MCU版『アークナイツ』   作:日立インスパイアザネクス人@妄想厨

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映画のはたらく細胞を観たんですが、放射線治療の仕組みがよくわかる作品でした。細胞を全部破壊してから他人の細胞を植え付けるという治療であることをまったくしりませんでした。本当にタメになりますね。
……前回の医療シーンが正しいのかかなり不安ですが。
やはりにわか知識を我が物顔で語るのは後から後悔しますね。


龍門 その2

 

 

 12/19 pm17:22 龍門(ロンメン)中央区、とある貸金庫店。

 

「はい、お預かりしております」

 

 放射性廃棄物を入念に不法投棄した後、アーミヤは例の貸金庫に訪れた。

 初めて来る場所にドギマギしながら受付を済ませ、少し待つと係員が小箱を持って戻ってきた。

 小箱を受け取ったアーミヤは逃げるように貸金庫から出ていく。比較的人通りが少ない自宅よりも人目が多い区画にある貸金庫には長く居たくなかったから、すれ違う人からも離れるように足早に街を移動する。

 そうして塔屋(ペントハウス)のある見慣れた区画まで来てアーミヤは一息つき、人目がつかない路地に隠れてからようやくドクターの遺品を確認することが出来た。

 

「……」

 

 小箱の中にはUSBメモリが一本と、赤い鉱石が入ったメスシリンダーのような容器が一つ。

 それだけで、手紙などの用紙は無い。

 アーミヤはこれらの物に全く心当たりはないし、当然ドクターからも聞かされてなかった。もしかしたらドクターが個人的に預けていただけで、アーミヤに何かを残したというのは自意識過剰だったのかもしれない。

 

 しかし、ドクターが保管していたとなったら気にはなる。

 まずUSBについては中身を見なければわからない。おそらく研究のデータが入っているのだろうけど、自分の家にはパソコンは無く、中身を確認するにはチェンさんに貸してもらわないといけない。帰ったら頼んでみよう。

 問題はこの赤い鉱石。この正体はアーミヤも知っている。

合成玉(オランダム)? どうして貸金庫に……?」

 簡単に言えば源石(オリジニウム)と他の鉱石との混合物だ。

 源石はウランや石油などより多くの熱量を発する優秀なエネルギー物質と同時に、加工品としても多彩な活用が出来る。

 その一つが他の物質との化合であり、混ぜた物質のエネルギー伝導率を上げることだ。

 例えば鉄に源石を混合すれば電気伝導率が上がって超伝導体となり、ウランと混合すればより多くのエネルギーを抽出し、あらゆる貴金属は源石と混合すればダイヤモンド並みに熱伝導が良い物質が出来る。

 しかしながらこの合成玉も源石に変わりなく、何らかの拍子に体内に入ったら鉱石病(オリパシー)の発症は避けられないし、時間が経てば自己増殖の性質が加工品を(むしば)んで、かつての石綿(アスベスト)のように人体に危険を及ぼしてしまう。

 

「ドクターが預けたのが1年以上前だとしたら、増殖時期が近いハズ」

 

 この加工品がいったい何の用途があるのかはドクターにしかわからない。が、感染者としてやるべきことはしなければならない。

 

 アーミヤは腕に着けたリング型の機械を外して左右に伸ばすと、輪の中にメスシリンダーから取り出した合成玉を自身の掌に置いて、掌と腕輪で挟み込むように巻いた。

 ドクターの開発したこの腕輪――サーベイランスマシンは血中の源石濃度を測る、源石が発する毒素を測定するなど鉱石病にかかわる様々な用途がある装置で、源石研究に欠かせない器具。

 今回アーミヤは腕輪の機能を応用して、源石そのものの毒素や活性率を調べるために血管が深い掌に合成玉を置き、合成玉が発するエネルギーを検知しようとしている。活性が激しければ画面が青、黄、赤の順に発光するはずだ。

 

 4ビットのデジタル画面に結果が出る間、アーミヤはドクターの真意を測ろうとするも答えが出ない。

 ――貸金庫に保管されたUSBと合成玉。

 アーミヤにも知らされなかったドクターの研究成果なのかもしれないが、もしアーミヤが塔屋を撤去せずに放置されてたらいったい誰の手に渡っていたのだろう?

