それでは、どうぞ。
「………何故着いてくるんです?」
「別に良いじゃない、この後暇なんでしょ?お姉さんに付き合ってよ。そ・れ・に、貴方みたいな可愛い子だったら、イイコトしてあげても良いんだけど♥️」
「遠慮しておきます。」
「え~、つれないわねぇ。」
「自分の体を大切にしてください、僕なんかが触れてはいけない位に綺麗なんですから。」
二人で街中を歩くコウとメーテラ……正しくはコウに興味を持ったメーテラが着いて来ている状態ではあるが、特に拒絶することもなく言葉を交わしている。だが、メーテラは誘惑に反応した様子が一切見られない事に不満げなようであった。
「自然に誉めるのは高得点だけど、自分を下げるような発言はいただけないわね。ほら、普通に誉めてみなさい。」
「本心を言っただけなんですが………んんっ……人を惹き付けてやまない色香を纏いながらも凛とした佇まいはとても美しいですね。」
「そうそう、その調子よ。」
「その綺麗な声も、宝石のように透き通る瞳も、全てが貴女を輝かせる要素となってとても魅力的です。」
「なぁんだ、やれば出来るじゃないの。」
息を整え、少し思考した後に口を開くとスラスラと誉める言葉が出てくる。それに満足げに頷いていたメーテラだったが、ふとコウがこちらを真っ直ぐに見つめてきていることに気がつきからかい混じりに問い掛けた。
「何?もしかして見惚れちゃった?」
「………そうかもしれませんね。」
返答されたと同時に顔を見ると妖しい光の宿る瞳とかち合った。そしてゆっくりと笑みを浮かべるとメーテラにのみ聞こえるように艶やかな声で囁き始める。
「もしメーテラさんを独り占め出来るなら、貴女の意識を一瞬でも僕へ向けられるなら、どれだけ好きにされても構わない、そう思います。」
そこまで小悪魔的な笑みを浮かべながら言いきると首をコテンとかしげ
「こんな感じですか?」
と軽い感じで尋ねた。純粋な誉め言葉から唐突に独占欲増し増しの口説き文句を食らったメーテラはそれに思考の整理が終わっていないのか、そのまま固まってしまっている。
「…………………………。」
「メーテラさん?」
「………異性に興味ありませんって顔してよくもまぁそんなキザな台詞ポンポン吐けるわねアンタ………ホントは結構遊んでんじゃないの?」
「最後のはどこかで読んだ本からの流用ですが、殆どは僕の本音ですよ?貴女の事は間違いなく綺麗だと思ってますし。」
その表情からもそれが嘘偽りの無い言葉だというのがありありと伝わってくる。本人からしたら「褒めろ」と言われたからやっただけで嘘をつく必要もないと思っているのだろうが、下心も無しに褒めちぎられるのに慣れていないメーテラからしたら十分な破壊力があったのだろうか、少しばかり頬を赤らめていた。
「私をからかおうなんて良い度胸してるじゃない。」
「そう言われましても、先輩から「こうしたら良い」と教わった事をやっているだけですので。」
「余程愉快な性格してるのねソイツ。」
「悪戯好きで好奇心の塊みたいな人ではありますけど、遠くへ行ってしまった友人と会うために先生と一緒に旅をしている強い方ですよ。」
そう話すコウの姿は楽しげで、先程までの人を誘惑する気配は微塵もない。その事に恐ろしさすら感じたメーテラであったが、下手に藪をつつくと蛇よりも危険な何かが牙を剥くと言うことも経験から察しているため、その話に乗っかるように話題を吹っ掛ける。
「ふーん……その先生ってのからさっきのを教わったの?」
「いえ、そこら辺は全部書物を読み解いて取得した物です。教わったのは『門』についてですかね。」
「あら、随分と軽い感じで教えるのね。」
ここでようやくメーテラが尋ねようとした話題へと切り替わる。
「お世辞にも使い勝手が良いとは言えない代物だからですよ。見て学ぶなんて事は出来ないでしょうし、『門』に関しては真似出来るはずも無いでしょうから。」
「へぇ………。」
話を聞いて、メーテラはその美しい顔に挑戦的な笑みを浮かべる。どうやら「出来ない」という言葉がメーテラの何かを刺激したようで、何やらやる気に満ち溢れていた。
「ちょっと教えなさいよそれ。」
「はい?」
「あぁ、秘伝の魔術だって言うんだったらなら他人の耳が入らない所の方が良いわね。」ガシッ!
