【完結】おさななじみ・ざ・ろっく!   作:兼六園

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スカウトノットイコール

 度し難い酔っ払いとの遭遇から数日、茜は虹夏と邂逅したいつぞや以来に朝からギターを背負ったひとりと共に駅への道を歩いていた。

 

「今日は学校にギター持っていくのか」

「あっうん……うへへ」

さてはライブとバイトを経験したから調子に乗ってるな

「えっ、な、なに?」

「何も言ってないぞ」

「…………?」

 

 さしずめ『ライブもバイトも経験したし陰キャ脱却!』とでも考えているのだろう。わかりやすい思考回路に、茜は小さく笑う。

 そんな彼を見て、ひとりもまた、小首を傾げながら質問を投げ掛けた。

 

「……あっ、茜くん」

「ん?」

「……な、なにか、いいこと、あったの?」

「──なんでそう思った?」

「い、いや、その……顔が前より……えっと、かっこいい? というか、柔らかい……えっと……優しくなった? 気がして」

 

 しどろもどろになりながらも拙い語彙で伝えるひとりに、茜は考えるような動きを取る。

 

「……色々あって人生相談をしたんだよ。愚痴を吐いてスッキリした、ってだけだ」

「そっ、そう、なんだ」

「ところでお前は──」

「えっ」

「……いや、なんでもない。そろそろ急がないと次の電車に乗り遅れるぞ」

 

 ギターに視線を向けて、茜は口ごもる。虹夏がギターボーカル探しをしていることを忘れたわけではないだろう、と質問しようとしたが、ひとりにそう伝えてしまったら変に気負わせる事になるだろうと察して、言うに言えなかった。

 

 

 

 

 

 ──午後、ギターボーカル探しの会議をしようとしたが既に教室から消えていたひとりに呆れた茜は、渋々他の生徒に話を聞くことにした。

 

「えー、喜多ちゃんについて?」

「風の噂でバンドをやってたと聞いてな」

 

 階段近くの廊下で質問すると、顔見知りの少女二人が茜に言葉を返す。

 

「そうだな~やっぱり歌は上手いよ」

「バンドでもギターやってたらしいし」

「それはもう知ってる」

「って言われてもなあ、もうやめちゃったことくらいしか聞いてないもん」

「ふうん、やめたのか」

 

 ──それも知ってる。とは言わず、茜はわざとすっとぼけて情報を集める。

 

「トラブルでもあったのか?」

「さあ~? そこまでは知らない」

「ていうか柊木くん、なんで喜多ちゃんのこと知りたがってんの?」

「もしかして……ついに喜多ちゃんにも春が来ちゃった感じ!?」

「違うが」

 

 キャーキャーと盛り上がる二人に対して、露骨に眉をひそめる茜は深呼吸を挟む。

 

「でもさ、喜多ちゃんいっつもカラオケ行くときとか愚痴るんだよ? 『今日も柊木くんが来なかった』って、つまりそういうことでしょ」

「普段はフってるのに今回に限って興味津々なんだもんな~罪な男だよ柊木くんも」

こうなるから嫌だったんだよ……」

 

 男と女のあれやこれやを機敏に感じ取る少女たち。普段から同級生と交流を深めない茜だが、そうしている理由の一つが『これ』だった。

 早期に挫折と絶望を経験し精神が早熟した茜にとって、同年代のすぐ恋だ愛だと関連付けるこういった思考回路と話題は苦手なのである。

 

「──なんの話?」

「おっ、噂をすれば」

「喜多ちゃーんっ」

「……はぁ」

 

 どうにかして話題を切り上げて逃げなければ、と画策していた茜だったが、ふと声をかけられ、廊下の奥に視線を向ける。その方向から近づいてきたのは、赤髪を揺らして歩いてくるくだんの少女──喜多その人であった。

 

「どうかしたの?」

「……仕方ない、強引にでも聞き出してしまう方が手早く済むか……お前にちょっと聞きたいことがあってな。暇なら、教室で話さないか」

「えっ? ええ、いいけど」

 

 突然の提案にも、喜多は一拍置いて笑顔で答え、傍らでそれを見ていた二人組は茜たちをニヤニヤと見た。それから唐突に口を開くと、わざとらしい声色で言う。

 

「そういえば、私たち、予定があるんだった」

「あら、そうなの?」

「うんうんそうそう、だからこの辺で!」

「わわわ忘れ物~っ」

「こ、こいつら……」

 

 さも恋路の応援をしてあげているような、『頑張れよ!』とでも言いたげな顔でそう言い残し、パチパチとウインクで合図をしながら、二人は残像を生み出すスライド移動で消えていった。

 

「よっぽど忙しいみたいね~」

「そうだな」

 

 言わぬが花か──と独りごちる茜は喜多と共に教室に戻り、それから後ろの壁際に寄りかかると、横目で彼女を見て謝罪から入る。

 

「……悪いな、普段から誘いを断ってるくせしてこっちの話は聞いてもらおうなんて」

「ううん、いいのよ。それでどうしたの? 私に聞きたいことってなに?」

「──単刀直入に聞くが、以前バンドでギターをやっていたらしいな」

 

 茜にそう問われ、喜多は一瞬顔を強張らせ、苦い表情で視線をそらす。

 

「え、ええ。そうなの」

「何度も聞かれたことだろう、嫌なら答えなくていい。ただ少し、別のバンドの件で相談したいことがあったんだが……」

「……だ、いじょうぶよ。続けて?」

「実は、知り合いが参加してるバンドがギターボーカルを募集していてな」

「そうなの……」

「俺としてはお前に参加してほしい」

 

