【完結】おさななじみ・ざ・ろっく!   作:兼六園

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四苦と八苦とSICK-HACK

 夏休みが終わり新学期から数日、文化祭が近づき各々が出し物を決める時期が訪れた頃。

 昼休みの教室で、茜は額に青筋を浮かべながらいつぞやのように喜多を壁際に追いやり、片手を顔の横について逃げられなくしていた。

 

「なんで俺が怒ってるかわかるか」

「…………あー、えー、その……」

「──これは、なんだ」

 

 そう言って喜多に見せたのは、茜の携帯に映る彼女のSNS(イソスタ)アカウントだった。

 メディア欄を見せて問い詰める茜に、喜多は目を右往左往させながら返答する。

 

「わ、私のアカウントね。いやぁ~よく撮れてるわね~風景が綺麗~」

「遺言はそれでいいんだな?」

「待って待って待って!! 違うのよ! たまたま! たまたま偶然写り込んだの!」

「ほう、そうかそうか」

 

 ──なら。と続けてから写真を喜多に見せて、茜は目尻を細めて問いかけた。

 

「お前が投稿した江ノ島の写真の全部に俺が写り込んでるのは全くの偶然だと言いたいのか」

「はい」

「はいじゃないが。……俺は確かに()()()()()乗せるな、とは言った。でもそれ以外なら何を乗せても良いとも言ってないぞ」

「……でもね柊木くん、私は思ったのよ」

 

 顔の横に伸びた腕に手を添えて、喜多は流し目で茜を見上げて言葉を返す。

 

「私の方から匂わせるのはセーフなんじゃないか? ……ってね!」

「アウトです」

「……駄目?」

「駄目です」

「そこをなんとか!」

「値切りをやめろ。とにかく……この投稿は認めん。俺が原因で万が一があったら結束バンドのブランドに傷がつくからな」

「むう」

 

 それを理由にされては仕方ないと、喜多は渋々要望を聞き入れる。

 

「そういえば、ひとりたちのクラスは何をやるのか知ってるか?」

「ええ、なんでもメイド執事喫茶らしいのよ。なんだか面白そうねっ」

「メイドか……」

「メイドと言えば柊木くん、ほら、結構前にメイド服の私の写真を撮ったじゃない?」

「ああ──まだ待ち受けのままだな。他に良いのが見つからなくてずっと変えてない」

「……………………そ、そう……」

 

 なんとなく気になって問いかけて、返しの言葉がクリーンヒットする。そういうところよ……と呟いた喜多と壁ドンの姿勢を解いた茜は、ふいに遠くから聞こえてきた悲鳴を耳にした。

 

「先生──!? 誰か倒れてるんですけど────!!??」

 

「……ねえ、今なにか聞こえなかった?」

「生徒会室の方だな。行ってみるか」

 

 二人で顔を見合わせて、廊下に出て声のした方向へと足を進める。その現場で発見したのは、仰向けに倒れている後藤ひとりその人で──

 

「……なにやってんだこいつは」

「柊木くん凄い顔になってるわよ」

 

 茜は幼馴染の奇行に呆れるあまり、フレーメン反応を起こした猫のような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──放課後、頭に包帯を巻いたひとりは、STARRYに着くなりゴミ箱に収まる。

 そのスムーズな流れに、店長の星歌も流石に驚きを隠せなかった。

 

「あ、店長さんおはようございます」

「えっ、仕事してよ」

「すみません、こいつ色々あって」

「何があったの?」

 

 ゴミ箱に収まったひとりを箱ごと引きずって傍らに置いて、茜は学校で起きたことを全て話す。ひとりが生徒会室の前で気絶していたことや、結束バンドとして文化祭のライブに出ようかと悩んでいること。それらを話すと、星歌は頷いてから一拍置いて口を開いた。

 

「なるほどね……迷ってるくらいなら出たら? 一生に一度の青春の舞台だし」

「そ、そうですかね……」

「まあ、私は高校とかろくに行ってないからいま適当に言ってるけどね」

「私は高校中退で~す」

「なんて駄目な大人たちなんだ」

「うっせ」

「……ちなみにPAさんの中退理由は?」

「朝起きれなかったからですね~」

「なんて駄目な大人たちなんだ……」

 