「いえ、そう言うことでは無くて。」
「口閉じてなさい、舌噛むわよ!」
コウが抵抗を始める前にメーテラは有無を言わさず捕まえる。身長差が約50cm程あり同年代よりも一際小さくて細い相手であるため、難なく担ぎ上げるとそのまま得意の飛翔術を使いその場から飛び上がる。人を抱えながら空を飛ぶという常人では到底真似出来ないような事をこなしているが、その難易度は推し量れない物である。しかしそれが彼女にとっての当たり前のようで、目を丸くする周囲の人間を置いてそのまま人気の少ない森林目掛けて空を駆けるのだった。
「………?」
「どうかしたの?」
「いえ、さっき空にコウさんみたいな人がいた気がして……気のせいでしょうか。」
「空だぁ?流石に空まで飛べやしねぇだろ。何かの見間違いじゃねーのかよ。」
「そうなんですかね………あ!こっちから美味しそうな匂いが!」
「あ!おい!オイラ達を置いてくんじゃねぇ!」
「とうちゃ~く、ここなら誰も来ないでしょ。」
数分後、街を見下ろせるような場所にある森に降り立ったメーテラは押さえてもいないのに何故か一切動いた様子のないシルクハットを不思議そうに眺めながら担いでいたコウを離す。
「それにしても軽すぎよアンタ。体付きも細いし、もっと筋肉付けたら女の子達が放って置かないイイ男になるに違いないわよ?」
「多分死ぬまでこのままですから無理ですよ。」
解放されたコウは特に気分を悪くした様子もなく着地すると、風圧によってはだけた衣服をいそいそと直し始め、メーテラはその姿を鑑賞している。
「……ま、アンタの魅力は男らしからぬ色気だから問題無いのかしらね。男も誘惑出来るんじゃない?」
「まぁ何故かそういう目線を向けられる事は男女問わずありましたが別に興味無いので………僕なんかに情欲を抱くなんてよっぽど欲求不満だったんでしょうか。」
「やっぱあるにはあるのね。で、本題なんだけど。」
一応の納得を得られたメーテラは続けざまに尋ねる。
「さっきのしつこいナンパ男に何したのか教えて貰えるかしら?私の予想としては見えない衝撃波か何かを魔法でかましたと思ってるんだけと。」
「……まぁその程度ならお答えしますよ。」
渋々といった様子で腰に差した杖を手に取ったコウは森の中を見回す。注意深く観察するその目はまるで獲物を探す狩人のようだった。
「本当は対人用なんですが………『ーーーーー』。」
「ギシャァァァァァァッ!?」
バッと手を上げ、真横に杖を向けたコウがこの世の物とは思えない程複雑そうに聞こえる呪文を唱えると木の影で虎視眈々と二人を狙っていた蟷螂のような魔物が金切り声を上げて暴れだした。
「これです。」
「……いきなり暴れだしたようにしか見えないんだけど。外傷も無さそうだし。」
「物理攻撃じゃないですからね。」
「ギシャァァァァァァッ!?」
「うっさい。」ヒュンッ!
「ギシャッ!?」ザシュッ!