 体を喜多の方に向けて向き合うと、茜は彼女が()()を弄る様子を目にする。その直後、どこか悲痛な声で喜多は提案を断った。

 

「あの──ごめんなさい! バンドには参加できないの! どうしても……できない」

「それは実力の問題で……じゃなさそうだな」

「っ──き、今日は、これで」

 

 ()()()()()な顔をする喜多に、茜は違和感を覚える。なんとなく聞き返すとそれが図星になったのか、喜多は表情を歪ませてから顔を伏せて教室を出ようとした。

 

「喜多」

「えっ」

 

 しかし、茜は横を素通りしようとした喜多の肩を掴み、おもむろにロッカーの並んだ壁際に背中を押し付けさせた。

 このまま逃げられるのはまずい、という直感に従って留まるようにしたが、その構図は、先の少女らが興奮せざるを得ない絵面だった。

 

「え、あっ、う、柊木、くん」

「逃げるな。事情を聞きたいだけだ」

「っ……それは、その、えっと」

 

 ロッカーに背中を預けて立ち尽くす喜多は、視界の端で自身を逃げられなくしている両腕に意識が向く。見上げれば茜の顔が視界に入り、顔が熱を持つのを自覚して思わず下を見る。

 

「喜多、お前がバンドに参加していたという話は知ってるが、思い返してみればなにをやってるかを聞いたことはなかったな」

「…………」

「今にして思えば簡単な話だ、お前……ギターが出来ないんだろう」

「…………うっ」

 

 隠し通そうとしていた事情を言い当てられ、喜多は呻き声を出す。逃げようにも逃げられず、逸らした顔は茜に覗き込まれた。

 

「そ、そう、なの。先輩に憧れて、お近づきになりたくて……それでギターが出来るって嘘をついて……買ったギターも上手くならなくて、それで……あげくにライブ当日に逃げちゃった」

「ふうん………………ん?」

「じゃあ、話はこの辺で──ひゃっ!?」

 

 どこか聞き覚えがある話に茜は眉をひそめると、考え込んだ隙に逃げようとして屈む喜多の両脇に手を差し込み立たせて話を続けた。

 

「まだ終わってないが」

「ひ、柊木くん……っ」

「お前が逃げたとかギターが出来ないとか、そういう些末な問題は別にいい」

「些末!?」

「最終的にはあいつらの判断によるが、俺としては、お前に参加してほしいんだよ」

「……ど、う、して」

「あのバンドに足りないモノがお前にある」

 

 ──主に陽気な成分が。とは口が裂けても言えないため、そこで区切り更に続ける。

 

「そんなの、私にはないわよ……」

「それはお前がそう思い込んでいるだけだ。逃げたことが気がかりなら次は逃げなければいいし、ギターなんか練習すればいい」

「……簡単に言うけど、やっぱり、私みたいな無責任な人間がやっちゃダメよ」

「おい話がループしてるぞ」

 

 でもでもだって、と言い訳を重ねる喜多に、茜はため息混じりにそう返す。

 茜とて曲がりなりにもギタリストの端くれであり、無理強いはするべきではないとは理解している。しかし──せめてこれだけは確認したいと、右手を伸ばして彼女の左手を掴んだ。

 

「──っ! あ、の……ひ、柊木くんっ」

「…………」

「あの、だ、ダメよ茜くん……! 私たちまだそんな関係じゃ……っ」

 

 頬を朱に染めて何故か名前呼びに変えてくる喜多を無視して、茜は左手をぐにぐにと弄る。手のひらから指先に移り、その()()を確かめた。

 

「…………うん、なるほど」

「えっ?」

 

 合点が行ったような声色で、茜はあっさりと拘束を解いて手を離す。

 

「だいたい分かった。もういいぞ」

「えっ?」

「そこまで言うなら仕方ない、()()()()()スカウトするのはもうやめる」

「えっ……?」

「色々と悪かった、昼休みが終わるまではその辺をぶらついてるよ」

「えっ…………?」

 

 申し訳なさそうな顔でそう言って、茜は喜多の前から姿を消す。残された彼女は、お預けでも食らったような複雑な表情で声を荒らげた。

 

「あれだけしておいて終わりなの!? スカウトじゃなくてナンパの動きだったけど!?」

 

 誰も居ないからと叫ぶ喜多。熱い顔を誤魔化すように自身の机に突っ伏して、彼女は頬を机の表面に当てるようにだらける。

 

「……強引なのも、意外とイイ……のかしら。いやいやいや、私には先輩が……」

 

 

 

 はあ、とため息をついてから数分。ふいに気配を感じて、後ろ側のドアに視線を向ける。微妙に開かれたそこには、ピンク髪の少女が屈んで下から自身を見上げていた。

 

「……あのー、2組の後藤さん、だよね? 誰かに用事でもあるの?」

「え、えっと、その、あっ、うっ」

 

 表情を慌ただしくさせる少女に、喜多は小首を傾げた。何かを言いたそうにしていることはわかるため、次の言葉を待つ。すると、溜め込んだ空気を吐き出すような大声が響き渡る。

 

ンドのターーカルを探してるんですけどッ!!」

「突然のヒューマンビートボックス!?」

 

 このキテレツな出会いが、喜多という少女の運命を変えることになるとは、本人も思ってもいなかった。茜が『俺の方から』と含みを持たせた言葉の意味を理解するまで、残り数分。




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