 ──こんな大人にはならないようにしよう。茜は心の中で、静かにそう思った。

 作文のような決意表明をしながら星歌とPAになんともいえない同情の目を向ける茜は、店内に入ってきた人の気配に顔を逸らす。

 

「あれ、どしたのみんな」

「おいすー」

「ん、ああ──ひとりが文化祭でライブをやろうか悩んでいてな」

「えっ、あっ、その」

 

 すると、入ってきた気配──虹夏とリョウがカウンター前で固まっている四人に問いかけ、茜があっけらかんと端的に話す。

 

「えーっ、いいじゃんやろうよ!」

「いや……で、でも」

「ライブハウスとはまた違った良さがあるよ~? 楽しいよ~?」

「に、虹夏ちゃんは、出たことあるんですか?」

「うん、中学のときにねっ」

 

 茜にゴミ箱から首根っこを掴まれ引っ張り出されたひとりの問いに虹夏は答える。それから隣でぼーっとしていたリョウが続けて言う。

 

「──私もある。マイナーな曲弾いて、会場をお通夜にしてやった」

「誇らしげに言うことじゃないだろ」

「……正直、お通夜ライブはまだ夢に出る」

「強がりだったか……」

 

 ぷるぷると震えながら袖をつまむリョウにそう言って、仕方ないからとされるがままにしつつ、茜は虹夏に質問を投げ掛けた。

 

「じゃあ、結束バンドを組んでからの文化祭ライブは初ってことか」

「そうなるねぇ。ねっ、ぼっちちゃん! こういうバンドがあるって知ってもらえるいい機会だし、みんなでやってみない?」

「……うっ、う、うぅ」

 

 虹夏の提案にひとりは手をまごつかせて視線を左右に揺らす。そんな彼女に、茜の後ろに回っていたリョウが助け船を出した。

 

「とはいえ、ぼっちの迷う気持ちもわかる。下手したら……というか絶対ここより多い人数の前で演奏するわけだし。だからそんなに焦って決めることでもないよ」

「リョウさん……」

「私ですら失敗をまだ引きずるんだもん、ぼっちが同じ目に遭ったら塵になって消えるよ」

「ひとりの生態を理解してきたな」

「もしかして本当に塵になるの?」

「あっなります」

「なるんだ……」

 

 迷いなく答えたひとりに、虹夏は困惑気味にそう呟いてから間を空けて言う。

 

「まあでも、ぼっちちゃんに悔いが残らないのが一番だからな~。ここで無理に決めないで、家でゆっくり考えてみたら?」

「あっはい、ちょっと考えてみます」

 

 ひとまずこれで話を区切り、話題が終わった辺りでちらりと自分を見てきたひとりに、茜は後ろ手に回した片手でリョウを猫可愛がりするようにわしゃわしゃと撫で回しながら言った。

 

「先に言っておくが、俺を頼るなよ」

「えっあっ」

「土壇場で俺を頼るのがお前の悪い癖。俺が『出た方がいい』って言ったら、お前はなんの迷いもなく出場を決めてから後悔するだろ」

「……うっ」

 

 図星を突かれて黙り込むひとりを横目に、茜はその場を離れてバイトのために着替えに行く。今回ばかりは甘やかすわけにはいかないと思案して、ひとりの選択を尊重しようと考える。

 

 これで『やっぱり出ない』とするならそれもいいと思っていた茜だったが──後日、事態の進展により、死体となったひとりが発見された。

 

 

 

 

 

 

 

 ──胸に『私は罪人です』の看板を吊るした喜多をSTARRYの床に座らせて、茜は彼女と棺桶に収まったひとりを見下ろしながら言った。

 

「被告人、喜多郁代。あなたを『結束バンドが文化祭ライブに出場する話を勝手に進めたで賞』の罪により、SNS禁止の刑に処す」

「い、異議あり!」

「却下」

「すごいスピード裁判だ……」

 

 虹夏の呆れた声が響き、冷めた目で喜多を見ていた茜は、意識を切り替えてさてと言う。

 

「裁判ごっこはここまでにして、まあ……進んでしまったものは仕方がないだろうな」

「てっきり出たいものだとばかり……すみませんでした……」

「今からでも参加取り止めれば?」

「無理だろうな。いたずら目的で参加と取り止めをする輩が出ないように、基本的に提出した以上は『やっぱり無しで』は通らない」

 