哀れにも理由も分からぬまま発狂した魔物は金切り声声を上げつつける事に腹立てたメーテラが何処からか取り出した弓の一射で脳天を吹き飛ばされて絶命した。それを見ていたコウはパチパチと拍手をしながら口を開いた。
「すごいですね、魔法の弓ですか。」
「魔導弓よ、魔力さえあれば矢を産み出せる私のお気に入り。それで?アンタが使ったのはどういう呪文?」
「……"
「精神に干渉する魔術………珍しいけど発狂させるのは私の趣味とは合いそうに無いわね。他に無いの?」
「一応言って置きますけど教えませんよ?」
あからさまに乗り気ではないコウとは対照的にメーテラは興味津々であるという表情を隠そうともしない。
「見て盗むから大丈夫よ。希望としては……そうね、貴方がさっきやったみたいに一瞬で相手の無力化が出来るのが良いわ。勿論、相手が醜い感じになるのは無しね♪」
「いえ、だから……はぁ……………ありますけど、真似出来なくても文句は受け付けませんよ。」
「上等上等。さーて、丁度良い獲物は……。」
「貴様ら!ここで何をしている!」
押しに負けて溜め息をつきながら了承したコウ。それをよそにウキウキで辺りを見回し始めたメーテラだったが、そこへ怒鳴るような声が入ってくる。
「只のデートよデート。空気を読めない奴は帰ってくれない?折角良かった気分が台無しよ。」
「そのような言い訳が通じると思うか!」
「……もしかしなくとも、帝国の兵士ですか。」
自然とは程遠い金属製の鎧を身に纏った兵士の乱入に、メーテラの機嫌は急激に下降し、雑に追い払おうとする。しかし、
「帝国?」
「エルステ帝国ですよ。アウギュステと戦争状態とは聞いていましたが、こちらが拠点でしたか。海を汚染する機械はブラフですか?」
「っ!何故その事をッ……!」
「予想を語っただけですがその様子では図星のようですね。どの道逃がしたら厄介な事になりそうですし、一応仕留めますか。」
仕方がないといった様子のコウは腰に差した杖の柄を持つと先端を向ける。剣を抜いている自分を脅威とも思っていないその余裕の表情に、兵士はプライドを傷つけられたのか激昂し始めた。
「嘗めるなっ!子供と女一人程度、我々帝国兵の敵じゃ「『ーーーーー』。」ゴッハァッ!?」ドムッ!
威勢良く叫んだのも束の間、見えない力に殴り付けられたかのように吹っ飛ばされ地面へと叩きつけられる。そのまま気絶したのか倒れたまま動かない兵士に、メーテラは呆れを含んだ目線をむける。
「敵前で悠長に話をしてたらこうなるわよね。何がしたかったのかしら。」
「さぁ……暫くしたら起きると思うので今のうちに拘束してしまいましょう。」
「別に放置で良いんじゃない?多分そこまで位の高い奴でもないでしょ。」
「この島にいる筈の帝国の上層部の方に個人的に聞きたいことがあるんですよ。なのでこの人から居場所を聞き出します。」
そう言っておもむろに肩掛け鞄の中からロープを取り出したコウは宣言通り兵士を縛り始める。その数分後、完全に動けないように近くの木にくくりつけられた兵士が完成した。鎧は脱がされ、少し離れたところに雑に放り出されている。
「やけに手慣れてるわね。」
「盗賊から見たら子供一人の旅なんて格好の獲物でしょう?そういう輩を殴って縛って突き出してたら出来るようになってました。」
「アンタ魔導師みたいな格好しておきながら結構アグレッシブよね。それも旅で培った物?」
「えぇ、時たまに賞金首だったりするのでそう言うときは旅の資金にさせて貰ってます。」
一仕事終え、手に付いた砂埃を叩いて落としたコウは兵士の前にしゃがみこむと手を額の辺りまで持っていき、
「起きてくださーい。」
バチンッ!
「あだっ!?」
デコピンを繰り出した。額から重い音を鳴り響かせ、痛みによって意識を半覚醒させた兵士はまだ明確な思考が取り戻せていないのかぼんやりとした様子で顔を前に向ける。
「グッ……!?一体何が。」
「質問、良いですか?」
段々と正常な状態に戻って来た兵士へ有無を言わさない笑顔を向けながら問いかける。なまじ美人とも言える位に顔が整っているせいでその圧は常人には出せないものだろう。問いを投げ掛けられた兵士はその場から離れようとするも体が動かず、そこでようやく自分が拘束されていることに気がつく。
「な、何が目的だ!」
「貴方達帝国兵の拠点、もしくは帝国の兵士を統率する立場の人間の場所を答えてください。」
動揺しながらも吠える兵士に対し、コウは単刀直入に質問を行う。しかしそんな簡単にいく筈もなく抵抗し始めた。
「そんな事答える筈無いだろう!貴様に教えることなんぞ何もな「『ーーーーー』。」
拒否された瞬間、ノータイムで杖を向けたコウは即座に呪文を使う。
「ひい"ッ!?」ドクンッ!
「答えてください、次は一秒です。」
「く、屈するものか!」
「『ーーーーー』。」
「あ"ッがぁッ!?」ドクンッ!
