【完結】おさななじみ・ざ・ろっく!   作:兼六園

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らしさライティング

「あ、茜くん、あーしゃって?」

「アーティスト写真。わかりやすくザックリ言えば……バンドの顔写真だ」

 

 くいくいと袖を引かれ、茜は背中に隠れるひとりの問いに答える。

 

「そそ、今ある結束バンドのアー写にはぼっちちゃん写ってないからね」

「い、今ある?」

「見る? この前ライブ出るために撮った」

「うっ……!」

 

 ドタキャンでバックレた喜多が罪悪感で胸を押さえる傍ら、茜とひとりがリョウの携帯を覗き込む。表示されたのは、ピースサインの虹夏と明後日の方向を見ているリョウ。

 そして集合写真に参加できなかった生徒のように隅に切り抜きを貼り付けた喜多の顔だった。

 

「ほら、喜多ちゃん逃げちゃったから」

「ごめんなさい!」

「結束というか、欠席バンドじゃないか?」

「ふっ、傑作」

「ダジャレで遊ぶなっ!」

 

 虹夏にビシッビシッと纏めてチョップをされ、茜とリョウは頭をおさえる。

 

「──まあそんなわけで! 今日は天気もいいし、みんなの予定も空いてたからアー写撮っちゃおっかなって。いいよねっ?」

「俺は予定あったけどな」

「…………はい行きましょー!」

「俺は予定あったんだが?」

「えっ、あ、あの、外で撮るんですか?」

 

 茜の文句をガン無視しつつ、虹夏は彼の後ろに隠れるひとりの疑問に答えた。

 

「スタジオで撮るとお金掛かるからね~。それにアー写って、バンドの方向性とかメンバーの特徴を1枚で伝える大切なものだからさ」

「な、なるほど……」

「ライブハウスのサイト告知やフライヤーや雑誌、どんなところで使われてもインパクトがある感じにしたいと…………茜くん?」

 

 ふと、ひとりが盾にしている茜が近付いてくる。さすがにやり過ぎたか、と思案して、虹夏は少しばかり引き気味に口を開いた。

 

「あ、茜くん? もしかして怒ってる?」

「うん」

「『うん』!?」

「大抵のことは流してやるが今回は普通にイラついたので俺も反撃をさせてもらう」

「なっ……なにを……」

 

 身構えた虹夏を前に、額に青筋を立てながらも、茜が懐から携帯を取り出すと電話を掛けた。

 

「あんまり調子に乗るなよ小娘。──あ、もしもし店長? ちょっと話があって……おたくの妹さんが俺のこと虐めてくるんですけど」

「身内にチクるのはズルじゃない!?!?」

「俺はこういう時にプライドを捨てることに関しては一切躊躇しないからな」

 

 

 

 

 

 ──伊地知家家族会議が決定してからしばらく。アー写撮影の場所探しをしていた五人は、なかなか良い所が決まらずにさ迷い歩いていた。

 

「階段、フェンス、植物の前、そして公園。金欠バンドマンの定番アー写スポットと言えばこの辺りかな~、あとは良さげな壁?」

「これなら、楽器持ってくればよかったわね」

「あ、た、確かに、楽器持ってた方が、さらにかっこよくなりそうですけど……」

「甘いなぁ(ちみ)たち」

 

 チッチッチ、と指を揺らして、虹夏はそんなことを言った喜多とひとりに向き合う。

 

「絵になるのはギターとベースだけで、ドラムはかわいそうなことになるんだよ。手に持つのはドラムスティックだけだよ?」

「叩く方でも持てばいいんじゃないか」

「重いでしょうがっ!!」

「そんな芸人見たことある気がする」

 

 茜にあっけらかんと言われて虹夏が吠え、横でリョウがぼそりと呟く。

 それから続けて場所探しに歩く傍ら、脇道に逸れたひとりを横目で見送りつつ、茜は閉店したCDショップを見つけた喜多の方へと向かった。

 

「こことか、どうですか? ポスターもたくさんあって下北沢らしいというか……」

「そこ、前まで行ってたCDショップだった」

「レコードショップもライブハウスも、どんどん無くなってくね~」

 