 いやそもそもメスシリンダーに覆われただけの合成玉は単体でエネルギーを発しているし、貸金庫に預けられたままだとやがて増殖し、爆発して貸金庫を中心に源石(オリジニウム)の感染源となっていたはずだ。対処法が無いにしてもあまりにも不用心過ぎた。

 それとこの合成玉の正体。

 丸みを帯びた3㎝の正方形でアーミヤの掌に収まるぐらいの小ささなのだが、用途がわからなかった。何の鉱物と混ぜ合わせたのかわからないが、何か形を成しているのならともかく、これほど小さく玉のような形状だと何の使い道も無い。

 精々エネルギーを抽出するのなら理解できる。これぐらいの源石なら自動車をシアトルからサンフランシスコまで走らせることが出来るだろう。最もドクターはそういった源石仕様の乗り物は持っていなかったと記憶してる。

 

 不意に夕日が目を刺した。

 季節は冬になって日が沈むのが速い、先ほどビルの上辺りにあった太陽がビル群に飲み込まれていくのが見えた。

 そういえばここ最近何処かから流れ着いたギャングがこの辺りをうろついているという話をチェンがしていたっけ、とアーミヤは思い出す。

 早く結果が出ないかと4ビットのデジタル画面を見て、

 

「……え?」

 

 固まる。

 頭が現実を受け入れられないと判断するような衝撃を受けたアーミヤは、まず装置が故障したと思い自分の腕に着けてみた。

 さほど時間は経たずに血中源石の活性度が表示される。

 画面は青く発光しており、昨日・今朝の測定と同じ。故障ではないようだ。

 再度同じ方法で合成玉を計測してみる。

 

 

 4ビットの画面は緑色。

 サーベイランスマシンには合成玉の活性は検知されなかったという結果を示している。

 

「嘘……」

 

 増殖し続ける源石は常時活性しており、活性率に強弱の差はあるもののゼロはあり得ない。

 活性していなければ源石は増殖もせず、毒素を吐き出さず、エネルギー源としての性質も失う。ただの無害な物質でしかない。

 

「源石として死んでる……?」

 

 5000年の源石研究で源石の無害化は治療法の確立と共に行なわれてきた。

 ――無論、誰もがその方法を発見するに至らなかった。

 源石の消滅も、鉱石病の治療も、感染者を増やさないことなど出来ないことが常識だったのに。

 その常識をドクターが覆した……!

 

「……!」

 

 アーミヤはぞくりと身を震わせた。

 興奮が収まらない。

 自らの師は成したことは源石研究を数段階も飛躍させる偉業に他ならないのだから。

 この合成玉の構成を知ることができれば源石の活性増殖をコントロールできる術を見つけられるかもしれない。鉱石病の発生源たる源石を無害に出来るのならば、根本から感染の拡大を止められる。

 

 アレコレと脳内に展開される理想は傾く夕日が消えかかったと同時に四散した。

 考えに耽ってしまったせいで帰るのが遅くなってしまった。急いで合成玉をメスシリンダーに直し、念のためコートの内ポケットに隠すように入れる。感染者以外には価値の無いものだろうけど、決して盗まれるわけにはいかない。自分の体を抱くようにしてアーミヤは足早に路地から出た。

 

     ◇

 

 ――アーミヤは知らない。

 

 その貸金庫は、絶対の機密保持を約束することで客層を得ていた。

 デジタルとアナログが組み合わさったセキュリティ。数億通りの暗証キー。10人以上の人的作業が挟まった保管法。

 一度入れてしまえば職員ですら中身を知ることが出来ない。金庫のカードキーは預け主が登録した者しか扱えないようにし、仮に預け主からカードキーを奪っても登録者と照合出来なければその金庫は永遠に凍結されてしまう。

 職員を脅そうとしても、機密保持のためそこで働く職員が知れる情報は制限されており、貸金庫の上層部は何処の誰かすらも把握できていない状態。要は職員が一人二人居なくなったとしても貸金庫の運営には全く支障が無い。

 

 そんなシステムを構築している裏社会の人間御用達の貸金庫ではあるが、その重い扉が開かれることはあまり無い。

 単に利用者が()()()()を遂げることが多いからだ。貸金庫側からしたらそんな世情はどうでもいい。

 登録者が居なくなり、カードキーしか証明できない場合は、保管されたモノは厳重に封じられたままになる。

 

 ドクターが使用した貸金庫とは、世界のVIPすらもそでにして、利用者の無念を込めた財をため込む龍の巣。

 

 そこに出入りするということは何か重要な価値を持つモノがあるという証明に他ならず、多くの目が向くのは必然だった。

 

 ――そんな厳重な貸金庫から一人で出てきた、預けられた金品を取りに行ったであろう小柄な子供なんかは、何かしらの物品を奪うために出入り口を見張っていた強盗団の格好の獲物だということを、アーミヤは知らなかった。

