【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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01.与えられた○○

 

アイズ・ヴァレンシュタインと恋仲になりたい。

 

……ええ、なりたいんです。

なりたいけど、なんか、ほら、あの人そういう雰囲気全然出してないじゃないですか。そんなことどうでもいいみたいな、というか、それよりもっと重要なことのために突っ走っているというか。

割と頑張ったと思うんですよ。頑張ってロキ・ファミリアにも入ったし。その中でも一応は2軍メンバーの末端まで上り詰めたし。あのファミリア酷いんですよ、容姿が良くないと入れてくれないの。だから頑張ってカッコよくなろうと思ったのに、生まれ付きの容姿的にどうやっても無理だったので、プライドをへし折って可愛い系に突っ走ったりしました。

 

やったんです!必死に!!

 

その結果、妹のような扱いをされるようになり。アイズさんが好きなんです!なんて想いも周りからは"可愛いなぁ"みたいな反応をされて。多分本気と思われていないのか、当の本人からも無表情で頭を撫でられて。泣きそうになって、もうそれ以来は公言するのもやめましたとも。せめて少しでも彼女の手伝いをしようと、彼女の願いが果たされた後にまた想いを伝えようと。そう思ってたんです。

 

最後は、謎の地下迷宮で諸々の消耗の末に殺されました。

 

……ひどい。

まだなにも成し遂げてないのに。

 

というか、死に様はもうどうしようもないからいいんですけど、いや良くはないんですけど、それは一旦置いておいて。

 

僕が1番酷いと思ったのは、リトル・ルーキーことベル・クラネルの存在ですよ!

なんなんですかあれ!卑怯じゃないですか!いきなり現れたと思ったら物凄い速度で成長して!しかもアイズさんとの仲も異常な速さで深めて!僕の今日までの努力はなんだったんですか!アイズさんに追い付けるように頑張って、もう直ぐレベル4も見えてきたところだったのに!!ええ分かります!分かりますとも!彼は直ぐにアイズさんに追い付いて、アイズさんを助けて、それで恋仲になるんでしょう!!分かってますよ!なんかそういう雰囲気があったから!!そういう雰囲気を何度も何度も見せつけられたから!!僕の存在なんて多分1週間もすればみんな忘れちゃうんだ!狡い!!羨ましい!!あらゆる面において僕の上位互換やめろ!!

 

あ、でも、最後に多分リーネさんは守れたから褒めて欲しい。滅多刺しにされても頑張ったから褒めて欲しい。内臓全部引きずり出された気がするけど、最後にアキさん達が駆け付けてくれたのが見えたし、多分守れたので褒めて欲しい。

 

……ベル・クラネルくんは僕と同い年だそうです。実際彼が出てきた時点で僕の恋が叶う可能性は完全に消えたと思う。だってなんか、思い返せば彼と初めて会ったと思われる日あたりからアイズさんの様子がおかしかったし。つまり半分くらい一目惚れ的な感じだったんだろうし。

そんなん最強じゃん……

勝てる要素ないじゃん……

出てきた瞬間に盤面破壊してくるとか、メンコもびっくりな超性能だよ。

 

つまり僕がアイズさんと恋仲になるとするのなら、以下の様な条件が必要だった訳だ。

(1)そもそもベル君が存在しない、若しくは冒険者にならない。

(2)妹扱いをされず、かつロキ・ファミリアに入れるような容姿を手に入れる。

(3)アイズさんに最後までついていけて、むしろ彼女を助けられるような実力が必要。

 

……うん、それもう僕じゃないよね。

僕じゃ無理だって言ってるようなものだよね。

というかベル君がそもそもこの世界に居る時点で、いつメンコ叩き付けられてもおかしくない訳だから、つまりはベル君が居る時点で誰にでも無理なのでは?