 しゅんとする喜多と提案するリョウを見て、ため息をついて棺桶の中で仮死状態のひとりを見る。それからふいに店の扉が開かれ、アルコール臭と共に聞き慣れた酔っぱらいの声が聞こえた。

 

「やっほぉ~~、タダ酒飲まして~」

「ニートは平日から酒浸りでいいご身分だよな。消えねえかな」

「ニートじゃないんですけお!!」

 

 星歌の情け容赦の無い罵倒に言い返す酔っぱらい──廣井きくりは、ため息混じりに手すりに寄りかかって更に言い返した。

 

「私みたいな駄目人間が居ることでみんなの反面教師になってるんですぅ~~」

「ふーんそうなんだありがとー」

「ていうかぼっちちゃんとかもなんか棺桶でじっとしてるじゃん。あれはいいわけぇ?」

「……ぼっちちゃんは可愛いからいいんだよ」

「はぁ~~~~~ん?」

 

 眉を潜めたきくりは、ふんと鼻を鳴らしてから頭に猫耳カチューシャを装着する。

 

「先輩は可愛いものには甘いからな~。しゃーねー私も可愛がって~ニャンニャ「死ね」

 

 瞬間、きくりは茜の懐に飛び込んだ。

 

「茜くぅ~~~ん! 先輩がいぢめる!」

「こら、店長」

「あんまりそいつを甘やかすな」

「うにゃ~んゴロゴロゴロゴロ……」

 

 背中を片手で叩きながら片手で顎を撫でゴロゴロと喉を鳴らさせる茜は、ひとしきりきくりの相手をしてから、改めて会話を仕切り直す。

 

「……で、なんでぼっちちゃん死んでんの?」

「実は、文化祭のステージに結束バンドを出す書類を私が勝手に提出しちゃって……」

「へ~、なに、ライブすんの?」

 

 そんなきくりの疑問に、上半身を起こしたひとりが声をつまらせながら答えた。

 

「──い、いえ、む、むりです……いつもの箱より多いところでなんて……」

「ふーん」

「し、しかも、学校での私を知ってる人の前でライブするのが、こ……怖くて」

「────」

 

 ひとりがそう言うと、きくりは少し考えるそぶりを見せ、それからポケットに手を入れて五枚のチケットを取り出して渡してくる。

 

「じゃ~これあげる。この前のお返し。今日ライブがあるからさ、みんなで見に来てよ」

「え、い、いいん、ですか?」

「もち~」

「きくりちゃんのバンド……確かSICK-HACKだったか。新宿で活動してるんだったよな」

「そだよ~ん」

 

 受け取ったそれを虹夏とリョウ、喜多に回して、残った二枚のうち一枚をひとりに渡す。

 

「きくりちゃん、チケット代は幾らだ?」

「えっ? いやいいよ、そんな君ら学生から金巻き上げるほどビンボーじゃないし」

「ふうん……そうらしいな」

 

 調べた限りではかなり人気であることはわかるため、その言い分になるほどと茜は頷くが、後ろで虹夏と星歌がきくりに言葉を投げた。

 

「じゃあなんで安酒ばかり飲むんです?」

「え?」

「最近、うちのシャワーも借りてますよね」

「家賃払え」

「えっ、あー、いやー、そのぉ」

 

 どうやら伊地知家を利用しているらしい会話を耳にして、茜は夏休み以来泊まり掛けで訪れていない事実に安堵する。万が一にも鉢合わせていたら、修羅場が起きた可能性があった。

 

「……貸した電車賃、返してもらってない……」

「おい! 金巻き上げてんじゃねえか!」

「こ、これには深い訳が!」

 

 ひとりの呟きに反応して詰め寄る星歌に、きくりは弁明を口にする。

 

「……泥酔状態でライブするから、毎回機材壊して全部その弁償に消えてるの」

「自業自得じゃねえか」

「なんて駄目な大人なんだ……」

 

 ──減酒を約束させてなおこれか。茜は()()との付き合いが長くなることを察して、わずかにげんなりとした表情を浮かべる。

 

 ついでとばかりにリョウの罪状も明らかになり、茜と星歌は、二人掛かりでひとりから借りた金を返させる。そんな一幕がありつつ、五人はきくりと共に新宿へと向かうのだった。




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