 時代の変化で古いものは消え、新しいものに替わって行く。仕方のない流れに、どことなくしんみりとした空気が漂う。

 

「昔ながらの店が消えていく」

「まあ、時代はサブスクと配信だからな……現物派としてはまだ慣れん時代だが──ん、なんだひとりか。どこに行っていた?」

「え? ──うぉおわあ!?」

 

 おもむろに反応した茜が、ふいに振り返る。目線を追って振り返った虹夏は、自分の真後ろにひとりが立っていたことに気づき飛び退いた。

 

「な、なんだぼっちちゃんか……」

「あっ、あ、あの、あっちの方に、たぶんですけど良さげな壁が……」

「そうか。でかしたぞ」

 

 言われた方に向かいながら、犬を褒めるように雑に頭を撫でる。ひとりはゴツい手のひらを感じて、うへへへと笑みをこぼしていた。

 

 

 

 彼女の案内で駐車場近くにたどり着き、建造物の壁に木のペイントが描かれている様を見上げた。さっそくと虹夏から携帯を借りて三脚にセッティングし、茜は四人を枠に収めて撮影する。

 

 リョウの肩に腕を回す虹夏と傍で笑う喜多、画面端でうつ向きながら立っているひとりという一枚を撮り、茜は肩を竦めた。

 

「イマイチだな」

「う~ん、キャラは立ってるけどバンドらしさがな~。ていうか喜多ちゃん写真映りいいな」

「ああ……それはイソスタに写真上げてるからかもですね、ほらっ」

 

 そう言って自分の携帯の画面を見せると、喜多のイソスタアカウントが写っていた。

 

「おー、さすがはSNS担当大臣」

「ほお…………なあ、この写真、見切れてるけど俺の手じゃないか?」

「気のせいよ」

「そうか……そうか?」

「──う゛!!」

 

 茜が疑問符を浮かべた刹那、後ろでひとりが仰向けに倒れた。希によく青春コンプレックスを刺激される彼女の琴線にイソスタの話題が触れていたのだろうと察し、茜はため息をつく。

 

「まただよ」

「ぼっちちゃん! 顔ヤバイって!」

「ひとりにはイソスタとかのSNSは劇薬だからやらせられないんだよ。写真なんて身内と俺と学校の集合写真以外で撮ったことないし、これはイソスタの話題が不味かったな」

「私が……私が下北沢のツチノコです……」

「なんか変なこと言い出しましたよ!?」

「まだ体が形を保ってるから問題ない」

「人間に対する発言よねそれ!?」

「ノコノコ……ノコノコ……」

 

 ずりずりと波打つように前後運動するひとりを囲む四人は、彼女を見下ろして会話を交わす。

 

「おーい、ひとりー。戻ってこい」

「あうあうあ~~~……はっ!?」

 

 ぺちぺちぺちと頬を叩かれ、ようやくとひとりの意識が現世に戻ってくる。そしてまだ終わっていないアー写撮影に話題を戻し、画像をスライドさせて今までの成果を確認していた。

 

「中々いいの決まんないね~」

「あっ! ジャンプとかどうですか? 絵になるし、みんなの素の感じ出そうですけど」

「それいいね! 喜多ちゃん天才!」

 

 そんなことを提案した喜多に、虹夏はにこやかに賛同する。その横にしゃがんでいたリョウは、どこか自信満々に持論を口にした。

 

「有識者が言っていた、OPでジャンプするアニメは神アニメと。つまりアー写でジャンプすれば神バンドになるに違いない」

「なにがどう『つまり』なんだ?」

「意味わかんないけど……とりあえずやってみようか! ほらぼっちちゃん立って!」

「あっはい」

 

 とりあえずと横並びに立つ四人を前に、茜は再び三脚に携帯をセットしてタイマーを起動。指を曲げてカウントダウンし、合図を見たひとりたちはその場で跳躍した。

 

 

 

「──あ、ぼっちのパンツ」

「えっ!? 柊木くん見ちゃダメよっ!」

「なんの問題もない。見慣れてるし」

「そっか~~~~~、なんて???」

「あっ、無価値なものを見せてすみません……」

 

