付けて破産させる。いわゆる『ぷよぷよ』みたいなゲームだな」

「ファイヤー アイスストーム ダイアキュート?」

「ブレインダムド ジュゲム ばよえ~ん?」

「お二人さんが息ピッタリなのを確認したところで、さっそく始めようぜ!」

配り直されるカードを、エヴリンとドミトレスクは楽しそうに眺めた。

そんな中、カードを配るルーカスはふと口を開いた。

「っつうかエヴリン。お前このネタ知ってるのか。歳、誤魔化してねぇか?」

その時、ドミトレスクの爪が鋭く長く伸び、ルーカスの腕を叩いた。

叩いた。ザンッと叩いた。

「その口をお閉じ、坊や。お前は女性のデリケートな部分を全く理解できていないようね」

悪いのはルーカスである。とエヴリンも頬を膨らませた。

「ったく勘弁しろよ姉さん」

 

 

こうして和気あいあいと始まったワーリングウィッチクラフト。

少ない材料からたくさんの材料を調合する攻撃的なスタイルのドミトレスク。

逆にたくさんの材料を処理する方に特化した手堅い陣営を揃えるルーカス。

 

結果、勝利したのは赤1個と緑1個を黒1個に。青1個と緑1個を白1個に。というように、白と黒だけに調合先を特化させるように立ち回ったエヴリンであった。

 

 


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