……いや、流石に「消えろ!」って言うほど憎んでる訳じゃないし、そういうことも言いたくないけれど。

 

叶わぬ恋でした。

 

神や仏は居ても、神も仏もない世界だったと。

誰もが初恋が叶う訳がない。

そうして苦しみや辛さを知って人間は成長していくのだと。まあ死んだんですけど。

彼や彼女は特別ではあったけれど、僕は別に特別ではなくて、つまりはこれは当然の結末だったのだ。2人とは関係ない場所で命を落として。見送られることもなく、最後に誰かの言葉を聞けることもなく命を落として。平和に至るまでのただの礎として、ただの石ころとして。犠牲になって、積み上げられる一つとなって、その上には最終的にきっとあの2人の仲睦まじい平和な恋模様が……

 

 

 

僕の方が先に好きだったのに!!!!!

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

……気づくと、そう叫んでいた。

道の中央、街の中。

周りには多くの人が歩いていて、それはいつもと見慣れた風景。そんな中で僕は叫んでいた。「僕の方が先に好きだったのに」と。

 

「は……え?オラリオ?」

 

周りからの視線が痛い、クスクスと笑われて見られている。それもそれで辛いものがあるが、しかし何より信じられないことが起きている。身体に傷はない、あれだけ内臓を引き摺り出されるのにも関わらず。防具も武器もしっかりとある。しかしそれは既に記憶の中にしかないはずの、自分が昔使っていたもので。そして何より、身体がいつもより少し重い。それはまるでレベルを上げた際に感じる感覚とは真逆のよう。

 

「え?……え??」

 

視点が低い、潰れたはずの店がやっている、あの人はこの前たしかダンジョンで亡くなった筈の………周りに目をやり、自分に目をやり、現実を見るほどに異常を見る。しかし同時に感じるのが、それを異常とは感じていない自分がいること。その違和感が徐々に消えていく感覚。自分と自分が入り混じり、回る。

 

「な、なにこれ……なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ!?」

 

まるで脳味噌をぐちゃぐちゃにかき混ぜられているよう。記憶や認識が自分の手を離れて強引に書き換えられているよう。気持ちが悪い、吐き気がする。恐ろしくて、気味が悪くて、フラフラと必死に足を動かして小道に入って、蹲る。蹲って、身体を丸めて、頭を抱える。

自分は死んだ筈、けれど誰に殺されたのか。内臓を引き摺り出されて弄ばれて殺された、一体どうしてそんなことになったのか。思い出せない、思い出せないことが増えていく。

僕は11歳、レベルはまだ1。ダンジョンで見かけた彼女に憧れて、今必死に努力をしている。でもそれはおかしい、僕は確か14歳でレベル3だったはずだ。主神はロキ様。けれどロキ様に認められたのは12歳の頃、だから今はロキ・ファミリアには所属していない。僕が主神と崇めていたのは、慕っていたのは………………誰だ?

分からない、思い出せない。僕は一体だれの眷属なんだろう?なんでそんな大切なことが思い出せないんだろう。

何かがおかしい、全てがおかしい。それなのにそのおかしさに無理矢理に適応させられているような強制力を感じている。これ以上忘れてはいけない、大切なことまで忘れてはならない。

 

「……大切なこと?」

 

それなら、何が大切なことなのだろう。

僕にとって大切なことってなんなんだろう。

それまで抱えていた大きな何かがスルリと手から落ちていくような嫌な感覚。

 

僕はアイズさんが好きだ。

 

ベル・クラネルに負けたくない。

 

……あとは?

 

……それだけ?

 

僕の大切だったことは、それだけ?

そんなはずはない、もっとあるはずだ。もっとあったはずなのだ。もっとあったはずなのに。

 

「あ、あれ?な、なんだろう。おかしいな……」

 

時が巻き戻っている。

もうそれはそういうことで、自分がそれを自覚しているのだから、前提にして進めるしかない。

 

僕はアイズさんを知って、努力をしてロキ・ファミリアに入った。彼女に追い付けるように頑張って、なんとかレベル3まで上げた。そんな時にベル・クラネルが現れて、アイズさんと仲良くなってしまって……僕は、何かに殺された。

 

うん、大まかな流れは思い出せる。

けれどその詳細が思い出せない。

……僕の大切な人は、アイズさんだけじゃなかった筈なのに。

 

「あ、あはは、あはははは……は…………ぉっ……ぅ……」

 

胃の中の物を出す。

きっと喜ぶべき筈のことが起きているのに、喜べない。涙が出る。これならあのまま死んでいた方がよかったと、そんなことを考えてしまう。

そんなはずないのに。

自分はチャンスを与えられたはずなのに。

本来与えられるはずのない機会を、手に入れているのに。

 