 すん、と真顔に戻った虹夏と喜多を横目に、茜は淡々と指を動かして写真を消す。

 ──見慣れてる……? と頭に幾つもの疑問符を浮かべる二人を動かしてもう一枚撮影し、今度はスカートが捲れていないことを確認した。

 

「……うんうん、いいね! バンド感に青春っぽさがプラスされてるっ!」

「素敵……写真のデータ貰ってもいいですか?」

「あっ、私も」

 

 きゃいきゃいと盛り上がる二人におずおずとひとりが参加し、写真データのやり取りをする。それからふと、視線を感じて振り返った先で、リョウが遠巻きに茜の顔をじっと見ていた。

 眉を上げて反応し、茜はす──っと気配を消してその場をあとにして、背中を向けて歩いて行くリョウを追いかける。

 

 追い付くも無言で歩き続けるリョウに追従する茜だったが、不快ではない静かな空気に、自然と二人の歩き方は散歩のモノに切り替わる。

 

「ねえ、茜」

「なんだ」

「バンド『らしさ』って、なに」

 

 信号を待つ傍ら、リョウは前置きなく唐突にそう言って茜に問い掛けた。

 

「知るか。……ああ、虹夏とひとりの発言か」

「──二人に悪気が無いのはわかってる」

 

 表情を変えないながらも、どこか()()ことだけはなんとなく理解できる。

 信号が青に変わり、ゆったりと歩き、茜がおもむろに自販機の缶コーヒーを2つ購入して片方を投げ渡すと、リョウは一拍置いて言った。

 

「でも、私はそれが理由で前のバンドを辞めた。売れることばっかり気にして、個性を消してらしさだけを求めたら、それで出てきた歌詞も曲も、きっと死んでるのとなにも変わらない」

 

 リョウはそう言いながら缶コーヒーのプルタブを開けて、中身を呷る。

 

「結束バンドには、そうなってほしくない」

「そうだな。──といっても、ひとりが歌詞に悩んでるのは、おそらく『歌うのは喜多なのだから明るい歌詞にした方がいいのかもしれないが、そんな歌詞を書くことに耐えられない』という方向だろうからな。()()はならんさ」

 

 同じように中身を呷る茜は、さっさと飲み干して、歩いていると見かけた別の自販機横にあるゴミ箱に捨てて続けた。

 

「たぶんこのあとひとりから歌詞の件で相談を持ちかけられるだろうから、その時は乗ってやれ。酷い(らしい)歌詞ならボツにしてやればいい」

「……それで大丈夫なの?」

「問題ない、あいつはああ見えてやる時はやる。期待には応えてくれると思うぞ」

 

 訝しむような顔のリョウから空の缶を受け取りゴミ箱に投げ入れ、茜は辺りを見回して帰路の方向を確認するとそちらに足を向ける。

 

「じゃあ、俺は帰る。新刊を読みたいからな」

「ん。わかった。じゃあね、ダーリン」

「その呼び方はやめろ」

 

 ひらひらと手を振るリョウに軽く振り返して、口角を緩める茜はそのまま歩いていった。

 まるで流れを読んでいたかのようにタイミング良くロインからひとりのメッセージが来たことを確認したリョウは、ぐうと腹が鳴るのを見て、相談先に使う料理店(じゅうしょ)のリンクを貼るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──その数日後、ひとりの部屋に泊まった茜は、彼女と共に使う布団の中で室内の狂気を垣間見る。部屋一面にびっしりと貼られたアー写の写真を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「ひとり」

「な、なに?」

「明日これ全部剥がすからな」

「ぜ、全部!?」

「寝転がって天井見上げたらそこにもあるとか想定できるか。夢に出たらどうするんだ」

「え、えっ、ぜ、全部は、さすがに──むぎゅ」

「はい寝ますおやすみ」

 

 写真を視界から外すように横を向き、ひとりを抱き枕にして、布団を頭まで被って茜はまぶたを閉じる。彼女の体温を感じながら眠ったその日、結局彼が悪夢を見たのは言うまでもない。




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