 

     ◇

 

 後頭部に、衝撃。

 世界が半回転したとアーミヤは錯覚した。

 ドっ、と。肺から空気が押し出されたのはうつ伏せに倒れた所為だろうか? なんにせよ突然のことで視界がぐるぐる回って状況が把握できなかった。

 

 

「かっっってぇ! なんだコイツヘルメットでも被ってんのかっ?」

「内ポケットに手ぇ突っ込んでたのは見えた、財布とかは無視しろよさっさと目的のものを取っちまえ!」

 

 そんな時に耳に入った知らない少年達の声から、強盗目的で自分を襲ったのだと理解した。

 けれど揺れる脳では理解していても体の反応が鈍い。服の中をまさぐられる感触に(うめ)くことしかできない。

 

「USB、か。まぁ上々だな」

「金庫から取り出したのがガラス瓶に入った赤い宝石一つ……? 本当にコレだけなのか?」

「あの貸金庫にあったものだぞ。USBは何かの機密情報を収めてるに違いないし、その宝石も何かしらの価値が付いた代物に違いないだろう――うそだろ、もう起きるのか!?」

 

 USB、赤い宝石、という単語を聞いてアーミヤは四の五の言っていられなかった。

 それだけは、それだけは奪われてはならない。

 新たな源石研究の手がかり。

 ドクターの人生をかけた成果。

 感染者達の未来。

 5000年前から始まった感染者達が今の自分まで繋いだ道をここで途絶えさせるなんて、決して許されない!

 

「か、かえ゛、きゃあ!?」

 

 立ち上がろうとしたアーミヤに対し、トドメとばかりに強盗の1人が砂を浴びせた。

 砂埃をもろに目に受けたアーミヤは目がじくじく痛む中で二人分の足音が遠のくのを聞いた。

 目をこする暇も息を整える暇もなかった。ただ今は、逃げた強盗を追って奪われた合成玉(オランダム)を取り返すことだけを考えなければならない。

 

 そして感染者であるアーミヤには可能だということをアーミヤ自身が理解していた。

 

 集中。

 目を閉じてる分、耳から聞こえてくる情報がより鮮明に得ることが出来る。

 

『おい、ここらで二手に分かれよう。追いかけてきたときが面倒だ』

『あ? あんなちっこいガキに何が出来んだよ? それにさっきの悲鳴でわかったけど女だったぞ』

『鉄パイプで殴られてすぐに立ち上がろうとする奴が普通なわけあるかよ。コレは俺がカポネの旦那のとこに持っていく。USBも渡せ』

『チッ、了解。分け前を独り占めすんなよな』

 

 遠くから聞こえてくる二人の会話。乱暴な足音。荒い息遣い。

 彼らの周囲を囲む建物の位置。通り過ぎる自動車。ぶつかりかけた人。

 全てを脳内で形作り(そうぞうし)、涙目のアーミヤは潤んだ視界を指で払う。

 頭をぶたれた影響はとっくに抜けきっていて、走る分には問題はなさそうだ。

 逃げた強盗はまだ3区画以内に居る。アーミヤの耳はまだ強盗の足取りを捉えている。捕まえるとしたら当然USBと合成玉を持っている方だ。

 

 アーミヤは盗品を持っている少年の方に意識を定め、駆けた。

 

 タァンッ、タァンッ、タァンッ! と。

 跳ねるような走り方で街を駆けるアーミヤは逃げた強盗の位置を正確に聞き捉え、そして周辺の街をマッピングしていく。

 強盗の逃走経路を辿って広い道路を正直に追いかけるなんてことはしない。最短ルートで行くつもりだ。

 途中で路地裏に入り、驚くホームレスを壁キックで避け、アーミヤの身の丈の倍ほどのフェンスをひとっ跳びで超えていく。

 

 こうやって感染者としての能力を発揮するのは久しぶりだ。

 アーミヤは普段の密かな生活に不満を持っているわけじゃない。能力を行使できないことを不快に思うということは無いし、アーミヤ自身この病気の所為で得た力を持て余すなんて考えられないから。

 けど、こうやって誰よりも速く街を駆けるという感覚は得難いものであり、久しく楽しいと思えた。

 

 路地裏の裏、つまり建物を挟んで表通りから強盗の足音が聞こえてアーミヤはさらに速度を上げた。

 強盗は建物の角を曲がり、ちょうどアーミヤ正面の路地裏の出口に来る。

 路地裏を出た瞬間に捕まえる。

 

(4、3、2……今!)