呪文を唱えられる度に苦しみ悶える兵士の顔から段々と気迫が無くなり始める。表情を一切変えず淡々と尋問し続けるコウに、その様子を後ろから見ていたメーテラは尋ねる。
「そいつ何が原因で苦しんでるの?魔法でなんかしてるってのは分かるけど。」
「心臓を縛り付けてます。あくまでも情報が聞きたいだけであって殺したいわけではないので加減はしてますが、本来であれば遠隔で心臓麻痺で相手を殺すニョグ……"不浄の締め付け"という呪文を使ってます。ちなみにさっきのは魔力に応じて力の増す見えない打撃で………あー、ヨグパンチって呼んでるものです。」
所々言葉を濁すような素振りはあるものの丁寧に答えていくコウ。それに対し、メーテラは微妙な表情で口を動かしていた。
「あすたぁ…………ダメね、発音が出来ない。どうやんのよこれ。」
「だから言ったじゃないですか、魔導書を読んで直接頭に刻まれないと僕だって出来ませんし。まぁ理解しようとしたり使おうとすると余程の事がないと精神力が削れていくのでおすすめしませんよ。」
「………ちょっと待って他もそんな習得の仕方とか仕様の奴ばっかなの?」
「自前のものもありますがそれは本当に僕の体質云々の話ですし、僕が修める呪文は殆どそうですね。教えることは不可能ではないにしろ危険なのは確かですし、貴女には既に呪文を凌駕する力をお持ちなのですから諦めてもらえませんか?」
お願いをするように首をかしげられ、思わず頭を押さえるメーテラは暫く思考に入り込んだ。
「……それが書かれた魔導書を読むデメリットは?」
「最悪発狂して自害します。僕が持っている物は余計な情報まで入って来るので特に精神を削る傾向が強いです。僕が紙に書いてそれを読んで覚えるという方法もあるにはありますが………まぁ非効率的ですし、慣れないと魔力の消費が無駄に増えるので貴女が先程使ってた弓で撃ち抜いた方が速いですよ?」
「あーもー!そんなんだったら最初っから諦めてたわよ、時間無駄にしちゃったじゃない。」
「………なんか、すいません?」
勝手に連れてこられはしたが特に腹を立ててないコウは取り敢えず謝罪をして、放置されていた兵士に顔を向ける。
「で、話してくださる気になりました?」
「ひ、ひぃ……。」
「次は………そうですね、足の方から溶かしてしまい「分かった!話す、話すから許してくれ!」
「その言葉が聞きたかったです。」
ニッコリと笑ったコウは、目の前で顔面蒼白の状態で焦燥しきっている兵士へと質問し始めたのだった。
「……………まぁこんなところですか。じゃあもう一回寝てて下さい。」バキィッ!
「ぐべらっ!?」
十数分後、粗方情報を引き出してメモを取ったコウは疲労困憊といった様子の兵士の頭を一瞥することもなく殴り付ける。精神的にも身体的にも限界だったのか、呆気なく気絶した兵士をよそにメモ帳を鞄に仕舞うとそのまま縄を解きにかかった。
「容赦ないわね。」
「敵対してくる相手に容赦なんて必要無いでしょう。殺したら面倒な事になりかねないのでやってないだけで、必要であれば躊躇はしませんよ。」
「気持ちは分からなくもないけどそこまでいかないわよ。どんな人生歩んだらそんな物騒な思考を身に付けるのやら………。」
「世間一般がどんなものなのか知らないのでなんとも言えませんね。教育と言って殴り付けてくるのは一般に入りますか?」
「んなわけないでしょ。」
そんな会話をしながらも作業を進めていき、最終的には気絶した兵士に鎧を着せた状態まで戻す。明らかに質量のあるそれをなんでもないかのように片手でつかみ上げたコウは鞄から懐中時計を取り出してボタンを押す。
カチャッ ヒュイッヒュイッ
すると時計の中から大小様々な水晶の板が連なるように飛び出し、まるで元からそこにあったかのように空中に留まった。端からみれば日光を中で反射させて輝く水晶の原石に見える。魔法仕掛けの芸術品だと思ったのか、メーテラはコウの後ろからもたれ掛かるようにしながら覗き込んだ。瞳には光の屈折で歪んだ空の青色が映る。
「綺麗ね、これもアンタの魔法関係?」
「先程言った『門』に関する物です。明確な名称はありませんが僕は観測機と呼んでますね。」
そう言って水晶部分を見つめ続けるコウの瞳には、メーテラが見ている物とは異なる景色が映っていた。メーテラからの質問に簡潔に答えると再度ボタンを押して元の懐中時計に戻して鞄に仕舞うコウは杖に手を掛けた。先端に赤色の石が埋め込まれた金属のグリップと石突にかけてまで幾何学模様の入ったシャフトが特徴的なそれを先程兵士に使った時とは違い剣を持つように構えると石突きで空中に円を描くように動かした。
シャリンッ ボウッ!