「……………………あたま、われそう」

 

長くなってきたばかりの髪をかき上げて、顔を顰める。頭痛が酷い、意識が朦朧とする。これからどうすればいいのか分からない。自分の主神も分からない。誰に頼ればいいのかも分からない。何処に所属しているのかも、団員が他にいるのかもだ。ギルドに行けば分かるかもしれないけれど、ここから少し離れたそんなところに、無事に辿り着ける気もしなくて。

 

「ロキさま……………だめ、だろうなぁ」

 

確かここからなら、ロキ・ファミリアの本拠地は近い。

しかし今から行っても、きっとまた、入団を断られる。だって今の自分はまだ、実力もなくて、特徴もなくて、容姿も普通で、ただの子供だから。だからまた必死に努力してからじゃないと、受け入れてはもらえない。ロキ・ファミリアに相応しい人間になってからでないと、せめてそうなれる可能性を見せてからでないと、きっとあの時みたいな温情だって貰えない。

 

「……でも、いまは、すこし」

 

綺麗な場所ではないけれど、身体を倒して、息を吐き出して、目を閉じる。ガンガンと叩かれるような頭の痛みを堪えて、歯を食い縛る。

……やり直す、やり直せる。

今はそれだけを考えれば良い。

余計なことを考えようとすると、頭が更に痛くなる。

でも、前と同じでは駄目なのだ。前よりもっともっと頑張らなければならない。そうでもしないと、ベル・クラネルには直ぐに追い抜かれてしまう。彼がこの街に来るまでの3年間の間に、もっともっともっと頑張らないといけない。

……どれだけ努力しても、彼はそれをひっくり返してしまうかもしれないけど。それでも。この奇跡のようなチャンスを失ってしまえば、僕には本当に何もなくなってしまうから。

 

何かを手から落としてしまった僕は、これ以上大切なものを落とすことなんて出来ないから。そんなことは本当に、考えたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……全部な、うちのせいやねん。

あの子が最初にここに来た時な、『まだうちのファミリアには相応しくない』なんてことを言うたんや。ただ憧れて来ただけの子供やと思っとったし、まあそれはいいんやけど。ただそれでもあの子は諦めんくて、そこから1年必死になって努力した。1年ぶりに見た時はほんま驚いたわ、別人やと思うくらい。相当色んな努力したんやろうなぁ。恥ずかしそうに新しい可愛い服を着て立っとったわ。

 

……それなのにうちは『将来性見込んでギリギリ合格』なんて何様やっちゅうことまで言って。

今思えばあれが1番あかんかったと思う。

純粋な子供にそんなこと言って、思い込ませたんや。

せやから、あの子は根本的に自分がまだここの団員として相応しくないって想いをずっと抱えとった。そんでうちにも心を開いてへんかった。あの子は結局最後まで家族の輪に入ろうとせず、一歩引いて、必要のない身のほどを弁えとった。アイズに憧れとったのも大きかったんやろな。本気の思いを笑われて、信じて貰えんくて、認めて貰えんくて。受け取っても貰えん。せやからその全部が自分の努力不足だと、更に自分の首を絞める。

 

……辛かったやろうな。頑張っとったわ。全部うちが余計なこと言ったせいや。あの子の本気を誤魔化して茶化し続けとったせいや。

冗談も、言い続ければ刃になる。

あの子と同じことをうちの団員の何人が出来んねん。勉強して、レベル上げて、容姿も毎日綺麗に整えて、コミュニケーションも積極的にして。ほんまに健気な子やった。

他の子のことに忙しくしとって、最近はあの子のことは後回しにしとったけど、それもあの子の人の良さに甘えとったんやろな。

結局、最後まで言えへんかったわ。

『相応しくないなんてことは絶対ない。今はもうアイズと同じくらい、うちのファミリアの自慢の子なんや』って。

そんな簡単な一言が。

言う機会なんていくらでもあったのに。

 

……うちはあの子に、何をしてあげられたんやろ。

あの子の直向きな夢に『頑張れ』の一言くらい、なんで言ってあげへんかったんやろうな。


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