後日、STARRYで清掃に勤しむ茜は、遠巻きに光輝くひとりを眺めていた。
「なんでぼっちちゃん輝いてるの?」
「さあ……このあとギターを買い換えるから、気合いでも入ってるんだろ」
金色のオーラに包まれているひとりを見て、虹夏が問う。すっとぼけるようにして誤魔化す茜だったが、ひとりが広告収入で30万を手にしたことは彼女の父・後藤直樹から聞かされている。
──ひとりのような人間が大金を手に入れたあとにバイト先でやることなど、一つしかない。茜は店を出る前に星歌の元に向かう彼女を見て、これから起きることを予想してため息をついた。
「──あ? バイトがなんだって?」
「あっ、えっ、あっ……………………これからも誠心誠意心血注いで仕事頑張ります……」
「なんで突然の決意表明……?」
ギロリと睨まれて、ひとりはあっさりと決心をへし折られる。ゴミ箱に引きこもる彼女の傍らに屈む茜は、ボソボソと呟く声に耳を傾けた。
「どうした」
「あっ、茜くん、店長さんの好きなもの聞いてきて……」
「この期に及んで賄賂で好感度稼ぎか。諦めろ……と言いたいがまあいい。おーい、虹夏」
「ん~?」
ちょいちょいと手招きされた虹夏が茜の元に歩み寄る。それから立ち上がった茜は彼女の耳元で、星歌に聞こえないように提案した。
「ひとりが、店長の好きなものを聞いてくれと」
「ふ~~ん? いいよ、待ってて」
眉を上げて一瞬悩むそぶりを見せた虹夏は、快く頷いて星歌の元に駆ける。
それからパックジュースを飲んでいた星歌に向き合い、問いかけた。
「茜くんとぼっちちゃんが『欲しいものないか?』だって。誕生日近いしプレゼントかな」
「………………特にない」
「ふーん。『いらねー』だって!」
ざっくりと伝える虹夏を見て、茜は呟く。
「……なんだこの伝言ゲームは」
「ぼっち、私は新作のヘッドレスとDarkglassのアンプヘッドが欲しい」
「リョウはどさくさにたかるな」
「みなさーん、行きますよ~っ」
「レッツらゴー!」
喜多の声に意識を向け、虹夏に押されて三人は店を出て行く。
残った星歌は、カウンターに体を向け直すとパックジュースを口から話して言った。
「──私はサプライズ派なんだ……」
「隙あらば負けヒロインムーブしますね」
「うるせー」
PAにそう言われながら、星歌は鼻を鳴らして背中を向けて携帯を開く。そのホーム画面をPAが覗き込むと、燕尾服姿の茜が写っていた。
「と、盗撮……」
「善意の
「たぶんその第三者に善意は無いですよ」
──楽器店を求めて御茶ノ水に訪れた茜は、思い付いたように携帯を開く。
「柊木くん?」
「プロのアドバイスを聞く。ちょっと待て」
そう言いながら電話を繋いだ茜の耳に、数コールのあとに声が聞こえてきた。
『どないしたクソガキ』
「ようアカネ様。いま御茶ノ水に居るんだが、オススメの楽器店はないか?」
『そんなんうち以外にあるかい』
「御茶ノ水に居るって言ってんだろ」
絶対の自信をもつエセ関西弁に青筋を浮かべる茜は、続けて聞こえてきた声を聞く。
『御茶ノ水…………あー、ほんならあそこがええわ。──って店。ウチの名刺を店員に見せれば一割引くらいならしてくれるで』
「自首をしろ」
『脅しとらんわボケ。……ったく』
「はぁ……いや、助かった。そういえばアオイさんはどうしてるんだ?」
『筋肉痛でベッドから動けとらん』
「そうか」
『じゃあの』
ブツンと切れた通話を閉じて、言われた店を調べてから携帯を懐に仕舞う。
四人を連れて向かった先の店内に入り、二階のギター・ベースコーナーに上がると、茜は店員に声をかけて財布から名刺を出した。
「あの、こちらに見覚えはありますか」
「はい? ………………う、うげぇっ!?」
濃い緑の髪をリボンでポニーテールにしている店員は、渡された名刺の名前を見ておおよそ客にすべきではないえげつない顔をする。
「お、お客様……なぜこれを……!?」
「なんかもう察するものはあるんですけど、そこそこ長い付き合いの者です」
「そっ、そうだったんですか」
「……名刺のヤツとはどういうご関係で?」
茜が問いかけると、店員は重苦しいため息をつきながらポツポツと語り出す。
「実はうちの店にはかつて恐ろしい人たちが居たの。一人は……ほら、あちらのお客さん、もしかして星歌さんの妹でしょう?」
「ええ、はい」
「その星歌さんね。仕事が出来ていい人だったんだけど……自分の弾きたいギターを勝手に入荷したり好き勝手してて、御茶ノ水の
「異名ダッサ……」
ちらりと横目で虹夏を見た店員の言葉に、さしもの茜でも反射的に返す。
店員は懐かしむように壁のギターを眺めて、続けて口を開いた。
「そしてもう一人が、星歌さんがここを辞めたあとに入ってきた……ピンクの巨人」
「誰だか特定できるのがあまりにも酷い」