その軌道は瞬く間に燃え上がり、紫色の火の輪が構築されていく。完全な円となったそれの内側の空間静かに歪み始め、数秒も経たない内に全く別の場所の景色を写し出した。空の青とはまた違う、このアウギュステに存在する海である。
「あとは記憶を曇らせて………っと。」ポイっ
気絶する兵士の頭辺りに淡い緑色の光を発する杖をかざすした後、そのまま目の前の『門』に投げ捨てる。抵抗もなく真横に落ちていくように見えるその姿は事情を知らなければ異様に映るだろう。事実、コウを後ろから軽く抱き締めながらその様子をずっと見ていたメーテラは眉をひそめている。
「………これが門ねぇ。」
「何かおかしい事でも?」
「何でもないかのようにやってるけど異なる場所をつなぐゲートを軽々と産み出せるとか、貴方も十分天才の部類に入るんじゃないの?」
「先生や先輩に比べればまだまだですよ。自分一人の転移なら兎も角、こうして他人を移動させるにはこうして『門』を描くというプロセスを踏む必要がありますし。」
「その先生と先輩ってのはどうなの?」
「先輩は……例えるなら異世界への転移や召喚を得意とするタイプですね。強制的に相手を夢の世界に引きずり込むとかもできた筈ですし。先生に関しては時間も当然のように移動してました。」
「そんな冗談………………マジ?」
想定していた物よりもスケールの大きい話になりメーテラはその美しい顔を少しだけひきつらせる。嘘だと一蹴できるレベルではあるが、目の前でこちらを見つめてくる可愛らしい少年の顔を見ても、嘘を言っているようには見えない。
「お二人が居なければ僕は死んでたでしょうし、さっき言った能力が無ければ僕が捕らえられていた場所に来れるわけ無いですし。」
「どんな場所よ。」
「月…………本当ですよ、だからそんな顔しないでください、メーテラさん。」
怪訝そうな目線を向けてくるメーテラに困ったように笑いかける。真実であるかどうかを確かめる術はこの場には無いためどうすることも出来ない。
「さて、僕はそろそろ行きますね。貴女はどうされますか?」
「………正直アンタへの興味が尽きないんだけど、いざこざに巻き込まれるのは御免だし街に戻るわ。」
「でしたらこちらからどうぞ。」シャリンッ
開いていた『門』を杖でなぞると海の青から街の一部へと景色が変わる。
「港街の外れに繋がってます。歩いて数分位でショッピング街に入れると思いますよ。」
「あら、気が利くじゃない。そうだ、今度はアンタをコーディネートしていろんな場所連れ回してあげるわ。中性的なので攻めてみたら面白そうだし、いっそのこと女装してみる?」
「…………いずれ、縁があれば。」
「そう遠くない内になるかも知れないわよ?」
「………程々でお願いしますね?」
「どうしようかしら♪」
獲物を捉えるように見られている状況に少しだけ目をそらすコウだったが、そんな様子もメーテラにとっては興味をそそられるだけのようでニヤリと擬音が付きそうな悪い笑みを浮かべる。
「それじゃあまたね、可愛くて強い魔導師くん♪」
上機嫌で『門』を通りこちらに手を振るメーテラにペコリと礼をした後、コウは杖を振るい『門』を消した。
どのみち二人ともグランとジータの騎空団に所属することになるので女装は逃れられません。その時は団のお姉様達に全力で着せかえ人形にされることでしょう。
話は変わりますがこの世界「クトゥルフ神話」が存在しません。もっと言えば、それを知っているのはコウくん一人です。言語系統云々も違うので、もしクトゥルフ神話の魔導書の言葉をそのまま書き写しても解読できる人は殆どいません。魔導書そのものを読んで強制的に理解しない限りは呪文を聞いても真似も出来ません。