 

 表通りに走る少年が見えた瞬間、警察が泥棒にタックルを仕掛けるようにアーミヤは飛び掛かった!

 

 

 ちなみに。

 実はアーミヤは鉱石病の影響で体重がちょっと重い。

 鉱石病は大雑把に言えば肉体が徐々にオリジニウムに変化する病気だ。侵食が進めば皮膚に源石結晶が突き出るだけでなく、骨のリン酸カルシウムが源石と化合され固く丈夫になり、骨折したとしてもすぐに整復することもできる。

 先ほど無防備な後頭部を鉄パイプで殴られたとき頭がカチ割られなかったのは、源石の侵食で丈夫な骨格を持っていたおかげだった。

 そんな石のような体を持つ所為でアーミヤの体重は140cm代の少女の平均体重より(少しばかり)オーバーしてる。

 

 さらに言えば、彼女は感染者の能力を持ってるとしても年中源石研究で引きこもっていたため【戦闘経験】0年であった。

 先ほど警察のようにうんぬんは少し前に隣人のチェンと一緒に観た警察もの映画でやっていたのを思い出してやってみただけのこと。

 思いっきりぶつかって捕まえるイメージのアーミヤの現在の姿は、実際には手を前に掲げず後ろに伸ばしきったまま。ぶつかるという単語そのままに頭から飛び出していった感じで、気をつけの格好で水平に飛び込んでいる。

 

 要するに、だ。

 強盗の少年は時速40キロで走る原付と同じ速度の頭突き(パッチギ)を受けるハメになった。

 

 今度は強盗の少年が声にならない悲鳴をあげ、人型の砲丸と化したアーミヤ共々水平方向にもんどり打ってゴミ捨て場に突っ込んでいく。

 双方に結構なダメージを与えた自爆技から先に復帰したのは人より頑丈なアーミヤだった。

 アーミヤは呻く強盗の少年の下へ駆け寄り、冬にも関わらす薄着のシャツをめくって、アザが出来た脇腹をさすって遠慮なく()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐあー!? *龍門スラング*! なんだってんだ!?」

「簡易的な接骨でごめんなさい、とても痛いですが我慢してもらわないと困ります」

「がぁあっ!? チクショウ……ッ!」

 

 痛みから逃れるべく暴れ悶える体を小さな体躯一つで抑えつけながら、慎重に折れた肋骨を繋がる位置へ移動させる。大切なものを奪おうとした相手に施術をする必要はないが、医術を得ている人間としてケガした人を見捨てることが出来ないアーミヤだった。

 骨を戻して普段から持ち歩いてる包帯で硬く固定した後、アーミヤは少年の服から奪われたUSBと試験管を取り返す。幸いなことに試験管にヒビ一つ入っておらず、ほっと息を漏らした。

 

「お、おい! 何があっ、た、んだ……?」

 

 少し離れたところからもう一人の少年が声を掛けている。が、何故か困惑した表情をうかべて。

 そのことに気づいたアーミヤはようやく周囲の視線が自分に集まっていることに気づく。

 あれだけの騒ぎで人が集まった……それだけならいい。けどアーミヤを見るみんなが好奇と困惑と恐怖に染まってるのはどうしてーー!

 

 ハッと頭を抑えるがもう遅かった。

 フードだ。さっきの頭突きかそれ以前の走ったときにフードが脱げた。

 

 そのせいで、フードで隠していたウサギのような耳が露わになってしまった。

 

 急いでフードを被り直すアーミヤだが、頭が真っ白になって次に何をすれば良いのかわからなくなってしまった。

 ただ、周囲の様子が鮮明に理解できる。出来てしまう。

 アーミヤの耳は周囲の物音をよく聞き取る。が、物音とは足音や声だけじゃない。その人の体内から響く心音まで聞こえてしまう。

 心音が一定ならばリラックスしていることになるし、不規則な鼓動なら医術を学んだアーミヤならば病気の診断も可能。僅かな息遣いからでもその人が緊張してるかしてないかを読み取れる。

 

 そして周囲の人達から読み取れるのは、興味や好奇心、疑念、恐怖、ヒトじゃない何かを見つけたときのような、檻に入ってない猛獣を見かけたような、そんな感情を感じ取ってしまった。

 フードを握る手が震え始めたとき、一番近くに居た人ーー強盗の少年と目が合い、自分より年上であろう少年がびくりと身を震わせたのを見た瞬間に、アーミヤはその場から逃げた。

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