「詳しくは省くけれど、あの人もあの人で星歌さんに負けず劣らずの傍若無人っぷりを発揮していたのよ。それでも、まあ……恩も出来ちゃって、一つだけ言うことを聞くって約束したの」
「約束……?」
おうむ返しする茜に頷いて、店員は彼と一緒に、ギター選びをしているひとりたちを遠巻きに見守りながらそっと呟くように言う。
「『ウチが店を持ったら信用できる奴に名刺を渡すから、それを見せてきた奴に手ぇ貸したれ』って。具体的には、『学生だろうから割り引きしてあげろ』っていう無茶ぶりなんだけど」
仕方がないと言いたげに苦笑を浮かべる店員は、人差し指を立てて続ける。
「まあこっちも商売だから、まけられるのは一割が限界だけどね」
「いえ、それでも充分すぎるくらいで……なんというか、ヤツが本当にすみません」
「ふふ、いいのよ。約束したのは
「…………さいですか」
──ついこの間似たような交渉をしたな。と脳内で独りごちる茜は、一つのギターを眺めるひとりの元に向かった店員を見る。
「……うん、うん。このギターにするそうです! ね~っ、ひとりちゃん?」
「うぁん、うぁん」
突然話しかけられたひとりのサポートに回る喜多が、腹話術で対応する。喜多の言葉にカクンカクンと頷く様を観察しているリョウたちが、節々から漏れ出ている狂気を前に呟く。
「伏線回収したね」
「確かに前に『最悪のいっこく堂を目指すか?』とは言ったが、本当にやる奴があるか」
「ぼっちちゃん、最近成長したなあと思ったけど、こういうところはまだまだだね……」
そのまま会計に移り、しれっと表示価格からきっちり10%引いた店員の目配せで黙っておくことを決めて、茜は店を出る直前に一度会釈をする。早速とギターの弾き心地を確かめたいのだろうひとりの心情を察して解散となり、帰路を歩くと、家を前に二人は別れた。
「あっ、茜くん!」
「ん?」
「あっ、えっと、ま、また、明日」
「……ああ。また明日」
控え目に胸元で手を振るひとりを尻目に、茜は交換予定の鍵で扉を開ける。
中に誰もいない、寂しく冷えた家だが、どことなく──悲しくはならなかった。
──翌日の朝、駅に向かう途中。新しいギターを入れたケースを背中に背負うひとりは、隣を歩く茜の憑き物が晴れたような顔を見る。
「あ、茜くん」
「なんだ」
「その……」
ちら、と、ひとりは茜の背中を見る。その背には、自分と同じように茜の私物であるギターを入れたケースが背負われていた。
「ぎ、ギター……持っていくんだね」
「……ああ。もう、こそこそ隠れてリハビリをする必要もなくなったからな。STARRYの方に置いといてもらおうと思ったんだよ」
「ひ、必要、なくなったって、なんで?」
「なんで、って言われてもな」
ううんと悩むように呻く茜は頬を指で掻いて、ひとりの顔を見ると言った。
「──ずっと、カッコつけたかっただけだ。俺のヒーローに、俺はまだやれるんだって」
「……茜くん」
「3年前、ギターを握れない俺にお前が頼ってきたとき、本当は心底苛立った。でも、頼られたことが嬉しかったのも確かなんだ」
ひとりの目に映る幼馴染は、いつまでもこれからも凄い人物で、茜はそんな全幅の信頼を寄せる幼馴染に、格好つけていたくて。──弱いところを見せたくなくて、ずっと、茜は地獄のようなリハビリを独りで続けていた。
「いつか必ず腕を治して、俺はもう一度ちゃんとギターを握る。昔ほどの技術は発揮できないかもしれないけど、そのうえで、絶対にお前を超えてみせる。約束だ」
「────」
「……約束だ。俺は、みんなと一緒にギターを弾きたい。みんなと、演奏がしたいんだ」
足を止めて、茜はひとりを見る。
ずっとずっと燻っていた熱が、もう一度燃え上がる光景を、ひとりは幻視する。
「…………ほら、行くぞ。遅刻する」
再び足を動かし歩き出す茜の背中を、ギターを見て、ひとりは白い肌を紅潮させると、眩しいものを見るかのように目尻を細めた。
「──やっぱり、茜くんは私のヒーローだよ」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
かぶりを振って、ひとりは歩を進める。
かつては自分だけがギターを担いだ道を、今度は二人で一緒にギターを揺らして歩く。
「……今日もバイトかあ」
「そうぼやくなよ、文化祭ライブを乗り切ったのに、今さらバイトが嫌なのか?」
「それはそれ、これはこれ……」
「結局バイト辞められなかったからな」
「うっ」
元天才と現天才は、そう言い合いながら駅へと向かう。これからも続く日常を前に、互いを英雄視する少年少女は、いつかのどこかで共演出来る日を夢に見る。すなわち、幼馴染とのロック──おさななじみ・ざ・ろっく! を。
『完』
お気に入りと感想と高評価ください。
タイトル回収する作品は名作(やや強引)
アニメ1期分の話は終わったのでひとまずの完結ですが、今後も思い付いたエピソードを不定期に投稿する予定です。それでは、ここか別作品でお会いしましょう。